君が家やはそもいづこか。 大み慈悲の御みつ使かひ女め、―― ﹃光ひか明る﹄皇み子このいもうと、 ﹃信﹄姫に懸想しぬ。 はつ夏のあさぼらけ、 薔薇いろ雲の花やぎ 天あまそそり、吹く風に 妙たへなる香をも浮ぶるや、 いづこと教へよ、姫がありか。 黒こく檀たんの森わけて、 白びや檀くたんの峰越えて、 菱の葉うかべる沼にし 杖すすぐ阿闇黎に問ひ、 苔の花さく古ふる井ゐに 阿伽を掬む尼に問へど、 怪しみがほの答いらへに、 ﹃知らでや﹄と過ぎぬれば、 脚はゞ絆きぞあだに破やぶれ朽つる。 ありか教へよ﹃信しん﹄姫ひめ、 君ならで誰につげむ、 年長う真まく暗らやみの 深ふか淵ぶちに醸かみし清しや浄う〴〵、 敬けい虔けんのあはれ恋。 人の世馴れぬ子なれば 足おな悩ゆみがちの旅路や、 しばしは君が御み膝に 帰き依えの額をうづめしめよ。 あな憂うや、呼べど呼べと 山彦の音ねい色ろさびて、 名もしらぬ朽くち木きに いまはた夕日落つるや、 わづらひの簑みのおびえに 逆だちて身ぶるひぬ、 この世はなれしきよらの 恋や、情や、理想や、 斎いつかむ日をし我は憂ふ。 形かたちなき実じつ相さうを 恋ふるわが性さがなれば 隠るる姫を、たゆまじ、 泣かでしもたづねなむ。 見よかなた、夢のごと 天てん華げさく遠をちの雲、 我わが霊れい勇めよ、遍へん照せうの 光のうちに、大み慈悲の 姫が栄えの国ぞ見ゆる。