是これは当たう今こんでは出で来きませぬが、昔むか時しは行ゆき倒だふれを商しや売うばいにして居ゐた者があります。無むや闇みに家うちの前まへへ打ぶつ倒たふれるから﹁まアお前まへ何ど所こかへ行いつて呉くれ。乞﹁何どうも私わたくしは腹はらが空へつて歩かれませぬ、其その上うへ塩あん梅ばいが悪わるうございまして。と云いふから仕しか方たなしに握むす飯びの二ふた個つに銭ぜにの百か二百遣やると当たう人にんは喜んで其その場ばを立たち退のくといふ。是これが商しや売うばいになつて居ゐました。或ある時とき此こい奴つが自分の日記帳を落おとした。夫それを拾ひろつて読よんで見ると、
一番 町 にて倒候 節 は、六尺 棒 にて追払 はれ、握飯 二個 、番茶 一杯 。
一