哀詩数篇
漢那浪笛
なすによしなき哀れさよ、
早や日数経て、今(け)日(う)の日も
暗(くら)がりわたる物おもひ。
水や空なる波の上に、
淋しくかゝる綾(あや)雲(ぐも)は、
やがて消ゆべき希(のぞ)望(み)かや。
その希望もて吾が道は、
深(ふか)海(み)の底の青貝の、
螺線の中のゆきもどり。
物の幾度□(︵不明︶)貝□(︵不明︶)葉に、
灰色なせる涙もて、
悲哀の文字を印せしも、
暗き深みのみなぞこの、
声も言葉もかよわねば、
昨日も今日も、かくて暮れゆく。
灰色の雲かさなりて、
黄(たそ)昏(がれ)は死人のけわひ。
しく〳〵と泣きいる風は、
谷(たに)隈(くま)の底をはひ出で、
黄ばみたる木立はらひぬ。
冷やかな自然よ君と、
今日も又、かくて暮れゆく、
哀音の鐘の響きは、
痛みたる君が胸より、
傷(い)た振(ぶ)るる、苦(くげ)患(ん)の声か。
うなだるる眼ひらきて
黄昏の空を仰げば
奥津城の岩のほとりの、
小山なす屍(かばね)の上に、
胸もどき声をきゝしる。
●表記について
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