新しんちゃんは腰こしに長ながいものさしをさし、片かた方ほうの目めをつぶって、片かた方ほうの手てをうしろにかくしながら、頭あたまをちょっとかしげて、みんながお話はなしをしているところへ、いばって出でてきました。 ﹁いいか、よらばきるぞ？﹂と、いいました。 ﹁なあに？ 新しんちゃん、それは、なんのまねなの？﹂と、お母かあさんがおっしゃいました。 ﹁ねえ、お母かあさん、タンゲサゼンのまねをしているのですよ。﹂と、兄にいさんの徳とくちゃんが、いいました。 ﹁どこでそんなもの見みてきた？﹂と、お父とうさんがおわらいになりました。 新しんちゃんはそんなことには答こたえないで、さっとものさしをひきぬいてふりまわしていました。 ﹁また、一ひと人りきったぞ。﹂といって、とくいでいました。 ﹁まあ、ほんとに困こまってしまいますこと。﹂と、お母かあさんはおっしゃいました。 ﹁お母かあさん、チンドン屋やがこんなまねをしてくるのですよ。﹂ そういって兄にいさんは、﹁おれはそんなばかなことはしないぞ。﹂といわぬばかりに、弟おとうとのすることを見みていました。 ﹁ああ、そうか。新しん吉きちもチンドン屋やのお弟で子しになるといい。﹂と、お父とうさんがおっしゃいました。 ﹁チンドン屋やなものか、小お田だくんからならったんだい。﹂と、新しんちゃんはいいました。 ﹁小お田だくんって、新しんちゃんの組くみなの？﹂ ﹁そうさ、小お田だくんは、それはうまいから。﹂と、新しんちゃんはなにを思おもいだしたのか、感かん心しんをしています。 ﹁その子こは勉べん強きょうがよくできるの？﹂ ﹁そうよくできないよ。﹂ ﹁じゃ、チャンバラがうまくたって、しかたがないじゃないか。﹂と、兄にいさんはいいました。 ﹁それでも、その子こはおもしろいよ。ぼく、大だいすきさ。﹂ ﹁新しんちゃんは、そんな子ことばかりあそんでいるのでしょう。﹂と、お母かあさんがおっしゃいました。 ﹁話はなしをきくとおもしろい子こだね。きっと、その子こも、きかんぼうだろう。﹂と、お父とうさんがいわれました。 ﹁お父とうさんは、小お田だくん見みた？﹂ ﹁お父とうさんは見みなくたって知しっているさ。﹂ ﹁ほんとにかわいい、おもしろい、いい子こなんだよ。﹂ そういって、新しんちゃんは、自じぶ分んのすきなお友ともだちがほめられたので、大おおよろこびです。 ﹁自じぶ分んが小ちいさいくせに、かわいらしいなんて。﹂と、兄にいさんがわらいました。 ﹁こんど、小お田だくんのうち、田いな舎かへいくかもしれないよ。﹂ ﹁どうして？﹂ ﹁こないだ、小お田だくん、そんなことをいっていた。そうしたら、ぼく、さみしくて困こまるなあ。﹂ ﹁きっと、じょうだんでしょう。﹂と、お母かあさんはおっしゃいました。 そのあくる日ひでした。うけもちの西にし山やま先せん生せいは、小お田だくんを教きょ壇うだんによんで、 ﹁こんど、小お田だくんのおうちは、とおいところへおひっこしになるので、みなさんとおわかれですから、ごあいさつをなさい。﹂と、おっしゃいました。 みんなが立たちました。そして級きゅ長うちょうの号ごう令れいで、礼れいをしました。そのとき、ひょうきんな小お田だくんは、いつものタンゲサゼンのまねをして、片かた目めをつぶって頭あたまをさげたので、これを見みたものが、くすくすとわらいだしました。 ﹁なにがおかしいのですか？﹂と、先せん生せいが、みんなにむかっていわれました。 ﹁先せん生せい、小お田だくんがわらわせたのです。﹂ 西にし山やま先せん生せいも、かねてから小お田だくんのことを知しっておられたから、 ﹁なにをしたんだ？﹂と、わらいながら、小お田だくんにおっしゃいました。 さすがに、小お田だくんは頭あたまに手てをあげて、顔かおを赤あかくしていました。 ﹁先せん生せい、片かた目めをつぶってタンゲサゼンのまねをしたのです。﹂ だれかがいったので、みんなが吹ふきだすと、先せん生せいもいっしょになっておわらいになりました。 その日ひ、新しんちゃんはおうちへかえると、一ひと人りぼんやり考かんがえていました。 ﹁もう、あす、学がっ校こうへいっても小お田だくんはこないな。﹂といって、目めの中なかにいっぱいなみだをためていました。