五里りの青あを野のに行き暮れて、 山やま下した街まちの片かた門かどに、 いかで一ひと夜よの宿やど乞ふと 都みやこのなまり、――うらわかき 学がく生せいづれの七しち人にんは 手にこそしたれ、百合の花。 家の下しも部べが、老おい屈かゞみ、 嗄しはがれごゑに、竹たけ箒ばうき とる手とどめて物いへば、 二ふた室まへだてし簾すし障やう子じの 奥に乳う母ばよぶ――こは人の 百合の花なる白き影。 親なき君をいつく家やの あなあやにくと、しとやかに 乳母はいなみぬ。よし、さらば、 そのあえかなる君祝ひ 捧ぐと與あたへ行き過ぎぬ、 七しち人にんの手の百合の花。