﹁それについては面白い話があるよ﹂ と社長が言い出すと、周囲のものは皆辟へき易えきする。しかし相槌を待ち設けて見廻しているから、誰か、 ﹁はゝあ﹂ と応じてやらなければならない。社長には尻しり馬うま居こ士じという綽あだ名ながついている。人の話の後から屹度何か思い出して、 ﹁それについては……﹂ をやる。それが時には甚だそれについていないことがある。日いつ外ぞや重役の星野さんが何かの機きっ会かけで、 ﹁私は申年生れです﹂ と言ったら、社長は、 ﹁申かね? 猿については我輩も一家の意見を持っている﹂ ﹁はゝあ﹂ ﹁四国猿といって、彼奴は我輩の郷里が本場さ。この頃は大分へったようだが、昔は随分いたものだぜ。芸を仕込むには四国猿に限る。南洋でも捕れるが、彼方のは覚えが悪い。猿廻しの連れて来るのは皆我輩と同郷さ。加藤清正に論語を習った猿も四国産だったろう。彼奴を山から捕って来て馴らすには……﹂ と猿の講釈を始めたことがある。そういう折からは一同仕事の手を休めて傾聴して、然るべきところで笑わなければならない。会社員もナカ〳〵骨が折れる。尤も猿が加藤清正から論語を習ったなぞと聞けば、何うしたって吹き出さずにはいられない。誤植が多いので助かる。 最近社長は欧米漫遊をして来たので、殊に話題が多くなった。新知識を裾分けしたくて手ぐすね引いて待っているから、うっかり口が利けない。黙っていても何とか因いん縁ねんをつけて機会を拵える。 この間も、 ﹁星野君はこの頃晩酌をおやりですか?﹂ ﹁さあ、やったりやらなかったりです﹂ ﹁彼方は禁酒で豪いことになっていますよ﹂ とあって、早速アメリカの話を始めた。斯うなると蛇だそ足く居こ士じでなくて強盗に近い。 ﹁はゝあ﹂ と星野さんは人が好い。 ﹁……全く愚な法律ですな。迚とても取締りのつくものじゃない。結局悪い酒を高く飲ませて密輸入者の腹を肥こやす丈けのことですよ。下等社会になると怪しげな代用品を調合して飲むから事故が多い。能く死にます。一杯飲むと目の玉の飛び出すような強い酒を密売しているんだからね。あのまゝにして置くと、労働社会の健康が行きついてしまう。それでアメリカを亡ぼすものは禁酒令だろうという説さえ識者間に出ている﹂ と結論に達するまでに三十分もかゝった。 今回社長の秘書に抜擢された私はこの相手代って主代らずの長談義を一から十まで拝聴していなければならない。以前は社長の御高説を直接に承わるのは光栄の一つだったが、昨今のように毎日のお勤めになると、うんざりする。それに社長はもうお年の所せ為いで頭の造ぞう作さくが多少傷いたんでいるから、物忘れをして同じことを幾度も話す。星野さんや塚本さんが又かと言ったような目つきを私に向ける時には、私こそ同情して貰う価値がある。私はもう四度も五度も聞かされているのである。 社長は漫遊中、某公爵と懇意になって、帰朝後も公爵を名誉総裁とするゴルフ倶楽部に入って交際を続けている。そこでこの公爵の逸話が頻ひん繁ぱんに出る。 ﹁アメリカから英国へ渡る時に船の中で初めてお目にかゝったのさ。公爵は百万石の殿様だけれど、平民主義で有名なお方だ。我輩の名刺を見て、﹃はゝあ、かねて承わって居りましたよ﹄と仰おっ有しゃったには恐縮したね。実にさくい。君僕といった調子で、少しも高ぶらない。ところが或日甲板で面白いことがあったんだよ﹂ と社長はこの時相手の顔を打うち目ま戍もるのを常とする。 ﹁はゝあ﹂ と言えとの催促だから仕方がない。 ﹁はゝあ﹂ ﹁公爵は平民的と呼ばれるのが嬉しいと見えて、何でも対等にやる。我輩がポケットから煙草を出すと、卓上のマッチを取って擦りつけてくれる。これは恐縮だったね。その代り我輩も公爵が煙草を出すのを待っていてつけて差上げる。ところが或日のこと公爵は我輩の煙草をつけてくれる積りで卓上のマッチを取ったが、明けて見ると空からさ。君、何うしたと思う?﹂ ﹁はゝあ﹂ ﹁はゝあじゃないよ﹂ ﹁さあ、何うしましたろう?﹂ ﹁公爵は一ちょ寸っと不機嫌な顔をして、﹃君、愚図々々していないで彼あっ方ちのを借りて来給え﹄と我輩を極めつけたんだよ﹂ ﹁成程、それから何うしました?﹂ ﹁我輩が隣りの卓テー子ブルへ行ってマッチを持って来ると、公爵は、﹃よし、御苦労﹄と言って擦すってくれた。これなら自分でやる方が余っ程手っ取り早い。実に豪い平民主義があったものだと思って、窃ひそかに敬服してしまった﹂ ﹁ハッハヽヽヽ﹂ とこゝで皆笑わなくちゃいけない。 ﹁華族さんの平民主義なんて皆こんなものさ。都合の好い時丈け平民で、少し故障があると直ぐに地金を出す。元来が鍍めっ金きだからね﹂ ﹁然うでしょうとも﹂ ﹁しかし好い人だぜ。今度の拡張の時にはうんと持って貰う﹂ と社長はゴルフ倶楽部へ商売をしに行くのである。 主として重役と課長連中が斯ういう無駄話のお相手を勤める。平社員は与あずかり知らず、社長帰朝以来重要会議が度々あるようだと思って、コツ〳〵勉強している。会社では忙しい人ほど報酬が悪い。雑談の余裕のある人ほど待遇が好い。但しゴルフをやりに行っても公爵に株を持たせることを考えているのだから、社長と雖いえども心に閑はない。重役の星野さんや塚本さんにしても時折夜分眠られないと言っている。矢張り相応に頭を使っているのだ。課長連中に至っては上と下に挾って真剣に忙しい。皆それ〴〵屈託があるのだから、社長の御高説ばかり拝聴していると事務の渋じゅ滞うたいを来す。そこで重役も課長も成るべくかゝり合わないようにしている。尤も課長連中は別室だから、来なければ捉まりっこない。 ﹁や、や、や﹂ と或日社長は新聞を見ながら声を揚げた。相手が黙りこくっていると斯ういう手を用いるのである。 ﹁某実業家夫人が運転手と駈かけ落おちをした。誰だろうな?﹂ と聞えよがしに呟いたのは新聞種を直じ接かに話題にする積りだった。 ﹁そんなことが出ていましたね﹂ と塚本さんが机から頭を擡もたげた。 ﹁運転手との駈落ちについてはアメリカで面白い話を聞いて来たよ﹂ と社長は眼鏡を外はずした。 ﹁はゝあ﹂ と塚本さんは仕方なしに言ってしまった。 ﹁彼方の大銀行の頭取が医者に勧められて三ヵ月間絶対休養の為めに、単独で海岸へ転地したんだそうだ。矢張り我輩のように血圧亢進動脈硬化と来ている。そこでその期間銀行からも家からも完全に消息を断って、専心静養した。何も彼も忘れてポカーンとしているのが一番の薬だってね。我輩なぞも確かにその必要があるよ﹂ ﹁ありますとも。会社の方は私達が引き受けますから、何なら最近に如何ですか?﹂ と星野さんが勧めた。 ﹁然う遊んで歩いてばかりもいられないから、来年のことにしよう。ところでその頭取は悉すっ皆かり本復して帰って来た。停車場に着くと、書生が唯一人迎いに出ていた。元来子供のない人で、二度目に貰った女優上りの若い細君とその母親がいるばかりだ。﹃お帰りなさいませ﹄﹃何うだね? 別に変りはなかったかな?﹄と三みつ月きも家を明けていれば気になりまさあね﹂ ﹁はゝあ﹂ ﹁書生は消息を伝えてはいけないと断られていたから、﹃一向ありません﹄と答えたが、犬一匹ぐらいは宜かろうと思って、﹃実はジョンが死にました﹄と付け加えた。﹃ジョンが死んだ? 犬殺しにでもやられたのか?﹄﹃いや、馬の焼けたのを食べたもので……﹄﹃馬の焼けたの? ふうむ、一体何処へ行ってそんなものを食べたんだろう?﹄と頭取が小首を傾げたのも無理はない。彼方の上流社会では馬は食わないからね﹂ と社長がこんな矛盾を平気で言うのは矢張り動脈硬化の徴候である。 ﹁日本でも食いませんよ﹂ と私は注意してやった。秘書だからといって、遠慮ばかりしていると存在を認められない。 ﹁成程、然う言えば然うだな。ところで書生は﹃実は厩うまやが燃え上って二頭とも焼死しました。それをジョンの奴が食べたんです﹄と説明した。﹃はゝあ、厩が焼けたのか? 粗相なことだな。何うしたんだい?﹄﹃飛び火です﹄﹃飛び火? そんな近火があったのかい?﹄﹃はあ、実は本館が焼けました﹄﹃本館が?﹄﹃はあ、全焼です﹄﹃これは驚いた﹄と言っても保険がついている﹂ ﹁社長、それは事実談ですか?﹂ と塚本さんが訊いた。 ﹁それは請うけ合えない。﹃一体何うして火事を出したんだい?﹄﹃実は真ほんの過失で、蝋燭の火がカーテンに燃え移ったんです﹄﹃しかし家では電燈ばかりで蝋燭は使わないじゃないか?﹄﹃棺の周まわ囲りに立てゝ置いた蝋燭です﹄﹃棺? 誰が死んだ?﹄と頭取は青くなった。何事があっても言って寄越すなと命じて置いたが、死しに生いきが起ろうとは思わなかった。﹃実は奥さんのお母さんが急に亡くなりました﹄﹃然うか。それなら宜い﹄とナカ〳〵現金な男さ﹂ ﹁塚本さん、イヨ〳〵お伽とぎ噺ばなしですよ﹂ と星野さんは万年筆を手にしたが、さりとて振りもぎる次わ第けにも行かなかった。 ﹁もう少しだから辛抱し給え﹂ と社長は圧迫を加えて、 ﹁頭取は﹃何で死んだ? 何病で?﹄と訊く。﹃病気じゃありません。余あんまり吃驚して亡くなられたそうです﹄﹃何をそんなに吃驚したんだ?﹄﹃実は……﹄﹃実は何だい? 然う実はの奥に又実はがあっちゃ困るじゃないか﹄﹃実は奥さんが運ショ転ウフ手ァーと一緒にお逃げになったんです﹄と、書生は恐る〳〵実はの終点に達した。﹃うゝん﹄と大将、もう一溜まりもなく目を廻してしまったという筋さ﹂ と語り終った。 ﹁ハッハヽヽヽ﹂ と私は大笑いをした。しかし重役達はもうこの上出世のしようがないから苦笑いをしていた。 或日のこと塚本さんが珍らしく自ら進んで社長の御高説を叩いた。尤も最初は単に、 ﹁社長は実に健けん啖たんですなあ﹂ とその前の晩招待されたお礼の序に言ったのだった。 ﹁それはこの通り図体が大きいからさ﹂ ﹁矢っ張り御丈夫だからでしょう。考えて見ると、私は迚とても社長のお年まで生きられそうもありません﹂ ﹁心細いことを言うじゃないか。大いに食って大いに寝るさ。然うすれば丈夫になる﹂ とこれが社長の健康法である。健康だから、大いに食って大いに寝られるのだ。原因と結果を取り違えているのも矢張り動脈硬化の徴候だろう。 ﹁いや、それが然う参りません。この頃は又能く寝られないんです﹂ ﹁寝られないのは一番いけない。神経衰弱かな?﹂ ﹁それも多少ありましょうが、他の原因もあります﹂ ﹁何ういう原因が?﹂ ﹁湯茶が好きで無暗に飲みますから、尾びろ籠うな話ですが、夜分必ず二回ぐらい小用に起きるんです﹂ ﹁それで寝られないのか? そんなことを解決出来ないで何うする?﹂ ﹁でも好きなものはやめられません﹂ ﹁いや、飲む方は飲む方として、尾籠の方の始末さ﹂ ﹁何か御名案がございますか?﹂ ﹁シビンを用い給え、シビンを﹂ ﹁溲瓶ですか?﹂ ﹁然うさ。あれは実に調法なものだぜ。我輩は無精ものだから、壮年時代から利用している。長々と寝ていてウト〳〵しながら用を足す時の心持は王侯貴人だね。是非一遍やって見給え。馬鹿正直に一々起きるから、睡眠不足になるんだ﹂ ﹁成程、好いことを承わりました。早速実行しましょう﹂ と塚本さんは真ほん実とうに小便を持て余しているようだった。 それから五六日過ぎて、 ﹁塚本君、何うだね? 王侯貴人は?﹂ と社長が尋ねた。 ﹁はあ。あれは実に王侯貴人です。お蔭さまで能く寝られます﹂ ﹁それは宜かった﹂ ﹁矢っ張り社長は年の効で好いことを御存知ですな。感心しました。あんな簡単な解決法を今まで思いつかなかったのが不思議です﹂ と塚本さんは深く社長を徳としていた。 ﹁そんなに具合の好いものですかな?﹂ と星野さんが釣り込まれた。 ﹁好いとも。一種の健康法として広く薦める価値がある。夜分便所に起きる為めに何れぐらい風邪をひいたり睡眠不足に陥ったりするものがあるか知れない。それが皆中老以上の有ゆう為いな人達だから、積って見ると随分国家経済に影響している﹂ ﹁はゝあ﹂ ﹁それからあれは精神修養の一端になる。あれくらい安楽なことはない。実際王侯貴人の気分が味わえる。我輩は何んなに失敗しても零落してもこの贅沢丈けは出来るのだと思うと、そこに安心立命がある﹂ と社長は又々長談義になった。 私が社長秘書を承わったのは正月だった。それから春が過ぎて夏が来た。その間に私は社長の、 ﹁それについては面白い話があるよ﹂ を幾度拝聴したか知れない。何も修業だと思っている。但し流さす石がに年の効で数の中には捨て難い傑作がないでもなかった。それを一つと筆序に塚本さんの逸話を一つ紹介して筆を擱おく。 一年前に賢夫人を失った星野さんは今回良縁があって後添いを貰った。先方も未亡人だから式は極く簡略にやるとあったので、会社からは社長と塚本さん丈けが列席した。その翌日のことである。 ﹁塚本君、祝言って奴は二度目のでも三度目のでも矢張り葬式よりは好いものだね﹂ と無論社長の方から話しかけた。 ﹁葬式と一緒にされちゃ可哀そうですよ﹂ と塚本さんも時事問題なら敢えて辞さない。 ﹁しかしナカ〳〵別嬪だ﹂ ﹁綺麗ですね。そうして若いですよ。連れ子のある丈けが欠点です﹂ ﹁子供がなければもっと面倒のないところへ行くよ﹂ ﹁それは然そうですな﹂ ﹁若くて綺麗なら連れ子の二人や三人は辛抱するさ。先せんの賢夫人とは雪と墨だ。尤も賢夫人には元来美人はない。星野君はこれから一花咲かすんだろう﹂ ﹁死ぬもの貧乏で先の奥さんが可哀そうだと妻は同情しています﹂ ﹁それは然うだが、五人も子供があって見ると、矢張り後を貰わなければ立ち行くまい。仕方がないさ﹂ ﹁新夫人の連れ子が二人で都合七人になります﹂ ﹁大変だね﹂ ﹁それに星野さんは兎に角、新夫人があの通り若いですから、屹度後が出来ますよ﹂ ﹁出来るとも。二三人は請け合いだ﹂ ﹁三人出来るとすると十人になります。それが一々種が違ったり畑が違ったりしているんですから、妙なものでしょうな?﹂ ﹁一ちょ寸っと幼稚園の観があるね﹂ ﹁然ういう混成的の家庭が果して巧く行くものか何うか私は疑問に思っていますから、実は星野さんに注意したんですよ。ところがもう見合をした後でした﹂ ﹁大将直ぐ惚れてしまったんだろう﹂ ﹁然うですよ。当って砕けろで、結果ばかり考えちゃいられないと申しました﹂ ﹁斯ういう結婚については面白い話があるよ﹂ と社長は忽ち思い出した。 ﹁はゝあ﹂ ﹁子供の三人ある男おと鰥こやもめが子供の三人ある後家さんと結婚して又子供が三人出来たそうだ。都合九人さ。星野君のところより一人少い。或日のこと細君が血相を変えて良人のところへ飛んで来て、﹃あなた〳〵、大変ですよ﹄と言った。﹃何だい?﹄と訊くと、﹃あなたの子と私の子が共ぐ謀るになって、私達の子を苛いじめていますよ。私は私の子を叱って参りましたから、あなたも行って、あなたの子を叱って下さい﹄という註文だった。何うだね? 人情の機微を穿うがっているだろう﹂ ﹁はゝあ﹂ ﹁去るものは日に疎うとい。一番可愛いのは矢張り現在の夫婦間に出来た子だ。その次に自分の子がいとしい。しかし義理以外に関係のない子には責任を感じないということになる。咄嗟に出た細君の言葉にこの辺の消息がアリ〳〵と現れているから面白いのさ﹂ ﹁成程ね﹂ と塚本さんはいつになく感心した。 ﹁新夫人を迎える人もあるんだから、お互も大いに若返る必要があるね﹂ と社長は尚お話し込もうと努めた。 ﹁駄目ですよ、もう﹂ ﹁そんな意気地のないことじゃ星野君に圧倒されてしまう﹂ ﹁いくら足掻いても、もう王侯貴人ですからね﹂ ﹁相変らずやっているかい?﹂ ﹁やっています﹂ ﹁能く寝られるだろう?﹂ ﹁寝られます。時に社長、王侯貴人ではこの間大おお失しく策じりをしましたよ﹂ と今度は塚本さんが思い出した。 ﹁こぼしたね。我輩も能くこぼす﹂ ﹁いや、然うじゃありません。火やけ傷どをしたんです﹂ ﹁火傷を? 王侯貴人でかい?﹂ ﹁然うです。私は癇が強い為め寝るのがナカ〳〵むずかしいんです。殊に蚊帳を釣ると寝られないのには困ります。それで昨今は二階の一番静かな部屋に蚊遣りを焚いて休みます﹂ ﹁はゝあ﹂ と社長は初めて聴き役に廻った。 ﹁この間の晩一寝入りして目が覚めましたから、真暗闇の中を探って例の王侯貴人を極め込もうとしました。すると忽ち飛び上りましたよ。早速電燈を点ともして見ると王侯貴人と思ったのは※﹇#丸八、U+3287、197-上-18﹈の豚の蚊かい燻ぶしでした。朝まで続くように大形のを使っています。大きさも恰好も似ていますし、寝ねぞ像うが悪くて見当が狂っていましたから、つい間違えて引き寄せたんです﹂ ﹁ハッハヽヽヽ﹂ ﹁実に吃驚しました。火と分っていれば然うでもありませんが、最初は王侯貴人の中に百むか足でが紛れ込んでいたと思ったんです。百足には子供の時食いつかれた覚えがありますが、全くその通りでした﹂ と塚本さんが真面目になって説明したので、社長と私は腹を抱えて笑った。 ︵大正十五年八月、面白倶楽部︶