一匹の子熊ぐまが、森のなかから、のこ〳〵と日あたりのいい、のはらに出てきて、倒れてゐた丸太の上にこしをおろして、うれしさうにフフンとわらひました。 子熊はふところから、はちみつを入れたつぼをとりだして、ゆびでしやくつて、ちび〳〵なめはじめました。 ﹁いつたべても、うまいのははちみつだ。はちみつにかぎる。あまくつて、おいしくつて。﹂とひとりごとを言ひながら、せつせとなめてをりました。 すると、そこへ、一匹のみつばちが、ブーンととんで来て、子熊の帽子のまはりを、ぐるぐるまひながら、言ひました。 ﹁子熊さん。僕ぼくは、ほんとに、はらが立つてたまらないよ。﹂ ﹁何がはらがたつんだ。僕はなんにも、君にわるいことなんかしたおぼえはないよ。﹂と、子熊は、やつぱり、みつをたべながらこたへました。すると、みつばちは、 ﹁だつて、君、かんがへてみたまへ。君は、僕たちが、長い間、くらうをしてためたみつを、それこそ、べろ〳〵と、見てゐるうちになめちまうんだもの。これくらゐ、はらのたつことはないよ。﹂と、羽をふるはせて言ひました。 子熊は、かう言はれて見ると、何だかはちに、気の毒なやうな気持になりました。そこで、 ﹁はちくん。そんなにおこらないでくれ。そのかはりに、僕は、君をいゝところへつれてつてあげよう。﹂といつて、子熊ははちを、花の一杯さいてゐる、誰だれも知らない、谷間へつれて行つてやりました。