私の青年時代

山之口貘




 
 
 
 
 調
 
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 鹿
 
 
 
 
   鹿
 
 宿宿宿宿
 
 
 宿
 姿
 
 稿
 西調




お国は? と女が言つた
さて、僕の国はどこなんだか、とにかく僕は煙草に火をつけるんだが、刺青と蛇皮線などの聯想を染めて、図案のやうな風俗をしてゐるあの僕の国か!

ずつとむかふ


ずつとむかふとは? と女が言つた
それはずつとむかふ、日本列島の南端の一寸手前なんだが、頭上に豚をのせる女がゐるとか素足で歩くとかいふやうな、憂欝な方角を習慣してゐるあの僕の国か!

南方


南方とは? と女が言つた
南方は南方、濃藍の海に住んでゐるあの常夏の地帯、竜舌蘭と梯梧と阿旦とパパイヤなどの植物達が、白い季節を被つて寄り添ふてゐるんだが、あれは日本人ではないとか日本語は通じるかなどゝ談し合ひながら、世間の既成概念達が寄留するあの僕の国か!

亜熱帯


アネツタイ! と女は言つた
亜熱帯なんだが、僕の女よ、眼の前に見える亜熱帯が見えないのか! この僕のやうに、日本語の通じる日本人が、即ち亜熱帯に生れた僕らなんだと僕はおもふんだが、酋長だの土人だの唐手だの泡盛だの、同義語でも眺めるかのやうに、世間の偏見達が眺めるあの僕の国か!

赤道直下のあの近所


(「社会人」一九六三年四月号)







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kompass

2014118

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