これも、矢やっ張ぱりメリケン幽霊だ。合がっ衆しゅ国うこくの桑サン港フランシスコから、国の中央を横切っている、かの横断鉄道には、その時、随ずい分ぶん不思議な談はなしもあったが、何なに分ぶんロッキー山さんの山奥を通過する際などは、その辺あたり何百里というもの、全く人里離れた場所などもあるので、現げん今こんでもあまり、いい気持のしないのである。この鉄道が、まだ出来た当時などは、その不完全な工事の為ために、高い崖の上に通かよっている線路が脱はずれたり、深い谿た谷にの間に懸かかっている鉄橋が落ちたりして、為ために、多くの人々が、不ふり慮ょの災難に、非ひめ命いの死を遂とげた事が、往おう々おうにあったのだが、その頃に、其そ処こを後あとから汽車で通とお過りすごすると、そんな山の中で、人家の無い所に、わいわいいって沢山の人々が集あつまっているのが、見えるのだ。機関手は再三再四汽笛を鳴らして、それに注意を与えるが、彼等は一いっ向こう平気で、少しもそこから去らないから、仕方なしにまた汽車を動かして、其そ処こを通って行ゆくと、最もは早や彼等の姿は、決して人の眼に映らないが、何ど処こからともなく、嫌な声で、多くの人々の、悲鳴するような叫さけ喚びが、山に反響して雑ざわ然ざわと如い何かにも物凄く聞きこえてくるので、乗客は恐ろしさに堪たえず、皆その窓を閉しめ切きって、震えながらに通ったとの事である。その当時は、よくこんな出来事があったものだと、私は或ある米国人から聞いたのである。