京洛日記

室生犀星






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 調105--16
 
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 ※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)
 
 殿殿



 ()※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)
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 稿西
 
 
 
 
 

 



 
 
 ※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)()
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 西
 
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 食堂車にはいると朝食の時刻におくれてゐるせゐか、四五人の客しかゐなかつた。朝食にビールを飮んでゐる人と、米の食を旨さうに噛んでゐる人と、夥しい洋食を片つ端から食べてゆく人と、それからやつと汽車のつかれで一杯の紅茶を半分しか喫めない婦人とがゐた。いかにも女の人の體質の弱々しさが半杯の紅茶に感じられた。僕はパンと紅茶とをできるだけの時間をかけて、その間に汽車の中の退屈をもみ消さうと、ゆつくり食べてゐた。新聞をすみからすみをあさつて讀むと、まる三十分かかり、見ればビールの客のほかの顏ぶれが違つてゐた。
 間もなく遲くおきた人達で食堂は一杯になり、僕の前に三人、よこに一人坐り、僕は廣げた新聞紙をたたまなければならなかつた。そして何か註文しないとわるいやうな氣がし、また紅茶を一杯のむことにした。
 食堂のあるじは旅行になれてゐる人ほど、食堂にはいつて來る時間がおそいといふ意味のことを話してゐたが、成程、さうかと思うた。ボーイは少女ばかりで何だか蝶のやうに脊中にエプロンの紐を結びつけ、どれも不健康な顏色をしてゐた。昨夜、京都から乘り合はした大學生風な三人づれが、隅の方で逞しく大聲で話しながら、洋食を食べはじめ、朝からビールを飮んでゐた。三等寢臺にねころんで朝からビールを飮むといふことが、さういふ年齡の僕などには思ひもよらない贅澤であつた。鋭い青年らしい、旺盛な言葉づかひなどが僕には騷々しいものに感じられた。僕は腹がふくれてゐるが、手持無沙汰になり、また緑茶を一杯註文した。それから漬物とを、――默つて卓上の花や、窓外の景色ばかり見て居られなかつたからである。
 太秦うづまさ村の端れからだいぶ自動車をはしらせてゐるうちに、竹の枝垣をめぐらした深い藪が見え、その藪の前に、白いひと筋の古風な田舍道路が走つてゐた。これはよく時代劇で見る場面で、何所か見覺えのある道路であつた。これほど京都に來たといふ感じのする風景はなかつた。關東の平野の平凡さにくらべると、京都の風景はしみじみしてゐて古い時代との關係以外に、いつも懷しい風景をひろげて見せてゐた。七條停車場から少しゆくと沼池になり、そこにある茅や蘆の枯れたまま林立してゐるのは、立派な繪を畫いて見せ、枯れ穗の美しさは色といひ淋しさといひ、無類であつた。その茅のしげりが見えなくなると、潟のやうな沼のやうなところに出て、それを電車の上から見てゆく氣持は、とても東京の郊外などでは見られない景色であつた。
 すぐ前にゐる人の食事がすむころに、やつと僕は食堂車を出て來たがまだ寢臺の上にねてゐる人があつた。大森の家につくとこんどの旅行の出がけから風邪をひいてゐた長女の熱は、やつと昨夜降つたとかで屏風を幾折も重ねたなかに元氣に起上つてゐた。宿のおかみさんに買つて來てもらつた人形と、竹下駄と、豆板や縫針がみやげであつた。十日間といふものは晝は歩きつづけであり、家に居れば書きづめに書き、晩は飮みつづきに酒にひたつてゐたが、自家に坐るとあまりに忙がしかつたために諸事夢のやうな氣がしてならなかつた。その夢のやうななかに寒い寺々の堂や廊下や築地の塀などが映つて來て、京都に行つてよかつたと思うた。永い間の願ひも叶うたやうな氣がしたが、心がふとつてだいぶ詰め込んだ豐富な思ひがした。ひよつとすると龍安寺などがこんど見て來た庭のうちで最も心に澄み切つてゐるのではないかと思つた。





  西
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2020221

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JIS X 0213

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「圖」の「回」に代えて「面から一、二画目をとったもの」    105-下-16


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