エヽ商しや法うはふも様さま々〴〵ありまするが、文ぶん明めい開かい化くわの世よの中なかになつて以いら来い、何なんでも新しん発はつ明めい新しん発はつ明めいといふので追おい々〳〵此この新しん商しや法うはふといふものが流行をいたしまする。彼かの電でん話わき機か械いといふものが始めて参まゐつた時に、互たがひに掛かけやうを知らぬから、両方で話をしようと思つても、何どうしても解わからなかつたといふ。夫それは何どういふ訳わけかと後あとで聞いて見ますると、耳へ附つけべき器きか械いを口へ着つけてやつたからだといふ。夫それでは聴きこえないから解わからない筈はづです、夫それから又また蓄ちく音おん器きといふものが始めて舶はく来らいになりました時は、吾われ人ひと共ともに西せい洋やう人じんの機きか械いが学くの長たけたる事には驚おどろきました。実じつに此この音ねい色ろを蓄たくはへて置おく等などといふは、不ふ思し議ぎと申まうすも余あまりあることでござりまする。殊ことに親、良をつ人と、誰たれに拘かゝはらず遺ゆゐ言ごん抔などを蓄たくはへて置おいたら妙めうでござりませう。幾いく度ど掛かけてもチヤンと、存ぞん生しや中うちゆうに物もの言いふ通とほり、音おん色しよくが発はつするのだから其その人ひとが再ふたゝび蘇よみ生かへつて対たい話わでもするやうな心こゝ持ろもちになるのだから、大おほきに是これは追つゐ善ぜんの為ために宜よからうと考へられまする。
此この器きか械いを台だいにして其その上うへへ又また一ひと工くふ夫ういたした人がある﹁何どうも是これは耳へ附つけて聴きくのに、ギン〳〵と微かすかに聴きこえて判はつ然きり解わからぬやうだが、何どうか斯かう耳へ当あてずに器きか械いをギユーと捩ねぢると、判はつ然きり音おん色しよくが席せき中ぢう一抔ぱいに大だい音おんに聴きこえるやうに仕したいものだ。日にほ本んじ人んし種ゆといふものは却なか々〳〵器きよ用うでござりますから、忽たちまち一つの発はつ明めいをいたし、器きか械いが出で来きて見ると、之これに就ついて一つの新しん商しや法うはふの目もく論ろ見みを起おこしました。﹁見みわ渡たすに現い今まの世界は交かう際さい流ばや行りで、何どうも此この世せ辞じは要いらぬ事だと云いふけれど、是これも言葉の愛で何どうしても無ければならぬものだ、世せ辞じに疎うとい性せい来らいの者は、何どん様なに不自由を感じて居ゐるかも知れぬから、種いろ々〳〵の世せ辞じを蓄たくはへて置いて之これを売うつたら、嘸さぞ繁はん昌じやうをするであらう。と考へ夫それ々〳〵趣しゆ向こうをいたし、一いち々〳〵口くち分わけにして番ばん号がう札ふだを附つけ、ちやんと棚たなへ、何なに商しや法うはふでもお好この次みし第だいの世せ辞じがあるといふ迄までに準備が出で来きた、之これで開店するといふのだが、何どうも家う屋ちの構かゝ造りが六むづかしい、余あまり烈はげしい往わう来らい中なかではいかず、と云いつて衆ひ人との目めに立たぬければ不いか可ぬから、入はい口りぐちを横よこ町ちやうへ附つけ、表おもての方はうは三四間けんの所を細こまかい格かう子しづ作くりに拵こしらへ、往おも来ての方はうへ看かん板ばんを懸かけました。同じ事でも妙めうなもので、料れう理りぢ茶や屋やから大たい酔すゐ致いたし咬くは楊へや子うじか何なにかでヒヨロ〳〵出でて直すぐに腕くる車まに乗る抔などは誠に工ぐあ合ひが宜よろしいが、汁しる粉こ屋やの店みせからは何なんとなく出にくいもの、汁しる粉こ屋やでは酔よふ気きづ遣かひはない、少し喰くひ過すぎて靠もたれて蒼あをい顔をしてヒヨロ〳〵横に出る抔などは、余あまり好よい格かつ好こうではござりませぬ。さて此この世せ辞じ屋やは角かど店みせにして横よこ手ての方はうを板いた塀べいに致いたし、赤あか松まつのヒヨロに紅もみ葉ぢを植うゑ込こみ、石いし燈どう籠ろうの頭あたまが少し見えると云いふ拵こしらへにして、其その此こな方たへ暖のれ簾んを懸かけ之これを潜くゞつて中なかへ這は入いると、格かう子しど戸づく作りになつて居ゐましてズーツと洗あら出ひだしの敲たゝき、山やまづらの一間けん余よもあらうといふ沓くつ脱ぬぎが据すゑてあり、正しや面うめんの処ところは銀ぎん錆さびの襖ふすまにチヨイと永えい湖こせ先んせ生いと光くわ峨うが先せん生せいの合がつ作さくの薄うす墨ずみ附つけ立たて書がきと云いふので、何どこ所ま迄でも恰こう当とうな拵こしらへ、傍かたはらの戸とだ棚なの戸とを開あけると棚たなが吊つつてあつて、ズーツと口くち分わけを致いたして世せ辞じの機械が並んで居ゐる。其その此こな方たには檜ひのきの帳ちや場うば格がう子しがありまして、其その裡うちに机を置き、頻しきりに帳ちや合うあいをして居ゐるのが主ある人じ。表おもての入いり口くちには焦こげ茶ちや地ぢへ白しろ抜ぬきで﹁せじや﹂と仮か名なで顕あらはし山やま形がたに口といふ字が標しるしに附ついて居をる処ところは主ある人じの働はたらきで、世せ辞じを商あきなふのだから主ある人じも莞にこ爾やかな顔、番ばん頭とうも愛あいくるしく、若わか衆いしゆから小こぞ僧うに至いたるまで皆みなニコ〳〵した愛あい嬌けうのある者ものばかり。此こ家ゝへ世せ辞じを買かひに来くる者は何いづれも無ぶに人んさ相うなイヤアな顔の奴やつばかり這は入いつて来きます。是これは其その訳わけで無ぶに人んさ相うだから世せ辞じを買かひに来るので婦人﹁御ごめ免んなさい。若﹁へい入いらつしやいまし、小こぞ僧うやお茶ちやを、サ何どう卒ぞ此こち方らへお掛かけ遊ばして、今こん日にちは誠に好よいお天気になりました、何どう卒ぞ之これへ。婦人﹁はい、御ごめ免んなさいよ。ズツと頭ずき巾んを取ると年としの頃ころは廿五六にもなりませうか、色の浅あさ黒ぐろい髪の毛の光つ沢やの好よいちよいと銀いて杏ふが返へしに結ゆひまして、京きや縮うち緬りめんの小こも紋んお織りの衣いる類ゐ、上うへには黒くろ縮ちり緬めんの小さい紋もんの附ついた羽はお織り、唐たう繻じゆ子すの丸まる帯おびを締しめ小さい洋かう傘もりがさを持もつて這はい入つて来きました。器きり量やうは好よいけれども何ど所こともなしに愛あい嬌けうのない無ぶに人んさ相うな容かほ貌つきで若﹁サ、何どう卒ぞ此こち方らへおかけ遊ばして。婦人﹁アノ私わたしはね、浜はま町ちやうの待まち合あひ茶ぢや屋やでございますがね、何どうも私あたしは性うま来れつきお世せ辞じがないんですよ、だもんだからお母つかさんが、手てめ前えの様やうに無ぶに人んさ相うぢやア好よいお客は来きやしないから世せ辞じを買つて来こいと、小こご言とを云いはれたので態わざ々〴〵買ひに来きたんです、何どうか私あたしに宜よさゝうな世せ辞じがあるなら二ツ三ツ見せて下さいな。主人﹁へい畏かしこまりました、待まち合あひさんのお世せ辞じだよ、其その二番目の棚たなにあるのが丁ちや度うど宜よからう、うむ、よし〳〵、えゝ此この手てでは如いか何ゞでげせう。ギイツと機械を捻ねぢると中なかから世せ辞じが出ました。発音器﹁アラ入いらしつたよ、チヨイとお母つかさん旦だん那なが、何どうもまア貴あな方たは本ほん当たうに呆あきれるぢやアありませぬか、過こな日ひだお帰かいんなすつた切ぎり入いらつしやらないもんですから、何どうなすつたんだらうツて本ほん当たうに心配をしてえましたよ、然さうするとね、お母ふくろが云いふのには、お前まい何なにか旦だん那なを失しく策じつたんぢやアないかてえますから、ナニお前まへ人を失しく策じらせるやうな旦だん那なぢやアないから心配おしでない、でも彼あれツ切きり入いらつしやらないには何なにか理わ由けがあるんだらうつて、ふうだノはアだのが姐ねえさん本ほん当たうに旦だん那なは何どうなすつたんだらう、何なにか怒おこつて居ゐらつしやるんぢやアなからうかてつて、痛ひどく彼あの婦こが心配してえるんですよ、ナニお前まへは失しく策じる気きづ遣かひはないよ、アノ時とき奥おくの見みと通ほしに来きてエたのは、何どうも厭いやに生なまなお客だもんだから旦だん那なが変へんにお思ひなすつたかも知れないが、ナニ彼あの方かたの事なら後あとでお咄はなしをしても解わかるんだから、決してお前まへが失しく策じるやうな事はない、大丈夫だから安心してお出いでよ、でも何なんだか旦だん那ながお怒おこんなすつたやうで気が揉もめてならないわ、だけれども姐ねえさん旦だん那なはね段だん々〴〵長くお側そばに坐すわつてると段だん々〴〵好よくなつて来きますよ、なんて、アノ重い口から云いふ位くらゐだから、まア本ほん当たうに不思議だと思つてますの、アノ今け日ふは旦だん那な彼あれをちよいと喚よんでやつて下さいよ、アレサ其そ様んな事を云いはずに彼あれも大たい層そう心配をしてえますから、姐ねえさん旦だん那なはあれツ切きり入いらつしやらないか、入いらつしやらないかツて、度たび々〳〵私あたしに聞ききますから、ナニ早いま晩に屹きつ度と入いらつしやるから其そ様んなに心しん配ぱいをおしでないよツて、云いつてるんですもの、おやお従と者もさん誠に御ごく苦らう労さ様ま今いまお酢すしでも上あげますから少し待つてゝ下さいよ、ちよいとまア旦だん那な貴あな方たの今け日ふのお召めしの好よいこと、結ゆふ城きでせう、ナニ節ふし糸いと織おり、渋しぶい事ね何どうも、お羽はお織りのお色いろ気けと取とり合あひの好よいこと、本ほん当たうに身な装りの拵こさへは旦だん那なが一番ばんお上じや手うずだと皆みんながさう云いつてるんですよ、あのね此この春はる洋やう服ふくで入いらしつた事がありましたらう、黒の山やま高たか帽ばう子しを被かぶつて御ごね年ん始しの帰かへりに、あの時は何ど所この大だい臣じんさんが入いらしつたかと思つた位くらゐですよ、本ほん当たうに旦だん那なは何なにを召めしても能よくお似にあ合ひなさること、夫それに旦だん那なはお優やさしいから年とし寄よりでも子供でも、旦だん那なは入いらつしやらないか、入いらつしやらないか、とお慕したひ申まうします所が誠に不思議だ、あれだけ何どうも旦だん那なは萬ばん事じに御ごや様う子すが違ふんだと然さう云いつてますの、まア二階へお上あがんなさいましよ、まアさ其そ様んな事を云いはずに彼あれを喚よんでおやんなさいよ、でないと若い妓こを一人殺しちまふやうなもんです、本ほん当たうに貴あな方たは芸げい妓しや殺ころしですよ、まアちよつと二階へお上あがんなさいよ﹂。主人﹁エヘヽヽ此この手てでは如いか何ゞでございます。婦人﹁成なる程ほど是これは頓とんだ宜ようございますね、ぢやア之これを一つ戴いたゞきませうか。帯おびの間あひだから紙さつ幣い入れを出して幾いく許らか払はらひをして帰かへる時に、重い口からちよいと世せ辞じを云いつて往ゆきましたから、大おほきに様やう子すが宜よろしうございました。其その後あとへ入いれ違ちがつて這はい入つて来きましたのが、二ふた子この筒つゝ袖そでに織おり色いろの股もゝ引ひきを穿はきまして白しろ足た袋び麻あさ裏うら草ざう履りと云いふ打こし扮らへで男﹁エヽ御ごめ免んなさい。若﹁へい、入いらつしやいまし、何どうぞ此こち方らへお掛かけあそばしまして。客﹁エヽ私わつしは歌か舞ぶ伎き座ざの武たけ田だ屋やの兼かねてえもんでがすが、能よく姐ねえさんに叱しかられるんで、お前めえのやうに茶ちや屋やの消けし炭ずみをして居ゐながら、さう世せ辞じが無なくツちやア仕しやうがねえから、世せ辞じ屋やさんへでも行いつて、好よいのがあつたら二つばかり買かつて来こいツて、姐ねえさんが小こづ遣けえを呉くれやしたから、何どう卒ぞ私わつしに丁ちや度うど宜よさそうな世せ辞じがあつたら売うつてお呉くんなせえな。主人﹁へい、芝しば居ゐぢ茶や屋やの若い衆しゆさんのお世せ辞じだよ、うむ、其その方はうが宜よからう、エヽ此この手てでは如いか何ゞでございます。と機きか械いへ手を掛かけてギイツと巻まくと中なかから世せ辞じが飛とび出だしました。発音器﹁おや何どうも是これは入いらつしやいまし、何どうもお早いこと実じつに恐おそ入れいりましたねお宅たくから直すぐに綱つな曳ツぴきで入いらしつたツて、此こん様なにお早く入いらつしやるてえのは余よツ程ぽどお好すきでなければ出で来きない事でエヘヽヽ先せん達だつては番ばん附づけの時に上あがりましたが、何どうも彼あす所こから入いらしつたかと思ふと実じつに恟びつくりする位くらゐなもので、私わたくしも毎まい度ど参まゐりますが何どうも遠いのに恐おそ入れいりましたよ、へい御ごし内ん室ぞさん此こな間ひだは誠に有あり難がたう存ぞんじます、エヘヽヽ私わたくしはね何どうもソノお肴さかなが結けつ構こうなのに御ごし酒ゆが好よいのと来きてえませう、夫それにまだ世せけ間んには売ばい物ぶつにないと云いふ結けつ構こうなお下さか物なでせう何なんだか名も知らない美うま味いも物のば許かりなんで吾われ知しらず大たい変へんに酔よつちまひました、夫それゆゑ何どち方らさ様まへも番ばん附づけを配くばらずに帰かへつたので、大おほきに姐ねえさんから小こご言とを頂ちや戴うだいしたり何なんかしました、へい嬢ぢやうさん入いらつしやいまし、何どうも先せん達だつての二番ばん目めき狂やう言げんへ貴あな嬢たがチヨイと批く評ぎをお刺さしになつた事を親おや方かたに話しましたら、大たい層そう感かん心しんしまして実じつに恐おそ入れいつたものだ、中なか々〳〵アヽ云いふ処ところは商しや売うば人いにんだつて容よう易いに気きの附つくもんぢやアないと云いひました、何どう卒ぞ打は出ねましたら些ちと三階がいへ入いらつしやいまして、おや是これは坊ぼツちやま入いらつしやいまし、アハヽまアお可かあ愛いらしいこと、いえ何どうも親おや方かたも駭おどろいてましたし、表おも方てかたの者も皆みな感かん心しんをしてえるんで、坊ぼつちやんがアノ何どうも長ながいダレ幕まくの間あひだちやんとお膝ひざへ手を載のせて見て居ゐらつしやるのは流さす石がは何どうもお違ちがひなさるツてえましたら親おや方かたがさう云いひましたよ、夫それア当あた然りめえよお前まへのやうな痴ば漢かとは違ちがふ、ちやんと勧くわ善んぜ懲んち悪ようあくの道だう理りがお解わかりになるから飽あかずに見て居ゐらつしやるのだ、若もし其その道だう理りが解わからなければ退たい屈くつして仕し舞まふ訳わけぢやアないか、と云いはれて見ると成なる程ほどと思つて愈いよ々〳〵恐おそ入れいりましたんでエヘヽヽちやんと何どうも眼めも放はなさずに見て居ゐらつしやるなんて本ほん当たうに違ちがひますな、イエまだ早うごす、左さや様うでげすか、入いらつしやいますか、ぢやアお兼かねどんお蒲ふと団んとお煙たば草こぼ盆んをヘイ行いつていらつしやいまし﹂。主人﹁エヽ此この辺へんでは如いか何ゞでござります。客﹁エヽ是これは宜ようがす、ナニ一両りやうだとえ大たい層そう安いね、お貰もらひ申まうして置おきやせう、小こぞ僧うさんまた木こび挽きち町やうの方はうへでもお使つかひに来きたらお寄よんなせえ、私わつしは歌かぶ舞き伎ざ座つ附きの茶ちや屋やで武たけ田だ屋やの兼かね吉きちてえもんです、何い日つでもちよいと私わつしをお喚よびなさりやア好よい穴あなを見み附つけて一幕まく位ぐらゐ見みせて上あげらア、何どうも大おほきに有あり難がたうがした。大たい層そうお世せ辞じがよくなつて帰かへりました。入いれ違ちがつて這は入いつて来きたのは、小こく倉らの袴はかまを胸むな高だかに穿はき締しめまして、黒くろ木もめ綿んも紋んつ付きの長なが手ての羽はお織りを着ちやくし、垢あぶ膩らじ染みたる鳥とり打うち帽ばう子しを被かぶり、巻まき烟たば草こを咬くはへて居ゐながら、書生﹁ヤー御ごめ免んなさい。若﹁へい入いらつしやいまし、何どう卒ぞ此こち方らへ…。書生﹁アー僕ぼくはね開かい成せい学がく校こうの書しよ生せいぢやがね、朋ほう友いう共どもの勧すゝめに依よれば何どうも君きみは世せ辞じが無なうて不い可かぬ、些ちと世せ辞じを買かうたら宜よからうちうから、ナニ書しよ生せい輩はいに世せ辞じは要いらぬ事ことではないかと申まうしたら、イヤ然さうでないと、是これから追おひ々〳〵進しん歩ぽして行ゆく此この時じせ勢いに連つれて実じつに此この世せ辞じといふものは必ひつ要えう欠かくべからざるものぢや、交かう際さい上じやうの得とく失しつに大だい関くわ係んけいのある事ぢやから是ぜ非ひとも世せ辞じを買かうたら宜よからうと云いふ忠ちゆ告うこくを受けたのぢや、僕ぼくも成なる程ほどと其その道だう理りに服ふくしたから出かけては来きたものの奈いか何んせん、さう沢たく山さん余ぜ財にがないから成なるべく安いのを一つ見せてくれ。主人﹁へい畏かしこまりました、書しよ生せいさんのお世せ辞じだよ、エヽ此この手てでは如いか何ゞでげせう。ギイツと機械を捻ねぢると中なかから世せ辞じが出た。発音器﹁アヽ杉すぎ山やま君くん何どうか過くわ日じつは何どうも僕ぼくが酷えらく酔ようた、前ぜん後ごば忘うき却やくといふのは彼あの事かい、下げし宿ゆくへ帰かへつて翌日の十時過すぎまで熟じゆ睡くすゐをして了しまうたがアノ様やうに能よう寝ねた事は余あまり無いよ、君きみはあれから奥あう州しうの塩しほ竈がままで行いつたか、相あひ変かはらず心に懸かけられて書しよ面めんを贈おくられて誠に辱かたじけない、丁ちや度うど宴えん会くわいの折をり君きみの書しよ状じやうが届とゞいたから、披ひらく間ま遅おそしと開かい封ふうして読よみ上あげた所が、皆みんな感かん服ぷくをしたよ、何どうも杉すぎ山やまは豪えらい者ぢやの、何どうも此この行かう文ぶん簡かん単たんにして其その意味深く僕ぼく等らの遠く及およぶ処ところではない、斯かう云いつて皆みな誉ほめて居をつたぜ、跡あとの方ほうに松まつ嶋しまの詩があつたの
とは何どうも能よく出で来けた、夫それはさうと君は大たい層そう好よい衣きも服のを買かうたな、何ど所こで買かうた、ナニ柳やな原ぎはらで八十五銭せん、安いの、何どうも是これは色いろ気けが好よいの本ほん当たうに君きみは何なにを着ても能よう似に合あふぞ実じつに好かう男だん子しぢや、彼あの湯ゆし嶋まの天てん神じん社しや内ないの楊やう弓きゆ場うばの高たか橋はしのおかねの、彼かれが大たい層そう君きみを誉ほめて居をつたぞ、杉すぎ山やま君くんは男をと振こぶりは好よし程ほどが好えいから何なにを着きても能よくお似にあ合ひなさるツて、ナニ真ほ実んの事だぞ﹂。主人﹁エヘヽヽ此この辺へんでは如いか何ゞさまで。書生﹁ヤー是これは好よいのー幾いく許らぢや、うむ夫それは安いの、買かうて置おかう。銭ぜに入いれから代だいを払はらつて立たち帰かへりました。其その跡あとへ入いれ違ちがつて来きたのは、織おり色いろの羽はお織り、結ゆう城きは博か多たの五本ほん手ての衣きも服のに茶ちや博はか多たの帯おびを締しめました人物、年齢四十五六になる品ひんの好よい男をとこ。客﹁アヽ御ごめ免んなはれ。若﹁入いらつしやいまし。客﹁アヽ大だい分ぶ何どうも御ごね念んい入りぢやなモシ、お棟むね上あげ前まへに此このお門かど口ぐちを通とほつたが実じつに何どうも豪えらい木きぐ口ちを入いれやはつて恐おそ入れいりました、上かみ方がたから吉よし野のま丸る太たや嵯さが峨ま丸る太たを取とり寄よせての御ごけ建んち築くとは豪えらいものや、実じつは何なに御ごし商やう法はふをなさるのかと考かんがへてゐました、中なかには彼あれは無しも職た業やさんや、ナニさうぢやない質しち屋やさんや抔など云いうて色いろ々〳〵お噂うはさを云いうて居ゐやひやりましたが、何どうも世せ辞じ屋やさんとは恐おそ入れいつたもんです、段だん々〴〵承うけたまはれば蓄ちく音おん器きから御ごは発つめ明いになつたと云いふ事を聞きましたが豪えらいもんや、何どうしても是これからの世界に世せ辞じと云いふものは無ければならぬ、必ひつ要えうのものぢや、と云いふ所にお心を附つけて蓄ちく音おん器きから斯かういふ発はつ明めいをなさると云いふは、当こち家らの御ごし主ゆじ人んに夫それだけの学がく問もんもなければならず、お智ち恵ゑもなければ出でけんことぢやが、何どうも結けつ構こうな御ごし商やう法はふですな、若もしアヽー何どうも此このお襖ふすまは何なんどす、銀ぎん錆さびで時代が十分ぶんに見えますな、此こツ方ちやは古こわ渡たり更さら紗さの交まぜ貼はりで、へえー何どうも能よく此この位くらゐお集めになりましたな、へい、戴いたゞきます、何どうも此このお煎せん茶ちやの器械からお茶ちや碗わんからお茶ちや托たくまで結けつ構こう尽づくめ、中なか々〳〵お店や何なにかで斯かういふものを使ふお店は無い事で、何どうもお菓子まで添そへられて恐おそ入れいります、へえ頂ちや戴うだいを……何どうも流さす石がは御ごし商やう売ばい柄がらだけあつて御ごし主ゆじ人んは愛あい嬌けうがあつてにこやかなお容かほ貌つき、番ばん頭とうさんから若わか衆いしう小こぞ僧うさんまで皆みなお子こが柄らが宜えいなモシ、実じつに惜をしいやうですな、エヘヽヽ表おもてを通とほる女をな子ごた達ちは皆みな立たち留どまる位くらゐのもんで、斯かういふ珠たま揃ぞろひのお方かた々〴〵が居ゐて世せ辞じを商あきなひして居ゐらつしやる処ところへ買かひに来きましたのは手てま前いど共もの仕しあ合はせで、世せ辞じの好よいのがありましたら二ふた三つみ個つ頂ちや戴うだいしませうか。主人﹁これ〳〵早く箱を片かた附づけなよ。客﹁ナニ片かた附づけぬでも宜よろしい、手てま前いは世せ辞じを買かひに来きたのです。主人﹁イヽエ何どういたして手てま前いど共もでは仲なか間まう売りは致いたしませぬ。