俺達の手を見てくれ給え
ごつごつで無細工で荒れて
頑健なシャベルだ
伝統と因習の殻を踏み
時代の扉を打ち開く巨大な手だ
りゅうりゅうと筋骨はもくれ上り
俺達の如く底力を秘めている
どきっどきっ脈打つ血管には
火よりも赤い革命の血が流れ
すべっすべっ皮膚は砲身の如く
ペシャンコにひしゃげた爪は兄弟達の顔面の
頑固で硬質で
干からびた田圃の
手
荒っぽい指紋が何と
手は戦闘の意欲に燃え
目には見えないがあらゆる世界の同志の手と握り交され
広大な戦塵の列伍に
采配の下る日を待ち侘びているのである
ぎゅっぎゅっ鳴っている闘志を聞く事が出来るだろ
来るべき俺達の世紀を見る事も出来るだろ
生々しい闘争の跡は皺の間に刻まれ
ぎゅーっと握れば奴等へ投げつける手榴弾
開けば奴等の土台を覆す
十本の指がびんびん働く行動は
手の中には先祖代々の魂が住み
搾られて空しく死んだ祖先の反逆が爆発し
焔の如く燃しきっているのである
真黒い手
節くれ立った手
時代の尖端に飛躍する手
振り廻すとびゅっびゅっ風が唸り
剣をとって立ち上った勇姿が思われ
彼奴等の頭を打ち摧き
彼奴等の城壁へ
急がず
手はじっと息をひそめ
鋼鉄製の情熱を沈め
同志を集め
同志を教え
耐え 忍び 潜勢力を貯わうる革命の使徒である
(『文芸戦線』一九二九年八月号に今村桓夫名で発表『今野大力・今村恒夫詩集』改訂版を底本)