航海

今野大力




大いなる家鴨あひるの姿に似たる
連絡船の三等船室にて 不愉快な動揺を感じ
軽い頭痛とうつうに悩まされ
渡り行く島の奥地に痛み悩む母への哀切に泣きつつ
ひとりし寝転べば
出稼人夫等の行く先々の未だ見知らざる地への
憧れに満ちたる足に触れ
最初は驚きすくんだ私ではあるが
夢を持たない旅人のあらぬことを
しみじみ我ながら感じては
貧しき出稼労働人の心に
もろくも兄弟達の涙を感じ
足を伸べ組み添え
瞳を交し 微笑さえ見せて
無言のままにも好意を寄せ
心からなる途上の友として
一夜を共に航海したのである






   19957630

   19283531


2015116

http://www.aozora.gr.jp/




●表記について


●図書カード