正しょうちゃんは、やんまを捕とりました。そして、やんまの羽はねについた、もちを取とっていると、ぶるっとやんまは、羽はねを鳴ならして、手てから逃にげてしまいました。 ﹁あっ。﹂と、いって、その逃にげた方ほうを見みお送くると、よく飛とべないとみえて、歩あるいてゆくおばあさんの背せな中かにとまったのです。 正しょうちゃんは、胸むねがどきどきしました。どうしたら、うまく捕とらえることができるだろうと思おもったからです。 正しょうちゃんは、気きづかれないように、おばあさんの後あとを追おいかけました。いくらおばあさんでも、動うごいていると、知しられぬように、うまく捕とらえられるものでありません。正しょうちゃんは、ため息いきをつきました。しかし、勇ゆう気きを出だして、おばあさんのうしろへいって、手てを伸のばしました。 下したを向むいて、おばあさんは、なにか考かんがえながら歩あるいていると、だれか、たもとにさわったような気きがしたので、うしろを振ふり向むくと、どこかのかわいらしい子こが、後あとからついてきたのです。 ﹁へへへへ、人ひと違ちがいでございますよ。﹂と、おばあさんは、笑わらって、そのままゆきかけたのでした。 ﹁だめだなあ、あんなところに、うまくとまっているんだもの。﹂と、正しょうちゃんはうらめしそうに、やんまを見みつめていましたが、もう一度ど捕とらえられるものか、やってみようと、また足あし音おとをたてぬようにして、おばあさんの後あとを追おったのであります。 おばあさんは、また、だれかたもとのあたりにさわったので、はっとして振ふり向むいてみると、先さっ刻きの子こど供もが、しつこく自じぶ分んの後あとを追おってきたのでした。 これは、人ひと違ちがいでないと思おもいました。そして、顔かおに似に合あわぬ、なんという、いやな子こだろうと思おもいましたから、おばあさんは、怖おそろしい目めつきをして、にらんだのでした。子こど供もは、おばあさんにしかられると、そのままあちらへ駈かけ出だしていってしまったのであります。 おばあさんは、お家うちへ帰かえりました。家うちの人ひとたちが、 ﹁おばあさん、お帰かえんなさい。﹂と、いって、出でむ迎かえました。それから、﹁お疲つかれでしょう。﹂と、いって、羽はお織りをぬがしてあげにかかると、やんまが、背せな中かにとまっていましたので、 ﹁まあ、おばあさん、こんな大おおきなやんまが、お背せな中かにとまっていましたよ﹂と、いって、捕とらえてみせました。このとき、おばあさんは、 ﹁やんまが？﹂と、いって、はじめて、さっき、男おとこの子こが、自じぶ分んの後あとを追おってきたわけがわかったのでした。 ﹁ああ、それなら、あんな顔かおをして、にらむのでなかった。﹂と、おばあさんは、思おもいました。 けれども、お彼ひが岸んのおまいりにいった帰かえりなので、やんまを助たすけてやったと思おもうと、いいことをしたとも考かんがえたのでした。 ﹁どれ、どれ、私わたしが、木きの枝えだにとまらせてやりましょう。﹂と、いって、おばあさんは、やんまを庭にわの縁えん側がわに近ちかい、南なん天てんの木きにとまらせておきました。 ﹁もう、逃にげていったろう。﹂と、晩ばん方がた、おばあさんが、縁えん側がわへ出でてみると、そこには、やんまの羽はねだけが散ちらばっていました。小こねこのたまが食たべたのです。おばあさんは、これを見みると、驚おどろいて、たいそう立りっ腹ぷくしました。 ﹁今こん夜やは、家うちへ入いれない。﹂と、いって、たまをしかって、外そとへ出だしてしまいました。小こねこは、ニャアニャアと鳴ないていたが、そのうち、どこへかいってしまいました。 ﹁かわいそうに、どこへいったでしょう。﹂と、家いえの人ひとたちが、いっていました。 ﹁いえ、こらしめてやらなければ。﹂と、おばあさんは、いつまでも立りっ腹ぷくしていました。 そのとき、そこへお隣となりの光みつ子こさんが、たまを抱だいて入はいってきました。 ﹁おばあさん、たまが、うちのお台だい所どころへきて鳴ないていましたから、つれてきたのよ。﹂と、いいました。 おばあさんは、たまが、やんまを食たべたからしかったと、お話はなしをしました。すると、光みつ子こさんは、おばあさんの顔かおを見みて、 ﹁だって、たまは、やんまを食たべて、わるいということを知しらないのですもの。﹂と、いいました。 この子こど供もの、やさしい言こと葉ばは、おばあさんに、さっき、自じぶ分んもそれと知しらないばかりに、どこかの、かわいらしい男おとこの子こをにらんで、わるいことをしたことを思おもい出ださせました。 ﹁この年としになっても、おばあさんは、ばかだね。光みつ子こちゃん、こちらへおいで。﹂と、いって、おばあさんは、光みつ子こさんの頭あたまをなでてやりながら、自じぶ分んにも、こんなような女おんなの子こか、先さっ刻きの、男おとこの子このような、かわいらしい孫まごがあったら、どんなに、楽たのしかろうと思おもいました。 たまは、いつのまにかおばあさんのひざの上うえにのって、まるくなっていました。