谷崎潤一郎氏の作品

永井荷風




 
 
 
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輿()()

 短篇小説『刺青』に於ては其の書出かきだしの一章を見るがよい。
其れはまだ人々が「おろか」と云ふ尊い徳を持つて居て、世の中が今のやうに激しくきしみ合はない時分であつた。殿様や若旦那の長閑のどかな顔が曇らぬやうに、御殿女中や華魁の笑の種が尽きぬやうにと、饒舌を売るお茶坊主だの幇間だのと云ふ職業が、立派に存在して行けた程、世間がのんびりしてゐた時分であつた。女定九郎、女自雷也、女鳴神――当時の芝居でも草双紙でも、すべて美しい者は強者であり、醜い者は弱者であつた。誰も彼も挙つて美しからむと努めた揚句は、天稟の体へ絵の具を注ぎ込む迄になつた。芳烈な、或は絢爛な、線と色とが其頃の人々の肌に躍つた。
 谷崎氏は小説『麒麟』の書き出しに於ても亦同じやうな一種独得の筆法を以て、先づ氏が語らうとする物語の気分をば、簡短なる数行の文章によつて巧みに此れを作り出してゐる。
西
()穿()

われ魯を望まんと欲すれば
亀山之を蔽ひたり。
手に斧柯なし、
亀山を奈何いかにせばや。




 ()()429--1()()()
     ※(アステリズム、1-12-94)
 
 宿()()殿()

 


()()調
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 調調()

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 ()()()()調
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(此は谷崎氏が「※(「風にょう+炎」、第4水準2-92-35)風」を公表する以前に書いて置いたものである。其の後の作品については又改めて論ずる機会があるであらう。)九月三十日

(「三田文学」明治四四年一一月一日)






底本:「明治の文学 第25巻 永井荷風・谷崎潤一郎」筑摩書房
   2001(平成13)年11月20日初版第1刷発行
初出:「三田文学」
   1911(明治44)年11月1日
入力:きりんの手紙
校正:noriko saito
2021年6月28日作成
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JIS X 0213

JIS X 0213-


「てへん+櫪のつくり」、U+650A    428-上-2
小書き片仮名ヱ    429-下-1


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