泉せん水すいの中なかに、こいと金きん魚ぎょが、たのしそうに泳およいでいました。しかし、黒くろいねこが、よくねらっていますので、ゆだんができませんでした。いつ、つかまえられて、食たべられてしまうかしれないからです。 ﹁私わたくしが、見み張はりをしてあげましょう。﹂と、毎まい日にち、泉せん水すいのほとりで遊あそんでいる鶏にわとりがいいました。鶏にわとりは、すばしこかったから、けっして、ねこにとらえられるようなことはありませんでした。 ﹁どうぞ、おたのみいたします。﹂と、こいと、金きん魚ぎょはいいました。 鶏にわとりは、毎まい朝あさ小こ舎やの屋や根ねに飛とび上あがって、いい声こえで、ときをつくりました。そして、黒くろいねこが泉せん水すいの近ちかくを歩あるいていると、コケッコ、コケッコといって、泉せん水すいの中なかの金きん魚ぎょや、こいにも、注ちゅ意ういをしたのであります。 すると、金きん魚ぎょも、こいも、水みずの中なかに深ふかく、くぐってしまいました。 ﹁なんと羽はねのあるものは、自じゆ由うじゃないか。﹂と、鶏にわとりはいって、金きん魚ぎょや、こいに対たいして、威い張ばりました。金きん魚ぎょや、こいは、なんといわれてもしかたがなかったのです。 ﹁あなたは、ほんとうにえらい。﹂といっていました。 ある朝あさ、金きん魚ぎょや、こいが目めをさまして、上うえを見みますと、小こ舎やより、もっと高たかく、空そらに大おおきなこいのぼりが、ひらひらとしていました。こいは、これを見みると、喜よろこびました。 ﹁あんなに、大おおきな仲なか間まが、あすこへやってきた。もう、鶏にわとりのお世せ話わにならなくても、あの仲なか間まが、黒くろねこのきたのを知しらせてくれるだろう。﹂と、こういいました。 ﹁鶏にわとりさん、長ながい間あいだ、ありがとうございました。しかし、私わたくしらの仲なか間まが、あんなに高たかいところへきたから、もうだいじょうぶです。﹂と、こいが、鶏にわとりに向むかっていいますと、鶏にわとりも、これからは威い張ばられなくなったと、元げん気きがありませんでした。 太たろ郎うさんは、その晩ばん、こいのぼりを家いえへいれるのを忘わすれました。そして、夜よな中かから、ひどい雨あめになったのであります。 夜よが明あけてから、金きん魚ぎょや、こいが上うえを見みますと、大おおきなこいのぼりは、雨あめにぬれて破やぶれて見みる影かげもありませんでした。 ﹁おまえの仲なか間まというのは、あれは、なんだい。﹂と、鶏にわとりはいって笑わらいました。そして、勝かちほこったように、小こ舎やの屋や根ねへ上あがって、ときをつくりました。