瞬また時ゝきの夢の装よそ飾ひも、 しかすがに彩あや映はゆれば、 紫の絹の帳とばり、 永えい遠えんの生いの命ちありと、 平やわ和らぎを守もりいつきて、 心ある春の雨は、 軟やわらに音おとなく濺そゝいで、 しのびに葉末を流れぬるか。 瞬またたけばまた夜よ明あけて、 瞬たけばまた日暮れぬ、 直ひた黄きもゆる夕雲を、 きらの眼めに見かへりて、 白しら無む垢くの乱れ羽に 血を浴あべる、小こば鴒と一羽、 枝ぶり怪しき柏かしはの 木ぐれに落ちたる様はいかに。 瞬たけばまた夜明けて、 四あた辺りまた暗き千せん里り、 かゝるときや古ふる琴ごとも、 虫ばみ折れて落つらむ、 若葉の雨も今宵は、 蕭せう々〴〵のわび音ね立てゝ、 あな悲し白びや木くも蓮くれんの ほろゝのこぼれぞ胸にひゞく。 点あま滴だれ拍べう子しさびしう、 刻々夜よるをきざみて、 短たん檠けいのほびも瘠やせぬ、 小こが香う炉ろの灰も冷えぬ。 晩ばん春しゆんの項うなじ重おもう、 古ふる甕がめの神み酒きを汲くみて、 肱ひじまくら思ひ入れば あゝ胸むな柱ばしら切せちにわなゝく。 わなゝきはあわたゞしく、 小暗き室むろをはしりて、 闇に消えぬ、一しきり 木蓮の散る音ねにつれ、 古ふる甕がめはげしく裂けて、 あら御み酒きの泡もとめす、 大いなる、わなゝきぞ、 天てん地ちのかぎりにひろごりぬる。 折りから真闇のをちに、 生いの命ちの緒を断たつ氷ひば鋏さみ、 わなゝく大気にひゞきて、 終をは焉りの影を依い々ゝたる、 あゝ束つかの間まの装よそ飾ひに、 酔ひしれず、霊のまへに、 涙の意こゝろさぐらずば、 わが魂たまいかにか迷ひけらし。