鈴が通る

三好十郎




[#ここから2段組み]
 人間

そめ
かつ
かじや
さぶ 
農夫
しげ
馬方
仲買
おかみ
娘一
男の子
吏員一
助役
吏員二
農夫
吏員三
吏員四
娘二
青年
女教師
旅の女
[#ここで2段組み終わり]

どこかで鶏がトキを作っている。
 
 
   
 
 
 
 
 
 姿
 
 


 
 
  
 
  
 
 
 
  
 
  
 
 
  
 
  
鈴の音は続いて行く。
サクサクサクと畑の土を鍬がうなって行く音。
 
 使
 
 
 
 
 
  
 
  ()
  
鈴の音と下駄の音がコトコト行く。
向うから馬力が近づいて来る音。
   
 
  
 
 
 
  
 
 
 
 
再び歩き出している下駄と鈴。
 
 
  
 
 
 
 
 
 
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垣の外の街道を激しい音をたててバスが通り過ぎて行く。
 
 
 
  
 
 
 
  
 
  
 
  
 
 
鈴の音と下駄の音が行く。
自転車の音が後ろから近づき、ベルの音。
娘 お婆さん、今日も行くのう?(笑い声)
そめ あい、これは――
娘 今に帰って見えるから、気い落さねえで、シッかりね。あたしは、これから町の洋裁学校。バイバイ!(ジリンジリンとベルを鳴らして追い抜いて去る)
 
鈴の音と下駄の音。
 
 
  
 
  
 
 
  
 
おそめが急いで去って行く下駄と鈴の音。
男の子 やい、なによ笑う――
そめ あい、良いお子だなし。(遠ざかる)
男の子 (その後ろ姿に向って)バカア! キチゲエばばあ!
電話器のベルがジリジリ、ジリジリと鳴り、それから、ゴトンと椅子から立って、床の上をペタペタとスリッパで急いで行く人の足音。ガチャと受話器をはずす。
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ていねいに頭を下げる。
 
 
 
  
 
 
 
 
 調
 
     
 使
  
 
 姿
 
  
  
 
 
 使調 
 
 
 
  
 
    
 
     
  
 調
 
  
 
 
 
 
  
 
 
 
 
表の押戸がキイキイと開閉して、
娘 あのう、戸籍トウホン、お願えしたいのですが?
吏三 トウホンかね? だら、ズーッと奥へ行って、戸籍係があるから、そう言いなさい。
電話のベルがジリジリと鳴る。それにかぶせて大時計がユックリ十一時を打つ。それにかぶせて「はいはい、こちらは駒形村役場ですよ。……はい……はあ……はあはあ」と言う声。それらの音が次第に遠くなり、消える。
 
 
 
  
 
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鈴の音と下駄の音近づく。
青年 お晩でやす、婆さま。――(返事なし)役場の帰りだかい?(返事無し)……くたびれただなあ。もう、よしゃ、いいに。……どうしただよ、婆さま?
そめ (消え入るように弱り果てた声)お晩でやす。
青年 ……(それを見返り、見返り、歩き出し、癖になっているハモニカが口へ行って、「砂漠」のメロディ。ある所まで吹いてピタリとやめる。あとは、スタスタと地下足袋の足音だけが遠ざかる)
コトコト、コロコロと歩いて行く下駄と鈴の音。
 
 
   
 
 
 
  
 
  
 
 
    
 
 
 
 
  
 
  
コロコロと行く鈴の音。
 
 
 
  
 
 
  
   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 調調
 
 
鈴の音と下駄の音。
自転車のベルの音。
 
 
 
鈴の音と下駄の音。……それが、かなり長いこと続いて、やがてユックリとなり、フッと停る。
 
  
 
  
 
   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ガラガラと遠ざかって行く荷馬車。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
遠くで馬方の歌「はぁああ、伊達と相馬の――」が風に流れて来る。
 
 
 
二人歩いて行く。コロコロコロと鈴の音。
馬方 (はるかに、切れ切れに)――はあ、コレワノセ、と。花は相馬に、実は、伊達に、はあ、イッサイコレワノ、パラットセ――





底本:「三好十郎の仕事 第三巻」學藝書林
   1968(昭和43)年9月30日第1刷発行
初出:「人間」
   1953(昭和28)年6月号
入力:伊藤時也
校正:伊藤時也・及川 雅
2009年1月6日作成
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