奇談クラブ〔戦後版〕

音盤の詭計

野村胡堂






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但し妻鈴子は余の死後満一ヶ年間独身たるべきこと、一ヶ年以内に再婚せんとする場合は遺産の相続権を放棄せざるべからず
 

 
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OKUZUSUOKUZUSU
 私は妙なことに気が付きました。この「オクズス」という言葉をローマ字で書いて、逆に読んでいくと、SUZUKO(スズコ)となるのです。国府老人の最愛の妻――夫人の名前になるではありませんか。
「――――」
 私は何んかしら、重大な発見をしたような気がしました。念のためにもう一つレコードに頻繁に出て来る「ウレラソロク」という言葉をローマ字で書いて、
URERASOROKU
URERASOROK
 最後の母音を一つ削って読み下すと、何んとそれは、この世で一番恐ろしい言葉、
KOROSARERU「殺される」
 
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――私は国府金弥だ。最早余命も長いことはあるまい、私はある人に間もなく殺されるだろう、が、命のあるうちに、妻の鈴子や親切だった友人達、わけても私の顧問弁護士の佐瀬渉氏に、これだけの事を言い遺して置き度い――
 これはまさに国府金弥老人の声です。言葉の意味も舶来の阿呆陀羅経どころではなく、あまりにもよくわかります。
 レコードの言葉は続きました。
――私を殺そうとしているのは、思いもよらぬ人間だ。その人間は私の小切手を偽造して、この三年間に数十万円の横領を働いているが、私は相手の将来の事を考え、悔悛の余地を与えるために、あえてそれを摘発しなかった。それは今となっては、かえって取返しのつかぬわざわいになってしまった。その人間は私の同情を裏切って、自分の罪を永久に隠しおわせるために、私の毒殺を計画し、着々実行を進めていることが、今――肝臓に致命的な傷害を受けてから始めて発見されたのだ。
 それは実に恐ろしい言葉でした。鈴子夫人を始め、一座は固唾かたずを呑んで聴き入るばかり。
「よそう、それは死に際の老人の幻想では無いか、そんな言葉のために、善良な人は、どんな迷惑をするかわからない」
 一座のうちに、たった一人そう言った者があります。一同の眼はその人の顔に注がれました。それは森川森之助の真っ蒼な顔ですが、今となっては、最早取合う者もなく、レコードは宿命的な速さで、相変らず語り続けます。
――その悪人は今私の最愛の妻鈴子を迷わそうとしている。鈴子は純潔で聡明な女だが、惜しいことにまだ年が若過ぎる為に、悪人の無道残虐な本心を見抜くことが出来ず、その悪人は私の遺産の一千万円を狙っているとも気が付かず、悪人の若さと弁才と、その美青年振りに惑わされて、危い淵の上を歩んでいる。私は鈴子をとがめる意志は毛頭無く、死んだ後の財産など素よりどうなっても構わないが、その悪人には既に妻があり、鈴子を欺いて二重結婚をし、私から譲られた財産を横取りしようと企らんでいることは眼に見えるようだ。その証拠は何処どこにあるか、悪人の名は何んというか、それは――
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鹿鹿
 

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――証拠は佐瀬弁護士に預けてある、厳封をした大封筒にみんな入れてある。偽造小切手の始末、悪人の妻の隠れ家とその名、それから私の肝臓を致命的にするために、悪人の手に入れた薬の処方箋と、それを売った薬屋の名、北村博士の診断――
 レコードはそろそろ峻烈な論告に入りました。
――私はこれだけの事を鈴子に教え度いと思ったが、悪人の巧言に惑わされた鈴子は、この老人の言葉を容易に信じてはくれまい。そこで卑怯な条件を設けて、鈴子の再婚を一年延期させた。一年経ったならば、鈴子の聡明さで、悪人の本性を見破れない筈はあるまいと思ったのだ。そうすれば、私の処置が老人の醜い嫉妬のためで無かったとわかってくれるだろう。私の死んだ後で、鈴子は誰と再婚しようとそれは勝手だ。鈴子の幸福のために、私も心からそれを望んでやまないが、小切手偽造犯人や、二重結婚者で、私を毒殺した相手とだけは一緒になってもらい度くない。一年経って鈴子がまだ悪人の本性が見破れなかったら、このレコードに吹込んだ遺言状で、悪人を告発し、鈴子を救う外は無い。
 レコードを逆廻しに吹込んだのは、万一の場合にも悪人に覚られない為だ。吹込みレコード会社の好意でそれは出来上ったが、どうせ悪人に知れずに済むまいと思って、レコードは佐瀬弁護士に、レコード箱の鍵はわざと森川森之助に預けて置く。
 レコードを逆に廻す事は、レコード通の望月辛吉君が気が付いてくれるだろう。万一気が付かなければこのゲームは私の負けだ。
 さて最後に私を殺し、数十万円の小切手を偽造し、二重結婚を企らんでいる稀代の悪人の名を言おう、それは――「森川森之助だ」
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底本:「野村胡堂伝奇幻想小説集成」作品社
   2009(平成21)年6月30日第1刷発行
底本の親本:「代作恋文」アポロ出版社
   1948(昭和23)年10月
初出:「月刊読売」
   1947(昭和22)年6月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:阿部哲也
2015年2月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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