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日本の子供たちに
﹇#改ページ﹈はしがき
お母さんがちょうのマザア・グウスはきれいな青い空の上に住んでいて、大きな美しいがちょうの背中にのってその空を翔かけったり、月の世界の人たちのつい近くをひょうひょうと雪のようにあかるくとんでいるのだそうです。マザア・グウスのおばあさんがそのがちょうの白い羽根をむしると、その羽根がやはり雪のようにひらひらと、地の上に舞もうてきて、おちる、すぐにその一つ一つが白い紙になって、その紙には子供たちのなによりよろこぶ子供のお唄が書いてあるので、イギリスの子供たちのお母さんがたはこれを子供たちにいつも読んできかしてくだすったのだそうです。いまでもそうだろうと思います。それでそのお話をお母さんからうかがったり、そのお唄を夢のようにうたっていただいたりするイギリスの子供たちは、どんなにあの金きんの卵をうむがちょうや、マザア・グウスのおばあさんをしたわしく思うかわかりません。 ですが、ほんとうをいえば、そのマザア・グウスはやはりわたくしたちと同じこの世界に住んでいた人でした。べつにお月さまのお隣の空にいた人ではありません。子供がすきな、そうして、ちょうどあのがちょうが金きんの卵でもうむように、ぼっとりぼっとりとこの御本の中にあるような美しい子供のお唄を子供たちの間におとしてゆかれたのでした。ありがたいお母さんがちょうではありませんか。 そのグウスというおばあさんはいまから二百年ばかり前に、その当時英国の植民地であった北アメリカにうまれたかたでした。そのおばあさんに一人のちっちゃなまご息むす子こがありました。おばあさんはそのまご息子がかわゆくてならなかったものですから、その子をよろこばせるためにその子のよろこぶような、そうしてその子の罪のない美しいお夢をまだまだかわいいきれいな深みのあるものにしてやりたいのでした。それでいろいろなおもしろいお唄をしぜんと自分でつくりだすようになりました。やっぱりその子がかわいかったのですね。 それも初めはただなんということなしに節をつけておはなししたり、うたったりしたものでしょうが、そうしたものはどうしても忘れやすいものですから、また覚え書きに書きとめておくようになりました。そうなるとまた、そうして書きとめておいたのが一つふえ二つふえしていつかしら一冊の御本にまとまるようになったのでしょう。 そのおばあさんの養子にトオマス・フリイトという人がありました。この人は印刷屋さんでした。で、そのお母さんが自分の息子のためにうたってくだすった、そうしたありがたいお唄を刷すって、自分の息子ばかりでなく、ほかのたくさんの子供たちをよろこばしてやりたいと思ったのでした。それでこのマザア・グウスの童謡の御本がはじめて刷られて、ひろく世間によまれるようになりました。それは西洋暦の千七百十九年という年で、時のイギリスの王さまはジョウジ一世ともうされるおかたでした。 で、このマザア・グウスの童謡はずいぶんと古いものです。古いものですけれど、いつまでたっても新しい。ほんとにいいものはいつまでたっても昔のままに新しいものです。考えてみてもその御本がでてから、イギリスの子供たちはどんなにしあわせになったかわかりません。その子供たちがおとなになり、またつぎからつぎにかわいい子供たちがうまれてきて、またつぎからつぎにこのお母さんがちょうのねんねこ唄をうたって大きくなってゆくのです。それにこの御本がでてからしあわせにされたのはそのイギリスの子供ばかりではありません。イギリスのことばをつかっている国々の子供はむろんのことですが、世界じゅうのいろいろな国のことばに訳されていますので、そうした国々の子供たちもみんなしあわせにされているはずです。それにいろいろ作曲されて、ずいぶんひろくうたわれているようです。ですから、赤いくちばしと赤い水かきとをもったがちょうのおばあさんがおいすに腰かけて、おなじような赤いちっちゃなくちばしと赤いちっちゃな水かきとをもったちっちゃながちょうをおひざにのっけて、赤い御本をひらいている画えのついた表紙のや、三さん角かく帽ぼうのリボンに鵞がペンをさしたおばあさんがテエブルの前に腰をかけて、なにか書いていると、そのそばから大きながちょうがくちばしをあけて、針の頭のように眼めをちっちゃくしてのぞきこんでいる画のや、がちょうとおばあさんが空を翔かけているのや、緑みど色りいろの牧まき草ぐさの中に金の卵をおとしている白いめんどりのがちょうのや、いろんな本がでています。 日本ではこのわたしのが初めてです。日本の子供たちのために、わたしはこのお母さんがちょうを日本の空の上にきてもらいました。そうして空からひらひらとその唄のついたがちょうの羽根をちらしてもらったのでした。その羽根にかいてある字はイギリスの字ですから、わたしは桃色のお月さまの光でひとつひとつすかしてみて、それを日本のことばになおして、あなたがた、日本のかわいい子供たちにうたってあげるのです。そしてみんなうたえるようにうたいながら書きなおしたのですからみんなうたえます。うたってごらんなさい。ずいぶんおもしろいから。 その童謡の中には、青い萌もえ黄ぎい色ろの月の夜よのお月さまをとびこえるめうしのダンスや、紅あかい胸のこまどりが死んで白しら嘴はしがらすがお経をよむのや、王さまの前のパイのお皿からうたいだす二十四匹の黒つぐみや、﹁パンにおせんべい﹂とうなるロンドンのお寺の鐘や、おうちが大火事でプッジングのおなべの下にもぐりこむてんとうむしのむすめや、赤いにしんにのまれるくろんぼうの子供や、かごにのって青あお天てん井じょうのすすはきしにお月さまより高くのぼるおばあさん、おくつの中に子供をどっさりいれてしまつにこまるおばあさん、挽ひき割わり麦むぎを三さん斤ぎんぬすんでお菓子をこさえる王さまや、拇おや指ゆびよりもちいさな豆つぶのだんなさま、赤いおわんにのって海へでるおりこうさん、気ちがいうまにのってめちゃくちゃにかけてゆく気ちがいの親子、そうした、それはもうどんなに不思議で美しくて、おかしくて、ばかばかしくて、おもしろくて、なさけなくて、おこりたくて、わらいたくて、うたいたくなるか、ほんとにゆっくりとよんで、そうしてあなたがたも今までよりもずっとかわったお月夜の空や朝焼け夕焼けの色どりを心にとめて、いつも美しいあなたがたのお夢を深めてくださるよう。そうならわたしはどんなにうれしいかわかりません。 この本の中の童謡はおもにそのマザア・グウスから訳したのですが、そのほかにもイギリスやアメリカの子供のうたっているので違ったのがたくさんつけたしてあります。いろんな指あそびや、顔あそび、めくら鬼、はしご段あそびなど、日本のとちがった遊戯唄をおしまいのほうにのせてみました。皆さんでひとつやってくださるとうれしいと思います。 これからもまだいろんなものを皆さんのために書いてお贈りしたいと思っていますが、わたしもこれからほんとに念をいれて、がちょうが金の卵をうみ落とすように、ほんとにいい童謡をぽつりぽつりと落としてゆきたいと思います。 では、どうぞ、この本の初めにあるその金の卵の歌からよんでいってください。するときっとがちょうがあなたがたを背中にのせて、高い高いお月さまのそばまで翔かけてゆくでしょう。大正十年九月
白秋しるす
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序詩
﹇#改ページ﹈マザア・グウスの歌
マザア・グウスのおばあさん、 いつもであるくそのときは、 きれいながちょうの背にのって、 空をひょうひょう翔かけてゆく。 マザア・グウスのすむ家いえは、 一つ、ちんまり、森の中、 戸口にゃ一羽の梟ごろすけが みはりするのでたっている。 むすこがひとりで名はジャック、 その子まずまずお人よし、 ずんとよいことせぬ代わり、 ずるいわるさもようしえぬ。 市いち場ばへジャックをやったれば、 めすのがちょうを買ってくる、 ﹁まあまあ、お母さん、みておいで、 そのうちいいこともあるでしょよ﹂ それからがちょうのめすとおす なかよしこよしであそんでる。 いつもいっしょに餌えをたべて、 ガアガア、お池におよいでる。 ある朝、ジャックがいってみりゃ、 ︵ほんに話によくきいた︶ 金の卵がありまする。 うんでくれたはめすがちょう。 金の卵だ、はよ告つげよ、 ジャックはお母さんへとんでゆく。 お母さんもほくほくごきげんだ。 ﹁それはよかった、おおできじゃ﹂ ジャックは卵をうりにでる。 それをかおうと猶ジ太ュ人ウの悪わ者る、 おもう半値もつけないで、 うまうまジャックをちょろまかす。 ジャックはお嫁とりにゆきまする。 むこうのおじょうさん華は美で好きで、 それはかわいい、うつくしい、 花の山さん査ざ子し、百ゆ合りみたよう。 ところへ、あとからつけまわす 猶ジ太ュ人ウとおしゃれのおべっか屋、 脇わき腹ばらめがけて、ぶってやろと、 かわいそなジャックにつっかかる。 そのときすばやく、すっときたは、 マザア・グウスのおばあさん、 杖つえでジャックをちょいと打ちゃ、 道化の*ハアレクインにはやがわり。 つづいて、おばあさんが杖あげて、 きれいなおじょうさんをちょいと打ちゃ、 すぐにその子もはやがわり、 それこそかわいい**コランバイン。 金の卵は海の中、 どさくさまぎれにほうられる。 だけど、ジャックがとびこんで、 またももとへととりかえす。 それで、めすがちょうとった猶ジ太ュ人ウのやつ、 ころしちまえといきまいた、 割さいて、こいつを売っとばしゃ、 ポケットにたんまり金もうけ。 ジャックのお母さんは、それみると、 すぐにがちょうをひったくり、 そして、その背にうちのって、 お月さまめがけてとんでいった。
* ハアレクイン。道化芝しば居いの男役です。
** コランバイン。これは女役です。
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まざあ・ぐうす
﹇#改ページ﹈こまどりのお葬とも式らい
﹁だァれがころした、こまどりのおすを﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂すずめがこういった。 ﹁わたしの弓で、わたしの矢や羽ばで、 わたしがころした、こまどりのおすを﹂ ﹁だァれがみつけた、しんだのをみつけた﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂あおばえがそういった。 ﹁わたしの眼め々めで、ちいさな眼々で、 わたしがみつけた、その死しが骸いみつけた﹂ ﹁だァれがとったぞ、その血をとったぞ﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂魚さかながそういった。 ﹁わたしの皿に、ちいさな皿に、 わたしがとったよ、その血をとったよ﹂ ﹁だアれがつくる、経きょ帷うか子たびらをつくる﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂かぶとむしがそういった。 ﹁わたしの糸で、わたしの針で、 わたしがつくろ、経帷子をつくろ﹂ ﹁だァれがしるす、戒かい名みょうをしるす﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂ひばりがそういった。 ﹁あかるいならば、くれないならば、 わたしがしるそ、戒名をしるそ﹂ ﹁だァれがたつか、お葬とも式らいにたつか﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂おはとがそういった。 ﹁葬ともらってやろよ、かわいそなものを、 わたしがたとうよ、お葬式にたとうよ﹂ ﹁だァれがほるか、お墓の穴を﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂ふくろがそういった。 ﹁わたしの鏝こてで、ちいさな鏝で、 わたしがほろよ、お墓の穴を﹂ ﹁だァれがなるぞ、お坊ぼうさんになるぞ﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂白しら嘴はしがらすがそういった。 ﹁経きょ本うほんもって、小こほ本んをもって、 わたしがなろぞ、お坊さんになろぞ﹂ ﹁だァれがならす、お鐘をならす﹂ ﹁そォれはわたしよ﹂おうしがこういった。 ﹁わたしはひける、力がござる、 わたしがならそ、お鐘をならそ﹂ 空そォらの上からみんなの小鳥が、 ためいきついたりすすりなきしたり、 みんなみんなきいた、なりだす鐘を、 かわいそなこまどりのお葬とも式らいの鐘を。 ﹇#改ページ﹈お月夜
へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。 ねこが胡こき弓ゅうひいた、 めうしがお月さまとびこえた、 こいぬがそれみてわらいだす、 お皿がおさじをおっかけた。 へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。 ﹇#改ページ﹈天てん竺じくねずみのちびすけ
天てん竺じくねずみのちびすけは、 ちびだからふとっちゃいなかった。 いつもあんよでおあるきで、 たべるときゃ断だん食じきゃいたさない。 さてそこらからかけてでりゃ、 けっしてそこにはもういない。 きけば、かけてるそのときは、 どっちみちじっとしちゃいないそだ。 キイキイなくのは常ふん々だんだ、めちゃくちゃあばれもたまたまだ。 それがさわいでわめくときゃ、けっしてだまっちゃいなかった。 たとえねこからおそわらなくとも、 はつかねずみがただのねずみでないのは御承知だ。 ところでたしかなうわさだが、 ある日、ひょっくり気がふれて、奇態な死に方した話。 とても勘かんのいい、金かな棒ぼう引ひきの人たちは、 きゃつめおっ死ちんだで、いきてるわけないぞといっている。 ﹇#改ページ﹈木のぼりのおさる
木のぼりのおさるさん、 おちたときゃ、そのときゃおちていた。 石いィしの上うゥえのつんがらす、 飛たったときゃ、そこらにゃ影もない。 りんごかじりの婆ばばおかみ、 二つたべたときゃ、一対たべていた。 水すい車しゃ場ばがよいの小こ荷に駄だうま、 てくるときゃ、じっとたっちゃいなかった。 拇おや指ゆびちょんぎったうしころし、 けがしたそのときゃ、血をだした。 かけっこしてゆくお供ォともさん、 はやがけするときゃ、かけあしだ。 おくつそそくるくつなおし、 つくろっちゃったそのときゃ、しあげてた。 ろうそくつくるがろうそく屋、 型からひっぱいだときゃ、手にもってた。 スペインさしていった艦かァ隊んたい、 かえったときゃ、またぞろやってきてた。 ﹇#改ページ﹈くるみ
ちいさな緑のお家うちがひとつ。 ちいさな緑のお家の中に、 ちいさな金茶のお家がひとつ。 ちいさな金茶のお家の中に、 ちいさな黄色いお家がひとつ。 ちいさな黄色いお家の中に、 ちいさな白しィろいお家がひとつ。 ちいさな白しィろいお家の中に、 ちいさな心ハアトがただひィとつ。 ﹇#改ページ﹈ボンベイのふとっちょ
ひとりふとっちょがボンベイにござった。 ある日、日なたでたばこのんでござった。 そこへ、ついときたはしぎという小鳥よ、 パイプひっさらってまたふいととんじまう。 そこでじれました、ボンベイのふとっちょ。 ﹇#改ページ﹈六ペンスの歌
うたえうたえ、六ペンスの歌を。 衣かく嚢しにゃごほうびの麦がある。 二にじ十ゅう四しひ匹きの黒つぐみ、 焙ほうじこまれて、パイの中。 パイがはがれたそのときに、 すぐに小鳥がうたいだす。 もともと王さまにそなえます きれいなお皿じゃ、そりゃないか。 ﹃王さまは会計院で、 お金の御かん勘じょ定う。 おきさきゃお居間で、 パンと蜜みつをめしあがり。 女中さんはお庭で、 衣いし裳ょうをせっせとほしている。 そこへ小鳥が一羽とんでまいって、 つんとはじきました、女中さんのお鼻﹄ ﹇#改ページ﹈一時
いっちく、たっちく、おうやおや。 ねずみが時計をかけあがる。 柱時計がチーンとうつ。 ねずみがすたこらかけおりる。 いっちく、たっちく、おうやおや。 ﹇#改ページ﹈卵
お乳のよに白い大理石の壁に、 絹きぬの柔し軟なしたうすい膜かわつけて、 すいて凝こごった泉の中に 金のりんごがみえまする。 そのお城に戸一つないので、 どろぼうどもまでわりこんで金のりんごをぬすみだす。 ﹇#改ページ﹈朝焼け夕焼け
朝焼け小焼け、 ひつじかいの気がかり。 夕焼け小焼け、 ひつじかいの後ごし生ょう楽らく。 ﹇#改ページ﹈風がふきゃ
風がふきゃ、 まわります、 粉ひき車よ。 風がやみゃ、 とまります、 粉ひき車さ。 ﹇#改ページ﹈文なし
一文なしの文もん三さぶ郎ろう、文三郎をさらおうと どろぼうどもがやってきた。 にげた、にげた、烟えん突とつの素すて頂っぺ辺んへ攀よじてった。 しめた、しめたとどろぼうどもがおっかけた。 それをみて文三郎、そろっとむこうへにげおりた。 こうなりゃみつかるまい。 かけた、かけた、十じゅ五うご日んちに十じゅ四うしマイル、 それで、ふりむいたが、もうだァれもみえなんだ。 ﹇#改ページ﹈ファウスト国せん手せい
ファウスト国せん手せいはいい人で、 時々、お弟子たちをひっぱたく。 ひっぱたいて、おどらして、追ったてて、 イギリスでてからフランスへ、 フランスでてからスペインへ、 そしてまた、ひっぱたいて逆もどり。 ﹇#改ページ﹈とことこ床屋さん
とこ、とこ、床屋さん、 ぶたの毛かっちょくれ、 鬘かずらがちょっくらいりようだが、 何本、その毛がありゃたりる。 二にじ十ゅう四し本でたくさんだ。 フンとお鼻でごあいさつ。 ﹇#改ページ﹈おくつの中に
おくつの中におばあさんがござる、 子供がどっさり、しまつがつかない、 おかゆばっかり、パンもなにもやらず、 おまけに、こっぴどくひっぱたき、 ねろちゅば、ねろちゅば、このちびら。 ﹇#改ページ﹈一つの石に
一つの石に小鳥が二羽よ。 ファ、ラ、ラ、ラ、ラルド。 一羽がとんでった、一羽がのこった。 ファ、ラ、ラ、ラ、ラルド。 また一羽とんでった、だァれもなくなった。 ファ、ラ、ラ、ラ、ラルド。 石だけぽっつりのォこった。たったひとりのォこった。 ファ、ラ、ラ、ラ、ラルド。 ﹇#改ページ﹈コオル老王
お年寄りのコオル王は愉快なお爺じっさ、 愉快なお爺じっさ、 すぐにパイプめして、お酒さか杯ずきめしてね、 そして胡こき弓ゅうひきを三人ほどおめしで。 どれの胡弓ひきもよい胡弓もちでよ、 中で一番なは王さまの胡弓よ、 ツウイ・ツウイズル・デイ、ツウイズル・デイ。…… それそれ胡弓ひきがひきだしたよ、おききな。 だれにくらびょうか、めったにまたなかろ、 コオル王さまとその胡弓ひきよね。 ﹇#改ページ﹈雨、雨、いっちまえ
雨、雨、いっちまえ、 またいつかきなよ、 はよでてあァそぼに。 ﹇#改ページ﹈花壇にぶた
お庭の花壇にぶたがでた。 それいってとっつかめ。 小麦の畑はたけにうしがきた。 はしれ、はしれ、男の子。 クリイムのおなべにねこがいる。 はしれ、はしれ、女の子。 山火事だ。 はしれ、はしれ、男の子。 ﹇#改ページ﹈日の照り雨
日の照り雨あァめ、 小こは半んと時きももてぬ。 ﹇#改ページ﹈いばらのかげに
いばらのかげに、 ひもじさ、さむさ。 花さくかげに、 白しろ金がね、黄こが金ね。 ﹇#改ページ﹈セント・クレメンツの鐘
のぼれいそいそ、またおりなされ、 鐘はロンドン、つけば数ござる。 ﹁オレンジにレモン﹂ セント・クレメンツの鐘がなる。 ﹁標ま的とと、標ま的との星﹂ セント・マアガレッツの鐘がなる。 ﹁煉れん瓦がに瓦かわら﹂ セント・ギルスの鐘がなる。 ﹁半ハアフペンスに*ファシング﹂ セント・マアルチンスの鐘がなる。 ﹁パン菓子におせんべい﹂ セント・ピイタアスの鐘がなる。 ﹁二本の枝、一つのりんご﹂ ホワイト・チャペルの鐘がなる。 ﹁灰かき、火ばし﹂ セント・ジョンスの鐘がなる。 ﹁湯わかし、おなべ﹂ セント・アンヌスの鐘がなる。 ﹁バルドペエトじいさんよう﹂ オルトゲエドののろい鐘。 ﹁おまえに十シルリング貸しがある﹂ セント・へレンズの鐘がなる。 ﹁いィつはろうてくれるんじゃ﹂ ふるいベエレエの鐘がなる。 ﹁おいらが金持ちになったらな﹂ ショルジッチの鐘がなる。 ﹁そしたらたのむよ、そのときは﹂ ステプニイの鐘がなる。 ﹁おれんしったこつかい﹂と ボウの大きな鐘の声。 さあきた、手てし燭ょくがお床とこへおまえをてらしにきた。 さあきた、首切り役人がおまえのそっ首ちょんぎりに。 * ファシングは一ペンニイの四分の一。 ﹇#改ページ﹈おうまのり
レディのうまのりゃ、 ツリイ、ツレ、ツレエ、 ツリイ、ツレ、ツレエ。 レディのうまのりゃこんなもんよ、はい。 ツリイ、ツレ、ツレエ。ツリ、ツレ、ツレエ。 ゼンツルマンのうまのりゃ、 ガロップ・エ・ツロット。 ガロップ・エ・ツロット。 ゼンツルマンのうまのりゃこんなもんだ、ほい。 ガロップ・エ・ツロット、ガロップ・エ・ツロット。 おひゃくしょうのうまのりゃ、 ホッブルデイ・ホイ、 ホッブルデイ・ホイ。 おひゃくしょうどんのうまのりゃこんなもんじゃ、はあ。 ホッブルデイ・ホイ、ホッブルデイ・ホイ。 ﹇#改ページ﹈小こみ径ちにむすめ
小こみ径ちのほとりにひとりのむすめが、 なんだかいってるけど、はっきりゃいえないで、 ぐっつ、ぐっつ、ぐっつぐつ。 むこうの小岡にひとりの男が、 たってはいれども、じっとしちゃいられず、 ひょっこり、ひょっこり、ひょっこりしょ。 ﹇#改ページ﹈月の中の人
月の中の人が、 ころがっておちて、 北へゆく道で、 南へいって、 凝こごえた豌えん豆どう汁じるで、 お舌をやいてこォがした。 ﹇#改ページ﹈十人のくろんぼの子供
十人よ、くろんぼの子供が十人よ。 おひるによばれてゆきました。 ひとりがのどくびつまらした。 そこで、九くに人んになりました。 九くゥ人にんよ、くろんぼの子供が九くゥ人にんよ。 どの子もどの子もあさねぼうで、 ひとりがとうとうねすごした。 そこで、八人になりました。 八人よ、くろんぼの子供が八人よ。 いっしょに*デボンを旅してて、 ひとりがとちゅうでとどまった。 そこで、七しち人にんになりました。 七人よ、くろんぼの子供が七人よ。 木ぎれきりにとみないって、 ひとりがまふたつに腹きった。 そこで、六人になりました。 六人よ、くろんぼの子供が六人よ。 はちの巣いじって、かまってて、 ひとりがくまんばちにさァされた。 そこで、五人になりました。 五ごォ人にんよ、くろんぼの子供が五ごォ人にんよ。 けんかしてお訴訟をおォこした、 ひとりが裁判所へゆきました。 そこで、四人になりました。 四よォ人にんよ、くろんぼの子供が四よォ人にんよ。 みんなで海へとでかけたら、 赤いにしんにひとりがのォまれた。 そこで、三さん人にんになりました。 三人よ、くろんぼの子供が三人よ。 こんどは動物園へいったれば、 くまめがひとりをひん抱だいた。 そこで、ふたりになりました。 ふゥたりよ、くろんぼの子供がふゥたりよ。 かんかん日だまりィすわりこみ、 ひとりがちぢれてやけしんだ。 そこで、ひとりになりました。 ひィとりよ、くろんぼの子供がひィとりよ。 いよいよ、たったひィとりよ、 その子がお嫁とりにでていった。 そこで、だァれもなくなった。 * デボンはイギリスの西南部の一県で、デボンシイルのことです。 ﹇#改ページ﹈お月さまの中のおひとが
お月さまの中のおひとが、 お月さまの外をながめて、 そして、こうおっしゃるわ。 いま、いま、わたしはおきかかる。 赤ねん子ねのみんなはいまお寝よる。 ﹇#改ページ﹈クリスマスがきますわい
右や左や、クリスマス。 がちょうがふとってめえりやす。 どうぞや一いちペンニイ、 じいめが帽子にほうりこんでくだされ。 一ペンニイがおいやなら半ペンニイでもようござる。 半ペンニイでもないならば、 ごきげんよろしゅう、だんなさま。 ﹇#改ページ﹈べああ、べああ、ブラック・シイプ
べああ、べああ、ブラック・シイプ おまえはいい毛をおもちだろ。 はい、はい、ふくろに三みふくろござります。 だんなさまに一ひとふくろ、 おくさまに一ふくろ、 だっけど、そこらの細道で、 べそかくぼっちゃんにゃ、いィやいや。 ﹇#改ページ﹈ろうそく
ちびこ、 なまえはナンシイ・エッチコウト、 白いペッチコウトに 赤い鼻もって、 ながくたってるほど、 みじかくなってしまう。 ﹇#改ページ﹈ちっちゃなテイ・ウイ
ちっちゃなテイ・ウイは海へゆき、 たななしボオトにのりこんで、 ゆらゆらゆられているうちに、 ちっちゃなボオトがひっくりかえり、 これでお話もおォしまい。 ﹇#改ページ﹈三月、風よ
三月、風よ。 四月は雨よ。 五月は花の花ざかり。 ﹇#改ページ﹈お面もち
グレゴリイ・グリッグスさんは、 グレゴリイ・グリッグスさんは、 二十と七つのお面めんもちでおじゃって、 とっかえ、ひっかえ、ひっかえ、とっかえ、 街まちじゅうをやんやとわらわせる。 東へいっちゃひっかぶり、 西へいっちゃひっかぶり、 それでも、どの面がいちばんおすきか、 やっぱり御本人でおいいやれぬ。 ﹇#改ページ﹈ししと一いっ角かく獣じゅう
ししと一いっ角かく獣じゅうと ふたりで王位をせりあった。 ししがつよかったで、 街を上うえ下したおおあばれ、 そこで、白パンやったり、 黒パンやったり、 乾プ葡ラ萄ム入ケイキやったり、 やっとこすっとこおいだした。 ﹇#改ページ﹈くつやさん
くつやさん、おうち。 はい、はい、こんにちは。 おくつのつくろいたのみます。 よしきた。合がて点んだ。 こちらに一ひと釘くぎ、そちらに一釘、 とんとんとんのとん。 ﹇#改ページ﹈きれいなくびまき
ジイニイ、むすびにきとくれよ。 ジイニイ、むすびにきとくれよ。 ジイニイ、むすびにきとくれよ。 わたしのきれいなくびまきを。 わたしはうしろでむすんでよ。 わたしは前まァえでむすんでよ。 わたしは何度もむすんでよ。 もうもうわたしはかまやせぬ。 ﹇#改ページ﹈何人何びき何ぶくろ
セント・イブへとわしがおまいりするときに、 わしがあったは男ひとりにおかみさんが七しち人にん、 そのどのおかみさんもふくろを七つ、 そのどのふくろにもねこめが七つ、 そのどのねこにもこねこが七つ。 セント・イブへとおまいりするのが、 さてさて、何なん人にん何なんびき何ぶくろ。 ﹇#改ページ﹈のむもの
世界が一つのパイなら、 海がすっかりインキなら、 木がまたチイズとパンならば、 おれたちののむものそりゃ、なんだ。 それこそ甲こう羅ら経へたじじいめでも 頭をかかえてちょいとまいろ。 ﹇#改ページ﹈ちびねこ、さんねこ
﹁ちびねこ、さんねこ、かわいの子、 どこへおまえはいってたの﹂ ﹁あたいはいってたの、ロンドンに、 おめみえしたのよ、女王さまに﹂ ﹁ちびねこ、さんねこ、かわいの子、 そこでおまえはなにしたの﹂ ﹁そうそ、玉座のおいすもと、 ねずみをちょろまかつかまえた﹂ ﹇#改ページ﹈雨もよう
いぬとねことがお友達にあいに、 ちょいと、街まちからつれだってまいる。 ねこがもうします。 ﹁お天気はどうでしょね﹂ いぬがもうします。 ﹁さようさ、おくさんえ、雨がふりそでござんすが、 御心配はいりません、てまえがこうもり傘がさもってますでな。 そのときゃごいっしょに、相あい合あい傘がさとはいかがでしょ﹂ ﹇#改ページ﹈ポウリイ、やかんを
ポウリイ、やかんをかけときな。 ポウリイ、やかんをかけときな。 ポウリイ、やかんをかけときな。 みんながのむんだ、お茶ァだよ。 スケイ、そいつをおはずしな。 スケイ、そいつをおはずしな。 スケイ、そいつをおはずしな。 みんながもうもう行いっちゃうぞ。 ﹇#改ページ﹈南パン瓜プキンずき
ペエタアさん、ペエタアさん、南パン瓜プキンずき、 女房もってもお守もりができず、 南パン瓜プキンの殻からにと、どしこんで、 やっとこ、ほくほくお守りした。 ﹇#改ページ﹈ぼう、うぉう、うぉう
ぼう、うぉう、うぉう、 おまえさんどこのいぬ、 わたしゃティンカアさんのいぬですよ、 ぼう、うぉう、うぉう。 ﹇#改ページ﹈三さん百びゃ屋くや
トムミイ・ツロットさん、三さん百びゃ屋くや、 ベッドを売って、 わらの上へごろりよ。 そのわら売って、 草の上へごろりよ。 そしておかみさんに姿すが見た鏡み一つ買こうてくりょ。 ﹇#改ページ﹈お釘くぎがへれば
お釘くぎがへれば、 蹄かな鉄ぐつうせる。 蹄かな鉄ぐつへれば、 おうまがうせる。 おうまがへれば、 のりてがうせる。 のりてがへれば、 戦いくさがうせる。 戦いくさがないと、 王さまのお国ゃうせる。 おうまの蹄かな鉄ぐつがへったせいでよ。 ﹇#改ページ﹈二十四人の仕立屋
二十四人の仕立屋が ででむしころしに、えっさっさ。 めったにしっぽにゃふれまいぞ。 そりゃこそででむしが角つのだした、 ちっちぇえカイロうしそっくりだ。 にげにげ、にげなきゃいまにもころされる。 ﹇#改ページ﹈ででむし角だせ
ででむし、ででむし、角だせや、 お父とうさんもお母かあさんもしんでしもうた。 おまえの御ごき兄ょ弟う姉だ妹いは裏うらん口くちの庭で パンをおくれェと乞こうている。 ﹇#改ページ﹈お針みつけたら
お針みつけたらつまみあげておとりな。 その日いちんちいいことばかり。 お針みつけてそのまましときゃ その日いちんちわるいことばかり。 ﹇#改ページ﹈風よ、ふけ、ふけ
風よ、ふけ、ふけ、 ひきうすまわせ、 粉屋粉ひき、 パンやさんがこねて、 朝はほやほやふかしたて。 ﹇#改ページ﹈気軽な粉屋
気軽な粉屋が デイ河かわにござる。 朝から晩まで はたらいちゃうたう。 ふざけてばっかり、 一つことばかり、 おきまり文句で 一つことばかり。 ﹃だれにかまうもんか、いやいや、わたしゃ、よ。 だれがかまうかよ、このわしに。ホイソラ、ホイソラ﹄ ﹇#改ページ﹈いなかっぺえ
いなかっぺいのおたずねだ。 ﹃いちごが何本海にある﹄ うまく返事をしてのきょか。 ﹃何なん匹びきにしんが森にいる﹄ ﹇#改ページ﹈おかごのばあさん
おばあさんがひとりおかごにのって、 ふらふらあがる。 月よりたかく、九くじ十ゅう倍ばいもたかく、 どこへゆくのか、きこうにもきけず、 お手々にほうきをもって、あれあれあがる。 ﹃おばあさん、おばあさん、おばあさん、 どこへゆくの、どこへ、 そんなにたかくあァがって﹄ ﹃円まる天てん井じょうのすすはきじゃ﹄ ﹃はァやくかえってちょうだいよう﹄ ﹃あい、あい。ちょっくら、いますぐだ﹄ ﹇#改ページ﹈すっとんきょうな南なん京きんさん
すっとんきょうな南なん京きんさんがお三さんかたござった。 それは皆さまとくより御承知だ。 きゃっきゃさわいで猟かりにとでかけた。 しかも、めっそうもない、安あん息そく日びにでござる。 永ながのいちんち、猟かりをしてまわり、 これというもの根っから葉っからみつからない。 一つみつけたは帆ほかけた船よ。 それが追おっ風てにしゅっしゅっとはしった。 ﹁あれは船だ﹂と一番さきのがいいだした。 ﹁なんの、うそだ﹂と二番目のがうちけした。 ﹁あれは家うちさ﹂と三番目のがいいのけた。―― ﹁こわれ煙えん突とつまでとっついてるじゃないかいな﹂ 永ながの一ひと晩ばん猟かりをしてまわり、 これというもの根っから葉っからみつからない。 一つみつけたはおすべり屋のお月さんだ、 それがふかれてつるつるとすべった。 ﹁あれはお月さんだ﹂と一番さきのがいいだした。 ﹁なんの、うそだ﹂と二番目のがうちけした。 ﹁あれはチイズさ﹂と三番目のがいいのけた。―― ﹁二つわりにしたその半分きりさね﹂ またもいちんち猟かりをしてまわり、 これというもの根っから葉っからみつからない。 一つみつけたは木いちごやぶのはりねずみ。 それをうしろにとおりすぎてしまう。 ﹁あれははりねずみだ﹂と一番さきのがいいだした。 ﹁なんの、うそだ﹂と二番目のがうちけした。 ﹁あれは針さしさ﹂と三番目のがいいのけた。―― ﹁よくもめちゃくちゃにお針をさしたもんだすな﹂ またも夜っぴて、猟をしてまわり、 これというもの根っから葉っからみつからない。 一つみつけたはかぶら畑ばたけの野うさぎだ。 それをみすててまたいってしまう。 ﹁あれは野うさぎだ﹂と一番さきのがいいだした。 ﹁なんの、うそだ﹂と二番目のがうちけした。 ﹁あれはこうしさ﹂と三番目のがいいのけた。―― ﹁あいつ、めうしにおきざりされたやつだんね﹂ またもいちんち、猟をしてまわり、 これというもの根っから葉っからみつからない。 みたは洞うろ木ぎの分ふん別べつ顔がおのふくろうよ。 それをうしろにまたいってしまった。 ﹁あれはふくろうだ﹂と一番さきのがいいだした。 ﹁なんの、うそだ﹂と二番目のがうちけした。 ﹁あれはじじいさ﹂と三番目のがいいのけた。―― ﹁それそれごましお頭の髪の毛をみさいな﹂ ﹇#改ページ﹈鼻まがり
あいつぁよっぽどみょうだ、まっすぐにゃゆかぬ。 そのわけしってるか、 鼻のむいたほうへむいてゆく。 どうりで、やっこさん、鼻まがり。 ﹇#改ページ﹈あの丘のふもとに
あの丘のふもとに おばあさんがござった。 もしも去いなんだら まだ住んでござろ。 ﹇#改ページ﹈あたいのめうし
あたいのめうしはちっぽけだ。 ひょろひょろ、ひょっこり、ひょっこりよ。 あたいのめうしは、ちっぽけだ、 めうしのふくらはぎはちっぽけだ。 ひょろひょろ、ひょっこり、ひょっこりよ。 あたいのお歌はまだなかば。 あたいのめうしはちっぽけだ。 ひょろひょろ、ひょっこり、ひょっこりよ。 あたいのめうしはちっぽけだ。 やっとこうし小屋へおいこんだ。 ひょろひょろ、ひょっこり、ひょっこりよ。 そこでお歌もちゃんちゃんだ。 ﹇#改ページ﹈ゆりかごうた
ねんねや、ねんねや、おねんねや、 ぼうやがお父とうさんひつじ守もり。 お母かあさんはねんねのねむりの木、 ねんねやねんねとゆすりましょう、 ゆすればお夢がふりかかる。 ねんねや、ねんねや、おねんねや。 ﹇#改ページ﹈こびっちょの子供は
こびっちょの男の子はなんでつくる、なんでつくる。 こびっちょの男の子はなんでつくる。 かわずとででむしとこいぬのしっぽでつくられた。 それそれ、こびっちょの男の子がつくられた。 かわいい女の子はなんでつくる、なんでつくる。 かわいい女の子はなんでつくる。 おさとうに薬やく味みに、あまいものずくめ。 それそれ、かわいい女の子がつくられた。 ﹇#改ページ﹈ねんねこうた
ねんねこ、ねんねこ、ねんねこや。 なァいてお母かさんをなかすなや、 なかれりゃわたしもつろござる。 ねんねこ、ねんねこ、ねんねこや。 ﹇#改ページ﹈はしっこいジャック
はしっこいジャック、 すばやいジャック、 ろうそくたて一つ、 ジャックが とびこした。 ﹇#改ページ﹈ででむし、でむし
ででむし、でむし。 ぬすっとがくるぞ、おめんちの壁を ぶっこわしにくるぞ。 ででむし、でむし。 その角だせよ。 ぬすっとがくるぞ、小麦をとりに、 ぬすっとがくるぞ、夜あけの四時に。 ﹇#改ページ﹈一いち列れつこぞって
一いち列れつこぞって、 弓をひき、 おはとを射ったら、 からすめをころした。 ﹇#改ページ﹈ででむし
ででむし、ででむし、角だせや。 パンとお麦を、それ、あげよ。 ﹇#改ページ﹈おりこうさん
とてもがむしゃら、おりこうさん、 いきなりばんばら藪やぶへとびこむと、 眼めだ玉まがポンポンひんむけた。 おやおやっ、眼玉がつん出たら、 それこそこんどはくそ力、 横っちょの小藪へとびこんだ。 そしたら眼玉がすっこんだ。 ﹇#改ページ﹈おしゃべり
やまがらのおしゃべり、 お舌したがさけよぞ。 町じゅうのいぬが ちんぢんにかんじゃうぞ。 ﹇#改ページ﹈ハアトのクイン
ハアトのクインが饅タア頭トをつくられた。 みんなできたよ、夏の日いっぱいかァかった。 ハアトの兵ネイ士ブが饅タア頭トをぬゥすんだ。 こいつしめたとそっくりもってにげてった。 ハアトのキングが饅タア頭トとおっしゃった。 そりゃこそたいへん、兵ネイ士ブを御ごせ折っか檻んなすった。 ハアトの兵ネイ士ブが饅タア頭トをかえした。 まっぴら閉へい口こうして、もうもういたしません。 ﹇#改ページ﹈コケコッコおどり
コケコッコ、コケコッコ、コケコッコ。 おくさんがおくつをなァくした。 だんなさんがヴァイオリンの弓をなくし、 どうしていいのかおおよわり。 コケコッコ、コケコッコ、コケコッコ。 おやおや、おくさんどうなさる。 だんなさんがヴァイオリンの弓をさがす、 それまで、はだしでおおどりか。 コケコッコ、コケコッコ、コケコッコ。 おくさんがおくつをなァくした。 だんなさんがヴァイオリンの弓をみつけ、 それきた、コケコッコ、コケコッコ。 コケコッコ、コケコッコ、コケコッコ。 さあさあ、おくさん、それおどろ。 だんなさんがヴァイオリンの弓をこすり、 それそれおどれと、コケコッコ。 コケコッコ、コケコッコ、コケコッコ。 おくさんがおくつをなァくした。 ねてもねられずおおよわり、 頭の髪かみ毛げもめっちゃくちゃ。 ﹇#改ページ﹈でんでんむしむし
でんでんむしむし、 角ひけよ。 ひかなきゃ山さん椒しょの粒つぶふりかける。 ﹇#改ページ﹈おばあさんとむすこ
ひとりのおばあさんと三人のむすこ、 ジェリイ、ジェムス、それにまたジョンよ。 ジェリイは首くくった。ジェムスはおぼれた。 ジョンはどこかへいなくなってしまった。 だァれもみつけたものがない。 三人のむすこがみんなしんでしまった。 ジェリイ、ジェムス、それにまたジョンよ。 ﹇#改ページ﹈てんとうむし
てんとうむし、てんとうむし、 はよう家うちへかえれ、 おまえの家うちゃ火事だ。 みんな子供がやけしんだ。 むすめのアンヌがたったひとり、 プッジングのなべの下に つんぐりむんぐりもぐった。 ﹇#改ページ﹈あったかいパン
あったかいパン、 あったかい、あったかい、あったかいパン。 一ペンニイで一つ、二ペンニイで二つ、 あったかいパン。 おまえにむすめがないならば、 おまえのむすこにおあげなえ。 一ペンニイで一つ、二ペンニイで二つ、 あったかいパン。 ﹇#改ページ﹈ゴットハムの三りこう
さてもゴットハムの三りこう、 おわんにのっかって海へでた。 もそっとおわんがしっかりさえしてりゃ、 ここらでこの歌もきれやしまい。 ﹇#改ページ﹈気ちがい家族
気ちがいの御亭主に、 気ちがいのおかみさん、 気ちがい小こう路じに住んで、 三つ児をうんで、 どの児もどの児も気がちごた。 お父さんが気ちがい、 お母さんが気ちがい、 みんな子供が気ちがい。 気ちがいうまにのって、 いっしょくたに、みんなのって、 まっくら三さん宝ぼうに、かけてった。 ﹇#改ページ﹈ちっちゃなだんなさま
あたいのちっちゃなだんなさま、 拇おや指ゆびよりかもまだちさい。 こまめのおつぼにちょいといれて、 どんがどんがはやしてせりあげよ。 ちっちゃなおうまも買こうてあぎょ。 そして、とっととかけさして、 たづなとらせて、くらおいて、 さあさ、ねりだそ、町の外。 かわいいくつした結いわくなら それにはちっちゃなとめ金かな具ぐ、 ちっちゃなお鼻をふきゃるには かわいいちっちゃなハンカチフ。 ﹇#改ページ﹈一つのたるに
一つのたるに、三人はいり、 どんどこ、どんどこ、すっどんどん。 あいつらだれだ。 肉屋にパン屋、 ろうそく屋の亭主。 つっころがしてしまえ。 しようのねえやつらだ。 ﹇#改ページ﹈ジャックとジル
ねんねの小鳥が岡おかに二羽、 一羽がジャックで、ほかのがジルよ。 とんでったジャックが、 とんでったジルが、 またきたジャックが、 またきたジルが。 ﹇#改ページ﹈トムトムぼうず
トム、トム、トムぼうず、 笛ふきのむすこ、 ぶたをぬすんでにげたはよいが、 ぶたはたべられ、トムぁぶったたかれ、 ないておんおん街をかけた。 ﹇#改ページ﹈いぬはぼうおう
いぬはぼうおう、 ねこはみゅうみゅう、 おぶたはぐるんぐるん、 ねずみはすけえく。 ふくろはつうふう、 からすはかうかう、 めがもはくゎっくくゎっく、 うしもうもう。 ﹇#改ページ﹈ちいさなおじょっちゃん
額ひたいのまんなかに、きらきらちぢらした ちいさなまきげの、 ちいさなおじょっちゃん、 ごきげんいいときゃ、 それはそれはいい子で、 おわるいときにはこォわい子。ソレ、こォわい子。 ﹇#改ページ﹈やぶ医者
やぶ医者のフォスタアさんが、 グロオスタアへいって、 にわか雨にあって、 水たまりに立ち往生して、 おへその上まで水びたり。 それから二度とはようゆかぬ。 ﹇#改ページ﹈きれいずきのおかみさん
お月さんのおとりもちでお嫁にござった。 きれいずきの、世しょ帯たいもちの、しまりやのおかみさんだ。 おひるにでもならなきゃなんとしてもおきない。 ほんとにしまるなら、それこそたのむよ。 やっとこさとおきればおもいきってせかせか、 きれいずきの、世帯もちの、しまりやのおかみさんだ。 灰かきで麦っ粉こをやっさもっさこねます。 ほんとにしまるなら、それこそたのむよ。 ながぐつにどろどろどしこんだバタをよ、 きれいずきの、世帯もちの、しまりやのおかみさんだ。 ひっかき棒のかわりにお足でべっちゃべっちゃ。 ほんとにしまるなら、それこそたのむよ。 チイズは台所の物置のおたなに、 きれいずきの、世帯もちの、しまりやのおかみさんだ。 ひとりでにころげるまでうっちゃっちゃってかまわない。 ほんとにしまるなら、それこそたのむよ。 ﹇#改ページ﹈御婚礼
ぶうん、ぶうん、ぶうぶうぶ。 はえがくまんばちにお嫁いり、 いよいよ教会へいきやして、首尾よく御祝儀あいすんだ。 はえとくまんばちの御婚礼。 ﹇#改ページ﹈タッフィ
タッフィはウェルス人、タッフィはどろぼう。 わたしの家うちにやってきて、牛肉一ひと塊くれぬゥすんだ。 タッフィの家うちへいったらば、タッフィはいなかった。 タッフィがやってきて、髄ずい骨こつ一本ぬゥすんだ。 タッフィの家へいったらば、タッフィはいなかった。 タッフィがやってきて、こんどは麺めん棒ぼうぬゥすんだ。 タッフィの家へいったらば、タッフィはねていた。 そこで火ひか棒きとって、そいつの頭になげつけた。 ﹇#改ページ﹈ばばァ牛
黒白まだらの御面相は、 チャアレエ・ワアレエの女めろ郎う牛しだ。 その木戸あけねえか、おとおりじゃ。 チャアレエ・ワアレエのばばァ牛。 ﹇#改ページ﹈とっぴょくりん
とっぴょくりんのとん吉が、 とっぴょくりんのとん吉が、 おまんじゅうをいただいて、 そとがわだァけのォこした。 ﹇#改ページ﹈卵うりましょうと
卵うりましょうと、わしがゆく道で、 でおうた、でおうたよ、ねじれ足とでおうた。 足はねじれ足、爪つめまがり爪づめ、 こいつおもしろいとかかとをちょいとすくう、 そこで、すとんと地べたに小鼻をぶっつけた。 ﹇#改ページ﹈かささぎが一羽よ
かささぎが一羽よ、なしの木にとォまった。 かささぎが一羽よ、なしの木にとォまった。 かささぎが一羽よ、なしの木にとォまった。 おおしんど、ああしんど、おおしんどよう。 うれしそに一度よ、ちちんがちんとはねた。 うれしそに二度よ、ちちんがちんとはねた。 うれしそに三度よ、ちちんがちんとはねた。 おおしんど、おおしんど、おおしんどよう。 ﹇#改ページ﹈これ、これ、こいきな
﹁これ、これ、こいきなおむすめご、 おまえはどちらへおいでです﹂ ﹁お乳しぼりにまいります﹂ ﹁これ、これ、こいきなおむすめご、 わたしもいっしょに行いてあぎょか﹂ ﹁ええ、ええ、そんならうれしいわ﹂ ﹁これ、これ、こいきなおむすめご、 おまえのお父さんはなになさる﹂ ﹁わたしのお父さんはおひゃくしょうよ﹂ ﹁これ、これ、こいきなおむすめご、 おまえさんに財おた産からありましょね﹂ ﹁いえ、いえ、御ごき器りょ量うが財おた産からよ﹂ ﹁これ、これ、こいきなおむすめご、 そんならお嫁さんにゃちとこまる﹂ ﹁いらぬおせわでござります﹂ ﹇#改ページ﹈市いち場ばへ、市場へ
市いち場ばへ、市場へ、乾プ葡ラ萄ム入ケイキかいに、 かえろよ、かえろよ、市場にゃおくれた。 市場へ、市場へ、乾プ葡ラ萄ム入パンかいに、 かえろよ、かえろよ、市場ははねた。 ﹇#改ページ﹈数学
掛け算はしちめんどう、 割り算は因いん業ごう、 比例は人なかせ、 応用問題気がちがう。 ﹇#改ページ﹈眼め
青い眼めはきれい、 灰色の眼は陰気、 黒い眼は腹黒、 鳶とび色いろ眼玉はおばァけ。 ﹇#改ページ﹈五月のみつばち
五月のみつばちゃ、 乾ほし草くさ一いち駄だよ。 六月のみつばちゃ、 銀のさじとおなじ価ねよ。 七月のみつばちゃ、 はえの一匹にも、つっかわぬ。 ﹇#改ページ﹈朝のかすみ
朝のかすみと夕焼け空は、 日ひよ和りよいとの前しらせ。 くもる日ぐれと朝焼け空は、 お寝よるひつじをみなぬらす。 ﹇#改ページ﹈かっこ鳥
きれいな小鳥、かっこ鳥、 とびとびうたうかっこ鳥、 ないてしらするその声は、 つゆうそのないいいしらせ。 小鳥の卵すするゆえ、 なく音ねすずしいかっこ鳥、 はやもなきます、かっこうと、 夏がもうじきまいります。 ﹇#改ページ﹈豆こぞう
豆んちょの家うちの、 豆んちょのこぞうっこ、 よその養かい魚ぼ池りへおしかけて、 魚さかなをぴんぴとつりあげた。 ﹇#改ページ﹈ソロモン・グランディ
ソロモン・グランディは、 月曜日にうまれて、 火曜日に洗礼うけ、 水曜日に嫁とったが、 木曜日には病気になり、 金曜日にずんと重おもって、 土曜日におっ死ちぬちゅうと、 日曜日にはうめられた。 ソロモン・グランディの御ごい一ちだ代い。 そこでおしまい、ちゃァんちゃん。 ﹇#改ページ﹈かえるの殿との御ご
お池にござるはかえるどの、 お池にござるはかえるどの、 はつかねずみは粉こな小ご屋やに。 相手ほしやのかえるどの、 相手ほしやのかえるどの、 でんでんむしの背中にうちのって。 はつかねずみのお宿やどまで、 はつかねずみのお宿まで、 そこで戸たたく、ものもうす。 ﹁はつかねずみのお姫ひいさま、わたしゃ其そさ様まにあいにきた、 はつかねずみのお姫ひいさま、わたしゃ其そさ様まにあいにきた、 お気にめしたか、めすまいか﹂ ﹁なんとお返事いたさりょうに、 なんとお返事いたさりょうに、 まして叔お父じ様さのるすのうち﹂ ねずみの叔お父じ御ごがもどられて、 ねずみの叔お父じ御ごがもどられて、 ﹁だれかみえたぞ、るすのうち﹂ ﹁いやな殿との御ごがござんした、 いやな殿との御ごがござんした、 叔お父じ様さのおるすにござんした﹂ そこでなきなき、かえるどの、 なきなき、小川をかえるどの、 めがものお上じょとであわしゃる。 よいものみつけた、ござんなれ、ござんなれ、 めがものお上じょに、かえるどの ぱくとのまれてきゅうきゅうきゅう。 さてもあわれな物語、 ここらあたりで、あなかしこ。 ﹇#改ページ﹈一切空
一いっ切さい空くうちゅうおばあさんがどこかしらにござった。 豆っちょろのお家いえにおさまりかえってござった。 そこへだれだかぬうとでて、 かっと口あけ、すう、ぱくり。 お家うちもおばあさんも一切空。 ﹇#改ページ﹈ロンドン橋
ロンドン橋ばしがおちた。 ロンドン橋がおちた。 なんでこんどかけるぞ。 なんでこんどかけるぞ。 銀と金とでかけてみろ。 銀と金とでかけてみろ。 銀も金もぬすまれた。 銀も金もぬすまれた。 鉄と鋼鉄とでかけてみろ。 鉄と鋼鉄とでかけてみろ。 鉄でも鋼鉄でもへしまがる。 鉄でも鋼鉄でもへしまがる。 材木と粘土とでかけてみろ。 材木と粘土とでかけてみろ。 材木、粘土はながされる。 材木、粘土はながされる。 そんなら石でかけ、そりゃ丈じょ夫ぶだ。 千年万年大だい丈じょ夫ぶだ。 ﹇#改ページ﹈世界じゅうの海が
世界じゅうの海が一つの海なら、 どんなに大きい海だろな。 世界じゅうの木という木が一つの木ならば、 どんなに大きな木であろな。 世界じゅうの斧おのが一つの斧なら、 どんなに大きな斧だろな。 世界じゅうの人たちがひとりの人なら、 どんなに大きな人だろな。 大きなその人がおおきな斧をとって、 大きな木をきり、 大きなその海にどしんとたおしたら、 それこそ、どんなにどんなに大きい音だろな。 ﹇#改ページ﹈空はじめじめ
空はじめじめ、 雨もよい、 ちっちゃなおじいさんにでおうたら、 身ぐるみ革かわきて、 あごに無シャ縁ッ帽ポつんだして、 ﹁おさむう、おさむう、こんにちは﹂ 空はじめじめ、 おわかれと、 よぼよぼなかまが手をにぎり、 身ぐるみ革きて、 あごに無シャ縁ッ帽ポつんだして、 ﹁さよなら、さよなら、またいつか﹂ ﹇#改ページ﹈アアサア王
アアサア王の御ごじ治せ世いじゃ、 アアサア王はよいかたで、 挽ひき割わ麦り三さん斤ぎんぬゥすんで、 袋ふく形ろなりのプッジングをこさえよか。 いよいよ王さまのお手製で、 それには山もり乾ほしぶどう、 拇おや指ゆび二つよりかまだふとい 脂あぶ肉らにくを二ふた塊きれどしこんだ。 王さまとおきさきとがまずめして、 つぎに大臣たちがおしょうばん、 そしてその夜のおあまりは、 翌よく朝あさおきさきが油あぶ揚らあげ。 ﹇#改ページ﹈がぶがぶ、むしゃむしゃ
どうしたことだえ、このおばば、 のんだりくったり、そればかり、 ほかにはなんにもようせぬで、 くうのとのむのが商売かい、 むしゃむしゃ、がぶがぶ、ぐずりばば、 ぶつぶつぶつぶつまだやめぬ。 ﹇#改ページ﹈天てん竺じくねずみは
天てん竺じくねずみは追っかけごっこがだいすきだ。 ツラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ。 捕とらよとおもうならまず駈かけた、 それ手をはなした、 どっちがはやいか。 ツラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ。 ﹇#改ページ﹈ジャック・スプラットと
ジャック・スプラットとその嚊かかさ。 じいさはたべてもやせこけだ、 ばばさはふとっても意いじ地ぎ汚ただ。 ふたりの間あい中なかを、ちょとごらん、 お皿はすべすべなめてある。 ﹇#改ページ﹈背せぼ骨ねまがり
背せぼ骨ねまがりのあまのじゃく、 背骨まがりの旅をして、 背骨まがりの石段で、 背骨まがりの六ペンスをひろい、 背骨まがりのねこを買い、 背骨まがりのねずみをとらせ、 背骨まがりの豆んちょの家いえに、 背骨まげまげおさまった。 ︵注︶あちらでは、つむじまがりのことを背骨まがりと申します。 ﹇#改ページ﹈おらがお父ととは
おらがお父ととはおっ死ちんだ。 何あんといってええだが、こちゃしらぬ。 うまを六匹くんさんし。サテ、 犁すきでもってすけちゅうだ、おえちゅうだよ。 うまを六匹売っとばし、 めうしを一匹、こちゃ買ってな、 一ひと身しん上しょうあんべとごきげんだ。サテ、 何あんとしてええだが、まだしらぬ。 そこでめうしを売っとばし、 ふくらはぎを一本、こちゃ買ってな、 一身上あんべとごきげんだ。サテ、 極上肉を半ぺら、またなくす。 そこでふくらはぎを売っとばし、 めねこを一匹、こちゃ買ってな、 あまっちょのねこめも愛ういやつじゃ。サテ、 煙けむ突だしのすみっこに、ちょんとすわる。 またまたねこめを売っとばし、 はつかねずみを、こちゃ買ってな、 尻しっ尾ぽつまんで火になげた。サテ、 おらのお家うちがぼうともえた。 ﹇#改ページ﹈ねこと王さま
さてもこのたび、ねこが王さまに御ごは拝いえ謁つ、 ごぶじにおさまりゃ、しあわせだ。 ﹇#改ページ﹈がァがァ、がちょう
がァ、がァ、がちょう、 うろついてどこいこ、 階かい上じょうを、下したを、 おくさまのへやで、 じじいにであった、 そのじじいどうした、 不ぶし信んじ心んないやなやつ、 そこで、そいつの左の足をすくって、 すってんころりとあがり段からころがした。 ﹇#改ページ﹈火の中に
火の中に石タア脂ル、 樫かしの中にはすっからかん。 泥どろの中なァかにうなぎ、 粘土の中にはすっからかん。 やぎが蔦つたくう。 めうまが麦くう。 ﹇#改ページ﹈火ばしの一対
足なが、せむし、 小こあ頭たま、眼めなし、 それなァに。 ﹇#改ページ﹈お月さま光る
おじょっちゃん、おぼっちゃん、外へでてあすぼ、 お月さま光る、昼のようにあかる。 口笛ふいてきなよ、よばわってきなよ。 上々きげんででてきなよ。でなけりゃおことわり。 夕ゆう飯めしうっちゃって、石せき盤ばんうっちゃって、 街へでてきなよ、あそびなかまがまっているに。 ときの声あげて、とんだりはねたりしておいで、 お月さまの光にぐるぐるまわっておどりましょう。 あがり段にのぼり、石垣とびおりて、 ころがしゃお銭ぜぜがなにもかもくれる。 牛乳が買える、はちのみつが買える、 半はん時ときたたずにおまんじゅうが買える。 ﹇#改ページ﹈おもちゃのうま
はいしどうどう、 おうまにのって、 チャアリング・クロスへいてみよか。 きれいなレディが、 白いうまにのって、 お手々に指輪、 おくつに鈴つけ、 ちんからちんからとおる、 それみにいこか。 ちんからちんから、りんりん。 ﹇#改ページ﹈なけなけ
なけなけ、赤ちゃん、 眼玉にお指をつっこみな。 そしてお母かさんへ行ったらば、 あれはぼうやじゃないとおいい。 ﹇#改ページ﹈北風ふけば
北風ふけば、 雪がふろ、 かわいそなこまどりはどうするぞ。 かわいそなものね。 お倉の中なァかの刈かり麦むぎに、 もゥぐりこゥぐり、ぬくもろぞ、 お羽根の裏うゥらに首まげて。 かわいそなものね。 ﹇#改ページ﹈めくら鬼
めくら鬼、めくら鬼、 めん眼めがみえないごぞんじか、 くるくる三遍まァわって、 わたしをつかめてごらんなね、 こォろぶなころぶな、 だれでもいいからとっつかめ。 わたしはこっちだよ、とっつかまえたとおおもいか。 笑しょ止うし笑しょ止うし、めくら鬼。 ﹇#改ページ﹈お山の大将
みろやい、ひととび、 おりゃここだ、 だァれもこれまい、 おれひとり。 ﹇#改ページ﹈上へいった
上へいった、いった、いった。
下へいった、いった、いった。
前へいった、うしろへいった。
ぐるぐるぐるとまァわった。
﹇#改ページ﹈
︵五つの指のさきをつついてうたう︶
一 このぶた申す。みんなして森へ。
二 このぶた申す。なにしに森へ。
三 このぶた申す。お母さんにあいに。
四 このぶた申す。そしてそしてどうするの。
五 このぶた申す。かじりついてキッスしよ、キッスしよ。
﹇#改ページ﹈
︵おなじく︶
一 このぶた、ちびすけ、市いち場ばへまいった。
二 このぶた、ちびすけ、お留守番でござる。
三 このぶた、ちびすけ、牛肉あぶった。
四 このぶた、ちびすけ、なァんにももたなんだ。
五 このぶた、ちびすけ、ういういうい。
いっしょにお家うちへ、よいとこらしょ。
﹇#改ページ﹈
︵五つの足をつつきながらうたう︶
一 おくつをはかしょ、こうまにはかしょ。
二 めうまにはかしょ。
三 ふくろを背せなにのしょ。
四 しょったか、みよよ。
五 しょったら、麦よ。
しょわなきゃ、脳みそぶっつゥぶしょ。
﹇#改ページ﹈
ながい尾のぶたに
ながい尾のぶたに、 みじかい尾のぶたに、 尾のないぶたに、 めぶたにおぶた、 まきじっぽのこぶた。 ﹇#改ページ﹈あァがった、あがった
甲 あァがった、あがった、はしご段を二つ。 乙 ちょうど、わたしのとおりよ。 甲 あァがった、あがった、はしご段を四つ。 乙 ちょうど、わたしのとおりよ。 甲 おへやへはいった。 乙 ちょうど、わたしのとおりよ。 甲 お窓の外そォとをなァがめた。 乙 ちょうど、わたしのとおりよ。 甲 そこでおさるをみィつけた。 乙 ちょうど、わたしのとおりよ。 ﹇#改ページ﹈ワン、ツウ、スリイ、 フォア、ファイブ
ワン、ツウ、スリイ、フォア、ファイブ、 魚さかなをピンピンつかまえた。 なぜそれにがした。 指をかんだ、手をかんだ。 どっちの指かァんまれた。 この右の小指よ。 ﹇#改ページ﹈顔あそび
殿とのさま、御おち着ゃく座ざ。︵額︶ ふたりの御ごけ家ら来い。︵両方の眼︶ おんどり。︵右のほお︶ めんどり。︵左のほお︶ いそいで御ごじ入ゅら来い。︵口︶ チンチョッパア、チンチョッパア。 チンチョッパア、チン。︵あごをなでる︶ ﹇#改ページ﹈このベル
このベルならした。 ︵髪の毛を一つまみ、ひっぱる︶ このドアたたいた。 ︵額をたたく︶ この錠じょうはずした。 ︵鼻をつまみあげる︶ さあ、さあ、はいりましょ。 ︵口をあいて指を中へつっこむ︶ ﹇#改ページ﹈足
二本足がすわった、三本足の上に。 一本足をしゃぶった。 四しほ本んあ足しがやってきて、 一本足さらってにげてった。 二本足がとびあがり、 三本足をひっつかみ、 四本足めがけてなげつけた。 そこで一本足をとりかァえした。 ︵注︶一本足は牛の骨、二本足は人間、三本足は腰かけ、四本足は犬。 ﹇#改ページ﹈一番目のお床
一番さきにねた子に金の財さい布ふ、 二番目にねた子に金の雉き子じ、 三番目にねた子に金の小鳥。 ﹇#改ページ﹈おしまい
よぼよぼがらすが 一羽地にとまった。 そこでお謡うたもちゃんちゃんだ。 ﹇#改ページ﹈巻末に
﹁マザア・グウス﹂の童謡は市しせ井いの童謡である。純粋な芸術家の手になったのではなかろう。しかし、それだからといって一概に平俗野卑だというわけにはゆかない。日本の在来の童謡、すなわち私たちが子供のときにいつも手拍子をたたいてはうたったかの童謡はやはり民衆それ自身のものであった。だれのなにがしという有名な詩人の手になったのではない。自然にわきあがってきた民族としての子供の声であった。その中にはむろん平俗なのもあった、いかがわしい猥わい雑ざつなおとなのものもあった。しかしほんとうの子供の声はその中にあった。すぐれて光っていた。これを思わなくてはならない。本来の民謡なるものは、野山の木きか萱やのそよぎそのものからおのずとわきでたものである。はじめはだれが歌ったとなく歌いだされて、つぎつぎに歌い伝えられて、歌いなおされて、ほんとうに洗練されたいいものばかりが永く残ることになったのである。で、その長い民族精神の伝統ということについて充分に尊重しなければならない。この意味で日本在来の童謡は日本の童謡の本源であり本流である。﹁マザア・グウス﹂もおなじく英国童謡の本源とみなしていいであろう。こうした民族の伝統ということを考えないで、ただ優秀な詩人の手になるもののみが真の高貴な歌謡だと思うのはまちがいであろう。私はそうした妙な詩人気取りはきらいである。
ほんとうを言うと、民謡とか童謡とかいうものは、たとえそれがある種の詩人の作だったにせよ、その歌謡が一般民衆のものとなった以上、その作者の名は忘れられて、その歌謡だけがすべての民衆のものとなる。そうして残れば残るだけ、その歌謡は民謡として成功したものだといいうる。すなわち作者の名が忘れられれば忘れられるだけ、ほんとうの民謡として光あるものであるのだ。
今日﹁マザア・グウス﹂の童謡として伝えられているもののうち、グウス夫人の作がむろんすべてであるとは思えぬ。いろいろ作者未詳のもの、子供そのものの声が混入しているにちがいない。グウス夫人の名すらも英国その他の英語本位の国々では忘れられて、子供たちはいわゆるお母さんがちょうの謡うただと思っている。読まれるということよりも歌いはやされている。すなわちイギリス民族そのものの童謡となっている。この民衆そのものの歌謡を決して侮ってはならない。
ことにその快活、その機智、その鋭い諷ふう刺し、無邪、諧かい謔ぎゃく、豊潤な想像、それらのたぐいまれな種々相にはさすがに異常な特殊の光が満ちている。むろん、これらの中には純粋な芸術上の立場から見ると、多少の玉石混こん淆こうは免れぬ。しかしこれは民謡としての紹介にはしかたのないものである。だから芸術品として見てもずいぶんいいと思うものがある代わり、ずっと品位の落ちたのも少々はある。それにしてもどうにも棄てるには惜しいなんらかの鋭さが蔵されている。で、私は拾った。ただ無批判に手当たり次第に訳したのではない。これでないと﹁マザア・グウス﹂の大体がはっきりしないからである。子供というものはそうビクビクして教育しなくともよい。私は子供の叡えい智ちを信じている。
私はまたこれらの Nursery Rhymes を訳しながら、洋の東西を問わず子供の感情ないし感覚生活ということについてはほとんどおんなじだということに驚かされた。この中の﹁てんとうむし﹂のごときは全然日本の﹁からすからす﹂の童謡とそっくりではないか。幾つかの﹁ででむし﹂の謡うたのごとき、またほとんど同じではないか。
ただ、彼においてはきわめて都会的な軽快味とその縦横無む碍げの機智とにずばぬけている代わり、日本の子守唄のようなほんとにしみじみとしたあの人情味には欠けていはしまいかと思われる。で、私は日本在来の民謡やそうした子守唄のありがたさをつくづくと顧みた。ただここでは委細の比較は読者にお任せする。
私がこの集に訳出したのは﹁マザア・グウス﹂の童謡を主として、なお英米児童の間に行なわれている遊戯唄ねんねこ唄その他のものを取り混ぜた。
翻訳するに当たっては四、五種の童謡集、楽譜等をかれこれ参照した。同一の童謡でもいろいろ歌いくずされたり、抜かしたりしてある。はなはだしいのは肝かん腎じんな個所で全然反対の意に変わっているのもある。そういうのは最もいいと信じたものから選択した。この集の序詩のごときはどの本をのぞいてもところどころ抜けていた。で、みんなから綜そう合ごうしてあのとおりにまとめてしまった。しかしどの聯れんもどの行も私の自じま儘まに作り足したのはない、そのままそろえて完全な一つのものとしたのである。
元来、翻訳ということはむずかしい。とりわけ韻文の翻訳は難行である。語学者でもなく、学力も乏しい私が、この難事に身を入れることはかなりはばかられることではあるが、ただ幸いに私は詩を作っている、民謡としての日本のことばをどうにか風味してきた。で、詩とか民謡とかについては、その真精神、そのリズムの動き方等にはまずまず相当の理解を持っているつもりである。で、その力を頼りにともかくやりはじめてみたのであった。
第一の困難は、これらの童謡はむろん手拍子足拍子で歌うべきものであるので、訳もまたきわめて民謡風の動律で、全然歌うようにしなければならない。で、原謡のリズムの動き方についてはそのとおりそのままの推移法を必要とする。これを違った国のことばで移そうとするのはかなり無理なことである。そしてまた歌えるようにするのはなおさらである。
で、ある少数の例外を除いて、私はなるべく一行ずつほとんど逐次に訳していった。大体において逐次訳といっていい。そのおかげて私は創作以上の苦しみをなめた。
もっとも、一昨年あたり、はじめてこのことに着手した当座はまだ不馴れで、充分手に入らなかったゆえに、謡いものとするために多少の手加減をしなければ思うように訳せなかった。それが次第に厳格な逐次訳でどうにか納めていけるようになった。で、この中には少数の手加減を入れた例外がある。
それから、Rain, rain go to Spain というような音韻上の引っかけことばのものは訳しようとするのがそもそもの無理であるから訳しなかった。﹁雨、雨、スペインへ﹂では原謡のおもしろみがなくなるからである。日本でなら﹁雨、雨、安あ房わへ﹂というふうにあの韻で掛けてゆくべきものである。
Baa, Baa, Black Sheep というようなのも困った。すべてBでいっているのであるが、日本の黒羊のくにBは掛からない。かといって、﹁くうくう黒羊﹂でも羊のなき声は出ない。﹁なけなけ、黒羊﹂では意味だけのものになる。意味だけのものでは、ほんとうの訳にはならないのだ。しかたがなければその言語のまま生きさせるほかに道がない。
﹁やぶ医者のフォスタアさんが、グロオスタアへいって﹂というふうのものはこれもことばの上の引っかけであるが、固有の名詞でそのままやれるから、そのとおりにしておいた。﹁お医者さまの西さい庵あんさんが埼さい玉たまへいって﹂というふうのしゃれだ。これは両方が固有名詞でいってるのでそのままでいいが、雨とスペインのごとく、一つが普通名詞である場合はまったく困ってしまう。で、あるものは﹁とっぴょくりんのチャアレエが﹂と訳しては原謡の妙味が出ない場合に﹁とっぴょくりんのとん吉が﹂というふうにとで掛けたのもある。これはとん吉そのものが人名というより、﹁とっぴょくりん﹂そのものが通称化されているからさして障さわりにはならないし、チャアレエという人名は原謡にはただ音韻上のしゃれに使用したまでで、それ以上のものでないから本質的の引っかけの妙味を主として訳したのである。しかしこうした例はこれくらいである。
それからまた、
月の中の人が
ころがっておちて、
北へゆく道で
南へいって
凝 えた豌豆汁 で
お舌をやいてこォがした。
ころがっておちて、
北へゆく道で
南へいって
お舌をやいてこォがした。
の原謡では﹁ノルウィッチへいく道をきいて、南へいって﹂であるが、ノルウィッチはロンドンの北に当たるので、本質の精神は北へが南と対照して、ノルウィッチを知らない日本の子供にはっきりわかるし、このほうがずっと簡潔でいいからである。こんな場合の地名は除けた。しかし、この例もほかにはめったにない。たいがい生かすべき固有名詞は生かした。
それからまた、日本語になおす場合に、語法の相違から、動詞の過去を現在格にしたり、そのまま直訳するよりも、かえってピタと本質的にその意に合う日本語がある場合は、その無意味な直訳は避けた。その真精神にそむくばかりでなく、日本語としても生きないからである。
それから、正直に﹁うまく返事をしてのけた﹂と訳したでは、かえってその本当の面目が出ない場合は﹁うまく返事をしてのきょか﹂というふうにしたのもある。
それからまた、﹁二十四人の仕立屋がででむしころしにいきました﹂を﹁二十四人の仕立屋がででむしころしにえっさっさ﹂とやったのもある。意は同じでも、えっさっさのほうが一列に、活動人形そのままになって、足がさくさくとおなじに動くからである。
それからみだりがましくてちょっと困るのは多少気品をよくするために手加減したのがある。
で、こういうのは例外であるけれども、それだからといって充分意識してやっているのであるから、詩法を知らぬ語学者から頭ごなしに誤訳呼ばわりをされたくない。
ただ、学力の不足のためか、うっかりしたためにとんでもないまちがいをしたことがあるかもしれない。そうした条々がもしあればどうか御教示にあずかりたくお願いする。
私はそれらの内容と動律の本質とをわが日本の民謡語であたう限り生かしきろうとつとめた。生かしえたなればありがたい。創作するとほとんど同様の誠意と熱心とをこれに傾けたのもこのゆえである。で、ある意味においては半ば私の創作ともいえよう。
以上