女中
石川善助
台所は暗くものの焦げる匂ひがした。
前掛ばかり白い婦(をんな)のひとは、
一日たわしのやうに濡(ぬ)れて汚なく、
一日叱られながら働き疲れ、
若さを洗(あら)濯(ひい)板(た)のやうに減らすのであつた。
夕暮いつも露路へ滲(にじ)んでくる、
人脂を炙(あぶ)るやうな重いものは、
その人の生(いのち)が乾いてゆく匂ひであつた。
底本‥﹁日本の詩歌 26 近代詩集﹂中央公論社
1970︵昭和45︶年4月15日初版発行
1979︵昭和54︶年11月20日新訂版発行
底本の親本‥﹁亜寒帯﹂原尚進堂
1936︵昭和11︶年
入力‥hitsuji
校正‥かな とよみ
2022年4月27日作成
青空文庫作成ファイル‥
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