相対性理論

アルベルト・アインスタイン

石原純訳




(一九一一年一月一六日チューリッヒの自然科学会席上の講義)

 
 
 
 ※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)
 
「第一図」のキャプション付きの図


 VV vv Vv v V vv V vv Vn 数式11
 
 K K'  K'  K'  K'  K' K K' 
 cKcK K'  K'  v v K'  cv  K' K
  x, y, z 
 KKKKABABABBAKABA tAB taBB tBBA taAAK
 KKKKK K'  K' K K'  K'  K'  K' 
  K  K' 
 
 沿K t tK
  x, y, z,  tKK K'  x, y, z, t, 
 
 x, y, z, t  x', y', z', t' K K' 
x2+y2+z2=c2t2
        x'2y'2z'2c2t'2
 Jahrb. d. Radioakt. und. Elektronik 4. (1907), 418 
 
 K v c l
数式2
なる大きさに短縮されます。
 もし物体が静止状態で球形であるなら、それを一定の方向に動かす場合に、これは扁平な楕円体の形を取ります。もし速度が光速度に達するならば、物体は一平面にひしゃげてしまいます。しかし共に動いている観測者から判断すれば、物体は前と同じくその球形を保っているでしょう。他方でこの物体と共に動いている観測者には運動を共にしないすべての対象は全く同様に相対運動の方向に縮まって見えるのです。この結果は奇妙さを示していますが、しかし運動物体の形と云うものは、実際上述のことによれば、ただ時間決定の助けによって始めて見出されるものであって、はなはだ複雑な意味をもっていますから、それを考慮すれば肯かれるわけです。
 この「運動物体の形」なる概念が直接に明らかな内容をもっていると云う感じは、そもそも私達が日常の経験では単に光速度に対し実際上無限に小さいような運動速度のみを見るのに慣れていることを思い合わせると、それから得られるでしょう。
 次にこの理論の第二の純粋に運動学的の帰結であって、もっと目立った事柄はこうです。ある基準系 K に対して静止して配置されており、これの時間を指示することの出来る一つの時計が与えられていると考えましょう。そうしますと、もしこの時計が基準系に関して一様な運動におかれるならば、K 系から判断して進みが遅れるようになり、この時計の時間指示が 1 だけ進む間に体系 K の時計は K に関して
数式3
 だけの時間を経過するようになると云うことが証明出来ます。つまり動いている時計は、それが K に関して静止の状態になるときよりも遅く進むのです。運動状態における時計の進む速さは、この時計の指針の位置を、K に対して静止しておりかつ K に関しての時間を測るような時計のうちでちょうど今考に取った運動時計がその傍を通り過ぎるようなものの指針位置といつも比較して見出されると考えなければなりません。もし私達が時計を光速度で動かすことが出来たとしたならば――充分に力を加えるなら私達は時計をほとんど光速度で動かすことが出来たでもありましょう――時計の指針は、K から判断して、無限に遅く進むでしょう。
 もし次のことが実現されたと考えるなら、事柄は最もおかしくなります。この時計に非常に大きい速度(ほとんど c に等しいような)を与え、これを一様な運動を続けて飛ばせ、それが遠い距離を飛んだ後で反対の方向に衝撃を与えてもと出発した場処へ再び戻るようにします。そうすれば、この時計の指針の位置はその全旅行の間にほとんど変りはしなかったのですが、これに反してその間出発の場処に静止状態に残された全く同じ構造の時計はその指針の位置をすっかり変えてしまっていると云うことになります。これに附言しなけばならないことは、私達がすべての物理的出来事の簡単な一代表として導き入れたこの時計に対して成り立つところのものはまたどんなその外の性質のそれ自身完閉した物理学的体系に対しても成り立つと云うことです。例えば私達がある生物を箱に入れて上に時計のなしたと同様な往復運動をさせますと、この生物は任意に長く旅行した後でどれほども変らずにその最初の場処に戻って来ることが出来たでもありましょう。ところがまるで同じ生物がもとの場処に止っているならば、既に久しい前に新たな子孫に代らせたにちがいありません。運動している生物にはこの旅行の長い時間は、その運動がほとんど光速度で行われたとすれば、ただ一瞬時にすぎないのです。これは経験が私達を強要して私達の基礎におかしめた原理の否定し難い一つの帰結なのです。
 ところで物理学に対する相対性理論の意味についてもう一言しよう。この理論の要求する処は、ある任意の速度に対して成立する自然法則の数学的表式は、この法則をあらわす式のなかに転換式によりて新しい空間時間坐標を引き入れてもその形を変えないと云うことです。それによりて可能性の多様さは著しく制限せられます。静止せるもしくは遅く動いている物体に対して法則が知られているなら、それから簡単な転換によりて任意に速く動いている物体に対する法則を導き出す事が出来ます。かようにして例えば速い陰極線に対する運動法則を出すことが出来ます。その場合にニウトンの式は任意に速く動く質点には成り立たないで、これはやや複雑の構造の運動方程式で置き換えられなくてはならないことが判ります。陰極線の屈曲に関してこの法則は全く満足的に経験と一致することが示されました。
 相対性理論の物理学的に最も大切な結論のうちで次のことが記されなくてはなりますまい。私達は前に、動いている時計が相対性理論に従えば静止している同じ時計よりも遅く進むことを見ました。私達がこれを懐中時計で実験して確証しようとすることはたぶんいつまでも見込のないことでありましょう。なぜなら私達がかようなものに与え得る速度は光速度に対して無視せられるほど小さいものであるからです。けれども自然は私達に全く時計の性質をもちかつ非常に速く動かされ得るような物を提供します。これはスペクトル線を送り出す原子であって、私達はこれに電気の場によって数千キロメートルの速度を与えることが出来ます。(カナル線)理論によれば、これ等の原子の振動数はその運動によって、ちょうど動いている時計に対して導き出されるのと全く同様の方法で、影響されて見えることが期待せられます。この実験は大きな困難に出遇いはしますが、それでも私達は、この方法で将来の十年間のうちには相対性理論の重要な確証もしくは反駁を得ることを望むことが出来るでしょう。
 理論は更に、物体の惰性的質量がそのエネルギー内容に関係すると云う大切な結果に導きます。ただしこれははなはだわずかの程度であって、直接にこれを証明することは全く望みないことです。しかし物体のエネルギーが E だけ増せば、惰性的質量は数式4だけ増します。この法則によって質量保存の法則は倒壊されたので、云い換えればエネルギー保存の法則と唯一のものに融合したのです。この結果はかなり著しく響くかもしれませんが、しかし相対性理論なしにもまたある特殊の場合には経験的に知られた事実からして、惰性的質量がエネルギー内容と共に増すことを確実に結論することは出来ます。
 もう一言この理論が主として、悼ましくも余りに早く逝いた数学者ミンコウスキーによって得たところのはなはだ興味ある数学的補助について述べましょう。相対性理論の変換方程式は、それが
x2+y2+z2−c2t2
なる式を不変量としてもつように作られています。時間 t の代りに虚数的変数数式5を時間変数として導き入れますと、この不変量は
x2+y2+z2+τ2
なる形を取ります。この際空間的坐標ならびに時間坐標は同じ役目をなします。この空間及び時間坐標の形式的等値性を相対性理論において更に押し進めますと、この理論のはなはだ見易い説明に達し、その応用をより容易くするのです。物理的出来事はある四次元間において云い表わされ、また出来事の空間的関係はこの四次元空間における幾何学的法則としてあらわれます。





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