てんで不ぶき器よ用うなやつだった。奥おくさんに向むかって、鍛か冶じ屋やに行いって医いし者ゃの道どう具ぐを手てに入いれるつもりだと言いった。つぎの日ひ、鍛か冶じ屋やのところに行いった。 ﹁今きょ日うはどこへ行いくのかね﹂鍛か冶じ屋やがたずねた。﹁医いし者ゃの道どう具ぐを作つくってもらうつもりさ﹂ ﹁どんな道どう具ぐを作つくればいいのかね﹂﹁クラムシュキーンとギャルシュキーン(*1)を作つくってくれ﹂鍛か冶じ屋やは作つくってくれた。家いえに帰かえった。 朝あさが来きて――つぎの日ひのことだ――ニール・オキャリーは起おき上あがった。医いし者ゃとしてやっていく準じゅ備んびをして、出でかけた。どんどん歩あるいて行いった。街かい道どうのわきに赤あか毛げの若わか者ものがいた。そいつはニール・オキャリーにあいさつした。ニールもそいつにあいさつした。﹁どこに行いくんだい﹂赤あか毛げの男おとこがたずねた。﹁お医いし者ゃになるつもりさ﹂﹁そりゃけっこうな商しょ売うばいだ。おれを雇やとうといいよ﹂﹁給きゅ料うりょうはいくら欲ほしい?﹂﹁またこの場ばし所ょに戻もどってくるまでに稼かせいだ金かねの半はん分ぶんだ﹂﹁いいだろう﹂ふたりは歩あるいていった。 ﹁王おうさまの娘むすめがいてな﹂と赤あか毛げの男おとこが言いった。﹁死しにかけてる。出でかけていって、治なおせるかどうか見みてみよう﹂ふたりは門もんまで行いった。門もん番ばんが近ちかづいてきた。門もん番ばんは、どこへ行いくつもりだとたずねた。ふたりは、王おうさまの娘むすめを見みて、治なおせるかどうか試ためすつもりだと答こたえた。王おうさまはふたりを中なかに入いれさせた。ふたりは入はいった。 ふたりは娘むすめが寝ねているところへ行いった。赤あか毛げの男おとこが進すすみ出でて、脈みゃくをとった。男おとこは、ご主しゅ人じんが骨ほね折おりのお代だいをいただけるなら、娘むすめを治なおせるだろうと言いった。王おうさまは、なんでも望のぞみの褒ほう美びをやろうと言いった。﹁この部へ屋やにおれとご主しゅ人じんさまだけにしてくれたら、そのほうがいい﹂王おうさまは、そうさせようと言いった。 男おとこは長ながい柄えつきの鍋なべに水みずを入いれて持もってこさせた。鍋なべを火ひにかけ、ニール・オキャリーにたずねた。﹁医いし者ゃの道どう具ぐはどこだ﹂﹁ほらここに、クラムシュキーンにギャルシュキーンだ﹂とニールは答こたえた。 男おとこはクラムシュキーンを娘むすめの首くびにあてた。娘むすめの頭あたまを切きり取とった。ポケットから緑みど色りいろの薬やく草そうを出だした。それを首くびにこすりつけた。血ちは一いっ滴てきも出でなかった。男おとこは頭あたまを鍋なべに入いれ、ひと煮に立たちさせた。耳みみをつかんで鍋なべから取とり出だした。首くびに頭あたまを押おしつけた。頭あたまはもとのとおりにくっついた。﹁気きぶ分んはどうだい﹂﹁すっかりよくなったわ﹂と王おうさまの娘むすめは答こたえた。 大おお男おとこがおおきな声こえを出だした。王おうさまが入はいってきた。王おうさまはたいそうよろこんで、三みっ日かのあいだふたりをひきとめた。いよいよ出しゅ発っぱつするというとき、お金かねの詰つまった袋ふくろを持もってきた。王おうさまは袋ふくろの中なか身みをテーブルにあけた。ニール・オキャリーに向むかって、これでじゅうぶんかとたずねた。じゅうぶんどころか多おおすぎるから、半はん分ぶんでいいとニールは答こたえた。王おうさまはぜんぶ持もってゆくようにと言いった。 ﹁べつの王おうさまの娘むすめが、おれたちが行いって見みてやるのを待まっていますから﹂ふたりは王おうさまに別わかれを告つげて、べつの王おうさまの娘むすめのところへ行いった。 ふたりは娘むすめを見みに行いった。娘むすめが寝ねているところへ行いって、ベッドの中なかの娘むすめを見みて、前まえと同おなじように治なおした。王おうさまはよろこんで、どれだけお金かねをやってもかまわないと言いった。王おうさまは三さん百びゃくポンドをくれた。ふたりは家いえに向むかって出しゅ発っぱつした。 ﹁かくかくしかじかのところに王おうさまの息むす子こがいるが、そいつのところへは行いかないでおこう。いまある金かねを持もって家いえに帰かえろう﹂と赤あか毛げの男おとこが言いった。 ふたりは家いえに向むかった。王おうさまは十じゅ頭っとうの牝めう牛しもくれたので、いっしょに連つれて帰かえった。どんどん歩あるいていった。ニール・オキャリーが赤あか毛げの男おとこを雇やとったところまで来くると、男おとこは言いった。﹁はじめておまえに会あったのはここだったな﹂﹁そうだな﹂とニール・オキャリーは答こたえて、﹁おう、金かねをどうわけようか﹂と言いった。﹁半はん分ぶんずつだ。そういう約やく束そくだった﹂﹁おまえに半はん分ぶんやるのは、やりすぎじゃないか。三さん分ぶんの一いちでじゅうぶんだ。クラムシュキーンとギャルシュキーンはおれのものだが、おまえはなにも持もっていない﹂﹁半はん分ぶんもらえないなら、おれはなにもいらない﹂ふたりはお金かねのことで仲なかたがいした。赤あか毛げの男おとこは行いってしまった。 ニール・オキャリーは馬うまに乗のって家いえに向むかった。牝めう牛しの群むれを追おいたてていった。日ひざしが暑あつくなってきた。牛うしたちは、あっちへこっちへふざけまわった。ニール・オキャリーは群むれをまとめようとした。一いち、二にと頭うを捕つかまえたと思おもったら、戻もどってきたときには残のこりがどこかへ行いってしまっているという具ぐあ合いだった。ニールは木きの枝えだにギャラーン︵去きょ勢せいした牡おう馬ま︶をつないだ。牛うしを追おいかけに行いった。けっきょく、みんなどこかへ逃にげてしまった。どこへ行いったかわからなかった。馬うまとお金かねを残のこしていった場ばし所ょに戻もどると、馬うまもお金かねもなくなっていた。ニールはどうしてよいかわからなかった。息むす子こが病びょ気うきだという王おうさまのところへ行いってみようかと考かんがえた。 ニールは王おうさまの館やかたに向むかった。息むす子こが寝ねているところへ見みに行いった。脈みゃくをとり、治なおせるだろうと王おうさまに言いった。﹁治なおしてくれるなら、三さん百びゃくポンドやろう﹂﹁すこしのあいだ、ふたりきりにしてくれますか﹂王おうさまは、そうさせようと言いった。ニールは水みずを入いれた鍋なべを持もってこさせた。鍋なべを火ひにかけた。クラムシュキーンを取とり出だした。赤あか毛げの男おとこがやっていたように、頭あたまを切きり落おとそうとした。ごしごしやったが、なかなか切きり離はなせなかった。血ちが出でてきた。ようやく頭あたまを切きり落おとした。鍋なべに入いれて、ひと煮に立たちさせた。じゅうぶん煮にえたと思おもったころ、鍋なべから頭あたまを取とり出だそうとした。左さゆ右うの耳みみをつかんで持もち上あげた。頭あたまはドボンと落おっこち、耳みみだけが残のこった。血ちが盛せい大だいに出でてきた。血ちは流ながれ落おちて、扉とびらの外そとまで広ひろがった。王おうさまは血ちが流ながれてきたのを見みて、息むす子こは死しんでしまったのだとわかった。王おうさまは扉とびらを開あけさせようとした。ニール・オキャリーは扉とびらを開あけさせまいとした。扉とびらが壊こわされた。王おうさまの息むす子こは死しんでいた。床ゆかは血ちだらけだった。ニール・オキャリーは捕つかまえられた。つぎの日ひ、しばり首くびにされることになった。しばり首くびの場ばし所ょに連つれて行いくまで、兵へい隊たいが見み張はりにつけられた。つぎの日ひ、ニールは連つれて行いかれた。しばり首くびにする木きのところまで、歩あるいて行いった。さけんだがやめさせられた。そこへ裸はだかの男おとこがおお急いそぎで駆かけてくるのが見みえた。あんまり力ちからいっぱい駆かけているので、男おとこのまわりには湯ゆ気げがたっていた。みなのところまで来くると、男おとこは言いった。﹁おれのご主しゅ人じんさまになにをする﹂﹁この男おとこがおまえの主しゅ人じんでも、ちがうと言いったほうがいい。さもなければ、おまえも同おなじ目めにあうぞ﹂﹁罰ばつを受うけるべきなのはおれだ。遅おくれたのはおれだ。ご主しゅ人じんさまはおれに薬くすりを取とりに行いかせたのだが、まにあわなかった。ご主しゅ人じんさまを放はなせ。ひょっとして、まだ王おうさまの息むす子こを治なおせるかもしれない﹂ ニールは放はなしてもらった。みなで王おうさまの館やかたに戻もどってきた。赤あか毛げの男おとこは死しに人んがいる部へ屋やに行いった。鍋なべの中なかの骨ほねを集あつめはじめた。ぜんぶ集あつめたが、ふたつの耳みみが足たりなかった。 ﹁耳みみはどうしたんだ﹂ ﹁知しらないよ。あんまりおっかなかったんで﹂ 赤あか毛げの男おとこは耳みみを見みつけた。すべてをひとまとめにした。ポケットから緑みどりの薬やく草そうを取とり出だした。それを頭あたまにこすりつけた。皮ひふが張はって、髪かみの毛けももとどおり生はえてきた。それから頭あたまを鍋なべに入いれて、ひと煮に立たちさせた。頭あたまをもとどおり首くびにくっつけた。王おうさまの息むす子こがベッドの中なかで体からだを起おこした。 ﹁どんな具ぐあ合いだ﹂ ﹁だいじょうぶだよ。ただ弱よわってるけど﹂と王おうさまの息むす子こは答こたえた。 赤あか毛げの男おとこは、また大おお声ごえで王おうさまを呼よんだ。王おうさまは息むす子こが生いきているのを見みておおよろこびした。その夜よるはみなゆかいに過すごした。 つぎの日ひ、ふたりが出しゅ発っぱつしようとしたとき、王おうさまは三さん百びゃくポンドを数かぞえあげた。王おうさまはニール・オキャリーにそれをやった。足たりなければ、もっとあげようと言いった。じゅうぶんだから、これいじょうは一いちペニーだっていらないとニール・オキャリーは言いった。おいとまを願ねがい、達たっ者しゃを祈いのって、家いえに向むかって旅たび立だった。 前まえにけんか別わかれした場ばし所ょまで来くると、赤あか毛げの男おとこが言いった。﹁おれたちが仲なかたがいしたのはここだったな﹂﹁そのとおり、ここだとも﹂ニール・オキャリーは答こたえた。ふたりはすわって、お金かねをわけた。ニールは半はん分ぶんを赤あか毛げの男おとこにやり、もう半はん分ぶんを自じぶ分んに取とっておいた。赤あか毛げの男おとこはさよならを言いって去さっていった。しばらく行いって、戻もどってきた。﹁また戻もどってきたよ。気きが変かわったから、金かねをぜんぶおまえにやろう。おまえのほうこそ気きま前えよくしてくれたのだからな。墓はか場ばのわきを通とおりかかった日ひのことをおぼえているか。墓はか場ばに人ひとが四よに人んいて、棺かん桶おけに死した体いがひとつ入はいっていた。ふたりは死した体いを墓はかに埋うめようとしていた。死しんだやつには借かりがあった。貸かしがあるふたりは、死した体いが埋うめられるのに文もん句くがあった。四よに人んは言いい争あらそっていた。おまえはそれを聞きいていた。おまえは入はいっていって、貸かしはいくらだとたずねた。ふたりが言いうには、貸かしは一いちポンドだと、棺かん桶おけを運はこんでいるやつらが、いくらかでも借しゃ金っきんを返かえすと約やく束そくしないうちは、死した体いを埋うめさせないと、そういうことだった。おまえはこう言いった。﹃おれは十じゅっシリング持もっている。おまえたちにやるから、死した体いを埋うめさせてやれ﹄おまえは十じゅっシリングをやって、なきがらは埋うめられた。あの日ひ、棺かん桶おけの中なかにいたのは、このおれだ。おまえが医いし者ゃになろうとするのを知しって、うまくゆかないだろうとわかった。おまえが困こまったことになったのを知しって、助たすけに行いった。金かねはぜんぶおまえにやろう。さいごの日ひまで、二に度どと会あうことはないから、家いえに帰かえれ。生いきているかぎり、もう一いち日にちだって医いし者ゃはするなよ。すこし歩あるいたら牛うしとギャラーンを捕つかまえられるだろう﹂ ニールは家いえに向むかった。それほど行いかないうちに、牛うしの群むれと馬うまが見みつかった。なにもかもいっしょに家いえに戻もどった。おかげで、それからというものニールも奥おくさんも、一いち日にちたりとも暮くらしに困こまることはなかった。 こっちは浅あさ瀬せを渡わたり、あいつらは飛とび石いしを渡わたった。あいつらは溺おぼれ、こっちは助たすかった。 (*1) 原注によれば、語源からするとクラムシュキーンは﹁曲がったナイフ﹂ギャルシュキーンは﹁光るナイフ﹂