よっぽど古いお話なんで御ご座ざいますよ。私の祖じじ父いの子供の時分に居りました、﹁三さん﹂という猫なんで御ご座ざいます。三み毛けだったんで御ご座ざいますって。
何でも、あの、その祖じじ父いの話に、おばあさんがお嫁に来る時に――祖じじ父いのお母さんなんで御ご座ざいましょうねえ――泉せん州しゅ堺うさかいから連れて来た猫なんで御座いますって。
随ずい分ぶん永く――家に十八年も居たんで御ご座ざいますよ。大きくなっておりましたそうです。もう、耳なんか、厚ぼったく、五分ぶぐらいになっていたそうで御ご座ざいますよ。もう年を老とってしまっておりましたから、まるで御隠居様のようになっていたんで御ご座ざいましょうね。
冬、炬こた燵つの上にまあるくなって、寐ねていたんで御ご座ざいますって。
そして、伸のびをしまして、にゅっと高くなって、
﹁ああしんど﹂と言ったんだそうで御ご座ざいますよ。
屹きっ度と、曾おお祖ば母あさんは、炬こた燵つへ煖あたって、眼鏡を懸けて、本でも見ていたんで御ご座ざいましょうね。
で、吃びつ驚くり致しまして、この猫は屹きっ度と化けると思ったんです。それから、捨てようと思いましたけれども、幾ら捨てても帰って来るんで御ご座ぎいますって。でも大おと人なしくて、何なんにも悪い事はあるんじゃありませんけれども、私の祖じじ父いは、﹁口を利くから、怖くって怖くって、仕方がなかった。﹂って言っておりましたよ。
祖じじ父いは私共の知っておりました時分でも、猫は大嫌いなんで御ご座ざいます。私共が所す好きで飼っておりましても、
﹁猫は化けるからな﹂と言ってるんで御ご座ざいます。
で、祖じじ父いは、猫をあんまり可かあ愛いがっちゃ、可いけない可いけないって言っておりましたけれど、その後ごの猫は化けるまで居た事は御ご座ざいません。