山の歓喜
河井酔茗
あらゆる山が歓(よろこ)んでゐる
あらゆる山が語つてゐる
あらゆる山が足ぶみして舞ふ、躍る
あちらむく山と
こちらむく山と
合つたり
離れたり
出てくる山と
かくれる山と
低くなり
高くなり
家族のやうに親しい山と
他人のやうに疎(うと)い山と
遠くなり
近くなり
あらゆる山が
山の日に歓喜し
山の愛にうなづき
今や
生のかがやきは
空いつぱいにひろがつてゐる
底本‥﹁ふるさと文学館 第三三巻 ︻大阪︼﹂ぎょうせい
1995︵平成7︶年8月15日初版発行
底本の親本‥﹁現代日本文学全集 89﹂筑摩書房
1975︵昭和50︶年
初出‥﹁酔茗詩集﹂アルス
1922︵大正11︶年
入力‥大久保ゆう
校正‥Juki
2016年3月4日作成
青空文庫作成ファイル‥
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