さわやかで、明るい、静かな物語をかこう。
この物語の中の人たちは、金と女、愛と憎しみ、罪や汚れに困りぬいている。泥沼へおちてぬけでられない男もいるし、死に場所をさがす女もいる。誰か死ぬかも知れない。みんなの負うている宿命は暗いが、それは人間全部のものだろう。
街にはザワザワと無数の跫あし音おとがむれている。泥棒の跫音も、パンパンの跫音も。しかし、人間のふるさとは人間の中にしかないと分れば、生きることほど、なつかしいものはないだろう。
地獄の門をくぐりぬけて青空の下へでることもできる。ふるさとは、どこにでもあるのだ。どこも、かしこも、さわやかで、明るくて、静かなはずである。