太たき吉ちじいさんは、百姓しょうが、かさをかぶって、手てに弓ゆみを持もって立たっている、かがしをつくる名めい人じんでした。それを見みると、からすやすずめなどが、そばへ寄よりつきませんでした。 それも、そのはずで、おじいさんは若わかい時じぶ分んから弓ゆみを射いることが上じょ手うずで、どんな小ちいさな鳥とりでも、ねらえば、かならず射い落おとしたものです。よく、晩ばん方がたの空そらを飛とんでいくかりを射い落おとしたり、はたけで遊あそんでいるすずめを射いとめたりしました。だからおじいさんを見みると、小こと鳥りたちは鳴なくのをやめて、どこへか姿すがたをかくしてしまいました。 しかし、このごろは、おじいさんも目めがわるくなって、ねらいがきかなくなりました。けれども、鳥とりたちは、弓ゆみを持もって立たっいるかがしを見みると、やはりおじいさんのような、怖おそろしい人ひとだと思おもったのです。 親おや鳥どりは、子こと鳥りにいいました。 ﹁あの、田たの中なかに立たっている人ひとの手てに持もつのが、おじいさんや、おばあさんから、話はなしにきいた、怖おそろしい弓ゆみというものだよ。いつ飛とんできて、あたるかしれないから、そばにゆかないがいい。﹂ 子こと鳥りたちは、たびたび、いいきかされたのでよく守まもっていました。 また、来らい年ねん、稲いねの実みのるころになると、太たき吉ちじいさんは、新あたらしいかがしを造つくりました。去きょ年ねんの子こと鳥りたちはもう親おや鳥どりとなって、同おなじように、その子こど供もたちに向むかって、 ﹁あれは、弓ゆみというものだよ。﹂と自じぶ分んたちのきいた、怖おそろしい話はなしをしてきかせました。こうして、鳥とりたちは、なるたけおじいさんのたんぼに近ちか寄よらないようにしていました。 ところが、物もの忘わすれをするからすがありました。きいた話はなしを、すっかり忘わすれて、かがしの上うえにきて止とまりました。そして、カア、カアと鳴なきながらかがしの頭あたまをつつきました。 これを見みたすずめたちは、びっくりしてどうなるのかと目めをまるくしていましたが、しまいに、 ﹁なんだ、からすがとまってもなんでもないじゃないか。﹂といって、どっと押おしよせてきました。そして、長ながい間あいだ自じぶ分んたちをだましていた正しょ体うたいを見みや破ぶってしまいました。 ﹁こんな、まがった竹たけがなんになるんだ。﹂といって、すずめたちは弓ゆみにとまりました。 旅たびをして帰かえった、じいさんの息むす子こが、 ﹁いまごろ、弓ゆみなんか持もったかがしなんてあるものでない。どこの田たや、圃はたけでも、鉄てっ砲ぽうを持もった、勇いさましいかがしを立たてている。﹂といいました。 これをきいて、太たき吉ちじいさんは、 ﹁なるほどそうかな、弓ゆみなんて、なにするものか、昔むかしの鳥とりは知しっても、このごろの鳥とりたちは知しるまいて。﹂と、いって、おじいさんは弓ゆみのかわりに、鉄てっ砲ぽうを持もって立たっている、かがしをつくりました。 ﹁見みてくれ、これなら、いいだろう。﹂と、おじいさんは、ききました。 ﹁ああ、よくできました。﹂と、息むす子こは、答こたえました。これを見みたすずめたちは、ふるえあがりました。 ﹁あれは鉄てっ砲ぽうだよ。近ちか寄よると、ズドンといって、みんな殺ころされてしまうのだよ。﹂と、親おやすずめは子こすずめにいいきかせました。 ところが、いつかの物もの忘わすれのからすがやってきて、かがしの上うえに止とまりました。 ﹁どうしたのだろうな。﹂と、おじいさんが、頸くびをかしげました。すると、そのからすは、 ﹁知しっていますよ、なにを持もっても打うてないことを。ばか、ばか。﹂といって、笑わらいました。 他ほかの鳥とりたちは、からすの勇ゆう気きに感かん心しんしました。いままで、ばかにされたからすが、いちばんりこうな鳥とりといわれるようになりました。そして、すずめたちは、かがしを侮あなどって、稲いねを荒あらしましたが、ある日ひ、おじいさんの息むす子この打うった、ほんとうの鉄てっ砲ぽうで、みんな殺ころされてしまいました。 いつでも、ばかとりこうとは、ちょっと見み分わけのつかぬものです。