俺の饑うゑよ、アヌ、アヌ、 驢馬に乗つて 逃げろ。 俺に食くひ気けが あるとしたら、 食ひたいものは、土と石。 ヂヌ、ヂヌ、ヂヌ、ヂヌ、空気を食はう、 岩を、火を、鉄を。 俺の饑うゑよ、廻れ、去れ。 音おんの平原! 旋ひる花がほのはしやいだ 毒を吸へ。 貧者の砕いた 礫を啖へ、 教会堂の 古びた石を、 洪水の子なる 磧の石を、 くすんだ谷に 臥てゐる麺パ麭ンを。 俺の饑は、黒い空気のどんづまり、 鳴り響く蒼空! ――俺を牽くのは 胃の腑ばかり、 それが不幸だ。 地の上に 葉が現はれた。 饐えた果実の 肉へ行かう。 畝うねの胸で 俺が摘むのは、 野のぢ萵し苣やに菫。 俺の饑よ、アヌ、アヌ、 驢馬に乗つて逃げろ。