その一
うら若わかき頃の、悲しきあこがれ……… 草葉の息ふきかへす甘き香り、 艶うるはしき花の笑ひもながめて過ぎぬ、 木の間にさへずる、鳥の歌をきゝ、 悲しみは眼めを閉ぢて、暫しば時しやすらひもせし、 されど、とく新らしき悲しみに転りぬ、 何をもて、この闇を照さむ、 空を仰げば恐おそろし……… いざさらば、独り琉球節の一ひと曲ぶしを、 口笛にふるわせ、 うらやすき墓場のほとりにさ迷はむ、 そは音なき響きを︵聞︶かんとや………その二
わが思ふ女ひとのありやなしや、 まよはしきかな、 夕暮の窓にもたれて、蒼白き息ふくわれも、 またありやなしや、 あなうたがはし、 蚊のなく声を、君が悲しき唄とやきかむ、 柔風かぜの木の葉にすがる、たはふれを、 君が、鬢びんのほつれもやきかむ、 淋しき夕ゆうべの鏡もきこゆ、―― 森の彼かな方た、君住む墓のほとりにやはあらむ、 今なり! われは独りさ迷ひゆかむ……… 夕べの鐘をしたひて、 その音に耳を沈めて。その三
なつかしい丘の上、
棕梠の若葉のそよぎ、小鳥の歌、
傾むきつくす
見る/\最後の
深い/\海の彼方へ去らうとする、
なつかしい丘の上に、Kの君を待つ心よ!
夢を語るやうな暮の風に顫へる、
葉づれの音に眼が
西へ東に、足が動きだす………
夫れと思ふ俤が、更に眼にとまらぬ、
胸を抱いて、深い悲しみに沈む、
林の間に、夜の色が浮び出した………
黒ろい恐ろしい影は、
私の
もう是れが私の、Kの君に対する最後だ!