町中の月

永井荷風




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客弥三郎「ナントいゝ月夜ぢやアねへか。」
船頭兼「左様さやうサ歌でもおよみなせへまし。」
客「歌どころか寝言も言へねへ。」
船頭「左様さうでもごぜへますめへ。秀八と寝言ねごとの手がありやアしませんかね。」
客「大違ひ/\。」
船「御簾みすになる竹の産着うぶぎや皮草履かね。」
船「ソレさつき木場から直にめへりましたから八幡の裏堀にもやつてあります。」
客「ムヽ左様さうだつけの。」(ト言ひながら船にいたる。)
船「サアお乗ンなせへまし。お手をとりませうか。」
客「サアよし/\御苦労ながらやつてくんな。」
 ………中略………
客「トキニこゝは閻魔堂橋あたりか。」
船「どういたして。モウ油堀でごぜへます。」
客「たいさう。早いのう。然し是からは大川の乗切のつきり太義たいぎだのう。」
船「ナニまだ今の内はようごぜへますが、雪の降る晩なんざア実に泣くやうでごぜへますぜ。」
客「左様さうだらうヨのウ。」
客「浪へ月がうつるので、きら/\してものすごいやうだの。」
船「おつなもんだ。夜と昼ぢやアたいさうに川の景色が違ひますぜ。」
客「闇の夜より月夜の方がこわい様だぜ。おやもう永代橋だの。」
船「御覧ごらうじまし。昼間だと橋の上の足音でドン/\そう/″\しうごぜへますが、夜はアレ水の流れる音がすごく聞へますぜ。ドレ/\思ひきつて大間おほまを抜けやう。」

 

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底本:「日本の名随筆58 月」作品社
   1987(昭和62)年8月25日第1刷発行
   1999(平成11)年4月30日第10刷発行
底本の親本:「荷風全集 第一七巻」岩波書店
   1964(昭和39)年7月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年12月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について