古事記

現代語譯 古事記

稗田の阿禮、太の安萬侶

武田祐吉訳




古事記 上の卷

 序文がついています


序文


過去の時代(序文の第一段)
――古事記の成立の前提として、本文に記されている過去のことについて、まずわれわれが、傳えごとによつて過去のことを知ることを述べ、續いて歴代の天皇がこれによつて徳教を正したことを述べる。太の安萬侶によつて代表される古人が、古事記の内容をどのように考えていたかがあきらかにされる。古事記成立の思想的根據である。――
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古事記の企畫(序文の第二段)
――前半は天武天皇の御事蹟と徳行について述べる。後半、古來の傳えごとに關心をもたれ、これをもつて國家經營の基本であるとなし、これを正して稗田の阿禮をして誦み習わしめられたが、まだ書物とするに至らなかつたことを記す。――
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古事記の成立(序文の第三段)

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 使使
和銅五年正月二十八日

正五位の上勳五等 太の朝臣安萬侶


一、イザナギの命とイザナミの命


天地のはじめ

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島々の生成
――神が生み出す形で國土の起原を語る。――
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 ※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()()()()()()()()()()()()()
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神々の生成
――前と同じ形で萬物の起原を語る。火の神を生んでから水の神などの出現する部分は鎭火祭の思想による。――
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黄泉よみの國

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身禊みそぎ
――みそぎの意義を語る。人生の災禍がこれによつて拂われるとする。――
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誓約うけい

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天の岩戸
――はらえによつて暴風の神を放逐することを語る。はじめのスサノヲの命の暴行は、暴風の災害である。――
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穀物の種
――穀物などの起原を説く插入説話である。日本書紀では、月の神が保食うけもちの神を殺す形になつている。――
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八俣やまた大蛇おろち

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殿
殿


というのです。そこでかのアシナヅチ・テナヅチの神をおびになつて、「あなたはわたしの宮の長となれ」と仰せになり、名をイナダの宮主みやぬしスガノヤツミミの神とおつけになりました。

系譜
――スサノヲの命の系譜を説き、大國主の神に結びつけている。このうち、オホトシの神とウカノミタマとは穀物の神で、二三〇頁[#「二三〇頁」は「大國主の神」]に出る系譜に連絡する。――
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兎と鰐
――これから出雲系の英雄大國主の神の神話になる。さまざまの神話を、一神の名のもとに寄せたものの如くである。――
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赤貝姫と蛤貝姫
――前の兎と鰐の話と共に、古代醫療の方法について語つている説話である。――
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堅州國かたすくに
――これも異郷説話の一つで、王子の求婚説話の形を採つている。姫の父親から難題を課せられるが、姫の助力を得て解決する。――
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ヤチホコの神の歌物語
――長い歌の贈答を中心とした物語で、もと歌曲として歌い傳えられたもの。――
 このヤチホコの神(大國主の命)が、越の國のヌナカハ姫と結婚しようとしておいでになりました時に、そのヌナカハ姫の家につてお詠みになりました歌は、



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()

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使
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ヤチホコの神樣、
しおれた草のような女のことですから
わたくしの心は漂う水鳥、
いまこそわたくしどりでも
のちにはあなたの鳥になりましよう。
いのちながくおあそばしませ。
下におります走り使をする者の
ことかたつたえはかようでございます。
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※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()()
※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()

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※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)

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 そこでさかずきかわして、つて、今日までもしずまつておいでになります。これらの歌は神語かむがたりと申す歌曲かきよくです。

系譜
――出雲系の、ある豪族の家系を語るもののようである。――
 ()()U+80F7230-14
 ()
 

スクナビコナの神
――オホアナムチの命としばしば竝んで語られるスクナビコナの神は、農民の間に語り傳えられた神で、ここでは蔓芋の種の擬人化として語られている。――
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御諸山の神
――大和の三輪山にある大神おおみわ神社の鎭坐の縁起である。――
 ()()

大年の神の系譜
――前に出たスサノヲの命の系譜の中の大年の神の系譜で、一年中の耕作の經過を系譜化したものである。耕作に關する祭の詞から拔け出したものと見られる。――
 ()()()()()()
 
 
 



天若日子
――天若日子に關する部分は、語部などによつて語られた物語の插入。――
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國讓り
――出雲の神が、託宣によつて國を讓つたことを語る。出雲大社の鎭坐縁起を、政治的に解釋したものと考えられる。――
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 ()退()()()()()
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天降
――本來は、祭の庭に神の降下することを説くものと解せられるが、政治的に解釋されており、諸氏の傳來の複合した形になつている。――
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猿女の君
――前にあつたウズメの命がサルタ彦の神を見顯す神話に接續するものである。猿女の君の系統の傳來で、もと遊離していたものを取り入れたのであろう。――
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 ()()()()()()()()()()()()()

木の花の咲くや姫
――人名に對する信仰が語られ、また古代の婚姻の風習から生じ易い疑惑の解決法が語られる。――
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海幸うみさちと山幸
――西方の海岸地帶に傳わつた海神の宮訪問の神話で、異郷説話の一つである。政治的な意味として隼人の服從が語られている。――
 ()()()()()()使()()()()()()()()()()
 ()()()()()()※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()()()()()()()
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トヨタマ姫
――前の説話の續きで、男が禁止を破ることによつて、別離になることを語る。この種の説話の常型である。――
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()


 


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 ()()西
 



 




東征
――日向から發して大和にはいろうとして失敗することを語る。速吸の門の物語の位置が地理の實際と合わないのは、諸氏の傳來の合併だからである。――
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速吸はやすい
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イツセのみこと
 ()()()()()()()()()※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()()※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()()()()()()()()

熊野から大和へ
――神話の要素の多い部分で、神話の成立過程も窺われる。――
 ※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()()()()()()()
 ()()()()()()()()()穿()()()

久米歌
――幾首かの久米歌に結びついている物語である。――
 ()()()()()()()()()使()殿殿使殿()()()()()()()()()()()殿()()()()()()()

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※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)
()()※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)



 


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神の御子
――英雄や佳人などを、神が通つて生ませた子だとすることは、崇神天皇の卷にもあり、廣く信じられていたところである。――
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 かくしてお生まれになつた御子は、ヒコヤヰの命・カムヤヰミミの命・カムヌナカハミミの命のお三方です。

タギシミミの命の變

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綏靖天皇
――以下八代は、帝紀の部分だけで、本辭を含んでいない。この項など、帝紀の典型的な例と見られる。――
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安寧あんねい天皇
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懿徳いとく天皇
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孝昭天皇
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孝安天皇
 オホヤマトタラシ彦クニオシビトの命(孝安天皇)、大和の葛城の室の秋津島の宮においでになつて天下をお治めなさいました。この天皇はめいのオシカ姫の命と結婚してお生みになつた御子は、オホキビノモロススの命とオホヤマトネコ彦フトニの命とお二方です。このオホヤマトネコ彦フトニの命は天下をお治めなさいました。天皇は御年百二十三歳、御陵は玉手の岡の上にあります。

孝靈天皇
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孝元天皇
――タケシウチの宿禰の諸子をあげているのは豪族の祖先だからである。――
 ()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()宿宿()宿宿宿()()()()()宿()()()※(「識」の「言」に代えて「木」、第4水準2-15-49)宿()()()()()()()()()()()()宿()()()()

開化天皇
 ()()()()()()()()()()宿()()宿()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()宿()()()()



后妃と皇子女
――帝紀の前半と見られる部分である。――
 イマキイリ彦イニヱの命(崇神天皇)、大和の師木しきの水垣の宮においでになつて天下をお治めなさいました。
 この天皇は、木の國の造のアラカハトベの女のトホツアユメマクハシ姫と結婚してお生みになつた御子はトヨキイリ彦の命とトヨスキイリ姫の命お二方です。また尾張の連の祖先のオホアマ姫と結婚してお生みになつた御子は、オホイリキの命・ヤサカノイリ彦の命・ヌナキノイリ姫の命・トホチノイリ姫の命のお四方です。また大彦おおびこの命の女のミマツ姫の命と結婚してお生みになつた御子はイクメイリ彦イサチの命・イザノマワカの命・クニカタ姫の命・チヂツクヤマト姫の命・イガ姫の命・ヤマト彦の命のお六方です。この天皇の御子たちは合わせて十二王おいでになりました。男王七人女王五人です。そのうちイクメイリ彦イサチの命は天下をお治めなさいました。次にトヨキイリ彦の命は、上毛野かみつけの・下毛野の君等の祖先です。妹のトヨスキ姫の命は伊勢の大神宮をお祭りになりました。次にオホイリキの命は能登の臣の祖先です。次にヤマト彦の命は、この王の時に始めて陵墓に人の垣を立てました。

美和の大物主
――三輪山説話として神婚説話の典型的な一つでみわ氏、鴨氏等の祖先の物語。――
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將軍の派遣
西
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后妃と皇子女
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サホ彦の叛亂

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ホムチワケの御子
――種々の要素の結合している物語であるが、出雲の神のたたりが中心となつている。ヒナガ姫の部分は、特に結びつけたものの感が深い。――
 ()()()()()()()()()※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()()()()()()
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丹波の四女王
――丹波地方に傳わつた説話が取りあげられたものであろう。――
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時じくのかぐの木の實
――タヂマモリの子孫の家に傳えられた説話。――
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景行天皇の后妃と皇子女
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()西
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ヤマトタケルの命の西征
――英雄ヤマトタケルの命の物語ははじまる。劇的な構成に注意。――
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 西()()()姿()()()()()西

イヅモタケル
――日本書紀では、全然ヤマトタケルの命と關係のない物語になつている。種々の物語がこの英雄の事として結びついてゆく。――
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ヤマトタケルの命の東征
――諸氏の物語が結合したと見えるが、よくまとまつて、美しい物語になつている。――
 ()()()()西()
 ()()()()()退()()
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 ()()()()鹿()()()()
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 そこで御結婚遊ばされて、その佩びておいでになつた草薙の劒をミヤズ姫のもとに置いて、イブキの山の神を撃ちにおいでになりました。

望郷の歌
――クニシノヒ歌の歌曲を中心として、英雄の悲壯な最後を語る。――
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と歌い終つて、お隱れになりました。そこで急使を上せて朝廷に申し上げました。

白鳥の陵
――大葬に歌われる歌曲を中心としている。白鳥には、神靈を感じている。――
 ここに大和においでになるお妃たちまた御子たちが皆下つておいでになつて、御墓を作つてそのほとりの田に這い※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)つてお泣きになつてお歌いになりました。


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 ()()()※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()

ヤマトタケルの命の系譜
――實際あり得ない關係も記されている。――
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成務天皇
――國縣の堺を定め、國の造、縣主を定め、地方行政の基礎が定められた。――
 ()()()()()()宿()()()()()()()()



后妃と皇子女
 ()()()()()()()()()

神功皇后
――御母はシラギ人天の日矛の系統で、シラギのことを知つておられたのだろうという。――
 ()()()宿西西()退宿()()()()
 ()()殿()()()()()()()()()()()()()()宿
 宿()  ()()()()()()()()()()()
 ()()()()()()()※(「楫+戈」、第3水準1-86-21)()()()()()()()

鎭懷石と釣魚
 
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カゴサカの王とオシクマの王
――ある戰亂の武勇譚が、歌を插入して誇張されてゆく。――
 ()()()
 ()()()()()宿()()()()()()退退()()()()退()宿()


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氣比けひの大神
――敦賀市の氣比神宮の神の名の由來。――
 宿()()()()()()()()()()()()

酒の座の歌曲
――酒宴の席に演奏される歌曲の説明。――
 其處から還つてお上りになる時に、母君のオキナガタラシ姫の命がお待ち申し上げて酒を造つて獻上しました。その時にその母君のお詠み遊ばされた歌は、



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()
※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)




 宿



()使






 ()()
 ()()()()()()()()()



后妃と皇子女
 ()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

オホヤマモリの命とオホサザキの命
――天皇が、兄弟の御子に對してテストをされる。その結果弟が帝位を繼承することになる。これもきまつた型で、兄の系統ではあるが、臣下となつたという説明の物語である。これはあとに後續の説話がある。――
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葛野かずのの歌
――國ほめの歌曲の一つ。――
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蟹の歌
――蟹と鹿とは、古代の主要な食料であつた。その蟹を材料とした歌曲の物語である。ここではワニ氏の女が關係するが、ワニ氏は後に春日氏ともいい、しばしば皇室に女を奉り、歌物語を多く傳えた家である。――
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()姿()
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 かくて御結婚なすつておみになつた子がウヂの若郎子わきいらつこでございました。

髮長姫
――酒宴で孃子を贈り、また孃子を得た喜びの歌曲。古く諸縣舞むらがたまいという舞があつたが、關係があるかもしれない。――
 ()()()()()()使()姿宿()()宿()()


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國主歌くずうた
――吉野山中の土民の歌曲。――
 また、吉野のクズどもがオホサザキの命のびておいでになるお刀を見て歌いました歌は、




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()()




 



()

()


 この歌は、クズどもが土地の産物を獻る時に、常に今でも歌う歌であります。

文化の渡來
――大陸の文化の渡來した記憶がまとめて語られる。多くは朝鮮を通して、また直接にも。――
 ()()()()()宿()()()
 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()西()()()()()()()()


()
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 ()()()

オホヤマモリの命とウヂの若郎子
――オホヤマモリの命を始祖と稱する山部の人々の傳えた物語。――
 ()()使使()※(「楫+戈」、第3水準1-86-21)()()()()()()






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天の日矛

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 ()()()()()()
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秋山の下氷壯夫と春山の霞壯夫
――同じく異類婚姻説話であるが、前の物語に比してずつと日本ふうになつている。海幸山幸物語との類似點に注意。――
 ()()()()()()()()()()()()()()()()
 ()()()()()()()()()()()()()

系譜
――允恭天皇の皇后の出る系譜であり、後に繼體天皇が、この系統から出る。――
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后妃と皇子女
 ()()()()()()()()()()()()()()()()

聖の御世
――撫民厚生の御事蹟を取りあつめている。聖の御世というのは、外來思想で、文字による文化が行われていたことを語る。――
 ()()使()()()()()()()()()()
 殿()滿()()

吉備の黒日賣
――吉備氏の榮えるに至つた由來の物語。――
 使()()()()()()()()()()使殿


()()()()
()()



 
 ()









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西




 


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皇后石の姫の命
――靜歌の歌い返しと稱する歌曲にまつわる物語。それに鳥山の歌が插入されている。――
 ()使()()()()()()()
 ()()()







椿
椿
椿



 ※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)



殿



()()殿



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()
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()


 殿()殿()()()()()()


()()()()()




 
 ()()殿






()


 この天皇と皇后樣とお歌いになつた六首の歌は、靜歌の歌い返しでございます。

ヤタの若郎女
――八田部の人々の傳承であろう。――
 天皇、ヤタの若郎女をお慕いになつて歌をお遣しになりました。その御歌は、









 


()()()()()



ハヤブサワケの王とメトリの王
――もと鳥のハヤブサとサザキとが女鳥を爭う形で、劇的に構成されている。――
 また天皇は、弟のハヤブサワケの王を媒人なこうどとしてメトリの王をお求めになりました。しかるにメトリの王がハヤブサワケの王に言われますには、「皇后樣を憚かつて、ヤタの若郎女をもお召しになりませんのですから、わたくしもお仕え申しますまい。わたくしはあなた樣の妻になろうと思います」と言つて結婚なさいました。それですからハヤブサワケの王は御返事申しませんでした。ここに天皇は直接にメトリの王のおいでになる處に行かれて、その戸口のしきいの上においでになりました。その時メトリの王ははたにいて織物を織つておいでになりました。天皇のお歌いになりました御歌は、


()



 


()()()()


 







 


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 ()()()()()()()退()()()

雁の卵
――御世の榮えを祝う歌曲。――
 ()()宿








 宿










 


()()()



 これは壽歌ほぎうた片歌かたうたです。

枯野からのという船
――琴の歌。――
 西()()


()



()


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 ()()()()



履中天皇とスミノエノナカツ王
――大和のあや氏、多治比部などの傳承の物語。――
 ()()()()()宿()()()()()()()()()()
 ()()()殿()()()()殿







 







 ()()()()()()※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)


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反正天皇
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后妃と皇子女
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八十伴の緒の氏姓
――氏はその家の稱號であり、姓はその家の階級、種別であつてそれが社會組織の基本となつていた。長い間にはこれを僞るものもできたので、これをまとめて整理したのである。朝廷の勢力が強大でなくてはできない。――
 ()()()()退()()調()()調使()()()()()()()
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木梨の輕の太子
――幾章かの歌曲によつて構成されている物語。輕部などの傳承であろう。――
 天皇がおかくれになつてからのちに、キナシノカルの太子が帝位におつきになるに定まつておりましたが、まだ位におつきにならないうちに妹のカルの大郎女に戲れてお歌いになつた歌、



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 ()()()()宿()()宿


宿




 宿()




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 ()()()()宿


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使




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マヨワの王の變
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 ()殿殿殿()()
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 ()()殿

イチノベノオシハの王
――播磨の國のシジムの家に隱れていた二少年が見出されて、遂に帝位につく物語の前提である。物語は三六六ページ[#「三六六ページ」は「清寧天皇・顯宗天皇・仁賢天皇」の「シジムの新築祝い」]に續く。――
 ()()()鹿()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()使



后妃と皇子女
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ワカクサカベの王
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 ()()()()()殿()U+7E36353-17()()


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引田部の赤猪子
――三輪山のほとりで語り傳えられた物語。――
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 そこでその老女に物を澤山に賜わつて、お歸しになりました。この四首の歌は靜歌しずうたです。

吉野の宮
――吉野での物語二篇。――
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 その時からして、その野をアキヅ野というのです。

葛城山
――葛城山に關する物語二篇。――
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春日のヲド姫と三重の采女

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※(「金+且」、第3水準1-93-12)
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 ()※(「金+且」、第3水準1-93-12)
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()殿
殿



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殿
椿




  


 



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 ()()()()()()※(「顫のへん+鳥」、第3水準1-94-72)



清寧天皇
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シジムの新築祝い
使
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()()()調()()


使

歌垣
――日本書紀では、武烈天皇の太子時代のこととし、歌も多く相違している。ある王子とシビという貴公子の物語として傳承されたのが原形であろう。――
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殿


 


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※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)



 


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顯宗天皇
 ()()()()()()()()()()()()()殿


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仁賢天皇
――以下十代は、物語の部分が無く、もつぱら帝紀によつている。――
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武烈天皇
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繼體天皇
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安閑天皇
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宣化天皇
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欽明天皇
 ()()()()()()()宿

敏達天皇
――岡本の宮で天下をお治めになつたというのが、古事記中最新の事實である。――
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用明天皇
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崇峻天皇
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推古天皇
――古事記がここで終つているのは、その材料とした帝紀がここで終つていたによるであろう。――
 妹のトヨミケカシギヤ姫の命(推古天皇)、大和の小治田の宮においでになつて、三十七年天下をお治めなさいました。戊子つちのえねの年の三月十五日癸丑みずのとうしの日にお隱れなさいました。御陵は初めは大野の岡の上にありましたが、後に科長の大陵にお遷し申し上げました。






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   19654092020



 


2011830

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JIS X 0213

JIS X 0213-


「匈/(胃−田)」、U+80F7    213-14、213-15、213-16、213-16、230-14
「石+炯のつくり」、U+2544E    282-5
「執/糸」、U+7E36    353-17


●図書カード