お姫さまは朝から、大変ごきげんがわるうございました。そして、ぷりぷり、おこつてゐらつしやつたので、いつものかはいゝお姫さまではなくて、年をとつた、おばあさんのやうに、こはいお顔をしてゐらつしやいました。そこへ、お姫さまの大好きな、猟師が山から帰つて参りました。そして、 ﹁お姫さま、今日は何にも、えものがございませんでした。﹂と猟師が申しました。 ﹁えものがなかつたの?﹂と、お姫さまはおつしやいました。そして、お泣きになりました。そこで、猟師が申しました。 ﹁それがです。私わたしは、どんと、この鉄砲を打ちました。猟犬のレオは、一散に走つて行つて、えものをくはへて来ました。まあ、おどろくではございませんか、おもちやの熊くまなんです。そしてそのおもちやの熊は死んでゐました。また、けものが出て来ました。真まつ白しろな犬いぬ位ぐらゐある奴やつなんです。これはと思つて引金を引きました。レオは飛んでゆきました。まあ、何となさけないことでせう。白い、小ちやい犬ころでした。 仕方がないので、谷へおりて行つて水をのまうと致しますと、目の前に、わに程もあるお魚が泳いでゐるのでございます。私はすつかりおなかがへつて、ぺこぺこでした。急いでそれをつかんで、口の中へ、はふりこみました。まあ、何て、かたい肉でせう。私の前歯が四本ともぼこぼことをれてしまひました。お姫さま、それは、五寸位の、鉄のおもちやのお魚でした。私は、なさけなくなつて、ぐつたりと大きい木にからだをもたせかけましたら、どしんと、私はひつくりかへりました。何にも、木なんぞありませんでした。よくよく足もとを見ると、おもちやの松の木がころがつてゐました。﹂ この猟師は﹇#﹁ この猟師は﹂は底本では﹁この猟師は﹂﹈、かう言ひながら、泣きさうになりました。大変年寄りでしたから無理もありません。 ﹁まあ、お前は馬鹿ねえ。なぜ、そのおもちやを、私にもつてかへつてくれなかつたの。﹂とお姫さまがおつしやいました。 猟師は、さも困つたやうに胸をどきどきさせて涙をこぼしました。 ﹁お姫さま。私はさう思ひました。そして、それをひろひあげて、この網のなかへ入れようと致しますと、みんな、網のなかへははひらず、外へこぼれてしまひました。お姫さま、それは、たしかに夢だつたんでございます。﹂ お姫さまは大きい声でお笑ひになりました。美くしいお姫さまが、ごきげんを直したので、猟師はやつと安心して、胸をなでおろしました。そして、二人で、いつまでも笑ひました。