椎茸と雄弁

岸田國士




舞台は全体を通じ黒無地の幕を背景とし、人物の動きを規定する最小限の小道具を暗示的に配置する。
各場面の転換は暗転式とし、装置にはなんらの変更を加へず、時間の無意味な断絶を避ける。

ファンタスチックな伴奏音楽を使つてもよい。

人物の扮装は、できるだけ様式化したものでありたい。


一ノ一






   便  

ノロミとナベタ登場。

   
ナベタ  栄養が必要だといふことでせうか?
  
ナベタ  はあ。
アカハラ  もうひとつは? ノロミ君!
ノロミ  さうですなあ、なにかに感じるといふことも、ひとつございますネ。
  
ノロミ  それはその通りで……。
    
  
     
  
  
ノロミ  それや、厖大な数字です。
  
  

アカハラ  黙りなさい。社の高等政策は、一使用人である君の容喙すべき範囲ではない。


取次ぎの若い男がはいつて来る。

取次の男  社長、ご面会の方がみえてゐます。(名刺を差出す)
アカハラ  なんだ、聞いたことのない名前だな。なんの用か聞いてみたか。
取次の男  はあ、椎茸栽培事業のことで、是非社長のご意見を伺ひたいと申されるんです。

アカハラ  非常に多忙のところだけれども、折角だから、五分ばかりお目にかゝりますといへ。茶は出せといふまで出さんでよろしい。


取次の男去る。

ナベタ  では、すこし考へてみます。
アカハラ  あゝ、考へて……。え? なにを考へるんだ?
ナベタ  このまゝやつて行けるか、行けないかをです。

  

ナベタと入れ達ひに、色眼鏡をかけた男が、おづおづはいつて来る。

アカハラ  さあ、どうぞ……。簡単にお話を承りませう。
  
アカハラ  当節は、十分な資力なんぞどこにだつてあるものか。
  
  
色眼鏡  現在までは、学校の教師をしたり、ある鉱山所有者の先代の伝記を書いたり……。
   
   宿
   
  
  
  
  
色眼鏡  どうしてもダメですか? では、もし僕が、当会社の宣伝を専ら引受け、場合によつては、菌種の販売に努力するといふ条件ならどうでせう?
  
  

アカハラ  まあ、まあ、こつちのことより、そちらのことを第一にお考へなさい。


色眼鏡、退場。

ノロミ  大した代物ですな。椎茸の話で人を集めることは、農務省主催でもむづかしいさうですから……。
アカハラ  学校の教師なんてものは、自分の喋ることは人が金を出して聞くものと思つとるんだよ。
  
アカハラ  あんな風来坊は、追つ払ふ以外に要領なんぞあるものか。
   
   
ノロミ  えゝと、奥さんは、どちらの奥さんで?

  


退





工場の内部。
色眼鏡をかけた男、東亜産業社長アオガサキと並んで登場。

  
  
  
色眼鏡  三十二になりました。
アオガサキ  ご家族は?
色眼鏡  家内をもらつたばかりです。忽ち二人の口が、乾上りさうなんです。
  
色眼鏡  せめて、自由に動ける乗物代でもあれば……。
アオガサキ  まつたく、当節はうつかり汽車にも乗れませんからなあ。社員の出張も、本年度からぐつと締めてかゝつてゐます。
色眼鏡  講演料は、まさかこつちから請求もできませんし……。
アオガサキ  呉れるといふものは、とつておおきなさいよ。
色眼鏡  手弁当で歩くにしても……。
アオガサキ  それやさうですとも……宿賃だつて馬鹿になりませんよ。主催者側で、なんとか心配はするでせうが……。
色眼鏡  万一の用心に、多少は……。
  
色眼鏡  それもさうですが、二つに分けるその一方の方を、こゝでなんとかしていたゞけないでせうか?

  






  ()
色眼鏡  種はなに式を使つてゐますか。
カマ  何式だか知らないけれど、仲間が買つたやつを買つたんだ。
  
  使
  調
色眼鏡  たしかにさう言ひました。
  
  
   
  
  湿
  
  使使
  
キン  そんなら、なんのためにござつたんだ。
ノブ  そこがわしにもわからんのだ。
サタ  椎茸の速成栽培とその利廻りについて、だよ。わしや、椎茸には見きりをつけた。
  宿宿()
サタ  どら、わしは、まだ薪切りを終へてないから、お先へ失礼するよ。(退場)
ノブ  しまつた。山羊をおつぽり出したまゝ、すつかり忘れてゐた。(退場)
キン  おれのところの嬶は、ちつと気が変になつてな、お客とみると、鎌もつて飛びかゝるんだ。(退場)
ゲン  今夜はひとつ、虱退治をしてやらう……。畳の上をゴソゴソ音を立てて歩いてやがる……。(ゆつくり退場)
イガ  お袋のぜんそくがひどくなつたと思つたら、今度は嫁が産気づきやがつて、やれやれ、おちおち眠つちやいられないや。(ゆつくり退場)
カマ  さて、明日の天気は、どんなもんかな。(退場しようとする)
デン  天気の心配はこつちでしてやるから、てめえの家で、先生をお泊めしろ。
カマ  おれの家で? だつて、おれの家は嬶と二人つきりで、夜具は上下二枚だ。
デン  てめえさへよかつたら、間へへえつてもらへ。
  退
  
色眼鏡  よろしいやうにつて、君、僕をこゝへひとり……?

  宿 


退






ノロミ、アブタ、白面の警官に案内されて登場。

  
警官  それぢや、こゝで話をつけるかね? 火がなくつて寒かつたら、駐在所へ来てもかまはんよ。
  
警官  (色眼鏡をゆり起し)君、君、この方がなにか話があるさうだよ。
色眼鏡  (起きあがり)こんな土地ははじめてだ。一肌ぬがうつてやつが、一人もゐないのには驚いた。
ノロミ  わたしを覚えておいででせうか。
色眼鏡  あゝ、東亜産業の……。
  
色眼鏡  なにごとです?
  
色眼鏡  ぼつぼつやつてゐます。使命の重大性と困難とを痛感してゐます。
  
色眼鏡  僕の講演内容についてですか。
  
  
  
  
  
色眼鏡  数字に関しては、科学的良心にかけて、金輪際、間違ひはありません。
アブタ  ですが、肝要な平均収量を、経験の少しあるものならすぐにわかるやうな杜撰な数字で、お示しになるといふのは……。
色眼鏡  なにが杜撰ですか。君の頭で、それが指摘できると思つてるんですか?
ノロミ  さうおつしやるなら、こちらも申しますが……。
  
  
  
  
色眼鏡  君たちは、事を急ぐからダメなんだ。まあ、もうすこし気長に僕のやることをみてゐてごらん。
  
色眼鏡  すると、どこをどうしろと言はれるんですか。
  
  
ノロミ  さやうではありませうが、そこをなんとか、ひとつ……。
色眼鏡  どうすればいゝんです。
ノロミ  多少、色をおつけ願つて……。
色眼鏡  クサビ式に限つて、年間収量、原木百貫に対して十貫までは行く、とやりますか?
ノロミ  いや、クサビ式と限らなくともですな……。
アブタ  先生は、その点、一方の提灯持ちをなさる方ぢやないから……。
   
アブタ  はあ、そのことにつきましては……。
ノロミ  別に譲歩や妥協を申込んでゐるんぢやありません。
アブタ  こちらは、正当な要求、いや、お願ひをしてるつもりなんですが……。
  
  
  
  
   
ノロミ  警察はどうお考へですか?
警官  別に怪しい点はないと思つたが……。
アブタ  それより、われわれの正当な要求とですな、それを受け容れようとしない先方の人を食つた態度とをです、警察の立場で、どう裁かれますか?
警官  わしは椎茸のことはよくわからんで、まあ、君たちの間で、円満に話をつけてくれたまへ。
  
警官  さういふもんだらうね。
ノロミ  営業妨害の事実を、こつちではちやんと証拠だてる用意がある。
  
警官  わしかね。わしは椎茸のことはまるでわからんよ。
色眼鏡  僕の自由行動を束縛しようといふ、この連中の言ひ分を、さつきから聞いてゐられる筈だ。
警官  なるほど、そのことか……意思表示はあつたね。
  
警官  出るところへ出るといふ話にきまつたのかね。
ノロミ  次第によつては、止むを得んといふ……。

  ()()

ノロミとアブタが、何かこそこそ囁き合ふ。

  
アブタ  社長からもくれぐれもさう云ひつかつて参つたのですが、どうも、われわれも若いもんですから……。
色眼鏡  君の若いのはわかつてるが、こつちは、さう若いともいへんね。
  
  
  
色眼鏡  (そつとのし袋の紙幣を引き出してみて)折角だが、これは、君、お返しします。
ノロミ  え? ま、ま、さうおつしやらずに……。
アブタ  (ノロミの肱をつゝく)
ノロミ  弱つたな。でも、先生……。
色眼鏡  なぜ返すか、おわかりでせう。
ノロミ は? それが、ちよつと……。
アブタ  ねえ部長、多分間違ひないと思ふんですが、一度、念のため中味を調べさせていたゞいたら?
  
  ()
  
アブタ  さあ、僕は知らんですな。あん時ぢやないですか?
ノロミ  うん、たしかにあん時かも知れん。
色眼鏡  一万のうちから、きつかり二千円だけ残す放れ業は、これや、スリにしても前科七犯だね。
ノロミ  まつたく、油断もすきもありやしない。(更めて紙幣を入れ、のし袋を渡す)こんどこそたしかに……。

   宿


退





色眼鏡が演壇から聴衆に向つて話しかける。聴衆は、人形のやうに、動かない。

色眼鏡  これで、椎茸の歴史、食用茸としての特性、世界に於ける分布、その種類、次ぎに、農家の副業としてこれを如何に栽培し、如何に生産品を処理し、市場へ出荷するか、といふ手順と方法とを申しあげ、そして、最後に、これが企業として有利に成り立つ所以を、やゝ詳しく数字をあげて説明いたしました。重ねて申しますが、現代におきましては、椎茸は、食用きのこの王座を占めるものでありまして、国内の消費はもとより、海外に於ける日本シヒタケの需要激増に伴ひ、先づ中国を筆頭とし、ついで、アメリカその他の先進国も、競つてその大量輸入を計画中であります。然るに、その生産額たるや、はるかに註文数量を下廻つて、主要産地たる静岡県の如きは、全村を挙げて椎茸速成栽培に打ち込んでゐるところがあり、近頃の新聞の文句をかりれば、うれしい悲鳴が到るところであがつてをります。さて、それから、椎茸は誰がどこでやつても成功し、数さへ多くやればそれだけ確実に儲けがあるか、と申しますと、どんな事業でも同じですが、さうはうまくは問屋が卸しません。百人のうち、まづ成功するのは一人か二人、どうにかかうにか元だけは取返すといふのが七、八人、あとは失敗者、完全な失敗者であります。なぜかといひますと、たとへ信用ある会社や試験場の菌種を手に入れ、植付け、寝せ込みの操作に、なんら間違ひはなくつても、あと一年間を通じて、どうしても相手に乗ぜられる隙といふものがあるからです。つまり、無精、不注意、横着、性急、ことに、温度と湿度に対する感度の鈍さ、これが、椎茸栽培の致命的なガンであります。温度は摂氏十度から十八度、湿度は、空気中の水蒸気の量でありますから、これが、六十五から七十五パーセントまでを最適として、その期間をうまくとらへる感覚の訓練が必要であります。温度と湿度の調節を誤つては、他の如何なる工夫努力も、まつたく無駄なのであります。この地方は、山岳地帯で、比較的乾燥度が高いのですから、夏季及び冬季に、普通の伏せ込み方をしたのでは、ホダ木に水分が不足して、春と秋の収穫が激減するでせう。そのために、是非、ムロのやうなものを造る必要があります。さもなければ、冬季の強い風当りを防ぐために、南面障子張りの地下式フレムを用意するのがいゝでせう。更に、ホダ木に水分を補給するために、プールの設備があつた方がよろしい。まあ、手のかゝらない、一般的な栽培法で試してごらんになるのもいゝが、ほんとをいふと、これだけの用意をしてかゝらなければ、思ひ通りの生産は得られません。念のために附け加へておきます。不成功の場合には、必ずそれだけの理由、原因があります。そして、それは決して、稀れなことではなく、およそ、誰でもが、必ずその理由のために、その原因のために、失敗を嘗めるのが、この面白い椎茸栽培の皮肉であります。去年の春、おれは一万本植ゑた。ところが、今年の秋までに出る筈の椎茸が、頭さへ一度もみせないうちに、ホダ木は、半分以上腐つてしまつた。これが、大多数の経験者が恨めしげに語る告白であります。これなら、はじめからやらない方が気が利いてゐる。よくはわからんが、まあとにかく、人がいゝといふからやつてみようなどと、夢にも考へてはなりません。これだけは、試してみる必要は、さらにないのです。すべてが試験ずみだからです。やれるものにはやれるが、やれないものにはやれない。これが、明白な事実です。やれないものが、なまじ椎茸菌など取り寄せて、ホダ木を兵隊のやうに並べてみたところで、たゞ、雑菌の餌食にするばかり。それより、山林乱伐の先が見えてゐる今日、そのホダ木を薪にして大切に使つた方が、悧巧と言はなければなりません。これで、今日の話を終ります。





  ()
  
  湿
  
ナラ  女癖がわるからうが……。
  湿
イソ  いや全くの話、それだけで、わしは落第だ。よくうつかり手を出さなかつたもんだ。
老人  椎茸さへやれば、葬式代は楽に出ると安心しとつたに、これや考へなほさにやならん。
  
老人  はゝは、とんでもない。わしや、もうこれで七十六だ。
ナラ  だからよ、先生のお宿をしてさ、もつと為めになる話を聴かしてもらひなよ。
  便
イソ  (ナラに)ダメだね、これや。お前のところで、なんとかしろよ。
ナラ  いゝことを考へたよ。今日は生憎顔はみえなかつたが、ほら(耳うちして)あいつのところはどうだらう。
イソ  わるくないな。おれとお前で頼みや、いやとは言ふまい。
ナラ  第一、先生に、自慢の椎茸を見てもらへるぢやないか。
色眼鏡  あゝ、それや、是非拝見しませう。手広くやつてをられる方ですか?
  
  
色眼鏡  ご老人ですか?(歩きだす)
イソ  あれで、いくつになるかな。
ナラ  若い男衆の世話なら、親身にするつていふ六十の後家だ。遠方からだと、二十ぐらゐにみえるよ。

  


退





アカハラ、ひとり言をいひながら、部屋の中を歩きまわつてゐる。

 なんとしても、最後の手段に訴へるよりしかたがない。法律的にみて、これはどうにもならんといふんなら、頭からおどしつける手もなくはないが、果して、彼、暴力なるものをおそれるかどうかだ。近頃のやり口は、故意か偶然か一方で椎茸を極力奨励するとみせて、その実、まつたく、逆の効果をあげてゐる始末だ。いまいましいが、ひとつ、どの程度で押えるか、あつちと底を割つて相談をしてみよう。被害の程度は、いづれ、おつつかつつに遠ひないが、あつちは、それを公然と認めるかどうか。或は、あの曲者のアオガサキ、例によつて虚勢を張るかも知れん。こつちの弱味を見せるべき時機ではないが、同業者として、当然、協同戦線を張ることに、まさか異議は唱へまい。

ノロミ、アオガサキを案内して登場。

ノロミ  お迎へして参りました。だいたい、こちら様でも、情報はお集めになつてゐる様子で……。
  
アオガサキ  それはそれは、ご丁寧にどうも……。同業相疎んずといふわけではないが、ついかけ違つて……。
  
アオガサキ  どうしまして……新参者のなにかと手違ひだらけで、お恥かしい次第です。クサビ式の地盤は、さすがに厳としてゆるぎませんよ。
  
  
  
アオガサキ  すると、どんな手を打ちますか。
  
  
  
アオガサキ  その傾向はあるらしいですな。
  
アオガサキ  多少はあるかも知れませんが、さういふケースはごく稀れです。お宅の場合は、何かほかに理由がありやしませんか。
アカハラ  と、おつしやると、なにか、クサビ式の……。
  
  
アオガサキ  まあ、そのへんの見解は、お互に多少の差があるものとして、こちらは、一歩あなたに譲りますが、その対策をいつたい、どうしますか? 名案がおありですか?
  
アオガサキ  と、いふと?
アカハラ  完全に買収することです。
アオガサキ  買収とは、利をもつて誘ふ?
  
アオガサキ  で、それを強制する力は? われわれにありますか?
アカハラ  金の力以外にはありますまい。
アオガサキ  金をつかませる? 金で自由になりますか?
  
  
アカハラ  組合といふわけにいきますまいか。
アオガサキ  それは、組合の理事長たるあなたの権限だ。理事会にはかる必要がありますか?
アカハラ  副理事長たるあなたのご同意を得れば、宣伝費から捻出しませう。
アオガサキ  わたしは敢て反対はしません。但し、これも程度の問題ぢやありませんか?
アカハラ  (ノロミに)おい、もう来てる時間だらう?
ノロミ  多分、来てゐると思ひます。時間を正確にと申しておきました。(退場)
アオガサキ  こゝへ、奴さん、来るのですか?
  
アオガサキ  用意周到、おそれ入りました。ひとつ、あなたのお手並を拝見しませう。

アカハラ  睨みを十分利かしてゐてください。


ノロミに連れられて、色眼鏡、落ちつき払つて登場。二人の前に立ち、やゝ挑戦的な態度で、

色眼鏡  わざわざお使ひを恐縮でした。ご相談といふのは何事でせうか?
  便退
色眼鏡  おつゞけください。
アカハラ  これだけ。あとは、ゆつくり、ご相談といきませう。
色眼鏡  僕の回答をお求めのやうですが、それに間違ひはありませんか?
アカハラ  間違ひありません。
色眼鏡  そのご提案は、条件云々を含めて、固くお断りします。
アカハラ  条件を聞かぬさきから、断られるといふのは?
色眼鏡  条件の如何に拘はらず、拒否といふことです。
アカハラ  よくわかつてをられん。
  
アカハラ  生涯をかける仕事は、ほかにないですか?
  
アカハラ  勇気をおだしなさい。
  
アカハラ  感情をはなれてお答へをすれば、然るべき価格でわたしの会社を売り渡すといふ場合はあり得ませう。
  
アカハラ  ご相談といふのはそこなのですが、向ふ六ヶ月間、あなたはたゞ研究の方に没頭されるやうにして、その間のご生活を、われわれの方で保証するといふことは、どうでせう?
色眼鏡  なんの魅力もありませんな。
アカハラ  どうしても講演がなさりたい?
色眼鏡  口を封じられるのは死も同然です。
アカハラ  それなら、栽培に関することを除いて、あなたの最も得意とされる椎茸の歴史についてだけ、お話を願ふやうにしたら?
色眼鏡  歴史だけでは物足らんですな。
  
色眼鏡  それで、たつた六ヶ月の生活費ですか?
アカハラ  いや、ご希望によつて、そこはもうすこし……。
色眼鏡  掛引はやめてください。いくら出せるんですか?
アカハラ  さあ、わたし一存では、ちよつとそれ以上のところは、ご即答いたしかねますが……。
色眼鏡  やめておきませう。
アカハラ  奮発して一年間、いかゞでせう。
色眼鏡  何年でもいゝですが、それは、月いくらの勘定ですか?
  
  
アカハラ  二十万……それはちと……。
色眼鏡  ダメ? そんなら、この話は……。
アカハラ  いや、ダメといふわけではありませんが、できれば一度でなく……。
   
アカハラ  (アオガサキに)ごらんの通りで……。
アオガサキ  理事会が承認するかどうか、安全なところは、お宅の宣伝費から捻出なさることですな。
アカハラ  ともかく立替へておきませう。(小切手を書いて、色眼鏡に渡す)

  

奥より女将風の女現れ、ていねいにお辞儀をする。

女  では、お支度ができましてございます。どうぞ、こちらの広間の方へ……。

アカハラ  なんにもありませんが、円満解決のしるしに一コン差しあげます。さ、みなさん……。





  


退









7
   1992327

   1950251115
 
   19502531
5-86
kompass

2011925

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●表記について


●図書カード