たとふれば戦ひ果てぬ、 日は暮れて二ふた時ときを経ぬ なまぐさき荒あら野のの中なかに 双さうの眼を弾た丸まに射られて なほ黒き呻うめ吟きをしのび、 よこたはる負いた傷での兵の 勇しきわかき心に、 秘ひめつゝむ苦くる痛しみ遂つひに 鈍にび色いろの寂じや寞くまくの気きを 吸ふがごと嗚呼われこゝに。 くらがりの冷えたる室むろに ひとり居ておもひ沈めば、 空くう想さうは蠑さゞ螺えの殻からの 底つ闇やみたどるがごとく、 鬱うつ憂ゆうははた南なん蛮ばんの 夜よる深き荒あり磯その上に 鋭とき銛もりを腮あぎとにうけて 横はる粗あら膚はだ鮫ざめの 断だん末まつ魔ま――濁りゆく眼めに 無むへ辺んなる闇を見るごと。 愛あい消えし人ひとの心は 霜の夜の渚なぎさの泥ひぢに まみれたる寄が居う蟹なの殻からの 冷やかに凍こほれたるごとし、 土つち色いろにはた青せい銅どうの 巨おほ鐘がねの銹さびのやうなる 寂じや寞くまくの五い百ほ重へのなかに 一いつ瞬しゆんも千とせのおもひ、 あゝかゝる日の凶まが時どきに 人は死に、花は萎しをれめ。