妖怪玄談

井上円了






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 明治二十年五月上旬
著者誌
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第一段 総論


第一節

 西
第一種、すなわち外界に現ずるもの
幽霊、狐狸こり天狗てんぐ、犬神、たたり、その他諸怪異
第二種、すなわち他人の媒介によりて行うもの
巫覡ふげき、神降ろし、人相見、墨色すみいろ卜筮ぼくぜい、予言、祈祷きとう、察心、催眠、その他諸幻術
第三種、すなわち自己の身心の上に発するもの
夢、夜行、神知、偶合ぐうごう、俗説、再生、癲狂てんきょう、その他諸精神病
 右の表を、あるいは左の図をもって示すべし。
  ┌外界(幽霊、狐狸等)
妖怪┤  ┌他人(巫覡、神降ろし等)
  └内界┤
     └自身(夢、夜行等)
 

第二節

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第一は、万物各体の内に存する他体にその原因を帰すること
第二は、万物各体の外に存する天神にその原因を帰すること
第三は、天地自然の規則にその原因を帰すること
これなり。この第三時期の解釈法によりて定むるところの原因にまた三種あり。
第一種は、外界一方より起こる原因
第二種は、内界一方より起こる原因
第三種は、内外両界相合して起こる原因
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第三節

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第四節

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 この言にても知らるるごとく、コックリは児女輩の遊戯同様のものにて、近ごろ当府下にて流行の景況を見るに、書生輩の下宿屋に休日の晩には数名相会し、種々さまざまのことを問いかけて一夕の遊戯となし、市中にては往々、歌舞音曲を交えてコックリとともにおどり戯むる等、実に笑うべきの至りならずや。

第五節

 余、あらかじめその弊害あるを察し、これを研究して愚民の惑いを解かんと欲し、昨年来各地の報道を請うてその情況を調べ、また自らこれを試みてその原因を考え、このごろようやく、世人のこれを信ずるゆえんを明らかにしたるをもって、ここにその道理を述べて、いささか愚民に諭すところあらんとす。これ、余がこのことをあつめて、『妖怪玄談』第一集となすゆえんなり。今、これを論述するに当たり、その順序次第を立てざるべからず。ゆえに余は、第一にその仕方を説き、第二にその伝来を述べ、第三にその原因を論ずるなり。
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第二段 コックリの仕方を論ず


第六節

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第七節

 また、茨城県太田町、前島某氏の報知によるに曰く、
()()()使
 また、千葉県香取郡飯塚村、寺本氏の報知によるに曰く、

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第八節

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第九節

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第一〇節

 
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 府下牛込小石川辺りにてなすところを聞くに、「麻糸の中に婦人の髪の毛三筋入れ、その縄を七五三しめに結う」という。

第一一節

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 綿()()()


第一二節

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第一三節

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第一四節

 ()()駿()()()()西西()()()()()()()()()()()()()()

第一五節

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第一六節

 ()西西西
 西西()使

第一七節

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第一八節

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第一九節

 今、余はこの原因を左の三種に定めて、いちいち説明せんと欲するなり。
第一は外界のみによりて起こる原因、すなわちコックリの装置自体より生ずる原因
第二は内外両界の中間に起こる原因、すなわち人の手とコックリの装置と相触れたるときの事情より生ずる原因
第三は内界のみによりて起こる原因、すなわち人の精神作用より生ずる原因
 

第二〇節

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第二一節

 
 
 
 調調

第二二節

 便

第二三節

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第二四節

 
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第二五節

 
神経組織の図1
 
神経組織の図2
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第二六節

 
 便()()

第二七節

 
神経組織の図3
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第二八節

 つぎに、意向によりて不覚作用の起こるゆえんを考うるに、意向は心力の一方に集合、会注かいちゅうするより起こるをもって、仮に脳中の心力の全量を百と定めてこれを五分に分かつに、各部二十の力を有するを平常のときとす。しかれども、その時々刻々の事情に従って、全部平均を得ること難きをもって、自然に多量の力の一方に集合することあり、また、ことさらに多量の力を一方に会注することあり。これを意向または注意という。ゆえに、意向の作用によりて一方に数倍の力を増加し、他方にほとんど全くその力を欠くことあり。その力の欠けたる部分は、全く休止して作用を営まざるか、またはたといこれを営むも反射自動作用にとどまり、識覚有意作用を現ぜざるなり。ここにおいて不覚作用起こる。すなわち、この作用は意向によりて生ずるところの不覚なり。
脳中の心力の図

第二九節

 
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第三〇節

 

第三一節

 余がさきに略図をあげて示すごとく、神経には求心性、遠心性の二種ありて、外部に起こる刺激を大脳に伝えて感覚を生ずるは求心性の作用により、大脳の命令を外部に伝えて運動を示すは遠心性の作用による。しかしてその運動は、外部の刺激に応じて起こるものと、脳中の事情よりただちに発するものあり。その脳よりただちに発する運動に、識覚するものと識覚せざるものあり。その識覚せざるもの、これコックリの原因にして、余がいわゆる予期意向、不覚筋動の事情なり。ゆえに、もしこれを、さきに挙ぐるところの六種の不覚作用の原因に考うるときは、その第二の意向によりて生ずる不覚に属するものと知るべし。

第三二節

 ()()退()()

第三三節

 
 巣鴨におる勇公というもの、このほど王子に茶屋奉公して、於辰おたつという女を女房にもらいしが、この節流行の狐狗狸こっくりを始め、勇公が、「もし、狐狗狸様、於辰もこれまで、よい人がありましたろう。あったなら足を上げて下さい」というと、その足が上がったので、於辰も負けぬ気で、「勇さんには、今でもなにかありましょう。あるならこっちの足を」というと、またそのとおりにしたのがもとで喧嘩をしだしたに、母は見かねて、「今のはじょうだんにしたのだ。狐狗狸様、じょうだんに違いないなら右へ回って下さい」というと、またまたそのとおりしたので、三人一度に大笑いとなりてすんだという。
 これ、その心に思うところの意向に応じて筋動を生ぜしによる。

第三四節

 

第三五節

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第三六節

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第三七節

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第三八節

 

第三九節

 
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第四〇節

 
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第四一節

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第四二節

 

第四三節

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 輿()()()

第四四節

 前来論述するところのコックリの原因事情を総括するに、第一に、コックリの装置すでに動揺、回転しやすき組み立てを有するの事情あり。第二に、その回転しやすき装置の、また動揺しやすき手に接するをもって、二者相助けてますます動揺、回転せんとするの事情あり。第三に、意向および信仰の影響によりて、知らず識らずこれに回転運動を与うるの事情、およびこれを助くる他の事情あり。その表、左のごとし。
    ┌第一項(外界の事情、すなわちコックリの装置)
    │第二項(内外両界中間の事情、すなわち手と装置との間に起こる事情)
原因事情┤      ┌予期意向
    │   ┌内因┤
    └第三項┤  └不覚筋動
        └外情(内因を助くる事情)
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