ファウスト

FAUST. EINE TRAGODIE

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

Johann Wolfgang von Goethe

森鴎外訳





()


()
姿
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()
()()

()()


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10



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()
15
()()

()※(「門<癸」、第3水準1-93-53)()
※(「門<癸」、第3水準1-93-53)
()()()
20



()()

()
25
()()
()
()
()()()()()
()
30
今我がたる物遠き処にあるかと見えて、
消え失せつる物、我がためには、現前せる姿になれり。
[#改ページ]

劇場にての前戯ぜんき



    座長
これまで度々難儀に逢った時も、
わたくしの手助になってくれられた君方二人ふたりだ。
こん度のくわだてがこの独逸国でどの位成功するだろうか、
35




()
40
()



45




50
狭い恵の門口を通ろうとして、何度押し戻されても
また力一ぱいに押し押しして、
まだ明るいうちに、四時にもならないうちに、
腕ずくで札売場の口に漕ぎ附けて、
丁度饑饉の年に麪包パン屋の戸口に来るように、
55


()()
    

()
60
()



65





70



()
    
75




()()
80
調



85



    

90




()
95



()
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100

()

    

105
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使
110

()
退

115
()



120




125

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鹿

130

()

    

135

()


140
調

()()()

145



調
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150

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()
()
()()
155


    
使

160

()
()

165
()()
()

()
170


()
()()
()
175
そうすれば心の優しい限の人があなたの作から
メランコリアの露を吸い取るのです。
そうすれば人の心のそこここをそそって、
誰の胸にも応えるのです。
そう云う若い連中なら、まだ笑いでも泣きでもする。
180
()

()()
    

185
内から迫り出るような詩の泉が
絶間なく涌いていた、あの時です。
霧に世界は包まれていて、
ふふめるつぼみに咲いての後の奇蹟を待たせられた時です。
谷々に咲き満ちている
190




195
()

    


()
200



()
()
205




210



    

215



調
()()
220
使使

()

225

()



230





()()使
235

()()()()※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)


240
さて落ち着きはらって、すばしこく、天からこの世へ、
この世から地獄へと事件を運ばせてお貰い申しましょう。
[#改ページ]

天上の序言



使
    ラファエル
昔のままの節博士ふしはかせで、同胞はらからの星の群と、
日は合唱のを立てている。
そして霹靂はたたがみあゆみをして
245
()
使()
使
()()
250
    ガブリエル
そして早く、不可思議に早く
美しい大地がみずから回転している。
天国のような明るさと
深い、恐ろしい夜とが交代する。
巌石の畳み成せる深い底から
255

()
()
    
()
260
その往いては返る競争で、吹き過ぐる周囲めぐり
深甚なる作用の連鎖が作られる。
ともすれば雷電らいでんの破壊の焔が
道のゆくてに燃え上がる。
しかし、主よ、御身の使徒等は
265

    
使
使

()()
270
    


()()
()
275
()()



280
()
()()


使
285
使

※(「虫+車」、第3水準1-91-55)

290


    


295
    
()

()()
    

    
            
    
                      ()
    
()()
300
()



()
305


    

()()
310

    



    
315


    
()()()()
()
()()()
320
使

   

()
325


()()

    
330


()()

335
    
()()

()

340




()()
345
永遠に製作し活動する生々せいせいの力が、
愛の優しいらちをお前達の周囲めぐりうようにしよう。
お前達はゆらぐ現象として漂っているものを、
持久する思惟しゆいで繋ぎ止めて行くが好い。
(天は閉ぢ、天使の長等散ず。)
    メフィストフェレス(一人。)
己は折々あのおいさんに逢うのがすきだ。
350
そこで附合つきあいがまずくならないように気を附けている。
悪魔にさえあんな風に人間らしく話をしてくれるのは、
大檀那の身の上では感心な事さね。
[#改丁]

[#ページの左右中央]


悲壮劇の第一部



[#改ページ]


狭き、ゴチック式の室の、高き円天井の下に、ファウストは不安なる態度にて、卓を前にし、椅子に坐してゐる。
    ファウスト
はてさて、己は哲学も
法学も医学も
355


鹿

360


()

365

鹿


370
()()()()



375
()
()


380

()
()()


385

()


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390


()
()()()
395
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()
()
()
400


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()
405

()()



410
()
()()
()()

415

()()



()()
420


()
()
425


()
()
(書を開き、大天地の符を観る。)
や。これを見ると、己のあらゆる官能に
430
たちまちなんとも言えぬ歓喜がみなぎる。
青春の、神聖なる生の幸福が新に燃えるように
己の脈絡や神経の中を流れるのが分かる。
この符を書いたのは神ではあるまいか。
己の内生活の騒擾そうじょうを鎮めて、
435
()便()



()
440
()
()
()
()
退
445
塵界の胸を暁天の光に浴せしめよ。」
(符を観る。)
一々の物が全体に気息を通じて、
物と物とが相互にそれぞれ交感し合っている。
黄金こがね釣瓶つるべを卸してはまた汲む如く、天上の
もろもろの力がくだってはまた昇る。
450

()
調

()()
()
455

()

()
(憤慨せる様にて書を飜し、地のせいの符を観る。)
はて、この符の己に感じる工合はよほど違う。
460


()

465
()
()()


470
()()
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)


()()()()
475

()


480

(本を手に取り、地の精の呪文を深秘なる調子にて唱ふ。赤き※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)燃え立ちて、精霊※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)の中に現る。)
    

    ()()
       姿
    
()


    
      
485
    
()

()()

()()
490

()
()

()
495



    
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)姿
500
    
()()()()


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()()
505
()()()


()
    
()
510

    


    

515
神の姿をそのままに写された己だ。
それがお前にさえ似ないと云うのか。
(戸をたたく音す。)


()()
520
あの抜足をして歩くような乾燥無味な男が妨げるのか。
(ワグネル寝衣を著、寝る時被る帽を被り、手に燈を取て登場。ファウスト不機嫌らしく顔を背向そむく。)
    


()
()
525


    


    
530



    

535

()
()()
()()()
540




545
    


    

鹿
550
技巧を弄せないでも演説は独りでに出来る。
何か真面目に言おうと思う事があるのなら、
なんの詞なんぞを飾るに及ぶものか。
どうかすると君方の演説は人世の紙屑で
上手な細工がしてあって、光彩陸離としていても、
555

湿
    

()
560




()便()
565
    


()()

    
570



    

575
()()



580


()()()
()()()()
585
    


    


590


()

595
    


()()()

600
学問は大分ある積でございますが、一切の事が知りたいと存じまして。
(退場。)
    

()

()()
605

()()



()()()()
610

()()


姿
()()
615
下界の子から蝉脱して
享楽の自己を天の光明のうちに置いていたのに、
己は光の天使にも増して、無礙むげ自在の力が
既に宇宙の脈のうちを流れ、
創造しつつ神のせいを享けようと、
620
()
()()



625


()()

630
()
()


()
635

()
()


※(「皐+栩のつくり」の「白」に代えて「自」、第3水準1-90-35)()()
640


()()

()()
645

()()

()()
()
650


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()

655

沿()()
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660

()

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665
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鹿
670

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()()()

()
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675
()()
()

()
680


()

使
685




()
690


()()()()

()()()
695


()

耀()
700
新なる日が新なる岸へ己を呼ぶ。

軽らかに廻る※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)かえんの車が己を迎える。
※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)こうき穿うがって新しい道を進んで、
浄い事業の新しい境界へとこころざす
心の支度が出来たように己は感ずる。
705




710
押し開けて入る勇気があるなら行け。
空想が自己を苦痛の地獄に堕す
あの暗い洞窟の前におののかず、
狭い入口に地獄の総ての火が燃え立つ
あの狭隘の道を目ざして、
715
()




720



耀()()()()
()
725

()
()

730



()()()
735
はればれしく寿をこの「暁」にたてまつるのだ。
(ファウスト杯を口に当つ。)
鐘の響、合唱の歌。
    歌う天使の群
クリストはよみがへりたまひぬ。
身をも心をもそこなふべき、
緩やかに利く、親譲おやゆずり
害毒がいどくのまつはれたる、
740
()()
    



745

使
()()
    
()()()
750
()

()
()
()
755
こゝにいまさぬ。
    歌う天使の群
クリストはよみがへりたまひぬ。
いたましき、
浄からしめ、鍛ひ錬る
業をしゅし卒へたまへる、
760

    

()

使
765
()()
便()


()
770



()()()
()()()
775

()


780

()()
()

    
785
生きて気高くましますしゅは、
早くおごそかに
そら高くのぼらせ給ひしか。
なり出づるを楽む心もて
物造るよろこびを今し享けんとやし給ふ。
790

()()
()

795
おん身の幸に我等は泣く。
    歌う天使の群
物を朽ちくずれしむるつちの膝を
立ち離れつゝ、しゅはよみがへりましぬ。
汝達なんたちは喜びて
きずなを断て。
800
()()
()
()()()

()()
805
師の君は汝達に近くおはす。
師の君は汝達のためにいます。


閭門りょもんの前


さま/″\の散歩する人出で行く。
    

    

    
()()
810
    
()()
    

    

    
       
    
()
815

    
鹿

()
    
()
820
    

    


()
825
    

()
    

()
830

    


()
()()
835
    



()
840

    
()


()
845
    




850

    



()
855

()()
()
()()()
    
860
()()



865

()()()
    
()
()
870

    



()※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)()
875
    
()使()

()
()
    
880



    
()()
885
()()


()

890

()()

()()

()
895


()

900
かくぞ軍人いくさびと
門出する。
ファウストとワグネルと
    


905
冬は老いて衰えて
荒々しい山奥へ引っ込む。
そして逃げながらそこから
粒立った氷の一しぶきを、青み掛かる野へ、
段だらに痕の附くようにいている。
910




915


()()

920
()



()()
925
()

()()

930
川には後先になったり並んだりして、
面白げに騒ぐ人を載せた舟が通っている。
あの一番跡の舟なんぞは、
沈みそうな程人を沢山に載せて出て行くところだ。
あの山の半腹の遠い岨道そばみちにさえ
935




940
    


()

()
945
どれもどれもわたくしは聞くのが随分つろうございます。
悪魔にでも焚き附けられているように騒ぎ廻って、
それを歌だ、なぐさみだと云うのでございますからね。
    百姓等(菩提樹の下にて。)
舞踏と唱歌と。
()()()
950

()()()


955

()

()()()()
960




965




970


()()()
()()
()
975
退



980
    

()


()
985


()()()

990
    ファウスト
切角の御親切だから頂戴しましょう。
これでお礼を申して、あなた方の御健康を祝します。
(衆人そのあたりに集ふ。)
    百姓爺
ほんとにこう云うめでたい日に、
好うおいでなさりました。
先年わたくしどもが難儀をいたしました時は、
995
()



()
1000




()()()
1005
()
    
寿
()
    
()()()
()()()
1010
(ファウスト、ワグネルと共に歩み出す。)
    
()



1015

()()()()
()()()

1020

    



1025
()
()()()
()

1030


()

1035
誠実が無いではないが、自分流義に
物数奇らしい骨の折方をして、窮めようとしていた。
例の錬金術の免許とりのお仲間で、
道場と云う暗いくりやに閉じ籠って、
際限のない、むずかしい方書ほうがきどおりに、
1040


()()()()
()()
()
1045
()()



1050
()()


()()
1055
    
()



1060
()()
()

    

()()
1065



()
1070




1075
()()


()()()()
()()()
1080
()()
※(「目+爭」、第3水準1-88-85)


1085

()()()


1090


()()()
()
1095



()()
    
1100




1105
()
()

()
    
1110



()()
1115




1120


()()

1125
    
()



1130



()
1135
西

()

()使
1140
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)使



()()
1145
()()
    

    

    

    
()()
1150

    
()()()


1155
    


    

()()()()
    
1160

    

    


()()
1165
    

    

()()

1170
()U+20F2B86-17
    
()

    

1175
不断学生共の好い連になっているのだから、
先生の御愛顧を受ける値打はたしかにあります。

(二人閭門に入る。)



書斎


ファウストいぬを伴ひて入る。
    ファウスト
何か物を暗示するような、神聖な恐怖を起させて、
我等の善い方の霊を呼び醒そうとする、
深いよるおおわれた
1180





1185

()()


()
()
1190


()


1195




()()()()()()
1200




調
1205





1210
この胸から満足が涌いてぬ。
なぜまたながれがこう早う涸れて
己達は渇に悩んでいなくてならんのか。
これは年来経験して知っている。
この欠陥を埋め合せようとして、
1215
形而上のものを尊重するようになり、
啓示がほしいとあこがれる。
あのどの伝よりも尊く、美しく
新約全書の中に燃えている啓示がそれだ。
原本を開けて見て、
1220
素直な感じのままに、一遍
神聖なる本文を
すきな独逸語に訳して見たい。
(一書巻を開き、翻訳の支度す。)
()
()()()
1225


()
()
1230

()
()

1235
()
()
()
()
()
1240
そんな邪魔をする奴を
傍に置いて我慢して遣ることは出来ぬ。
お前か己か、どちらかが
書斎を出てかなくてはならん。
己は客を逐うことは好まぬが
1245
()()


()
1250

姿

()()
()()
1255
()

()
    
()()
()
1260
()()
()


()
1265


()

1270
    

()()()
()  
  
  
1275
土の精 コボルド いそしめ。」
四大を、
その力、
そのさが
知らぬものが、
1280
なんで霊どもを御する
師になれよう。
「サラマンデルは
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)ほのおのうちに消えよ。
ウンデネは
1285


()()耀()

1290



()()
1295
()

()

1300

()

()()()
1305

()()
()()
()()
()
1310




1315
()



1320
待つなよ。
(霧落つると共に、メフィストフェレス旅の書生の装して煖炉の背後より現る。)
    
()
    


    
1325

    

    
        ()
()

()
1330
    


()

()
    
              
1335

    
()()
    
()

()
1340
()

()

    
()()
1345
    




1350
()



1355
()


    

1360

    

()

1365

()()()()

()
1370

()


1375



    
()
1380

()


    
1385
()

    

()()
1390


    


()
1395
    




    
1400
()
()()
    
()()
()
1405
    



    

    
1410


    


1415
    




1420

    


    
()
1425
    




    
1430
()
()

    

1435
    
調



()
1440

※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)


1445

    

()窿()
※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)()
1450
()
()()


1455

()
()

1460
あこがるゝ心もて
こなたへ続け。
そのきぬ
ひらめく帯は
下界を覆ひ、
1465
()()



1470
芽ぐむ蔓草つるくさあり。
枝たわわなる葡萄は
籠み合ふ酒蔵さかぐら
桶にそそげり。
泡立つ酒は
1475
小川おがわと流れ、
浄き宝玉の
川床にせゝらぎて、
山の上の高き処を
になしつゝ、
1480
事足れる
緑なる岡の
みずうみに入る。
群鳥むらとり
よろこびを啜り、
1485
日のかたへ飛び、
波間に
漂ひ浮ける、
晴やかなる
島々の方へ飛ぶ。
1490
その島には合唱の群の
歓び歌ふが聞え、
踊手の野の上に
踊るが見ゆ。
舞ひ歌ふ人皆
1495
()()

()

()
1500
()
()
()()

()()
1505
    




()姿
1510
※(「さんずい+冗」、第4水準2-78-26)
()()


1515

()
()

1520

()()
()
()
1525
    ファウスト(醒めて。)
己はまた騙されたか。
夢に悪魔を見せられて、
尨犬に逃げられるのが、
意味の深いねがいはてか。
     ――――――――――――
ファウスト。メフィストフェレス登場。
    
()
1530
    

    
      
    
             
    

    
            
()
()
1535



()
()
1540
()
()

    

1545



()()
1550
()



※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)
1555
歓楽の暗示をさえ
かたくなな批評で打ちこわし、
活動している己の胸の創作を
凡百の世相で妨碍ぼうがいする
日の目をまた見ることかと思えば、
1560
()()

()()
()()
1565
己のこの胸のうちに住んでいる神は
心の深い底の底まで掻き乱すことは出来るが、
己のあらゆる力の上に超然と座を占めている神は、
外界の物を何一つ動かすことが出来ぬ。
それで己には世にあるのが重荷で、
1570
()
    

    
()()
()※(「需+頁」、第3水準1-94-6)()
調
1575
()
覿()()

    

1580
    

    

    
()
()
()()()
1585

()()
()
()()
()
1590
人の霊が自ら高しとして我と我身のるいをなす、
その慢心を先ず咀う。
わが官能の小窓に迫る
現象の幻華を咀う。
わが夢の世に来て欺く
1595
名聞や身後の誉の迷を咀う。
妻となり子となり奴婢ぬひとなり鋤鍬となり、
占有せんゆうと称して人に媚ぶる一切の物を咀う。
宝を見せて促して冒険の業をもさせ、
またおこたり快楽けらくさそうて
1600
()



1605

    
()
()

()
1610
世界は倒れ崩れぬ。
半ば神なる人毀ちぬ。
そのくずを「無」のうちへ
我等負ひ行きつゝ、
失はれし美しさを
1615
歎く。
下界の子のうちの
力強きなむじ
さきより美しく
そを再び建立せよ。
1620
が胸のうちにそを建立せよ。
爽かなる目もて耳もて
新なるせいあゆみ
始めよ。
さらば新しき歌
1625

    


()()
1630
官能のはたらき、体の汁のめぐりまる
寂しい所から、
遠い世間へ
あいつ等はあなたを誘い出すのです。

角鷹くまたかのようにあなたの命の根をつつ
1635
()()



()()
1640
わたしはえらい人のお仲間ではない。
それでもあなたがわたしと一しょに
世間を渡って見ようと云う思召がありゃあ、
即座にわたしは甘んじて
あなたのものになってしまう。
1645


()()()
    
()()
    
1650
    

()


1655
    

使

使
    
1660




1665
それから先はどうにでもなるが好い。
未来に愛やにくみがあるか、
あの世にもまたこの世のように
上と下とがあるかなどと、
己は問うて見る気がないのだ。
1670
    
()



    
()
1675
向上の道にいそしむ人間の霊が
君なんぞに分かったためしがあるかい。
腹の太らない馳走か、
水銀のようにころころと
間断なく手のうちで散る赤いきんか、
1680
勝つことのない博奕ばくちか、
己の懐に抱かれていながら
隣の男を流眄ながしめに見る女か、
隕石いんせきのように消えてしまう
名望の、神のような快さをでも授けるのか。
1685
()()

    


1690

    


()
()()
1695
()()()


    
     
    
        

1700




()
1705

    

    


1710

    



()
1715
    
()()



()()()
1720


()

1725


()()()
()()
()()
1730
()()
()

    

1735


    

()()
    
1740
    




1745
大なる霊は己を排斥して、
「自然」の戸は己の前に鎖された。
思量の糸は切れて、
あらゆる知識が嘔吐を催しそうになった。
どうぞ官能世界の深みに沈めて、
1750
()
()()()


1755




    
1760
()()
()()()()
()
()
    
1765


()

1770




1775
    
()
()()
()()

1780



()()()
    

    
          
1785


()※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)()

()()
1790
宇宙の物のあらゆる栄誉を
あなたの頭銜とうかんに持って来るのです。
胆大たんだいなること獅子の如く、
足早きこと鹿の如く、
血の熱することイタリア人の如く、
1795
堅忍不抜は北辺の民の如しと云う工合です。
その先生におたのみなさって、宏量と狡智とを兼ねて、
温い青春の血を失わずに、
予定の計画どおりに恋をすると云う
秘法を授けてお貰なさるが好い。
1800

()
    


1805
    

※(「糸+求」、第4水準2-84-28)()()
穿()

    
1810




1815
    
()()



()
1820



()
1825


()

1830


()()
    

    
               
()()()
1835
退退

()
()()()
1840

()()
    

    

1845
一寸その上衣と帽子とをわたしにおかしなさい。
こう云う服装はわたしには好く似合いそうです。
(メフィストフェレス著換ふ。)
()

1850
(ファウスト退場。)
    

鹿

()
1855
なんの箝制けんせいも受けずに、前へ前へと進んで行く
精神を運命に授けられたので、
先生慌ただしい努力のために、
下界の快楽けらくを飛び越して来たものだ。
これから己が先生を乱暴な生活、
1860


※(「厭/(餮−殄)」、第4水準2-92-73)

1865
そうなると、よしや悪魔に身を委ねていないでも、
破滅せずにはいられまいて。
一学生登場。
    学生
わたくしはこの土地へたった今参ったばかりですが、
どこで承っても御高名な
先生にお目に掛かって、お話が伺いたいと存じまして、
1870
()
    

()()

    
()
1875




    
1880
    


()

1885


    


1890



    

1895
    


    


1900

    


    

1905
()()

    


1910
最初に論理学を聴くだね。
そこで君の精神が訓錬を受けて、
スパニアの長靴で腓腸ふくらはぎを締め附けられたように、
思慮の道を
改めてゆっくり歩くようになるのだ。
1915

()()

()()()
()()()
1920
一、二、三と秩序を経て遣るようにする。
一体思想の工場こうば
機屋の工場のようなもので、
一足踏めば千万本の糸が動いて、
は往ったり来たりする、
1925




1930



()()
1935




1940

    

    


1945
    
()()

    


()
1950
()()
()


1955


調

1960
()

()()()
    

1965


    

    

    
1970




1975
()()
()()


    
1980
()()

    


()()
1985




1990


    

    
()
1995
()



2000
    学生
どうも色々伺って先生のお暇を潰して済みませんが、
も少し御面倒を願いたいのでございます。
どうぞ医学はどんなものだと云うことについても
しっかりした御一言を承らせて下さいまし。
三年の学期は短いのに、
2005

()

    
調()
2010
(声高く。)




2015



()
2020




2025




2030

()()()


()()
2035

    

    

()()
    
2040


    

    

()()
2045
どうぞ先生の御眷顧ごけんこを蒙りましたおしるしを。
    メフィストフェレス
お易い事で。
(書きて渡す。)
    


(恭しく帖を閉ぢて退場。)
    
()()
2050
ファウスト登場。
    

    
          ()

()

    
2055
()()

調

2060
    

()調
    

()
    
()
2065



()()
2070
そこで荷が軽いだけ早くのぼれる。
新生涯の序開だ。ちょっとおよろこびを申します。


ライプチヒなるアウエルバハのあなぐら


面白げなる連中の酒宴
    

()
2075
湿()
    

鹿
    ()

    
               ()
    
2080
    



    
               
綿
    
鹿
2085

    


    

    
           ()調
(歌ふ。)
愛すべき、神聖なるロオマ帝国よ。
2090
()()
    
()
()
()()()
2095




2100
    


    
()()
    

(歌ふ。)
門の戸けよ。静けき夜はに。
2105
()()()()()

    
()()

()
2110
()
()
()()()
()
2115


()()
    
西西
()()
2120



西調
2125
(歌ふ。)

()()


2130
()

    ()()

    

2135
()()



2140
    

    


()()
2145

()

    

    
2150

()()
    
()()
    
禿
2155
病み腫れた鼠の姿が
丁度先生そっくりだ。
ファウスト、メフィストフェレス登場。
    メフィストフェレス
極面白がっている連中を
何よりさきにお目に掛けよう。これを御覧になると、
世間がどの位気楽に渡れると云うことがお分かりになる。
2160


()()()U+20F2B150-19
()
()U+8CD2151-2
2165


    


2170
    


    

    

()
2175

()()

    

    

    
          ()
2180
    

()()()
    

    
       
(メフィストフェレスを横より覗き、小声にて。)

    
2185

()
    

    
()
2190
    メフィストフェレス
生憎きょうは逢わずに通って来ましたよ。
この前の度にわたし共が逢って話した時、
あなた方の事をいろいろ噂をしましてね、
どなたにも宜しく申してくれと云いましたよ。
(メフィストフェレスはこのことばと共にフロッシュに会釈す。)
    

    
                 
2195
    

    



2200
    

    
()()
    

    
        ()
    

    
2205
あそこは酒と歌を本場にしている美しい国ですからね。
(歌ふ。)

()
    

2210
    




2215

殿
()()
    

2220

()
    
()()
()
2225





2230



()
()
2235



    

2240
    

    

    

    

    
2245
()
    

    


2250
    

    



2255
    
()()
    

    
                

    
()()
    
(錐を手に取り、フロッシュに。)
あなたの飲みたい酒を伺いましょう。
2260
    

    
()
    

    

2265
    メフィストフェレス
(フロッシュの坐せる辺の卓の縁に、錐にて穴を揉みつゝ。)

    

    

    
       

(メフィストフェレス錐を揉む。一人蝋の栓を作りて塞ぐ。)
どうも外国産の物を絶待に避けるわけにはいかんて。
2270
好い物が遠国に出来ることがあるからなあ。
本当のドイツ人はフランス人は好かないが、
フランスの酒なら喜んで飲むね。
    ジイベル
(メフィストフェレスの坐せる辺に近づきつゝ。)
正直を言えば僕は酸っぱい酒はきらいだ。
僕には本物の甘い奴を一杯くれ給え。
2275
    

    

()
    

2280


    

    
(穴をことごとく揉みおわり、栓をなしたる後、怪しげなる身振にて。)
「葡萄は葡萄の蔓になる。
角は山羊やぎの額に生える。
2285

()()


2290
    一同
(栓を抜けば各自の杯に所望の酒涌きて入るゆゑ。)

    
()
    
(皆反覆して飲み、さて歌ふやうに。)
()()()
()()
    
2295
    

    


    
(手づつなる飲み様をし、酒を床に飜す。※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)ほのお燃え立つ。)

    ()※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
()()
2300
(人々に。)
()()
    


    

    
2305
    

()()
    

    
         ()()
()
    
2310
    アルトマイエル
(残りたる一つの栓を抜けば、火※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)面を撲つ。)
()()
    
          

(皆々小刀の鞘を払ひて、メフィストフェレスに掛かる。)
    
()()()()
()
2315
(一同驚きて立ちをり、互に顔を見合す。)
    

    

    
           
    

()()
(ジイベルの鼻をつまむ。外の人々も互に鼻を撮み合ひて、手に/\小刀を閃す。)
    メフィストフェレス(同上の態度にて。)
「迷惑のともがら。目を覆うきんを去れ。
2320
記念せよ。魔の遊戯の奈何いかんを。」
(ファウストと共に退場。人々互に手を放す。)
    

    
      
    
            
    

    

2325
    

    

()
    

2330
僕は足が鉛にでもなったように重くてならない。
(卓の方へ向く。)

    
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
    

    
2335
    アルトマイエル
どうだい。これでは不思議と云うものがないとは云われまい。


魔女のくりや


()()

    ファウスト
己は気違染みた魔法さわぎは気に食わぬ。
この物狂おしい混雑の中で
己の体がなおると、君は受け合うのか。
己に婆あさんの指図を受けさせて、
2340
()()()



2345

    



2350
    

    
         

()()
使
2355

()
()()

2360

    



    
2365
    

調
    
()()()()

2370



調
2375
無論それも悪魔が授けた方ですが、
悪魔が自身で拵えるわけには行きません。
(獣等を見て。)

()()
(獣等に。)
お上さんは留守らしいね。
2380
    
()()


    

    
2385
    

    

    

()
(獣等に。)
おい。のろわれた人形ども。お前達に聞くのだが、
2390

    
()
    

    
(歩み寄り、メフィストフェレスに追従ついしょうす。)
どうぞすぐに旨いさいの目を出して、
わたしに儲けさせて、
2395




    
()
2400
猿も為合しあわせだろうがな。
(この間小猿等大いなるたまを弄びゐたるが、その丸を転がし出す。)
    


()()
()
2405
()()
()()()

()
()()
2410



()()
2415
    
()
    
()()

(牝猿の所に持ち行き、透かし見さす。)
さあ、篩で透かして見ろ。
もし盗坊が分かっても、
2420

    

    
鹿

2425
    メフィストフェレス
失敬な畜生だな。
    牡猿
この払子ほっすをこう持って、
その腰掛にお掛けなさい。
(メフィストフェレスを椅子に掛けさす。)
    ファウスト
(この間大鏡の前に立ちて、半ばそれに歩み近づき、また半ばそれに歩み遠ざかりゐたるが。)

姿
2430


()()

姿
2435
姿
姿

()
()
2440
    




2445
運が好くてあんなのの壻になる奴は
為合者しあわせものですね。
(ファウストは依然鏡の中の像を見ゐる。メフィストフェレスは椅子の上にてのびをし、払子を揮ひつゝ語り続く。)

()
    
(これまで種々の怪しげなる動作をなしゐたるが、この時大声にて叫び交しつゝ冠一つ持ち来て、メフィストフェレスに捧ぐ。)
お願ですから
2450
この冠を
汗と血とで著けて下さい。
(手づつなる持扱もてあつかいざまをして、冠を二つに割り、そのかけらを持ちて跳り廻る。)


2455
    

    

    

()
()
2460
    


    


()※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)穿()
    
2465
()
()()

(ファウスト、メフィストフェレスの二人を見て。)
ここには何事がある。
お前達は何者だ。
2470



()
(魔女杓子にて鍋を掻き廻し、ファウスト、メフィストフェレス、獣等に※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)ほのおを弾き掛く。獣等おそれうめく。)
    メフィストフェレス
(手に持ちたる払子を逆にして、柄にてあたりの土器、玻璃器はりきたたき立つ。)
れ。打ち破れ。
2475



()()()
2480
(魔女の憤り且つ驚きて退くを見つゝ。)
()()()



2485

()
()()
    

2490
()
    
()


()
2495

()
()()

()
2500

()()()()
    


    
2505
    

    



2510
華族のうようよいる中の己も華族の一人なのだ。
まさか己の血筋が怪しいとは云うまい。
それ、己の紋所はこれだ。
猥褻わいせつなる身振をなす。)
    ()()
()
2515
    
()
()()
    

    

2520
()
    
()()
()

2525
()()()

    


()
2530
たっぷり一杯上げてくれ。


()


    

鹿()()
()()
()()()
2535
    



()()
(ファウストを強ひて圏の中に入らしむ。)
    魔女
(大袈裟なるこれ見よかしの表情にて、書の中より朗読し始む。)
「汝すべからくすべし。
2540
()

()()

2545




2550


    

    

調
2555




2560
()
()()
()()
鹿
()
2565

    



2570

()
    

()
鹿
2575
()
    
()()()


2580
この人はこれまでにもいろんな薬を飲んで見て、
大ぶ位の附いている人だから。
(魔女複雑なる作法をなして薬を杯に注ぐ。それをファウスト受けて唇に当つるとき、軽き※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)燃え立つ。)
()
()
2585
火なんぞをこわがるのですか。
(魔女圏を解く。ファウスト脱出す。)
    

    
()
    

()
2590
    
()

    

()()
2595
()()


    

姿
2600
    
()

(聞えぬやうに。)
あの薬が這入っているから、
今にどの女でもヘレナに見える。



ファウスト登場。マルガレエテ通り過ぐ。
    ファウスト
もし、美しいお嬢さん。不躾ですが、この肘を
2605
()
    


(振り放して退場。)
    ファウスト
途方もないい女だ。
これまであんなのは見たことがない。
2610
あんなに行儀が好くておとなしくて、
そのくせ少しはつんけんもしている。
あの赤い唇や頬のかがやきを、
己は生涯忘れることが出来まい。
あの伏目になった様子が
2615
己の胸に刻み込まれてしまった。
それからあの手短に撥ね附けた処が、
溜まらなく嬉しいのだ。
(メフィストフェレス登場。)

    
2620
    
      
    

()()


2625

    

    


2630
()

    

()()
2635
あの旨そうな若々しい肌に
今宵己の手が触れることが出来なかったら、
夜なかまで待たずに君とおわかれにするよ。
    メフィストフェレス
しかし出来る事と出来ない事とは考えて下さい。
探偵して機会を捕えるまでに、
2640

    



    
2645


()

2650
()

    
()
    
()()()
2655
()

()
    

2660
()
()()
    
()

2665

    

    
                   


()
2670
()
    

    
             
    

    
()
2675

調退




小さき清げなる室。
マルガレエテ辮髪べんぱつを編み結びなどしつゝ。
    マルガレエテ
きょうのおかたがどなただか知れるなら、
何かかわりに出してもいと思うわ。
大そうはきはきしたお方のようだったこと。
2680
()()

退
メフィストフェレス、ファウスト登場。
    

    
2685
    
退
    

()()()
()
()
2690




(寝台の傍の鞣革なめしがわの椅子に身をす。)
この椅子はあれがまだ生れぬ世を、よろこびにつけかなしみにつけ、
2695
()



()
2700

()
()

()()
2705
()



(手にて寝台の帷の一ひらをかかぐ。)
      まあ、なんと云うぞっとする嬉しさが襲うだろう。
己はたっぷり何時間もここに立ちもとおっていたい。
2710

使

()()
2715
()()姿()()




()
2720

()()()
()()()

()

2725


()()()
メフィストフェレス登場。
    

    
2730
    


()()
()()
2735


    

    
                  
()
2740
結構な暇を潰すことをおよしになり、
わたしにもこれからさきの骨折を免じてお貰申したい。
まさかあなたはけちなのではありますまいね。
あの可哀らしい小娘を
あなたの胸のおのぞみどおりになびかせようとしている
2745
わたしに、頭を掻かせたり、手を摩らせたりするのですか。
(小箱を箪笥に入れ、じょうを卸す。)



2750

退
マルガレエテ燈をりて登場。
    マルガレエテ
なんだかここは鬱陶しくて、むっとするようだこと。
(窓を開く。)
そのくせそとはそんなに暑くもないのに。
わたしなんだか分からないが、変な心持がするわ。
2755
()()
()()
鹿
(著物を脱ぎつゝ歌ひ始む。)
「昔ツウレに王ありき。
ちかいかえせぬ君にとて、
2760
いも黄金こがねの杯を
遺してひとりみまかりぬ。

こよなき宝の杯を
しけりうたげの度毎に。
この杯ゆ飲む酒は
2765



()
()()
()
2770

()

()()()()
()()

()
2775
盛れる杯飲み干して、
その杯を立ちながら
海にぞ王は投げてける。

落ちて傾き、沈み行く
杯を見てうつむきぬ。
2780
王は宴の果てゝより
飲まずなりにき雫だに。」
(著物を納めんと、箪笥を開き、小箱を見る。)

()
2785
()


()
()
2790




2795
(装飾品を身に附けて鏡に向ふ。)
()



2800



()()




ファウスト物を思ひつゝあちこち歩みゐる。そこへメフィストフェレス来掛る。
    メフィストフェレス
ええ。食っただけの肘鉄砲とでも云おうか。地獄の
2805

    


    

2810
    
()()()

    


2815




2820
()
()

()
2825

()


2830


()()
()()
()
2835




2840
    ファウスト
それは天下通用の遣方だ。
猶太ユダヤ人も王様にも出来る。
    メフィストフェレス
坊主は腕輪や指輪や鎖なんぞを、
三文もしない物のように引っ手繰って、
胡桃くるみを籠に一つ貰った程の
2845

()
()()
    

    
          
2850
()()

    


2855
    

    



2860
    メフィストフェレス
へえへえ。お易い御用でございます。
(ファウスト退場。)


退




マルテ一人登場しゐる。
    マルテ
まあ、内の檀那さんに罰があたらねばいが。
2865

()

()
()()
2870
(泣く。)


マルガレエテ登場。
    

    
    
    

()()
2875



    
()
()()
2880
    

    
()()
    


    
2885
()



2890
()
()
    


(戸をたたく音。)
2895
    
()()()
メフィストフェレス登場。
    メフィストフェレス
失礼ですが、ずんずん這入ってまいりました。
どうぞ御免なさって下さいまし。
(マルガレエテに敬意を表してしりぞく。)
マルテ・シュウェルトラインさんにお目に掛かりたいのですが。
    マルテ
マルテはわたくしでございます。なんの御用で。
2900
    
()



    
()
2905

    

()

    
2910

()()
    

    

2915

    


    

    
2920
    


    
()()
    
宿()
    
2925


()()
    

    
2930

()()
    
()
()()
()
2935
()()
    



()()()
2940
    

()()
    
()()()
()
    
2945
    
()()()()
()
()()
    

    
()
2950
    

    
                


()()
()
2955


()
    
()
    
2960
    
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
    

()()

2965


    
()()

    
()
2970

()


()
2975
()()


    

    
西
2980

()


    
2985


    
()

2990

    



()()
2995
()
()()()
    
()

3000


    

    

()()
3005
(マルガレエテに。)

    

    
           
(声高く。)

    
            
    
                 
宿
3010
()()
()
    


()
3015


    
             
    

()
3020
    

    

    






ファウストとメフィストフェレスと登場。
    
3025
    


()()
()()()()
3030
    

    
   
    

    
()()
()()
3035
    
()
    


    

    
()()()
3040

()()


()
3045




    
()※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)()
3050
    


()

    

    
             
3055

()

    
()
()
3060
なんとか名づけようとして、ことばが見附からないで、
そこで心の及ぶ限、宇宙の間を捜し廻った挙句に、
最上級の詞をつかまえて、
己の体を焚くような情の火を、
無窮極だ、無辺際だ、永遠だと云ったと云って、
3065
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
    

    
             
()

()
3070
()()()
()()




マルガレエテはファウストの肘に手を掛け、マルテはメフィストフェレスに伴はれて、園内を往反す。
    マルガレエテ
あなたわたくしをおいたわりになって、ばつを合せて
いらっしゃるかと存じますと、お恥かしゅうございますの。
旅をなさるお方のお癖で、詰まらない事をも
3075
()()

()
    

3080
(女の手に接吻す。)
    


()()
()
(行き過ぐ。)
    マルテ
そしてあなたはこれからも旅ばかりなさいますの。
3085
    


()()
    

3090
()
()()

    

    
()
3095
(行き過ぐ。)
    
()


()
    
()()
3100
()()
    
           
    



()()
3105
    
()
()
    

    

3110

()()


3115




3120




    
              使
    
3125
()
()
()

3130




3135
    ファウスト
あなたはきっと人生の最清い幸福を味ったのです。
    マルガレエテ
それでも随分つらい時もございましたわ。
夜になりますと、赤さんの寝台を
わたくしの寝台の傍に置いて、ちょいと動くと
目が醒めるようにいたして置きましたの。
3140

()


3145
()()

()
(行き過ぐ。)
    マルテ
女は本当にどうしていか分かりません。
一人が好いと仰ゃる方は手の附けようがないのですもの。
3150
    

()
    

()
    
()
3155
()
    

    

    

    
3160
    

    
                

(行き過ぐ。)
    ファウスト
わたしだと云うことが、庭へ這入った時
すぐに分かりましたか。
    マルガレエテ
わたくしの俯目になったのがお分かりにならなくって。
3165
    
()


    

3170

()()

()
()
3175

()
()
    

    
        
(アステルの花を摘み、弁を一枚一枚むしる。)
    
                   
    

    
         
    
          ()()
3180
(マルガレエテ弁をむしりつゝつぶやく。)
    

    
        ()()
    

    

(最後の弁をむしりて、さも喜ばしげに。)

    
    ()
()()()
3185
お前分るかい。男に好かれていると云う意味が。
(ファウスト娘の両手を把る。)
    

    


3190

()


(マルガレエテ手を強く締めて、さて振り放し、走り去る。ファウスト立ち止まりて思案すること暫くにして、跡に附き行く。)
    

    
        
3195
    マルテ
も少しおとめ申したいのですが、
何分人気の悪い土地で、
近所のもののする事なす事を見張っているより外、
誰一人自分の用事は
ないかとさえ思われるのでございます。ですからどんなに
3200


    
      

    
              
    




()()

マルガレエテ飛び込み、扉の背後にかくれ、右の示指の尖を脣に当て、隙間より外を窺ふ。
    マルガレエテ
いらしった。
ファウスト登場。
    ファウスト
     横着ものだね。わたしを揶揄からかうなんて。
3205
そらつかまえたぞ。(接吻す。)
    マルガレエテ
(抱き着き、接吻し返す。)
       あなた。しんから可哀くてよ。
メフィストフェレス戸をたたく。
    

    
  ()
    
      
    
        ()()
マルテ登場。
    

    
          
    
()
    
              

    
       
    
            
3210
(ファウスト、メフィストフェレス退場。)




鹿
3215
わたしのどこがお気に入るのかしら。(退場。)


森と洞


ファウスト一人。
    

※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
()()
3220

※(「目+爭」、第3水準1-88-85)


()
3225


()()

()
3230
()()



()
3235
()
湿()()
()()

3240

()
()()

()
3245
()()
姿


()
3250
メフィストフェレス登場。
    




    
3255

    



3260

()()

    
調
退()()
3265
    メフィストフェレス
わたしがいなかったら、あなたのような
この世界の人間はどんな生活をしたのですか。
人間の想像のしどろもどろを
わたしが当分起らぬようにして上げた。
それにわたしがいなかったら、あなたはもう
3270
()
()()

()
()()()
3275


    


3280

    


()
3285
推思の努力で大地の髄を掻きり、
六日の神業かみわざを自分の胸に体験し、
おごる力を感じつつ、何やら知らぬ物を味い、
時としてはまた溢れる愛を万物に及ぼし、
下界の人の子たる処が消えて無くなって、
3290
そこでその高尚な、理窟を離れた観察の尻を、
一寸口では申し兼ねるが、
猥褻わいせつなる身振。)
           
    

    
        
()
3295




()
3300

()


3305

()()
()()

3310



()
3315



()
()
3320



    

    
3325
    




    
3330

    



()
3335
    

鹿※(「孑+子」、第3水準1-47-54)
    

    
             ()()

()()
3340
()()
()()

()()
    
3345


宿
()
()()()
3350
()()()



3355



()
3360




()()
3365
    

()()鹿


3370
あなたなんぞはもう大ぶ悪魔じみて来ていなさる。
絶望のために狼狽している悪魔程
不似合なものは、先ず世界にありますまいぜ。


マルガレエテの部屋


マルガレエテ一人※(「糸+樔のつくり」、第4水準2-84-55)いとぐるまの傍に坐しゐる。
    マルガレエテ
心の落著おちつき無くなりて、
胸苦しくぞなりにける。
3375




()()
()()
3380



()


3385






3390
()
()



姿
3395




()()
3400
()()





3405



()


3410
口附くちづけしまつらばや。
よしやわが身は彼人に
口附せられて消えぬとも。


マルテの家の園


マルガレエテとファウスト登場。
    
()
    
                
    
3415


    


3420
    

    

    
            ()
()
    

    
     ()
()()
3425

    
          




    
               
3430
    
()
()()


3435



()
3440




()
3445




3450




3455

()

    

3460
()
    



3465
    
()()


    

    
     
()
3470
    

    
    ()
()()


3475
    

    



3480


    

    
()
3485
鹿

()

3490
()
()
()
    
()
    
3495


()

3500
    
()
    

    
            


    
3505

()
()

    
()()
3510
()


    

3515
    

    

()

退
3520
メフィストフェレス登場。
    

    
              
    

()()

3525
穿()()

    


3530



    

3535
    
()()()
    


()
3540


    
         
    





水瓶を持ちたるグレエトヘン(マルガレエテ)とリイスヘンと。
    

    
3545
    



    
         
    
                 
()()
    
3550
    
()
()


3555

()()()


()
3560

    

    
      
()()
()
()
3565


()()()

    
3570
    
鹿
()

    
           
    

3575
()()()退
    


()
()()
3580




3585
まあ、あんなに好かったのに、あんなに美しかったのに。


外廓の内側に沿える巷


石垣の中に作り込めたるがんに、受苦聖母の祈願像あり。その前に花瓶。グレエトヘンそれに新なる花を挿す。
    グレエトヘン
いたみおおきマリア様
どうぞお恵深く、お顔をこちらへおむけ遊ばして、
わたくしのなやみを御覧なされて下さいまし。

お胸を刃に貫かれておいでなされ、
3590
()()
()()()

()()
()()
()()
3595

()
()

()
3600





3605
胸が裂けるかと思う程、
泣いて、泣いて、泣き通します。

さし上げまするこの花を
けさわたくしが折った時、
窓の前の植木鉢が
3610
わたくしの涙で濡れました。

わたくしの部屋の内へ
朝日が明るくさし込みます時、
わたくしはもう床の上で
悩に沈んでおりまする。

3615









グレエトヘンが家の門前の街。
グレエトヘンの同胞兵卒ワレンチン登場。
    ワレンチン
誰でも兎角自慢をしたがる
3620
酒の座鋪ざしきに己がいるとき、
友達どもが声高に
町の娘の噂をして、
その褒詞を肴にして飲んでいると、
己は気楽に据わっていて、
3625


()

3630




3635




3640
()()鹿



※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)()
3645


()

ファウストとメフィストフェレスと登場。
    ファウスト
丁度あの寺の坊主の休息所の窓から、
3650




    
()()()
3655


()()
()
3660
()


    

3665
    
()()
()


    
3670

    


    

3675
    
()()()
()


3680
あべこべに迷わせて遣るのですよ。
(キタラの伴奏にて歌ふ。)
夜の明け掛かる今時分
可哀おかたの門口で、
カタリナ、お前は
何していやる。
3685
()()
()



()
3690
済んでしまえば
おさらばよ。
気の毒な、気の毒な娘達。
自分の体が大事なら、
花盗人に
3695

()
    

()()()
3700
()()
    

    

    
()()
3705
()()
()
    

    
        
    

    
    
    
       
()
3710
    

    
   
    
           



()
3715
    

    
        ()
    
()
    

    

    

    
          ()
3720
    

    

()

3725
(一同ワレンチンを取り巻く。)



()()
3730

    
()
    
()
()()
()
3735
()()


()()
()()宿
3740
人に隠してこっそり産んで、
頭の上からすっぽりと
闇のころもかぶせてしまう。
悪くすると殺して遣りたいとさえ思うのだ。
それが育って大きくなると、
3745




()
3750
時疫じえきで死んだ死骸のように、
真面目な人が皆避けるのが、
もう己の目には見えるようだ。
人が顔をじっと見ると
お前の胸がびくびくする。
3755
()
()()


3760
()
()
()
    
()
3765
    




    
()
3770
    
()()




3775




勤行、オルガン、唱歌。
多勢の中にグレエトヘン。その背後に悪霊。
    


()()

3780
古びた本を繰りけて、もつれる舌で
讃美歌を歌った時はどうだった。
グレエトヘン。
お前の頭はどうなっている。
お前の胸に隠しているのは
3785
()()
()

※(「衄のへん+韈のつくり」、第4水準2-88-5)
3790
()


    

3795


    

 

 
(オルガンの響。)
    悪霊
おそれがお前を襲う。
3800
金笛きんてきが鳴る。
奥津城おくつきが皆震う。
そしてお前の心の臓は
灰の眠から
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)ほのおなやみ
3805
再び造り成されて、
ふるいに起つことであろう。
    グレエトヘン
わたしはここにいたくない。
あのオルガンの音がわたしの息を
詰まらせるようで、
3810


    

 

 ()()
3815
 
    

()()


3820
    

()
()

    
3825
 

 

 
    

()
3830
()()

    

    
()




ハルツ山中。シイルケ、エエレンド附近。
ファウスト、メフィストフェレス登場。
    メフィストフェレス
どうです。箒の柄どもが欲しくなりはしませんか。
3835
()()()

    
()()
()()()
3840
辿
()
()

()
3845


    


3850

()


()
3855




    
3860

()
    
()

3865
    
()

()()

3870
    
()()

()
()()
()
3875

()

()()()
()()()()

3880

()穿()

()
()
()
3885


()()()


3890

()
()
()()
()
3895


()()

()()
3900





3905

()()
()
()
()
3910

    
()

()
3915
    




3920
()

()()

()
3925
()

()
()
3930

    
()()
殿
()()
3935
    

()
    
()

3940
()
()
()殿

3945
幹はどうどうと大きい音をさせる。
根はぎゅうぎゅうごうごう云う。
上を下へとこんがらかって、かさなり合って、
みんな折れて倒れるのです。
そしてその屍で掩われている谷の上を
3950



()
3955
    




3960
()()
    

()()
    

()()
3965

()
    

    
            


    
           鹿
3970

    

()
    

()
3975
()()()
()()
    
()()()()

()()
3980
()
    

()()

()()
3985
    

    
()

()
    
3990

()()

    

    
3995
    


()

    
4000



    

()
4005


    
()()
()()
()
4010

    



4015
(皆々降りていこふ。)
    




4020

    
    
    
       
()


()()
4025




    
()()()()()
4030



    

4035

    
()


4040
    




4045


()()

()
4050
()
()()


()
4055



()
    
4060
使
    
()
()
()()()
4065
()()



()()
4070
わたしが媒で、あなたが壻さんだ。
(消え掛かる炭火を囲める数人に。)
()


4075
    



()()
    
輿
4080



    

4085


    


()()
4090
先ず古来無かっただろうと思いますね。
    メフィストフェレス
たちまち老いさらぼひたる姿に見ゆ。)

()

()()
4095
    
()()
()


4100



()()
4105

()

()
    
4110

()()

    

4115
    

()
    

    
       

    
      
    
         
4120



    

()()
4125
    


    
()()

()
4130

    

()()
()()
4135
    




    
()
4140



    ()()()()
()
4145
()
()()()
    
()
    

()()()
4150
()()()

()

4155


    
()
()()()
4160
()


    

    
4165


(踊る人に押し除けらる。)
この様子ではきょう己は成功しないな。
兎に角一旅行ひとりょこうだけは持ち廻って見て、
己が最後の一歩をするまでには、悪魔も
4170
退
    
()

()
4175
(踊の群と離れたるファウストに。)


    


    
4180

()()
    

    
               
    
                   

4185
()()


    
()
4190

()


    
4195
()()


    

4200
    




4205
    




()()
4210


    
          ()
4215




4220
    メフィストフェレス
お前がたにこのブロッケンで出くわしたのは
至極好い。ここがお前がた似合にあいの土地だ。


ワルプルギスの夜の夢


一名
オベロンとチタニアとの金婚式
あいの曲)
    座長
道具かたのミイジングさんの手の人達。
きょうはあなた方はおやすみです。
古い山に湿った谷が
4225

    


()
()
4230
   



()
    
4235



    

4240
()()()

    


4245

    

()

()()()
4250
    ツツチイの演奏団
(最も強く。)
()()()
()
※(「虫+車」、第3水準1-91-55)

    
4255
()()


    
()()()()()
4260


    
()

4265
()
    



4270
    正信徒
爪もなけりゃあ、尻尾もないが、
やっぱりグレシアの神どもと同じ事で、
疑もなく
あいつも悪魔だ。
    北国の芸術家
己が今手を著けるのは
4275



    

()
4280
このおお勢の魔女の中で二人しか
ちゃんと化粧をしてはいない。
    若き魔女
おつくりをして著物を著るのは、
白髪頭の婆あさんの事よ。
わたし裸で山羊やぎの背に乗って、
4285
()
    


姿
()
4290
    


※(「虫+車」、第3水準1-91-55)

    
()()
4295
よめ入盛のかたばかりだ。
男のかたも一人々々
末頼もしい婿さんばかりだ。
(他方に向きて。)
もしこれでこの土地が口をいて、
こいつらをみんな呑み込んでしまわなけりゃあ、
4300
己は自分が駆足で
すぐ地獄へ飛び込んでも好い位だ。
    クセニエン
わたし共は小さい剪刀はさみを持った
虫になって来ています。
身分相応に悪魔のおっさんの
4305
()
    



4310
    年報ムサゲット
実は己もこの魔女どもの中へ
一しょに交ってしまいたいのだて。
こいつ等を詩の女神にして持ち出すことなら、
己にも随分出来そうだからな。
    さきの「時代精神」
驥尾きびに附すと云うことが出来れば、
4315



    

4320
嗅ぎ出されるだけの事を嗅ぎ出そうとしている。
イエズイイトの捜索でもするのだろうか。
    くろづる
わたくしは澄んだ川で釣るのがすきですが、
濁った川でも釣らないことはありません。
ですから堅固な男が悪魔に交っていても、
4325

    
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
便

4330
    




    
4335

()()

    
()
4340


    


4345

    



4350
    実相主義者
どうもこいつらの「本体」と云う奴が始末におえなくって、
己にひどい苦労を掛けやがる。
ここに来て始て己の立脚地が
ぐらついて来たぞ。
    極端自然論者
己は嬉しがってここに来ていて、
4355

()()

    

4360
()()

    
()()※(「虫+車」、第3水準1-91-55)()()
()
4365
お前達は兎に角楽人だ。
    敏捷なる人等
快活な我輩どもの組は
「莫愁会」と云ってね、
もう腰が立たなくなったから、
頭で歩いて行くのです。
4370
    
()



    
4375



    ()()

4380


    
()
()


    


()

    


()

    
(極めて微かに。)
()()
()()

()()




野原。
ファウスト。メフィストフェレス。
    
()()()()()()()()()()()()
    

    
()()()()()()()()()()()
    
()()()
    
()姿()()()
    

    
()()()
    
()
(ファウスト眼球を旋転せしめ、四辺を見廻はす。)
()()()()()()()
    

    
()
    
()()()
    
()()()
    





豁開かっかいせる野。
ファウストとメフィストフェレスと黒き馬に乗り、疾駆しつゝ登場。
    ファウスト
あいつらはあの処刑場しおきば円壟まるづかで何をするのだ。
    メフィストフェレス
何をるやら、りょうるやら、わたしも知らない。
4400
    
()
    

    
()
    





ファウスト手に一束の鍵とランプとを持ちて鉄の扉の前に立ちゐる。
    ファウスト
もう久しく忘れていたふるいが己を襲って来る。
4405

湿


4410
遣れ。貴様の躊躇は女の死を促す躊躇だ。
(ファウスト鎖鑰さやくに手を下す。)
    

()
()
()
4415
()()()
()


4420
    
()()

(進み入る。)
    

    

    
(ファウストの前にまろがり寄る。)
お前さんも人間なら、どうぞ難儀を察して下さい。
4425
    ファウスト
そんなに大声をしては、番人が目を醒ますじゃないか。
(女の鎖鑰を開かんとす。)
    ()



4430
あすの朝だって遅くはないではございませんか。
(立ち上がる。)



()
4435

()
()

()()
4440
    

    

()

4445




()
4450
    
()

    


4455




    
4460
    
()
(跳り上がる。鎖落つ。)
()
()

4465
()()

()()

    

    
   
4470




4475

()

    

    
            ()
4480
(あまえゐる。)
    



    
()
4485
()
()


()()
4490
キスをして下さいよう。
なさらなけりゃ、わたくしがいたしますわ。
(抱き附く。)


()
4495
しまいましたの。
わたし誰に取られてしまったのだろ。
(背を向く。)
    


4500
    ()

    

    
       
()

4505
    

    
()


4510


()

4515


    


    
4520
わたくしお墓を立てる所をそう申して置きましょうね。
あしたすぐ
行って見て下さいましな。
あ様のを一番とこへ立てて、
兄いさんのを傍へ引っ附けて立てて、
4525


()

4530



()()
4535
    

    

    

    
      

4540
()()

    

    

()()
4545




    
4550
    

()


4555
森の中へお這入はいりなさると、
あの左側のさくってある所の
池の中でございます。
どうぞすぐお攫まえなすって。
浮き上がろうといたして
4560

()
    


    
4565




()
4570
()


    

4575
    
()
()

    

    
4580




4585


()()

4590

()()()
()

4595
    ファウスト
ああ。己は生れて来なければ好かった。
メフィストフェレス戸の外に現る。
    



4600
    
()

()()

    
        
    
4605
    

    
()()
()使

4610
    
()()
    ()
      ()

        
(ファウストと共に退場。)
    声
(内より、遠く消え去らんとする如く聞ゆ。)
ハインリヒさん。ハインリヒさん。
[#改丁]

[#ページの左右中央]


悲壮戯曲の第二部



[#改ページ]

第一幕



風致ある土地


ファウスト草花咲ける野に横りて、疲れ果て、不安らしく、眠を求めゐる。
黄昏時たそがれどき
精霊の一群、空に漂ひて動けり。優しき、小さき形のものどもなり。
    アリエル
(歌。アイオルスの箏の伴奏にて。)
「雨のごと散る春の花
人皆のこうべの上に閃き落ち、
田畑の緑なるめぐみ青人草に
4615

()
()
()
4620
()



()
4625
()()()()


()
4630
引きつてゐた手足のあがきが好くなるだらう。
さうしてあれを神聖な光の中へ返して遣つて、
エルフの義務の中の一番美しい義務を尽せ。
    合唱する群
(或は一人々々、或は二人づつもしくは数人づつ、或は交互に入り変り、或は寄り集ひて。)
あたゝけき風のそよぎ
緑に囲はれたる野に満てるとき、
4635
黄昏たそがれは甘き香を
霧のころもり来させ、
楽しき平和を低く囁き、穉子おさなご
寐さするごとく心をりて眠らしむ。
かくて疲れたる人の目の前に
4640


()


4645
()
()
()()()


4650
()
()()


()()
4655
()()
()()

()

4660
()()
()()

()
4665
    



()
()
4670

()()


()()
4675
()()
()()()
()
    
※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)()()()
4680
()
()


4685
()()
()()
()
()穿()
4690





()()
4695




4700

()()
()


4705
()

※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)()
()()
4710
()()
()()()
()


()
4715


()
()()
4720

姿

※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)()()
4725
あれを見て考えたら、前よりは好く分かるだろう。
人生は彩られた影の上にある。


ファルツの帝都


()()()
    帝
遠くからも近くからも寄って来た、
忠実な皆のものに己は挨拶をいたす。
そこで賢者は己の傍に来ているが、
4730

    
()殿()
()()()()

4735
    

()


4740
()
鹿
    
(玉座の前にひざまずきつゝ。)
()

4745

殿()()


()
4750
    
()()()()()

()()

4755
お前そいつのかわりになって、己の傍にいてくれい。
(メフィストフェレス階段を登りて左に侍立す。)
    


()
※(「木+(朮−丶)」、第4水準2-14-36)
4760
    


()()
()
4765
()
()()


4770

    
()()
殿
殿
4775

殿


4780

殿()()
()()

4785




()
4790
そこで原告が押し合って裁判所に出て見ると、
判事はただ厚い布団の上に息張いばっている。
そとには次第に殖える一揆の群集が
怒濤のように寄せては返しているのに。
身方の連累者の申立もうしたてを土台にして、
4795

()()


4800
民を正道に導くただ一つの誠が
どうしてここに発展して参りましょう。
しまいには正直な人が
侫人ねいじんに、贈賄者になって、
賞罰を明にすることの出来ない
4805
裁判官は犯罪者の群に入ります。
これでは余り黒くかいた画のようでござりますが、
実はもっと厚い幕で隠したかったのでござります。
。)
いずれ断然たる御処置がなくてはなりますまい。
民が皆やぶそこない、皆いたみ悩んでいましたら、
4810
()()
    
()

()
()()
4815




()()
4820




4825
()
()


4830
    
()()



4835

()()

()
4840




4845
()()


()()
4850
()()()()
    


()
4855

鹿()鹿()()()
()
()()()()
4860

()()()

()()()
()()
4865
()

()()

()()()()
4870


()
()
()()()()
4875
    帝
(暫く考へて、メフィストフェレスに。)

    
殿


4880
()
()()


    
4885



    

4890
()

()

4895

    



4900


殿
()()
4905

()()
()
()
4910
使



()
4915

    
()
()

()()()※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
4920
()

    


()
4925
()
    

()()
()
4930
()()()



4935


殿殿()
    

殿
4940
    


    
()
殿
    
4945

    
()

()()
4950
    


()

    
(メフィストフェレスせりふを附く。博士語る。)
一体日そのものは純金でございます。
4955
使



()
4960


()()()

4965


殿()

4970
    


    
()()

4975
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
    



使
4980
()
()



4985
()



4990


    

()
4995



    

※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
5000
()
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)

()()
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
5005
    




()()()
5010



()窿()
5015



()
5020

使


()
5025



()
5030


    


()
5035


()
    
()
()
5040
()


()()()
()
5045
()
    

    


5050
()
()()


5055
()
    


()
5060
(喇叭、退場。)
    

鹿





()



    
5065

()
殿

()
5070

殿()()
()

()
5075



()()
5080




5085
百千の馬鹿げた事を包んでいるこの世界は
一人ひとりの大きな馬鹿ものに相違ありませぬ。
    庭作の女等
(マンドラの伴奏にて歌ふ。)
われ等若きフィレンチェの女等おみならは、
君達に愛ではやされむと、
今宵皆粧ひて、ドイツの宮居の
5090


()()

()

5095

()


※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)

()()
5100




()()
5105
()()

    


()
5110




()
5115
    
()

()
()
    
5120




()
5125

()
    
()

5130

    
()
()

5135
    




5140


()
    

()
5145

姿()
()()()()()()
()

    
            
5150
()()()()


()()()
()
5155
花の国では一様に
目をも胸をも魂をも支配するのでございます。
(仮屋の屋根の下なる緑の道にて、庭作の女等美しく品物を飾り立つ。)
    庭作等
(テオルベの伴奏にて歌ふ。)


()()
5160


()()()
()()
※(「月+咢」、第3水準1-90-51)
()
5165


()()()()
()()
()

5170

()



5175






母と娘と。
    母
嬢や。お前が生れた時ね、
帽子を被せて遣りましたが、
顔はほんとに可哀くて
5180
体はほんとにきゃしゃでしたよ。
その時もうお婿さんがまったように、
大したお金のある内へ行くことになったように、
もうおよめさんになったように思いましたよ。

それにもう何年か
5185
無駄に過ぎましたね。
もらいになりそうな、いろいろな方々が
ずんずん通り過ぎておしまいなさった。
あるお方とはすばしこくおおどりだったし、
あるお方には目立たない相図を
5190


()

()
5195
きょうは皆さんが阿房になっておいでになるから、
お前襟をけていて御覧。どなたか
取止とりとめ申すことが出来るかも知れぬからね。

竿()竿()


    樵者
粗笨そほんに、躁急に登場。)
()
5200




5205
これだけは御合点を願いたい。
荒っぽい奴も
土地で働かんでは、
どんなに智慧を出したって、
上品な人ばっかりが
5210




    
(手づつに、ほとんどをさなく。)
あなた方は馬鹿だ。
5215


()()

()()()
5220
身軽な支度だ。
わたしどもは気持好く、
いつもなまけて、
上沓ばきで、
市場へも人込へも
5225




5230



()
5235
御尤ごもっともだと申します。
    寄生虫
へつらふ如く、物欲しげに。)
お前方、元気な、真木まき背負しょった男や、
御親類の
炭焼の男は
こっちの用に立つ人達だ。
5240
全体腰を曲げたり、
竪にかぶりを振ったり、
紆余曲折の文句を言ったり、
人の感じよう次第で
暖めもましもする
5245
二重の息をき掛けたりする
こんな面倒がなんになると思う。
それは天からだって
大した火が
来ることもあるだろうが、
5250
()



()
5255
()

()

5260
そこでお出入先の食卓で
手柄をする気が出て来るのだ。
    酔人
(正気を失ひゐる。)
どうぞきょう己達にあらがってくれるな。
なんだか自由自在な心持がしているのだ。
涼しい風や気の晴れる歌も
5265


()
()()()
()
5270



()()

5275
()
()
()

()()
()
5280




()()()
5285





5290
    


()


()


    諷刺
こころより詩人わが
5295
喜ばむことを君知るや。
一人だに聞くことを
願はぬ詞を歌はしめよ。
()()使()()()()
なさけの三女神グラチエ。
    はえの神アグライア
人の世に優しさをわれはもたらす。
優しさを物贈る手に籠め給へ。
5300
    

※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)
    ()
()
()
運命の三女神パルチェエ
    くべからざる神アトロポス
もとも老いたるわれ、こたび
5305





()
5310
()
()()

()

5315

    
()()
()()
()()

5320


()

()()()

5325


()


()
5330
ゆるされたる日汝達は
戯れ遊べ、いつまでも。
    糸分くる女ラヘシス
心得て過たぬわれひとり
筋々のついでするわざを守れり。
つねに醒めたるわれならば、
5335
()

※(「竹かんむり/瞿/又」、第4水準2-83-82)

()
()
5340

()()


()()()
    
5345




()()※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)()
5350

()



使
5355
都や鄙の厄介ものと名告なのって出ています。
怒の三女神フリエユ。
    


()()()
()
5360



()()鹿
()()

5365



    

5370
()()()




5375



()

5380
    
()()()
調()()



()()
5385
()()

()

()()
()
5390
()()()

    

()
()
5395
()


()
使
5400

()()()()
()

5405
()
    ()
()()()

姿

5410

退()


()

5415
()()




5420
()
()()
    ()
()()

姿
5425
あすは必ず仮のよそい
解き給はん。
松の火の照らす下は、
わきて楽しとおもはねど、
晴やかなる日の昼に、
5430
おのがじし心のまにま、
あるはひとり、あるは打ち群れて、
美しき野をそゞろありきし、
せまほしき事して、疲れて憩ひ、
憂を知らで日をくらし、
5435



()
5440
    

()()

()

5445
()
()



5450
いづ方へも向きて、
さちを授け給へり。

女神の身のめぐりには光ありて、
遠く四方よもを照せり。
人の世のあらゆるわざの女神として、
5455

    
()


5460
()()
()


5465


()

5470
    
()
()
()

()
5475

()

()()()
()()
5480



    

5485

()()


5490

()

    

5495




()
5500


()

5505

()


5510




5515



()

    ()()
         ()
5520

※(「革+橿のつくり」、第3水準1-93-81)
()

5525



()
5530


    


    

    
           
5535




5540
    

()
    


()
5545




5550

    


    
()
5555
()()()

()
()
    
5560

    


()
5565

()

    

()()()
5570
()()
    

    

()
5575

()


    
5580

    

()()

(指を弾くことを停めず。)
さあ、お取なさい。金の耳飾に頸飾だ。
5585
()
()


    
5590




5595




5600

()()
()

()
5605
    

()
()()

5610
さて、王様、わたくしはあなたに伺います。
(プルツスに向きて。)

()

5615

()()


5620

    



5625




    
5630




()退()
5635

()


    
5640

()()

()()
5645
    


()

5650

()()()()


5655
()()
()


5660



()()
5665
    ()

()


    
()()
5670
()()()
()

退
    
西
5675


()()

5680
竜奴、おこってぱくつかせおる。
人は皆逃げてしまって、場はきました。
(プルツス車を下る。)
()

5685
()


    

5690




5695

    
()()使()


5700



()()
5705


()
    
()
殿()
5710
()()()()
()()


    
5715

()()


5720


()

5725

    
鹿


()
5730


鹿

5735
()()
()()

    

5740
()



5745


    ()※(「二点しんにょう+鰥のつくり」、第4水準2-89-93)


()()
5750



退退
退退
5755

    
()
()()()

5760
()

    

()
    
5765

    
()


5770
()※(「金+肅」、第3水準1-93-39)



5775

()
()()()

5780
()()
湿
    

()
()()
5785




5790




5795

    

鹿
()()()
5800
    ※(「二点しんにょう+鰥のつくり」、第4水準2-89-93)

()


5805

    



5810




    
()()
5815
()
()()

    

5820
※(「糸+求」、第4水準2-84-28)
※(「木+解」、第3水準1-86-22)()


()
5825
()


    

()()()
5830
()
()
()
()
()()
5835

()()()
()

    
5840
()
()()()
()
()
()()
5845



()()()()
()()()
()()
5850

()
()()()

5855


()()
()
()
5860

()

    
()()
5865


()()
()()
()()()
5870
法王のもとにはあらぬまもりつわものなり。
    群なせる水の女
(パンの神を囲繞いにょうす。)
君も今来ませるよ。
大いなるパンの神は
世界の万有に
かたどれる御姿みすがたなり。
5875
()

()()()
()
()窿()()
5880

()()


()()()()
5885
すこやかなる草木の芳しき香は
声もなく静かなる空に満ちたり。
その時は水の女もまめやかにあるべきならねば、
たま/\立てりし所にぞる。
さてゆくりなく、君が御声みこえ
5890
()()

()()
()()
()()
5895
されば敬ひまつらばや、敬ふべきこの神を、
われ等をこゝへて来ませるこの神を。
    土の神等の代表者
(パンの神の許へ遣されたるもの。)
かのかがやける豊かなる宝は、
糸引けるごと岩間に流れひろごりて、
たゞ宝を起す奇しき杖にのみ
5900


()()



5905






()
5910
()()


    

()
5915


※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)

    
(富の神の猶手に持ちたる杖を握りて。)
一寸坊どもがパンの神様をそろそろと
5920



()
()
5925




5930

()


5935



※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
5940
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)



5945

()()


5950

()

()()
5955

()
()

()
5960



※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)

5965




    
()
5970



()
※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)()
5975



()()
()
5980

湿
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)

5985
魔法がしるしを見せなくてはならんのだ。


遊苑


朝日。
帝と殿上人等とあり。ファウスト、メフィストフェレス上品にして目立たざる時様じようの粧をなし、二人皆ひざまずけり。
    ファウスト
そんならあの率爾そつじな火の戯を御勘弁下さいますか。
    帝
(二人をさしまねいて起立せしむ。)
ああ云う笑談は己は大好だいすきだ。
突然※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)かえんの真ん中にいるようになったから、
己は地獄の神のプルトンにでもなったかと思った。
5990

※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)


5995



()
6000


    

()
6005

()
()
()()()()
6010
殿()
殿


6015
()
()
()※(「月+咢」、第3水準1-90-51)()
殿
6020
()
殿


()()
6025


    

()()
    
()
6030
    

()()


6035

    
()


6040


()

    
6045

()
()()
    
()()
6050
()
    ()
()()()
    
()
    

6055
この大切な文書もんじょをおきき下さい、御覧下さい。
(朗読。)



6060


    
()

6065
    
()



6070
()



6075




()
6080

()()
    
()

6085
    


()()()

6090


()
()()
6095
()
    

鹿

6100
使
()
()()()

便
6105
()()()



6110
    



()()
6115



    
()
便
6120



()
6125




6130
    



()
6135

()


6140
    大府卿
この人達とわたくしは少しも喧嘩はしますまい。
魔法使を同役にするのは大好だいすきでございます。
(ファウストと共に退場。)
    
殿
使
    
()()
6145
    

    

    
()
    

    
6150
    


()
()()()()
    
6155
    

    

    
使
    

    
()
6160
(退場。)
    

    

    

    

    
()
6165
    

    

    

    
()()
    
                  
殿
6170
    
退
    





ファウスト。メフィストフェレス。
    メフィストフェレス
なぜこんな暗い廊下へ連れて来るのですか。
あの中で面白い事が足りないのですか。
いろんな人の押し合っている御殿の中で、
6175

    

()

6180
己はしかしいやな事でもしなくてはならない。
大府卿と主殿とで己をせつくのだ。
なんでもお上が、ヘレネとパリスとを目の前に
出して見せろ、すぐでなくてはならない、
男と女との模範をはっきり
6185


    

    

6190

()()
    


6195



()()
6200


    


6205



    

6210
()
    
         
    



6215

    
        
    
           
    

    


()
6220

    

    
       


()()
6225
()

    
()

※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)
6230




()
6235



    

6240
()
()()
穿()

6245

()()
()
    

6250




6255
()
    
()

()
    
           
    
鹿()
6260
    

    



    
6265
()
    


()
6270
    




    
()()
6275
()
()

()()()
()()
6280
    

()()
    


6285

()()()
()()

()
6290
随分あぶない事ですが、腹を据えてずっと
五徳の所へ往って、その鍵で五徳に障って
御覧なさい。
(ファウスト鍵を持ちて厳かに命ずる如きしぐさをなす。メフィストフェレスそれを見て。)
     

()
6295

()


6300
()

    

    
           ()

(ファウスト足踏して降り行く。)
鍵が旨く先生の用に立ってくれればいが。
6305
この世へ戻って来られるか知らんて。


燈明き数々の広間


帝、諸侯、殿上人等動揺せり。
    

()殿
   
殿
6310
    




6315

    


    

6320

()

    
    
()
()()
6325

()()()

    

6330

()()
    

    

    
6335


()
    
()

    
       
6340
()

    

()
()
6345
()
    
()

()()
()
6350




    

    
         
6355

()

    
()
    
6360
(舎人に。)
それは余り年の行かないのに掛かっては駄目だ。
年増としまだと、君のようなのを珍重がるね。
(他の人々寄り集る。)
()()

()
6365
ああ。母達、母達。ファウストを返して貰いたいなあ。
(見廻す。)
()
殿

殿
6370


()()
()
()()
6375
化物どもがひとりでに出て来そうだ。


騎士の広間


燈の薄明。
帝と殿上人等と入り籠みあり。
    


()
6380

殿


殿()
6385




6390
(金笛。)
    
殿
()


6395

()

    
(黒ん坊のゐる穴より現る。)
ここで己は御贔屓ごひいきにあずかるつもりだ。
吹き込んで物を言わせるのが悪魔の談話術だ。
6400
(天文博士に。)


    

殿
※(「敬/手」、第3水準1-84-92)
6405



    

6410

()
()()()()
()()
    
()()()
6415
()()()()


()
6420
(反対側の舞台脇よりファウスト登場。)
    



()※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)()
()()
6425
()
    

()
()
()()()()
6430
()()()()()


()()窿()
()
6435


()
    

()
6440
()



6445

()()
殿
()調()()()
6450
()

(パリス登場。)
    

    

    
()U+811D465-11
6455
    
()
    

    
()()()()
    

6460
    


    
()
    

    
6465
    

    
殿
    
殿
    
()()()
    
6470
    
()
    

    


    
6475
※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)ですわ。
    最も年長けたる貴夫人
    あれは体の盛になっている※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)で、
それが醸されて不老不死の名香になって、
まわりへ一面に広がるのですよ。
(ヘレネ登場)
    

6480
    




()
6485
()()
    



()
6490



()
6495




6500
    

    
()
    

    
()()
6505
    殿

    

    
()()
    

    
()
6510

()()
    
()()
    
()
    
         
()
6515
    殿
()()退
    

    殿

    

    殿
6520
    

鹿

    

    
()
6525
    

    殿
()
    


    
()
6530
    

()()
    

()()
6535
()



6540
    




    
            ()()
6545
    

    


    

6550



()()()
6555




    
6560
()姿


(爆発。ファウスト地に倒る。男女の鬼物霧になりてゆ。)
    メフィストフェレス
(ファウストを肩に掛く。)
お前方の自業自得だ。馬鹿者共を背負しょい込むと、
悪魔でも損をせずにはいられない。
6565
(闇黒。※(「二点しんにょう+鰥のつくり」、第4水準2-89-93)ざっとう。)
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第二幕



高き円天井ある、ゴチック式の狭き室。か
つてファウストの住みし所。総て旧に依る。


    メフィストフェレス
とばりの背後より立ち出づ。メフィストフェレスが手に帷をかかげて顧みるとき、古風なる臥床に横はれるファウストの姿、見物に見ゆ。)
そこに寝ておれ、結んでは解けにくい
恋のきずなに誘われた不運者奴。
ヘレネにうつつを抜かしたものは、
容易に正気には帰らぬのだ。
(四辺を見廻す。)
上を見ても、右左を見廻しても、
6570


()()

6575
先生が己に身を委ねる契約を書いた、
あの筆までがまだここにある。
そればかりではない。己がおびき出して取った
血の一滴が、鵞ペンの軸の奥深く詰まっている。
またと類のないこの珍品を
6580

()


()使()
6585
もじゃもじゃぬくいこの外套を、今一度身に著けて、
世間では当然の事に思っている
大学教授の高慢がる真似事を、
なんだかして見たいような気にもなる。
ああしたえらがる心持に学者はなれようが、
6590
悪魔はとうから厭気いやけがさしているて。
(取り卸したる裘を振へば、蟋蟀こおろぎ、イタリアこほろぎ、甲翅虫など飛び立つ。)
    



6595


()()()

6600
()
()
()
    

()()()
6605




6610

()

()()
6615
(裘を著る。)


()()

(メフィストフェレス鈴索を引く。鈴は耳に徹する、叫ぶ如き音を発し、その響に堂震ひ、扉開く。)
    門生
蹣跚まんさんとして、暗き長廊下を歩み近づく。)
なんと云う音だ。それに響くこと。
6620



()()
6625



()()
6630



    

    
6635
    
()
    
         
    


()
6640




6645

()
()()

6650
()()()
耀()

()
6655
    
()()


()()
6670

()()()
()退()

()
6675



()()
6670
    


    
()
()
6675
()()
()
()
()()
6680


    


(門生退場。メフィストフェレス重々しげに坐す。)
己がここに陣取るや否や、あそこの
6685



    
()()
()()
6690
生きた人間が死人同様に
黴の中にいじけて、腐って、
せいその物のために死ぬるような、
愚な事はしていぬだろう。

この家は外壁も内壁も
6695





6700





6705
()()



()()
6710
()
()()



6715




()
6720

()()
禿()()
()
()
6725

    



()
6730
※(「糸+求」、第4水準2-84-28)

()()

6735

    

()

()()()
6740
鹿()()


    

()
6745

()

鹿
    
6750
覿()()


    

()
6755
大ぶ月日が立つうちに、君もたっぷり
経験を積んで来ただろうね。
    得業士
経験ですか。泡のような、烟のような物です。
人のれい比物くらべものにはなりませんね。あなただって
正直に白状なさったら、今まで人の知っていた事に
6760

    
()鹿

    

6765
    
()()

    
禿()()

    ()()
6770
    得業士
ドイツでは世事を言う人は※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)うそつきとしてあります。
    メフィストフェレス
(脚に車の附きたる椅子を、次第に舞台脇へずらせ来て、平土間に向ふ。)


    
()
()
6775

()


6780




()()
6785
()()


()
    
6790
    

    

    


6795
()()

()
()
耀
6800


()
()
()
6805
退
    
()()()()()()


6810




(平土間にて喝采せざる少壮者に。)
あなた方は大ぶ冷澹に聞いていますね。
6815
()









    ()

6820



()()
()
6825




6830
    
()
    
()
(小声にて。)


    
(一層小声にて。)
なんですか。
    ワグネル
(一層小声にて。)
     人間を拵えるのです。
6835
    

()()
    
()()()()

6840
()()


()()
()()
6845
大いなる天分を享けた人間だけは将来これまでより
はるかに高い出所でどころを有せなくてはならんのです。
(竈に向ふ。)

調調()()()()
6850
()
()()()()


(また竈に向ふ。)
出来ますね。調合した物が動いて澄んで来る。
6855




6860
    メフィストフェレス
人間は長く生きていると、種々の経験をするもので、
その目で見ると、この世界には新しい事は一つもない。
わたしなんぞは所々を流浪しているうちに
結晶して出来た人間の群も見ましたよ。
    ワグネル
(これまで始終瓶に注目してゐる。)
6865

鹿


6870
(感歎して瓶を見る。)


姿

6875



    
(瓶の中にてワグネルに。)

6880



()()
(メフィストフェレスに。)
所で、横著者のおじさん、あなたもここにいますね。
6885
()()()
()()

()()
6890
    




6895


    
     ()


()()
6900
    小人
何をするのですか。
    メフィストフェレス
(側の戸を指さす。)
        ここでお前の腕を見せてくれ。
    ワグネル
(旧に依りて瓶を凝視す。)
実にお前は可哀らしい子だなあ。
(側の戸く。ファウストの床の上に臥したるが、見物に見ゆ。)
    小人(驚く。)
大した物だ。
(瓶ワグネルの手を脱して、ファウストの上の空中に懸かり、ファウストを照す。)
     

6905



()
6910
()()


()
6915
()

()
()()
()
6920
    
()()


    
       

6925
いていないでしょう。あなたの領分は
暗黒の境です。
(四辺を見廻す。)
()()()()
()
6930




6935

    
              
    
()()()
()

6940

()

    
()
    
6945


    

()()()
    
西
6950


湿

6955
    



退()()
()()
6960



    
()
()()
6965


()()
()
    
()()
6970

()


6975

    
       

()()
    
(欲望あるらしく。)
()()
6980

()
()
    
            
()
()()
6985

()
    
      
    
           

()()()
綿
6990

()

()
6995
()



    
     
7000
    メフィストフェレス
さあ、すぐにペネイオスの川辺へ行こう。
小僧さん、なかなか話せるぜ。
(見物に向きて。)
とうとう我々は、自分の拵えた人間に
巻添まきぞえせられるものかも知れませんね。


古代のワルプルギスの夜


ファルサロスの野。闇黒。
    魔女エリヒトオ
わたしはエリヒトオと云って、陰気な女だが、
7005



()()()
()
7010
()()



7015




7020
()


()()

※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)()()
7025
()()
()

()()姿
()
7030

()


()
()()()
7035
()()
()
()

(退場。)
(飛行のものども上にて。)
    小人
ここのの上、谷合は
7040
余り化物臭いから、
この気味の悪い篝火の上で、
もう一度輪をかいていましょう。
    メフィストフェレス
古い窓から北の国の
気味の悪いごたごたを見るように、
7045


    


    
7050

    

()
()
7055
    

    
        



7060
()
    

()()()

7065

()
    

(硝子鳴りて強く光る。)
どれ、新しい不思議を見に出掛けましょうか。
(退場。)
    ファウスト(一人にて。)
あれはどこにいるだろう。差当さしあたり此上問わずに
7070
()

()

7075



※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)()
(退場。)
    メフィストフェレス(四辺を見廻す。)
どうもこの篝々を見渡すと、
7080

()()


()
7085




7090


    ()()


7095



    
         
()()
    ()()
調
7100
()
()

    

7105
()()

    
()
    
()
使
7110
大抵こん度は旨く行くつもりです。
    メフィストフェレス
(これよりさき、スフィンクス等の間に坐を占む。)


    

7115

    

()()

7120
()


    

    
          
    
7125

    
()


7130

    



7135

()
    

    
        
    

    
7140

()
    
     ()
()

7145
    
()()
()
    
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)()

7150
わたし達の仲間にいて、好い気持はしないわ。
(セイレエン虚空にて声を試みる。)
    


    

7155
    
()()

()
調()()
7160
    スフィンクス
(同じ調にて嘲る。)
降りて来させて姿を見給へ。
耳を傾け給ひなば、
襲ひそこなひまつらんと、
彼女等かのおみならは醜き角鷹くまたかの爪を
梢に隠してまりをれり。
7165
    




7170

    
()()
()()
()()
7175

()
    
()()()
()()
7180
    




(スフィンクスにつきて云ふ。)
昔オイジポスはこんなのの前に立ったのだ。
7185
(セイレエンにつきて云ふ。)
こんなのに騙されまいと、ウリッセスは麻縄で
身を縛らせたのだ。
(蟻につきて云ふ。)
        これが珍宝を蓄えたのだ。
(グリップスにつきて云ふ。)
そしてこれが忠実に、間違なく守ったのだ。
己は新しい思想が胸に徹して来た。
物が偉大なだけ、記念も偉大だ。
7190
    


()

    
()()
7195

    

()
()()
7200
()
    
()


7205



    

()()
7210
あなたはわたし達の詞に縛られておいでなさい。
わたしが申した通ヒロンさんにさえ
あいになれば、分かりますからね。
(ファウスト去る。)
    メフィストフェレス(不機嫌に。)
あの羽をばたばた云わせて鳴いて通るのは
なんだ。見えない程早く通ってしまう。
7215
()()
()()()()
    


()()()
7220



    

    
()
7225

()()()


()
7230


()
()
7235

()()

    

    
7240


()()
()
()()
7245







(池沼、ニュムフェエ等に囲繞いにょうせられたり。)
    ペネイオス河
そよぎ囁け、かばの葉よ。
しばし破れし夢に、
7250
()()()()

()()()

()
7255

    
()()
()

7260
波もくどくどと何やら云って、
風も何やら喜び戯れているらしい。
    少女ニュムフェエ等
(ファウストに。)
御身をこゝに横へ、
疲れたる手足を
涼しき所にてやすめ、
7265
常に御身の得難き眠を
味ひ給はんこそ
もとも宜しからめ。
われ等さやぎ、そよめきつゝ、
ささやきを聞せまつらん。
7270
    

()
姿

()()
7275




()
7280
()

()

7285
()
()


7290

穿()

()姿

()
7295

()

()
()()
7300




()()
7305

()

()
()
7310


    


()()
7315

()使

    

7320




7325




7330
    

    
         ()
    
()
    
         
    


()
7335
    




7340
    




    
7345

()※(「やまいだれ+差」、第4水準2-81-66)

    

7350


    


7355

    

()()
    

7360




    
7365




7370




7375

()()
()

7380
    

    



7385


()

7390
()



    
7395
()()


    

()
7400
()
姿


7405
    

    
          
    
()()

    
()

    
       
7410



    

7415




7420




7425
    
()
    
             



7430

()

    

()
7435

()
()()
姿()
7440
姿


()
7445
    
()()()
()
()

7450

()
()
()
()()()
7455



    

7460
    
()
()
    


    
7465


()()
()()
()
7470
    

()()

    
()
()
7475
    
()
    

    
()()()
    

7480
    
()()
()
    
       


7485


    
()
(ヒロンは去ること既に遠し。)
()()
7490
()()
()

()







(同上。)
    セイレエン等
いざ、ペネイオスの流に跳り入りてむ。
7495

()()


7500








()
7505


()


()
7510

()
()()()

7515

()

    
(地の底深くうめきひしめく。)
もう一遍力を入れて押して、
肩でしっかり持ち上げて遣れば、
7520

()
    
()

7525
()()




殿
7530
()
()


7535
あの人が押したり、衝いたり、骨を折って、
アトラスの神のような風をして、
背中を屈めて、ひじに力を入れて、
草の生えた所でも、泥や砂や小石のある所でも、
この川岸の静かな所でも、一体に
7540
地面を押し上げているのです。
とうとうこの谷間の静かな地面のおび
横に裂いてしまいましたね。
大きいカリアチデスのような風をして、
草臥くたびれっこなしに働いて、
7545




    
7550




7555



()()
()
7560


()
()()()()
()
7565
今ではムウサ達の尊い群と一しょに、
アポルロンさんがあそこに楽しく住んでおいでだ。
チェウスさんの椅子だって、あのかみなりの道具ごめに、
己があの高みへ押し上げたのだ。
そこで今夜も精一ぱい
7570
地の底から己はり上がって来て、
面白そうな人間共を、大声で、
新しい生活に呼び覚ますのだ。
    スフィンクス等
あの、ここにそば立っているものが、
地の下から、もがいて出て来たのを、この目で
7575



()
7580

    
()()()()


7585
    歌う蟻の群
巨人達おおひとたちのこの山を
押し上げしごと、
足まめやかなる友等、
いざのぼれ。
疾く出入いでいりせよ。
7590
この隙間なるは
つぶごとに皆
おさめ置く甲斐あり。
到らぬ隈なく、
塵ばかりなるをも、
7595

()()
()

()()
7600

    
()

()
()
7605
    




7610




7615



()()()
西
7620
()
    


()
()
7625
    


()

7630
よろいを、ほこを、
いくさの群に授けむため、
鍛冶のにわを営め。

蟻等皆
群なしていそしみ
7635
粗金あらがねて来よ。
さて数多き
もとも小さき侏儒しゅじゅ等には
ることを
おおせてむ。
7640
()()()


    

()
7645
かの池の畔に
あまた巣作りて、
おごりて住める鷺を
一時ひととき
あまさず
7650

()
()
    

7655



()
    
()()
7660




7665




7670

()


7675
(叫びつゝ空中に散ず。)
    


()

()
7680

()()
()

7685
()



()()
7690

()

()()
()
7695
    妖女ラミエ等
(メフィストフェレスを誘ひつゝ。)
急がばや
いづくまでも。
またしばしたもとほり
物言ひ交さばや。
老いたるすきものを
7700
誘ひ寄せて
むくい受けさせむは、
面白からずや。
すくめる脚して、
よろめき、
7705




    
()
7710
鹿

鹿
()
7715




    
()
7720
()
    



7725
    
()()()()

()
    
()()
7730

    
()

    

()
7735
    エムプウザ(メフィストフェレスに。)
驢馬の足を持っている、お馴染の
御親類のわたしが御挨拶をしますわ。
あなたのは馬の蹄ですけれど、
兎に角お心安くなすってね。
    メフィストフェレス
ここには知ったものなんぞはいないつもりだった。
7740

調

    

7745
先ずあなたへの御馳走に
ちょっと頭を驢馬にしましたの。
    メフィストフェレス
はてな。この連中ではなかなか
血筋ということを大事にしているようだ。
しかしどんな事が出来しゅったいするにしても
7750

    
()


7755
    


()()()()

    
()
7760

()()()
()()

7765

()

    

(一人を抱く。)
しまった。箒のように痩せてけつかる。
7770
(他の一人を抱く。)

    

    
()()

()()
7775


()()()

7780


()()

    
7785

()()
()
()()
7790
    

鹿鹿


()
7795

()


()()
7800
(石の間を彷徨す。)


()()

7805


鹿

7810
    



()()()
7815


()
()()()
7820
    メフィストフェレス
なるほど難有そうな頭をしている。
丈夫な※(「木+解」、第3水準1-86-22)の木の茂みをかぶっていて、
此上もなく明るい月の光でさえ、
あの木下闇には照り込むことが出来ない。
所があの森の傍を控目に光る
7825


()()

    
()
7830




7835
()()



7840
()
    
()


7845


()
    
()
    
7850
(二人別る。)
    


    
()
()
    
()
7855
    
()()湿()
    

()
    

7860
    
()()

()

    
()
7865

()()

    

7870


    


7875
連中を、うようよ涌いて来させるのだ。
(ホムンクルスに。)



()
7880
    

    
             



7885
()
()()

()
7890
()

()()()

7895




    
を置きて、荘重に。)
今まで己はの下の威力を称えていたが、
7900


()()

7905
()

※(「月+咢」、第3水準1-90-51)()

(間。)
いのりが余り早く聞かれたのか。
7910


()

7915


()()


7920



()()()
()
7925
()
()()
()

(地に俯伏うつぶせになる。)
    タレス
好くいろんな物が見えたり、聞えたりする男だな。
7930



()
7935
    
()()



7940
敵も身方も押し潰して殺したのです。
しかし兎に角わたくしは、
一夜のうちに、下からと上からと同時に、
創造的にこんな山を拵えた
技術を称えずにはいられません。
7945
    


()()

7950
(共に退場。)
    メフィストフェレス
(反対の側をぢ登りゐる。)
()※(「木+解」、第3水準1-86-22)

※(「(皎のつくり−亠)/多」、第4水準2-80-13)()
()()※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)
()
7955
※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)


    ※(「木+解」、第3水準1-86-22)
()
7960

※(「木+解」、第3水準1-86-22)()
    


7965

    

()
    

7970
退()



7975




7980
()()
    
()()

    
()
7985

()()


7990


()()
    

    
7995



()()
    
8000

    



()姿
8005

()

    
    ()

8010

    

()
使
()()
8015
姿
()

    
      
    

    
()()
8020
姿
    
()
()

8025
    
()
    
            
    
(横顔をフォルキアデスにする。)

    

    
()()
    
8030

    

()()姿

退





(月天の頂点に懸かる。)
    セイレエン等
(岸の岩の上あちこちにゐて、笛を吹き、歌ふ。)
夜の恐ろしきまぎれに、
テッサリアのしき女等おみなら
8035
君をみだりにおろしまつりしこともあれど、
今は君静かにみずかつかさどらす夜の空より、
優しくかがやく影を流して、
ふるふ波を眺めまし、
その波間に浮き出づる
8040



    
(海の怪物として。)
汝達なむたち広き海原とよもし、
今一際を高く立てよ。
8045

※(「月+咢」、第3水準1-90-51)()


()
8050
()()()
()()()


8055
()

    
()
()
8060
()


    

8065
()()()

()()

(共に退場。)
    セイレエン等
皆つと去りぬ。
8070

()()


8075
()()




8080
われ等の日に逐はれざらむために。
    タレス
(岸にて小人に。)
()
()()
()()
8085




8090

    
()()

    

()
8095

()()


()()
8100

    

()

()
8105
    
()
()

()
8110



()
()()
8115




()()()()
8120



()()
8125

()()
    


8130
()()

()
    

8135



()
8140



()()
8145


()()


8150



(海の方へ退場。)
    タレス
これはまるで無駄な手数てすうだった。プロテウスに
逢ったところで、すぐ消えてしまうだろう。
8155
相手になってくれた所で、呆れるような事、
戸まどいをするような事しか、言っては聞せまい。
しかし兎に角意見が聞きたいと云うのだから、
ためしに出掛けて見るとしよう。
(退場。)
    セイレエン等
(上の方、岩の上にて。)
遠方おちかたより波の境を滑りて
8160
()


姿
8165
()
()()
    


()()()
8170
()姿
()
()
    

()()()
8175
()
()
    


8180
()
    


()()()
8185
    
()()
()()
()()
()
    
()()
8190

()

    
()
    
8195
    




8200
皆未だまたくは成りでまさぬなるべし。

得られぬ物に
あくがれますうえの神等、
たとへむ物なき神等は
はてなく成りでむとし給ふなり。
8205
    




    
8210

    


()()
()()
8215
君等カベイロイを迎へまつらば。
    一同
(合唱として繰り返す。)
黄金なす羊の毛皮は手に落ちぬれど。
我等、君等カベイロイを迎へまつらば。
(ネエレウス族とトリイトン等と過ぎ去る。)
    小人
あの不恰好な神様達は、
この目には悪い土器の壺のように見えます。
8220

()()
    

※(「金+肅」、第3水準1-93-39)
    ()()
(見えざる所にて。)
己のような年寄の昔話の話手にはこんなのが気に入る。
8225
()()
    

    
(応声法にて近く遠く。)
               
    


8230
    変形の神(遠く。)
さようなら。
    タレス
(小声にて小人に。)
     
()


    
8235
光を出して見ましょう。
    変形の神
(大亀の形して。)
その優しい、美しい光を出しているのはなんだ。
    タレス
(小人を蔽ひ隠す。)

()()
8240
己達の隠しているものを見るのは、
己達の好意、己達の意志のお蔭だ。
    変形の神
(品好き形を現す。)
世渡よわたり上手の掛引をまだ覚えているな。
    タレス
まだ色々に化けることを道楽にしているな。
(小人を露呈せしむ。)
    
8245
    
()



()()
8250


    
()()

    
8255

    

()()

8260



()()
    
8265
※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)
    
()


※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)
8270



    
             
    

ロドス島のテルヒイネス魚尾の馬と竜とに乗り、ネプツウヌスの三尖杖を持ちて登場。
    合唱の群
いかなる荒波をも鎮むる、ネプツウヌスの
8275
()()
()()
()
()
()()()()
8280

()


    
8285

()
()
    
()()窿()
()()()()()()
8290
()
()()()()
()()()

()
8295
()()※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)()()

()()()()()()
姿()
()()()
8300


    

()
8305
()

()()

8310

()
()()

8315
お前を常世とこよの水の都へ連れて行くのは
変形の神の鯨だ。
(変形す。)
       

()
()()
8320
    
()()
()()


8325
人間になるまでは大ぶ暇があるぞ。
(小人変形の神の鯨に乗る。)
    
湿


()
8330


    


    
8335



    
()()()
8340




8345
()
    


()
8350




    
8355
神聖な物が生きながらえているということは、
すなおな男に気に入るとおりに、
己も一番好い事だと思う。
    リビアのプシルロイとイタリアのマルシと
(海の牡牛、海のこうし、牡羊に乗れり。)
キプロスの荒き岩室いわむろに、
海の神にも塞がれず、
8360
()()
()()

()
()()
8365
さて優しき波のゆきかひに、
夜の囁くとき、
新に生れたるともがらの目をきて、
はしき少女を載せてなんとす。
われ等ひそかにいそしむもの等は
8370


()()

8375
()()

()
    

()()()
8380
()

()
()()()
()
8385
姿

()姿
()
()
8390
    ドオリス族
(群をなしてネエレウスの前を過ぐ。皆鯨に乗れり。)

()

()()()
(ネエレウスに。)
こは岸噛む波の怒れるきばより
8395
()



()()
8400

    


    
()
()
8405
()

    
()()
()
()
8410
われいかでか授くることを得む。
汝達をもてあそぶ波は、
恋をもとはにならしめねば、
靡く夢の覚めむ日待ちて、
おだしくくがへおくり返さむ。
8415
    
()()

()()

    
()()
8420



(ガラテア貝の車に乗りて近づく。)
    
()
    
        
()
8425
    

()()()
()()
()
()()
8430

    
()
()

8435



()()
8440
大川を出来でかしてくれなかったら、
山や平地や世界がどうなろう。
一番新しい性命を保たせてくれるのはお前だ。
    反響(登場者一同に呼ぶ。)
一番新しい性命の出て来る源はお前だ。
    海の神
今ゆらつきながら遠くを戻って来るが、
8445
もう目と目を見合せるようには通らない。
儀式めいて伸びた鎖の
圏を造ろうとして、
おお勢の群がうねっている。
それでもガラテアの貝の車だけは、
8450




()
8455

姿
    
()湿()
()()
8460
    変形の神
この性命の湿の中で、
お前のあかりも始て
好いをして照るのだ。
    海の神
なんの新しい秘密を、あの群の真ん中で、
己達の目に打ち明けて見せようとするのだろう。
8465
()()


    

()()()()
8470



    

()
8475

()

()
()
8480
()

()
    

()()()
8485

()()()()





殿

ヘレネと捕はれたるトロヤの女等の群と登場。パンタリス合唱の群をひきゐる。
    
()

8490
()()

()()

8495
う様チンダレオスがパルラスの岡から
帰って建てられて、クリテムネストラとは女同士、
カストル、ポリデウケスと親しくわたくしが
遊んで育った頃、スパルタのどの家よりも
美しく飾られた、この尊い御殿。
8500


()

姿()
8505
使()


()
8510
()



8515
    
()
()
()()
()
8520
()()

()
    
()()
()()
8525


()()

8530
()()()()


()
()()()
8535
()
()


8540
()
()

沿湿
8545




8550
調



8555




    
()
8560


()()

8565
あなたのお美しいお姿と、金や真珠や
宝石との戦争が拝見いたしとうございます。
    ヘレネ
それからおっとはこう云われた。そこでお前
品物の整理してあるのを、改めて見た上で、
神聖な祭の式を行う時、生贄を扱うものの
8570

()()
()

8575

()


()
8580
()


()
()
8585
()

()()

()
8590
    


()

8595

()


()()()
8600
()


    
()
殿
8605

()


    
()
8610
あらゆる悲を
遠く投げ棄てておしまいなさい。
かえりが遅れはしても、
却てしっかりした足附あしつきで、
御先祖の御殿のかまどの前に、
8615
楽しくお近づきになる
御主人様、ヘレネ様の
ふくを分けておいただきなさい。

幸運を元に返し、
出て行った人を呼び戻す、
8620
尊い神様達をおたたえなさい。
捕われたものはいたずら
人屋ひとやの軒から、故郷こきょうを慕って、
りょうひじを開いて歎くのに、
放たれたものは
8625





8630
口に言われぬ
お喜やお歎を、
改めてお思出しになるように、
イリオスの荒された都から、
新しく飾られた
8635
殿
()()
    


8640
()()
使
()殿()

()()()
8645
闘っている御様子が、お顔に見えておりまする。
    ヘレネ
(扉を開きたるままになし置き、感動して。)

()
()()
8650
()


()()
8655

()()
()()
()
8660
    

()
    
()

8665
()
()()
殿()()
()()
8670
()



()()()
8675


()

8680



()
8685



()()
8690
()()



8695
醜い物を洞穴へ入れるか、退治るかしてくれよう。
(フォルキアデス閾の上、戸枢こすうの間に現る。)
    合唱の群
わたくし共は、※(「糸+求」、第4水準2-84-28)ちぢれた髪が※(「需+頁」、第3水準1-94-6)こめかみに波を打っては
いますけれど、いろいろな目に逢いました。
戦争の悲惨、イリオスが落ちたよる
恐ろしい事も沢山
8700



()

()()()
8705



()※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)

8710



※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)()()

()()姿
8715
()()穿()




8720




8725
そんな危険を冒さぬようにしないものなら、
手で掴まえてでも見られましょう。

やみの女フォルキアデスの娘の中で、
お前はどれだえ。
どうしてもあの一族と
8730


使


8735

()()



()()
8740
日の神さんの神聖な目は
ついぞ影と云うものを見たことのないとおりに、
醜い物は見ませんからね。

だけれど残念な事には悲しい不運が、
わたくし共死ぬる人間に迫って、
8745
()()()




()
8750
神様のおつくりになった、為合者しあわせもの
咀う口から出るのろいや、いろいろのあざけり
おびやかしをお聴。
    闇の女フォルキアデス
美しさと廉恥とが、下界の緑の道を
手を引き合って一しょに歩かぬと言う諺は
8755

()

()
8760

()
()()

()()()()
8765



()()

8770

殿


殿
()()
8775
()()

()()

()()()()
8780
()()()
()()()
貿()()
    
使
()()
8785
()



()()
8790


()()()
()()()
()()
8795
殿

()
()
    
8800
殿()
()()

()()()()
()()()
8805
※(「革+橿のつくり」、第3水準1-93-81)()
()
()()
()
    
()()()()
8810
    闇の女
賢い人の傍では、分からずやは猶分からずやだ。
(これより下、合唱の群より一人づつ出でて答ふ。)
    
()()
    

    
()
    
8815
    

    
()()
    
()()()()
    
()
    
8820
    

    

    

    

    
()()()
8825
    
()()
使
()
()()
()()
8830
()
()()()()

()()()
()()()
8835
()

()()
姿
()()
8840


    


8845


姿

    
()鹿
8850

    
()
()()
    

()
8855
    

()
    
()
()()()
    
8860

    


    
()()
8865
    
()
()
    


    
()
8870

    


    

8875
    
()
()()

    
()
()
8880
ああ。わたくしはもう消えて、このまま影になりそうだ。
(合唱の群の一半に倒れ掛かる。)
    
()
()()

()
8885
ろくな事は出はしない。

なさけありげに見える意地悪いじわる
羊の毛皮を著た狼の怒は、
首の三つあるいぬ※(「月+咢」、第3水準1-90-51)あごより
わたしには猶恐ろしい。
8890
()




()()
8895
憂き事を忘れさせる、軟い、恵ある詞のかわりに、
過ぎ去った、総ての事の中から、
善い事よりは悪い事をと、引き出して来て、
今の光を
打ち消すと同時に、
8900
()




8905
取止とりとめ申して、昔から
日の照した姿の中で、一番美しい
あのお姿をそのままおおき申したいから。
(ヘレネ恢復してまた群の中央に立つ。)
    闇の女
うすものに包まれていた時から目を悦ばせて、今は目映まばゆいように光って君臨している、
きょうの日の太陽も、浮雲の間から出て貰おう。
8910


    
()()

8915

    
()

    
()()
8920
    
()()
殿
    

    
          
    

    
           
    

    
        ()()
    
                
    
                        
8925
    

    
                  ()()
    

    
            ()
()()()
()()
(ヘレネと合唱の群とは、兼て工夫せられたる、立派なる排列をなし、驚き呆れる様にて立ちゐる。)
    闇の女
幽霊共。もとわが物でもない白昼はくちゅうに、別れると云うに
8930
()()



()
8935
兎に角お前方は助からぬ。どりゃ、為事しごとに掛かろうか。
(フォルキアデス手を打ち鳴らす。それを合図に、戸口に覆面したる侏儒等現れ、以下のフォルキアデスの命令を、一々即時に執行す。)
()()()()()
()()
()()()()()
()()
8940
()
()()()
()
殿
()
8945

    



()()
8950



    

()()
8955

    
()()
()()()()

8960

    
()
()

()
8965
    

※(「弓+京」、第3水準1-84-23)
※(「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56)
()便()※(「弓+京」、第3水準1-84-23)
()
8970
    


    

    
殿
8975


鹿()()

8980

    
()()()
()
    

()
8985

殿


殿
8990
()()
    


    
()()
8995
オイロタス川が早瀬になって落ちる
タイゲトスの山を背に負って、スパルタの背後を
北へ登って行く、この谷山には久しく住む人も
なかったのに、キムメリオイの闇から出て来て、
谷の奥深く、こっそりうつって来た、大胆な種族が
9000
()
()
    

    

    
()()()
9005
    
()

()()

    

    
      
9010
()
()


9015
()

()

()()()()()
9020


()()()()
()()
9025
殿()()

()()


    
     
    
        
9030


()()
()
()()
9035
使()


()
9040



()
    
          殿
    
()()
9045


    
             ()

    

()()
    
                 
9050
()()
    

()
    
()()()
9055
()()
()()

    

    
9060
美人は共有にはならぬ。それを専有していた人は、
誰とももあいにせぬように、寧打ち砕いてしまう。
(遠くより喇叭らっぱ聞ゆ。合唱の群震慄す。)
あの喇叭の響が、耳をも臓腑をも、引き裂くと同じように、
昔し持っていて、それを無くして、今持っていぬ物を、
永く忘れぬ男の胸には、嫉妬がしっかりと
9065

    
()()()()
    

    

    
        
9070
(間。)
    

()()()
()

9075


    


()()
9080
そば立つ砦の
越すこと出来ぬ
かきをば前に。
末には遂に
恥知らずのいつわりの謀に落されたが、
9085
一度はお后様をおまもり申した、あのイリオスの
城のように、その砦がまたお護申してくれればい。
(霧ひろごりて、遠景をめ、前景をも便宜に掩ふ。)


()
9090




9095
()
()



9100

()()
()()()

9105

()



()()
9110




9115
()()

()
()()
()
9120
()


()
()
9125
これまでにない、ひどい捕虜になってよ。
(中世式の空想的なる、複雑なる建物に囲繞いにょうせられたる、砦の中庭。)
    
()()()()

()()()()()
9130
()
調()

()()
    
()()
9135


()()
()
()()()
9140
    

()姿

()
()()()
9145

()()
()()
()()
9150
()
    
()

()()()()
9155


()()

9160





9165


()()()
()()
9170
天蓋のような飾やら。
あれ、もうお后様が迎えられて、美しい
お茵におつき遊ばしたので、
かしらの上に
雲の飾をおいただきになったように
9175

()


9180
こんな歓迎なら、祝福しなくては。
(合唱の群のことばにて言ふ事共、次第に施行せらる。)
児童と青年と、長き列をなして降りたる後、ファウスト中世騎士の宮中服を著け、階段の上に現れ、品好く徐に歩み降る。
    先導の女
(念を入れてファウストを見る。)
あの感心しておあげ申していお姿、気高い立居たちい
愛想のいそぶりを、昔からためしのあるように、
神様達があのおかたに、仮にちょいとのさずけ
なされたのでないなら、男同士の戦争も、美しい
9185
()()()

殿

9190
()()()
    
いましめたる男を一人随へて歩み寄る。)

()

9195
()()()

()()
()
()()
9200
()()



9205
()()

()

()()
9210
()()()
()
    
()

9215

()()
    ()


9220


()()
()

()
9225



姿


9230





()
9235

()()()

姿()

()()
9240


()

()
9245
    




()
9250
()()
()()()()


()
9255
()

    
()()()()()

9260
()()()()
()()


9265
()()()()



()()
9270
()
()
    
()()()

()
9275
()





9280


西
()()
()

()()
9285





9290

()



9295






9300


()()



()
9305





9310
ほおべににけおされる紅宝玉は
お気に召さぬかも知れません。

そう云う稀な宝の限を、わたくしは
ここで御前へ持って出ます。
幾度かの血腥ちなまぐさい戦争のえもの
9315




()
()()
9320

()

()姿
()

9325





9330
()()

    

退()()()
9335
()

()()()
()
9340
()()()

()()
()()
耀()
9345
    
殿()()()()

()

9350

姿


()
9355
(退場。)
    
()
()

    
()()
()()()
9360

()

()
    
()()
9365



()
9370
()()
    
()()
()()

()
9375
()()
    

    
()()()
()()
()
    
            
9380
    


    
            ()
    


    
          ()()
    
()
9385




9390
辿



()()
9395
()()※(「糸+求」、第4水準2-84-28)()
()



9400

()()



9405
()()
()
()()

9410
    

()
    
()

    
()()()
9415

    
()()穿()
()
    
はげしき態度にて登場。)
恋のいろはのお稽古を、たんとなさるがい。
ふざけながら、恋の理窟を御研究なさるがい。
9420
()()()()


()()()
9425


()()
()
9430

()()
()()
()
    
9435
()()
使便()()
便

()()()
9440
危険があろう。あってもそれはいたずらおどしだ。





9445



()
()

9450


()


9455
()




()()
9460
()()





9465

()使()
()



()
9470
ザックセの土着の兵にメッセネは任せる。
北方ほくほうのノルマネは海上を掃蕩して、
アルゴリスの港を手広に経営しろ。

さておのおのそこに土着したら、外へ向けて
力を展べ威を赫かすことが出来よう。
9475



()
()
9480
后のお膝下へ受けに出ることが出来るのだ。
(ファウスト座を降る。諸将囲繞して、詳細なる指揮命令を受く。)
    合唱の群
一番美しいものを手においれなさるかたは、
何より武勇をさきになすって、気を利かせて
兵器を調えておおきなさるがい。
この世で一番優れたものを、いかにも旨く
9485
()

()


9490




()殿
()()
9495
()()

殿


9500




()()()
9505
    





9510





9515

()

()
()
()()
9520
()





9525

()()()


※(「求/(餮−殄)」、第4水準2-92-54)

9530




()()
9535
()窿()
宿



()
9540
()

※(「木+解」、第3水準1-86-22)

()

9545


()()()



9550

()()



()
9555



姿

9560
あらゆる世界と世界とが交感する。

(ヘレネの傍に坐す。)




9565



()


()
9570
あなたは一番晴やかな運命の中に逃げ込まれた。
王者の座がそのまま生きた草木くさきの家になる。
アルカジアめく幸福を二人は享けましょう。

()
    闇の女
女子供おなごどもがもうどの位寝ているか、わたしは知らぬ。
わたしがはっきり目で見た事を、夢にでも見たか、
9575



()()
9580
()
    
()退

()
    
退
9585

殿

    
            
    
()()
9590


()()
    

()()
9595
    


()()()
殿
殿
9600
()()

()

9605


()
殿()
9610

()()


殿
9615



()()
()
9620

殿()()()()

()()※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
9625
()


    
()()
9630
あなたこれまでおしえになる詩なんぞを
聞いたことがないのでしょう。
イオニアやヘルラスに、
ずっと昔の先祖の代からある、
神や英雄の沢山の話を
9635
聞いたことがないのでしょう。

今頃出来る事は
なんでも皆
美しかった先祖の代の
悲しい名残ですわ。
9640
あのマヤの子の事を歌った、
真実よりも信じたい、
可哀らしい※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)に比べると、
あなたの話はなんでもないわ。

その子は可哀らしくて丈夫でも、
9645

()()()
()()
()()
()()
9650



()()

9655


()

※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)()
9660





()
9665
()

()()()
()
9670
日の神のフォイボス様の弓矢も、
燃える火の神のヘファイストス様のやっとこも取る。
あの火に遠慮しなかったら、お父う様チェウスの
稲妻さえ取り兼ねなかったのです。
でもとうとう恋の神のエロス様とは角力を取って、
9675
小股をすくって勝ちました。それから
キプリアの女神様がお可哀がりになると、
その隙にお胸の帯を取りました。
()()
    闇の女
あの可哀らしい声をおきき。そして
昔話なんぞはさっさと忘れておしまい。
9680

()()



()
9685
出て来なくてはならぬと云うのが、その税金だ。
(岩の方へ退く。)
    

()()
()

9690





ヘレネ。ファウスト。上に記しし衣裳を著けたるエウフォリオン。並に登場。
    童子エウフォリオン
わたしの歌う子供の歌をおききになると、
9695
()
調()
()
    
()()
9700
()

    


9705

    

()

()()
9710
    

()

()
()
9715

    
()


9720
台なしにしないように、
余り思い切った事をしないでくれ。
    童子
もうこれより長くの上に
まっていたくはありません。
わたしの手や、
9725



    

9730




    
9735

    
()()


9740
そして静かにおとなしく
この土地を飾っていてくれ。
    童子
そんならあなた方の思召ですから
我慢していましょうね。
(合唱の群を穿うがちて過ぎ、舞踏に誘ふ。)
この機嫌の好い人達の周囲まわり
9745
()()
()()
()()
    
()()()
()()
9750
()
    



(エウフォリオンと合唱の群と、歌ひ舞ひつゝ、種々の形に入り組みて働く。)
    合唱の群
そんなにして両手を
9755
ふりなさいますと、
その波を打った髪をゆすって
お光らせなさいますと、
その足でそんなに軽く地を踏んで
あるきになりますと、
9760
そして折々手足を
お入れ違わせなさいますと、
可哀らしい坊っちゃん、
それで思召はもう※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)かないました。
わたくし達は皆しんから
9765
あなたをおしたい申します。
(間。)
    童子
お前達は皆足の軽い
鹿どもだね。
さあ、もっとそば
新しいあそびをしよう。
9770

()
    

()()
9775
どうせわたくし共は皆
しまいにはあなたに抱き附きたいと
思っているのでございますから。
    童子
森の中へ往こう。
木や石のある所へ往こう。
9780
()()



    
9785
()



    
(一人々々急ぎ登場。)
わたくし達を馬鹿にして、恥を掻かせて、
9790
前を通り抜けておしまいなすったのね。
みんなの中で一番気の荒いのを
お掴まえなすったのね。
    童子
(一少女を抱き登場。)
この強情な小さい奴を連れて行って、
無理にでも遊ぶつもりだ。
9795
()
()


    
9800
()


()()
9805
しっかり掴まえていらっしゃい。わたし笑談に
お馬鹿さんに火傷やけどをさせて上げてよ。
(火になりて燃えつゝ天に升る。)
()
()()
()
9810
    童子
(身辺に残れる火を払ふ。)

()


9815


()
(岩を踏みて、次第に高き所へ跳り登る。)
    ヘレネ、ファウスト及合唱の群
シャンミイの獣の真似でもするのか。
おっこちはしないかと思って、ぞっとする。
9820
    



()
9825
ペロップスの国の真ん中だ。
    合唱の群
この山と森との中におとなしく
暮そうとはおおもいなさらないの。
今に道端や岡の上にある
葡萄の実だの、無花果だの、
9830
()()



    
9835
()
()
()
    

9840
()()

    


()
9845
この国が生み附けた人々だ。
この抑えることの出来ない人々には、
高尚な志が授けてある。
闘う人々には
総て福利が与えてある。
9850
    
()()

()
()()
    
()()
9855




9860
()
()
    

()()
9865
()


()
    
9870




9875
()()
    


()()
9880



    
()()
()()
9885




9890
    


    


    
()()()()
9895
()
    



9900

    


姿()()()
    ヘレネとファウストと
ああ、喜の跡から
すぐに恐ろしい憂が来た。
    童子の声(地底より。)
お母あ様、この暗い国に
9905
わたしを一人で置かないで下さい。
(間。)
    合唱の群
(輓歌。)


()
()
9910


()()


9915




9920
優れた女の限に思われておいでになって、
特色のある詩をおつくりになりました。

しかしあなたは断えず検束のない網の中へ
お駆け込みなすって、
民俗や国法に
9925

()



9930

()
()()


()
9935
及びません。新しい歌に蘇ります。なぜと云うに、
土地はこれまでそう云う歌を産んだように、
これから後もそれを産みましょうから。
(全き休憩。音楽息む。)
    ヘレネ(ファウストに。)
美と福とが長く一しょになってはいないと云う
古い諺を、残念ながらこの身に思い合せます。
9940
()
()
()
()()()()
(ヘレネがファウストに抱き附く時、その形骸は消え失せ、衣裳と面紗とファウストの手に留まる。)
    闇の女(ファウストに。)
その一切の物の中から残った物を、しっかり持っておいでなさい。
9945




()()()()
9950

()
()()※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)()()
()
(ヘレネの衣裳散じて雲となり、ファウストを包擁して空に騰らしめ、ファウストは雲に駕して過ぎ去る。)
    闇の女
(エウフォリオンの衣と外套とリラの琴とを地上より拾ひ上げ、舞台の前端へ出で、遺物を捧げ持ちて語る。)
これでも旨く取り留めたと云うものです。
9955
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)



9960
せめて衣裳でも貸して遣ることにしましょう。
(舞台の前端にて、一木の柱の下に坐す。)
    

()

()
9965
()()
()
()

    
9970


()

9975

()


9980
    




    
()()
9985




9990
()
    
()()


9995
()

()()
    

()
10000



()
    
10005
()

()()()
()
()()
10010
    

()
()
()
10015

()()

()()
10020
()

()()()()
()
10025
()()
()()


()()()※(「金+拔のつくり」、第3水準1-93-6)
10030
()()

()
()()
()()()
10035


()()
(幕下る。)
闇の女フォルキアス舞台の前端にて、巨人の如き姿をなして立ち上がり、くつを脱ぎ、仮面と面紗とを背後へ掻い遣り、メフィストフェレスの相を現じ、事によりては、後序を述べ、この脚本に解釈を加ふることあるべし。
[#改ページ]

第四幕





()


    ファウスト(現れ出づ。)
晴れた日に陸や海を越して、穏かに己を載せて来てくれた
雲の乗物のりものに暇を遣って、
10040
()


()
10045
()
()()()
()

10050
()()

()()
()()

10055
()

()姿
()
10060


()()
()
※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)()
10065
己の心の内の最善の物を持って行ってしまう。
七里靴一つぱたりと地を踏みて出づ。間もなくまた一つ出づ。メフィストフェレス脱ぎて降り立つ。靴は急ぎ過ぎ去る。
    



※(「月+咢」、第3水準1-90-51)()()
10070


    
鹿

    
10075




()()
10080



()()
10085

()()()()


10090




    
10095




10100


()

    
10105




()
10110
()


()()
10115

()


10120

    


    
()
※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)
10125
()()



10130



    


    
           ()()
10135
()
()()
()()

()
10140




()()
10145
()()


()
10150




    
10155




    
10160
()



()()()()
10165




()()
10170




10175
    

    



10180
    
()()



    
10185

    


    

鹿
10190
鹿
    
()

()
10195
    

()()
    


()
10200
()



()
10205

()
()()退

    
10210
そんな事は千百年前からわたしも知っている。
    ファウスト
(興奮して語り続く。)


()()()
10215
()



10220



()()

()()
10225




10230

()
()
(見物の背後、右の方遠き所より、鼓の音と軍楽と聞ゆ。)
    

    
()
10235
    
()



    
10240

    

殿

10245




10250

    



10255



()
    
10260

()()
()()

10265




10270
()
    
()()
()()()()
    

10275


()

10280



()
    

    
            
10285
便


殿
10290
    
()()
    



()
10295
殿様の身に運があれば、その麾下きかに人もある。
(二人は山の中腹をえて前に出で、谷間の陣を望む。鼓、その他の軍楽下より聞ゆ。)


    
()
10300
    



殿
()()
10305
()
    


    

10310
    

()()
    
()
()
10315



    

10320
    メフィストフェレス
なに。ペエテル・クウィンチェの役者の組と同じ事で、
やくざな中の選抜えりぬきです。
(三人の有力者登場。)
    
()
()()
10325
だが存外御用に立つでしょう。
(見物に。)

()()()()()
()
10330
    喧嘩坊
(年若く、軽装して、はでなる服を著る。)
どいつでも己と目を見合せりゃあ、
すぐ拳骨を※(「月+咢」、第3水準1-90-51)に叩き込むのだ。
逃げ出すような臆病者は
後髪をつかんで引き戻して遣る。
    はやとり
(男らしく、武具好く整ひ、奢りたる服を著る。)
そんな実のない喧嘩なんぞは
10335
笑談同様の暇潰しだ。
何にもひるまず取り込んで、
外は一切跡にする。
    かたもち
(年寄りたり。厳かに武器を執りて、下に服を著ず。)
それも余り役には立たぬ。
大財産もすぐとろけて、
10340











()()

    上将軍
この丁度好い狭隘へ
10345



    

10350
    




10355

    

()
    

()()
10360




10365

    


    

10370

()()
()

    
10375
()()()



10380

()()
    


    
()()
10385

()


殿
10390
()()()()()()
()
    


()
10395

    


    

10400
そのうちに思い掛けず、急劇に
新しい帝王が擁立せられました。
それから群集が指図どおりの路を取って、
野原を進んで参るようになりました。
押し立てられた偽朝の旗に、
10405

    


()
10410


()()

()
10415

()()


10420
己は夢現の境に、勝利と名誉とを夢みた。
当時等閑にして過した事を、己は今取り返したい。
(偽帝の挑戦に応ぜんとして使を発す。ファウスト甲を著、半ば鎖せる※(「鶩」の「鳥」に代えて「金」、第3水準1-93-30)かぶとを戴き、三人の有力者上に記せる衣裳を著、武具を取り装ひて登場。)
    
()

()
10425



()()()
()
10430
その唯一の欲望は、絶えず分析したり、湊合したり、
試験したりして、新しい物を発見したがるに過ぎませぬ。
霊の力の静かな指で、
透き徹る形を築き上げて、
その結晶の永遠な沈黙の中に、
10435
()
    
()※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)

    
()
10440

()()※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
()()
※(「(皎のつくり−亠)/多」、第4水準2-80-13)()
10445

()


()
10450


()
()
    
10455

()()

()
10460



()
10465



()
10470


    

()()
()()()()
10475




※(「やまいだれ+差」、第4水準2-81-66)※(「やまいだれ+差」、第4水準2-81-66)
10480
()
()


10485
()
    
()()()
()
    使

10490

()

()()
()()()
10495

    



10500
    帝
ここでは己は指揮をすまい。
(上将軍に。)

    


()
10505

    



10510
(ファウスト右の方を指す。)
    
※(「月+咢」、第3水準1-90-51)※(「月+咢」、第3水準1-90-51)

()
()
()
10515
()

退
    

10520
あの少し右の方では、敵がもう奮起して、
我軍の計画を動揺させているのだから。
    ファウスト
(中央の有力者を指さす。)

()
    
10525

()
()

10530
    陣中の女商人はやえ
(はやとりに寄り添ふ。)
()
()
()()

10535
勝軍にはいつも先へ出てよ。どんな事でも出来るから。
(二人退場。)
    上将軍
兼ねて予期していたとおり、敵の右翼は我左翼に
猛烈に衝突して来た。あの狭隘の岩道を
是非取ろうとして奮進する敵兵に、
身方は一人々々抗抵するに違ない。
10540
    ()
()()()

    


()
10545
わたしの持った物は放しません。(退場。)
    メフィストフェレス
(上の方より降り来る。)
()()


10550
甲冑に、太刀と盾とで、
身方の背後に石垣をいて、相図をすれば打って出る
用意をして待っています。
(小声にて解事者等に。)
どこから連れて来たなんぞと、野暮を言うのじゃありませんよ。
無論わたしはぐずぐずせずに、
10555

()()()


()()
10560


()()

(声高く。)
御覧なさい。打ち合わぬうちから勇気を出して、
10565
()()()
竿
()

10570
(上の方より恐ろしき金笛の音聞ゆ。敵軍たじろく。)
    




10575

    



10580
    



    

()
10585

()


10590
()()
※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)()穿()
    


10595
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)

    
()

10600
()()

    


()()
10605
    

殿


10610

    
()()
()
()
10615
()


()
    
()
10620


()
    

10625
    




    
10630
()


    

()
10635


    
()

    
10640
退



10645

()()


()()
10650



    
(左側にてファウストに。)

10655

()


10660



(間。)
    
()
便()
10665
()
    



    
(鴉等に。)
さあ、己の耳の側へ来てまれ。
10670

※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)
    


10675

便
使
    

10680




    
10685

()
    


10690
わたくしはたしかな斥候を持っています。
命令権をわたくしにおさずけ下さい。
    上将軍
(この隙に歩み寄る。)
この人達と御結托なされたのを、
わたくしはうから心配していました。
幻術では堅固な幸福は得られません。
10695

()()()

    

10700
己はあの忌々しい情報や、
この男の鴉附合からすづきあいいやでならぬ。
(メフィストフェレスに。)


10705
まあ、どうにかなるようになる事だろう。
(上将軍と共に帷幄の中へ退場。)
    
()


    

    
       
10710
()()()()



()使
10715
所で誰が見てもその影をたいだと思うから妙だ。
(間。)
    ファウスト
あの鴉共が水の少女おとめ
しんからお世辞を言ったと見えるな。
あれ、もうあそこへ流れて来出した。
方々の水気みずけのない兀岩の上に、
10720


    

()()
    
()()
10725
()()

()

10730



    
()()
10735


鹿
()()()
10740
もう全軍の騒擾そうじょうになった。
(鴉等再び来る。)
お前達の事を大先生の所で褒めて遣る。
だがここで自分が先生になって遣って見る気なら、
これから火を焚いている鍛冶屋へ往け。
あの一寸坊共が、草臥くたびれると云うことなしに、
10745
()

()()

10750



湿()
10755
そこでお前達、何も大して面倒を見なくてもいが、
最初は丁寧に頼んで見て、それから出せと指図するのだ。
(鴉等退場。せりふの通の事共実現す。)
    


10760
()()


    
()()
()
10765


    
()()

10770
()()()()

()

10775


()()
()()
10780








()()

()()

    

    
()
    
()
10785

    


    
()
()
10790
    
()()

    

()
    
(武器を手に取る。)
こいつはこれで重宝だぞ。
10795
()



10800

()()
    


    
10805
()()
    


(箱転がり落ち、蓋開く。)
    

10810
    ()


    
()
(女立ち上がる。)
()
()
10815
()()
    


    

10820
()

    


殿
10825

    



10830
(はやえに。)

退
    
()

    
10835

    


    
()
()
10840
()()

()()

10845



帝と四諸侯と登場。
護衛等退場。
    帝
どうしてこれがこうなったにしても、兎に角会戦には勝った。
逃げた敵はもうちりぢりに野原に散らばった。
10850

()()()

()()使
便()
10855



()
()()
10860

()
()()
()
()
10865
()()()()
()()

()
10870
だから己は今すぐに、お前達四人の元勲と、
※(「門<困」、第4水準2-91-56)こんだい※(「門<困」、第4水準2-91-56)外一切の事を掟てようと思う。
(第一の臣に。)

()
10875
()
    

()()()()()

()
10880


    
()()

()
10885



    

10890
()()
()()

()
()()()
10895
()
    

()()
(第三の臣に。)
()()
()()
10900
()()

    


10905
()
()()()()()()
()
    
()
※(「酉+慍のつくり」、第3水準1-92-88)()
10910




    ※(「酉+慍のつくり」、第3水準1-92-88)
殿
10915



殿
10920
()()()
()()
()()()()

    
10925
()
()()
()()()()
※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)調
()
10930
(大司祭兼相国しょうこく登場。)
()


()()
10935

()

()()
10940




()
10945




10950
    

()
    


()
10955
()()()

()()
()()
10960
    
()()()
()
()
()
    
10965
()()()



()
10970
    
()()
()()
()()

    
10975
銘々この場を引き取って、内省いたしているがい。
(世俗の四諸侯退場。)
    大司祭
(一人残りて、荘重に言ふ。)

()

    
()()()
10980
    


()()()()
()
()
10985


()()

()()
10990
どうぞお胸におといになって、ほしいままに受けられた
この幸福の一分を、ロオマへお返しなさりませ。
あの悪魔がお身方をしに出て参って、
あなたが偽貴族の甘いことばをお聴納ききいれになった時、
あなたの帷幕の張ってあった、あの一帯の丘陵を、
10995



()()()()
()()
11000
※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)

    
()()
()
    
11005

()
()()
()
11010



()()
11015
()
    


()
    
11020
    帝
その寄附の合式証書をお前作って、己の前へ持って来い。
己は喜んで署名をいたしてつかわす。
    大司祭
(暇乞して起ち、出口にて顧みる。)

()
11025
綿

()()
使
11030

()()
(退場。)
    

使
    
(また帰り来て、最敬礼を行ひつゝ。)
今一つ申し上げます。あの評判の悪い男に、
11035
()
()

    

    
11040
お詞は有功だと、わたくし共は心得ておりましょう。
(退場。)
    






()()

    


11045

()()

()()()
11050
()()
()


11055
戸を叩こうか。呼んで見ようか。おい。
今もなお客を好んで、積善の余慶を受けているなら、
己の挨拶を聞いてくれい。
    おうなバウチス
(甚だ老いたり。)

()
11060
()

    


11065
聞いておもらい申したいのですが。
半分死んでいた、わたしの口を、
まめに養って下さったバウチスさんはあなたですか。
(翁登場。)
わたしの荷物を、骨を折って、波間から
引き上げて下さったフィレモンさんはあなたですか。
11070



()()
()
11075
()


(旅人沙原に歩み出づ。)
    おきなフィレモン(媼に。)
晴やかに花の咲いている、あの庭へ
急いで食卓の用意をおし。
11080
お客は走り廻って、驚いていてもい。
目で見ながら、不思議に思っているのだから。
(旅人の傍に来て立つ。)
荒波がしぶきを飛ばして、
お前さんをひどい目に逢わせた海が、
花園のようになっているのが見えますでしょう。
11085
()()



11090
殿()()
()

()
11095




()
11100
()

()

()
11105
皆賑やかな人里になっています。
(庭にて三人卓を囲みて坐す。)
    
()

    

()()
11110
    



()()
    
()()()
11115

使()


11120

()()()殿
    
()()使
()
()
11125
翌日は立派に土手がいてございました。
にえにせられて血を流した人達があったとかで、
よる苦しがって泣く声がいたしまして、
海の方へ火が流れて参ったと思いますと、
朝はそこが溝になっておりました。
11130


()()

    
()
11135

    
()

    
()
11140
そして鐘を撞いて、据わって、おいのりを上げて、
昔からの神様におすがり申しましょう。


宮殿


広き遊苑。真直に穿うがちたる大溝渠こうきょ
老いさらぼひたるファウスト沈思しつゝ歩めり。
    望楼守リンケウス
(通話筒にて話す。)
日は入り掛かる。
遅れた舟が面白げに港に這入って行く。
大きな舟が一艘、
11145
()()
()()
()

()
11150
沙原すなはらにて撞く鐘の声す。)
    ファウスト
(耳をそばだつ。)
()()
()
()
()()()()()()
()()
11155




()()
11160
()()()

    


()
11165
急いで持って来るだろう。
外国の産物を、豊富に、雑駁に積みたる華麗なる舟。
メフィストフェレス。三人の有力者。
    
()()


()()
11170
(陸に上りて、荷を陸に運ぶ。)
    
()()



()()
11175



()
()
11180
()



11185
舟軍ふないくさと貿易と海賊の為事しごととは、
分けることの出来ない三一同体だと云うのが※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)うそなら、
己は航海業の白人しろうとだ。
    三人の有力者
礼も言わねば挨拶もせぬ。
挨拶もせねば礼も言わぬ。
11190
檀那に臭い物でも
持って来て上げたようだ。
檀那はいや
顔をなさる。
王者のえもの
11195

    



11200
    有力者
あれはその折々の
退屈凌ぎだ。
割前は平等にして、
もらわなくては。
    メフィストフェレス
何より先に
11205
宝物たからもの
うえの座敷々々に
並べるのだ。
そこで檀那が数々の品物を、
お出になって御覧になって、
11210
そこで一々何もかも
精しく当って見なさるが、
なかなかごまかさせては
おきなさらぬ。
さてその上で乗組員に
11215



(荷物を運び去る。)
    メフィストフェレス(ファウストに。)
あなたは顔をしかめて、陰気な目をして、
すぐれた好運の話をお聴取ききとりになりますね。
11220




殿
11225
()



※(「舟+虜」の「田」に代えて「田の真ん中の横棒が横につきぬけたもの」、第4水準2-85-82)
11230
()()
()

    
      ()

11235



()()
11240




11245
己のしただけの事を見渡し、
土着した人民共の安堵するように、
賢く政治をして遣りながら、
未曾有の人為の大功を
一目に眺めていたいのだ。
11250




11255



    

()()
11260
()



11265



    

()
11270


    

()()
    
退
11275


    


11280
我慢が出来るものですよ。
(鋭く口笛を吹く。)
三人の有力者登場。
殿

    

()
11285
(退場。)
    メフィストフェレス
(見物に。)
やっぱりここでも昔あった事がまたあるのです。
ナボトの葡萄山と云うのがありましたっけね。


深夜


    望楼守
(城の望楼にありて歌ふ。)
物見に生れて、
物見をせいと言い附けられて、
塔にこの身を委ねていれば、
11290




鹿
11295

()


()
11300
これまで見た程の物は、
何がなんと云っても、
兎に角皆美しかった。
。)
だが己は自分のなぐさみにばかり、
こんな高い所へ上げられているのじゃない。
11305
闇黒の世界から、なんと云う気味の悪い
恐怖が己を襲って来ることだろう。
二重ふたえに暗い菩提樹の蔭から、
火の子が飛び出して来た。
風にあおり立てられて
11310

湿
()

11315


()

※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)()
11320




11325




11330

※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
()
()()
11335
(長き。歌。)
つね人の目を慰めた
幾百年の樹も滅びた。
    ファウスト
(出窓にありて砂原を望む。)
()()
()()()()
11340
心の奥で、早まったわざが己を悩ます。
あの半分炭になった幹には気の毒だが、
こうなれば菩提樹の木立を伐り開いて、
眼界を遮る物のないような
望楼をすぐ立てよう。
11345
己のなさけに救われた恩を思って
楽しく余年を送る、
老人夫婦の住んでいる
新しい家も、もう目に見るようだ。
    メフィストフェレスと三人の有力者と(下にて。)
大急ぎで遣って来ました。
11350


()

11355
()()()

()

11360
退()



11365
()()()()



    
()
11370

()
()
    

()
11375
大胆でさからいたけりゃ、
家も地面も身もけろ。
(退場。)
    ファウスト(出窓の上にて。)
星がもう光を隠して、
火も下火になって来た。
風がそよそよと吹いて来て、
11380
()






灰色の女四人登場。
    

    
         
    

    
        ()
11385
    

()
    

    
            
    

    
()()
11390
わたし錠前の穴から這入ってよ。
(憂消え失す。)
    

    

    

    
11395

()
(退場。)
    ファウスト(宮殿にて。)
四人来て、三人帰った。
話の意味は分からなかった。
なんだかなやみと云うような後声しりごえが聞えて、
11400
()()
()()
()()
()
()()
11405
()()


()
11410
()

()
()()
11415
()()()



(竦然として。)
誰かいるのか。
    憂
      そのお尋にはいなとは申されませぬ。
11420
    

    
        
    

    
   ()
    
(初め怒り、既にして自ら慰む。)

    

()
11425
姿

()
()
11430
()()

    

()
11435
()


()()
11440

()()
()()()
鹿
()()()
11445
()()


()
()
11450


    

()
11455




()
11460
()
()

()
11465

    
()

退()()()
()
11470
    

()
()()()

11475
()()



()()
11480
こう云う絶間のない経歴へめぐり
惜みながら措くこと、嫌いながらすること、
らくになったかと思っては、また悩されること、
おちおち寐ないで、気分の直らぬことが
体をその場に釘附にしていて、
11485

    
()()()

()()()
()
11490
()()
退()
()
()
    
11495
あなたに背中を向けるとき、わたしの力をおためし下さい。
一体人間は生涯めくらでいるものです。
そこで、ファウストさん、あなたは盲に今おなりなさい。
(ファウストに息をき掛け、退場。)
    ファウスト(失明して。)
夜が次第に更けて来たらしい。
だが心の中には明るい火がかがやいている。
11500


()()

使
11505
()()()


使

11510




松明たいまつ
    メフィストフェレス
(支配人として先に立つ。)

()()()

()()
    
11515




()使
11520


    

()
11525
()()


殿
鹿
11530
    死霊
(おどけたる態度にて土を掘る。)


()()


()
11535
杖を持って来てくれた。
己はちょっとつまずいて、墓の戸口へ転げ込んだ。
なぜまたあの戸が折悪おりわるいていたやら。
    ファウスト
(宮殿より出で、戸口の柱を手もて摸索す。)
あの鋤のからから鳴るのが、実にい心持だ。
あれは己に奉公している物共だ。
11540


()()()
    
()※(「こざとへん+是」、第3水準1-93-60)()
11545




11550
    

    
   
    
         

()
()
()()
11555

    

()()
    

11560
()()
()()


11565

()()
()
()
()
11570
()
()
()()()

()
11575

()()


11580

()

()()
11585
今己は最高の刹那を味うのだ。
(ファウスト倒る。死霊等支へ持ちて地上に置く。)
    
()()
姿

()()
11590
()
()
()
    
       ()

    
           
    

    
     鹿
11595




11600

()
()




    

11605
    
()()

    

()
    
11610

    



11615





11620

()()
()
()
()
11625
()()
()
()

11630

()

使
()()
11635
(羽の生えたる神人の如き、奇怪なる呪咀じゅその挙動。)

()

※(「月+咢」、第3水準1-90-51)
※(「月+咢」、第3水準1-90-51)
11640


()
(左のかたに恐るべき地獄の※(「月+咢」、第3水準1-90-51)ひらく。)
()
()()※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
11645

※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
()()
()
()
11650
()()

()()()
()
11655
(短き直なる角の胖大鬼等に。)


()

()
11660
()

※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)

()
11665
()殿()
()


(長く曲れる角を戴ける痩鬼等に。)
そっちの風来もの共。羽の生えた巨人おおひと共。
11670
()()
()

()
11675
(上右の方より光明さす。)
    
()()()

()()()
()使()
()()
11680
()
()


    
()調
11685




11690




使退
11695
()()

()
    使()
()
()()()
11700



()()()
()
11705





    
()
11710



()
()
11715
()()()()()
()


11720
()()



11725
    天使等(合唱。)
尊き花弁はなびら
悦ばしき※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
愛を広く世に施し、
心の願ふ
よろこびを生ぜしむ。
11730
()()
※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)()


    
鹿
11735
悪魔ともあろうものが逆立をして、
不細工な体で翻筋斗とんぼがえりをして、
けつからさきへ地獄に堕ちて往きゃあがる。
自業自得の熱い湯に難有ありがたく這入るがい。
己はここにこたえているぞ。
11740
(漂ひ来る花を払ひ/\。)



※(「(皎のつくり−亠)/多」、第4水準2-80-13)()
    使
()()
11745
()※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)



※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)
11750


    
()

11755

()



11760




11765
鹿




()
11770




11775


    使
()

(天使等回旋しつゝ、この場所を全くうずむ。)
    メフィストフェレス
(舞台の前端へ押し出さる。)
お前達は己達を咀われた霊だと云っているが、
11780
()使()



()()
11785




()
11790

()()
()()

()
11795




()()()
11800
    使
※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)
()
()
()
11805
悪を逃れて、
諸共に
救はれよ。
    メフィストフェレス
(気を取り直す。)

11810




11815

    使
()
()()

11820




(天使等ファウストの不死の霊を取り持ちて空にのぼり去る。)
    メフィストフェレス
(あたりを見廻す。)
はてな、どうしたのだ。どこへ行ってしまったのだ。
11825

()
()()

11830
()()

()


11835
鹿
()()()
()()()

11840

鹿





山の上、巌穴の間に、神聖なる隠遁者等分かれゐる。
    合唱の声と谺響こだま
ゆらぎてなびき寄る木立。
かたわらかさないわお
11845


()
()()
()
11850
我等の周囲めぐりを歩み、
尊き境を、
せいなる愛の御庫みくらを畏み守れり。
    感奮せる師父
(虚空を昇降しつゝ。)
とはなるよろこびの火。
燃ゆる愛の契。
11855
()
()
()()

11860

()
()()
()()
11865
    

()()()
()()

11870
()()()
()()


()()
()()
11875
怒号しつゝも心優しく、
谷間の土を肥やさんため、
その豊かなる滝の水は滝壺にぞ流れ落つる。
毒ある霧を懐ける
下界の空気を浄めんため、
11880
()()

使
()()使

()
11885
()

()
()
    使
()
11890

()()
()()
    ()()

()()
11895
()()
()
    使


()
11900
使
()()
()

11905
己の目と云う、
この世で用に立つ道具の中へ降りて来い。
そして己の目を我物にして使って、
この土地の様子を見ろ。
(師父童子等を目の中に受け容る。)
あれが木だ。あれが岩だ。
11910



    
()()()
11915

()()()
    使

()
()()
11920
()
※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)()
()

11925
    合唱する神々しき童子の群
(山の絶頂をめぐりつゝ。)
うれしく
手を輪に
繋ぎて動き、
尊き心を歌へ。
かしこく教へられて
11930
汝達なんたちよすがを得ん。
さて汝達が敬ふ神を
拝むことを得ん。
    天使等
(ファウストの不死の霊を載せてやゝ高き空中に漂ふ。)
悪の手から、
霊の世界の尊い一人が救われました。
11935
「誰でも、断えず努力しているものは、
われ等が救うことが出来る。」
それにこの人には
上のほうからも愛の同情が加わっています。
神々しい群が
11940
しんからこの人を歓迎します。
    やや未熟なる天使等
愛して下さる、
せいなる贖罪の少女達の手で授けて下さった、あの薔薇の花が、
わたくし共を助けて勝たせてくれました。
この霊の宝を手に入れる
11945
()()
()()

()
11950


()()
    使

()
11955
よしやその屑が石綿で出来ていても、
清浄ではございません。
強い霊の力が
元素を
掻き寄せて、持っていると、
11960
霊と物との二つが密接して
一つになった両面体を割くことは、
どの天使にも出来ません。
それを分けることの出来るのは、
ただ永遠な愛ばかりでございます。
11965
    やや未熟なる天使
岩山のいただきのめぐりに、霧のように棚引いて、
それから気近けぢかく動いて来る
霊共の振舞が
今わたくしに感ぜられます。
雲が澄んで来て、
11970
神々しい子供達の賑やかな群が、
わたくしに見えます。
下界のいましめを遁れて、
輪になって集って、
天上の
11975
新しい春とかざりとを味っている
子供達でございます。
この人も、追々すっかりとくの附くように、
最初はちょっと
この子供達と一しょになるが宜しゅうございましょう。
11980
    神々しい童子等
さなぎのようになっておいでなさるこのかたを、
わたくし共は喜んでお引受ひきうけ申します。
そういたすと、わたくし共は
天使のしちを持っているわけになりまする。
このかたに引っ附いている綿屑を
11985
取って上げて下さい。
もうこれでせいなる生活においりになって、
美しく、大きくおなりなさいました。
    マリアを敬う学士
(最高き、最浄き石龕せきがんにて。)
ここは展望が自由に利いて、
心が高尚になる。
11990



()
()()
11995
あの光明で己には分かる。
(歓喜して。)
()()


12000

()
()


12005

()
()
()()()
()()
12010

()()()()

()()()

12015
お膝元で
※(「さんずい+景+頁」、第3水準1-87-32)こうきを吸って、
めぐみを仰いでいる
優しい群です。

さわり申すことの出来ぬあなたにも、
12020
誘惑に陥り易い人達が
たよりに思ってお近づき申すことは、
禁じてないのです。
あの人達は自分の弱みのほうへ引き込まれると、
救って遣るのがむずかしいのです。
12025
意欲の鎖を自分の力で引きちぎることが
誰に出来ましょう。
斜に、たいらゆかを踏む足は
どんなにか早く滑るでしょう。
目附めつきや挨拶や世辞の息に、
12030
誰が騙されずにいましょう。
(赫く神母天翔あまがけり来る。)
    
()

()
12035
われ等の訴ふるを聞き給へ。
    大いなる女罪人
ファリセイの人々に嘲られつつも、
神々しく浄められたる御子みこ御足みあしのもとに、
バルサムなす涙を流しし
愛に頼りて願ひまつる。
12040
奇しきをいと多くしたたらせし
へいに頼りて願ひまつる。
尊き御手みて御足みあしを柔かに拭ひまつりし
髪に頼りて願ひまつる。
    サマリアの女
昔はやくアブラムが家畜の群に水飼ひし
12045

()()
()()
()
12050
あらゆる世界を繞り流るる、
清き、豊かなる泉に頼りて願ひまつる。
    エジプトのマリア
主を据ゑまつりし
いと畏き所に頼りて願ひまつる。
いましめてかどより我身を押し出だしし
12055
()

()()()
()
()
12060
    三人諸共に
大いなる罪ある女子共おみなこども
かたはらより遠ざけ給はで、
贖罪の利益りやく
永遠とこしえに加へ給ふおん身なれば、
ただ一たび自ら忘れしのみにて、
12065
あやまちすとも、自らさとらざりし、
この善きれいにも、
ふさはしく御免みゆるしを賜へ。
    贖罪の女等の一人
(かつてグレエトヘンと呼ばれしもの。神母にすがりまつりて。)
較べる物のないあなた様。
光明の沢山さしているあなた様。
12070
どうぞお恵深くお顔をこちらへおむけ遊ばして、
わたくしの為合しあわせを御覧なされて下さいまし。
昔お慕われなされたおかた
今はもうにごりのないようにおなりなされたお方が
帰っておいでなさいました。
12075
    神々しき童子等
(輪なりに動きて近づきつつ。)
もうこのかたは手足が大層伸びて、
わたくし共より大きくおなりになりました。
おおかた大事にお世話をして上げた御返報を
沢山なすって下さるでしょう。
わたくし共は人の世の群から
12080
早く引き放されましたが、
この方はおまなびになったのです。
おお方わたくし共におおしえなすって下さるでしょう。
    一人の贖罪の女
(かつてグレエトヘンと呼ばれしもの。)
難有ありがたい霊の群に取り巻かれていらっしゃるので、
新参のあの方は自分で自分がお分かりにならない位です。
12085

()()
()

12090
()()
()()
()()
    
()()
()
12095
    マリアを敬う学士。
(俯伏して崇拝しつつ。)
悔を知る、優しきもの等よ。
汝達なんたち皆畏き境界に
つつしみて身を置き換へんため、
すくい御目みめを仰ぎまつれ。
あらゆる向上の心は
12100
()

()()
    

12105




12110
我等を引きて往かしむ。






 11
   199682221
   2007196255
FAUST. EINE TRAG※(ダイエレシス付きO)DIEFAUST. EINE TRAGODIE
1
()()()()()675


20121031

http://www.aozora.gr.jp/







 W3C  XHTML1.1 



JIS X 0213



JIS X 0213-


「口+(「行」のぎょうにんべんにかえて「金」)」、U+20F2B    86-17、150-19
「貝+(人がしら/示)」、U+8CD2    151-2
「月+亨」、U+811D    465-11


●図書カード