随筆 寄席囃子

正岡容




   



    

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()※(感嘆符疑問符、1-8-78) 
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 ※(歌記号、1-3-28)()()()
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南瓜咲くや圓太郎いまだ病みしまま
 の句がある。去年昭和十七年の春、七代目橘家圓太郎を私たちが襲名させ、たった二へん高座から喇叭ラッパを吹かせたままでいまだに患いついてしまっている壮年の落語家の上を思っての詠である。もうそろそろそれから一年目になるこの浅春、だいぶ快方に赴いたらしい手紙を本人からもらい、いかばかりか私はもちろん、平常ふだんからひと方ならず目をかけてやっていた女房も喜んだものであるが、いまだに八王子からやってこないところを見ると、まだほんとうにはくならないらしい。早く治してやりたいものである。病んでも片手にしっかりと真鍮しんちゅうの喇叭を握りしめたままでいるという話を聞くにつけても(この校正中、本人、まったく回復、元気来宅した)。
 私の手もとに襲名の時調べた橘家圓太郎の代々があるから、詳しい一人一人の月旦はまた他日として、この際ほんのメモ代わりに書きつけておいてみよう。


寿
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※(歌記号、1-3-28)こんなえにしが唐紙の
 鴛鴦おしどりのつがいの楽しみに
 泊まり/\の旅籠はたご屋で
 ほんの旅寝の仮まくら
 うれしい仲じゃないかいな
 と「落人」にあるような味な雰囲気なぞ滲み出そうわけもなくどこまでも艶次郎で、すなわち道行興鮫肌であったろうと想像されるが、本人はどうして、なかなかの御機嫌で、「これでやっと終生ののぞみがかなった」と言ってノメノメと帰って来たそうだから、世話はない。
 いかにも、時世のよかった頃の芸人の横顔をまざまざと見せられる感じではないか。
 お通夜の晩に、お経の代わりに二十五座の馬鹿囃子をやってくれと頼んで死んだのも、この圓遊だった。――その遺言はさっそくに実行されたと聞いているが当時の圓遊はたしか、浅草の三筋町に住んでいたはずだ。
 今のように、落語家がお大名のお下邸みたいな邸宅を構えない時代だから、おそらく一世をときめいた圓遊の住居も、いかにも、旧東京らしい、下町らしい、慎みぶかい人情をもった小意気な世帯だったにちがいない。
 そうした家から、夜をひと夜笑いさざめく声とともに(断っておくが、世に、落語家のお通夜ほどバカバカしく、おもしろいものはない。これだけは今日といえども変わっていない)、テケテン、テンドンと流れてきたろう馬鹿囃子の音色を考えると、明治の末年らしいしめやかな「東京の呼吸」をなつかしく感じないわけにはゆかない。

 ところで、圓遊の逃げた先が上総かずさの木更津だったとのことだが、かの切られ与三郎を待つまでもなく、江戸末年から明治へかけての木更津は、ひと頃の横浜ぐらいに、繁華な文明な、うれしい港であったにちがいない。
 すでに「初天神」という落語の、職人夫婦の物語にも、
「俺とお前が木更津へ逃げた時分のことを考えりゃア……」
 というセリフがあるし、先々代圓蔵が得意とした「派手彦」で白鼠の番頭さんが阪東なにがしという踊りのお師匠さんを病気になるほど思いつめ、とど夫婦になる。
 この、美しいお師匠さんが、お祭りによばれてゆく先もやっぱりかの木更津である。
「義士伝」の倉橋伝助が、まだ長谷川金次郎といって飲む打つ買うの三道楽であった時分、江戸を食いつめて、落ちゆく先も御多分に洩れず、木更津だったと覚えている。
 私は、今から二十年以上――といえば、まだ、十二、三の時であるが――いっぺん、行っただけであるが、夏は町はずれの蓮田へひらく紅白の花の美しさを今も身うちの涼しくなる風情に思い返すことができる。
「木更津甚句」という、明治中世のはやり唄には
※(歌記号、1-3-28)木更津曇るともお江戸は晴れろ
 すいたお方が日にやける
 
 
 

 
 西


    

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 宿()()
 
 調
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 西

 


 
 


    

 

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 姿

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()()※(歌記号、1-3-28)()()()()()()宿
調



   



    

 
 
 
()()西()()()()


    

 
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 調
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 沿()()()()
 
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 姿
いささかの未練はのこれ 野悟となる 身のはての何を思はむ
 ()()()()姿()()()

 
 
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底本:「寄席囃子 正岡容寄席随筆集」河出文庫、河出書房新社
   2007(平成19)年9月20日初版発行
底本の親本:「随筆 寄席囃子」古賀書店
   1967(昭和42)年5月刊
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年1月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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