雪の日

永井荷風




        

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羽織かくして、  袖ひきとめて、  どうでもけふは行かんすかと、
言ひつつ立つて櫺子窓れんじまど、  障子ほそめに引きあけて、
あれ見やしやんせ、  この雪に。
 ()()()()綿()()麿()()()
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雪の日や飲まぬお方のふところ手
と言って、わたくしの顔を見たので、わたくしも、
酒飲まぬ人は案山子かかしの雪見かな
と返して、その時銚子のかわりを持って来たおかみさんに舟のことをきくと、渡しはもうありませんが、蒸汽は七時まで御在ますと言うのに、やや腰を据え、
舟なくば雪見がへりのころぶまで
舟足を借りておちつく雪見かな
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ちまたに雨のふるやうに
わが心にも雨のふる
という名高いヴェルレーヌの詩にならって、もしもわたくしがその国の言葉のあやつかたを知っていたなら、
巷に雪のつもるやう
うれひはつもるわが胸に
あるいはまた
巷に雪の消ゆるやう
思出は消ゆあともなく
………………………
とでも吟じたことであろう。





底本:「荷風随筆集(下)〔全2冊〕」岩波文庫、岩波書店
   1986(昭和61)年11月17日第1刷発行
   2007(平成19)年7月13日第23刷発行
底本の親本:「荷風隨筆 五」岩波書店
   1982(昭和57)年3月17日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:阿部哲也
2010年4月15日作成
2021年2月4日修正
青空文庫作成ファイル:
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