由緒ある英国庭園にて 咲ける花のふしぎな夢
A FLORAL FANTASY IN AN OLD ENGLISH GARDEN
ウォルター・クレイン Walter Crane
大久保ゆう訳
詩とカラー画デザイン ウォルター・クレイン
印刷 エドマンド・エヴァンズ
なつかしき世の園の夢を見る
かつて草花は人のごとき名を持ち
どうにも姿もふしぎで
紳士淑女よろしく振る舞ったという
その昔ロザリンドの閨房近くでは
孔雀色したイチイの垣根のそばに
何も草花が見つからなかったそうだが
実は見つけ方に
こつがあるのだ
さあ木戸の鍵を手に取るがよい
見るも麗しく 整えられた木の節や
刈り込まれた茂み なめらかな芝生に
沿って 気ままに夢をたどるのだ
草の葉からとうに雫も落ちきって かたわらで
時爺がその大鎌を研いでいるうちに
四季の乙女らが飛ぶのも忘れて
日時計の柱をぐるりと踊るあいだに
英語の古書から一葉つまめば
糸葉がひとり文筆を持ち来てくれよう
みどりの国の片隅から知らせておくれ
女と男よろしく装う草花たちのことを
まずは
美神之鏡
その向こうには
流血之愛神が見える
かたわら
麗乙女群が連れだって
さして心に気にもとめずに通り過ぎてゆく
つづいて 輝く円盾を手にしたひとりの騎士
かなりの厚さの
獅子之群牙が見えるか
羽に覆われた盾頂は申し分なく
黄金の布地が広がっている
純朴な
正直者がいたずらに
布地を見せるが誰もまとおうとしない
そのそば つまれてしまう
羊飼之袋
ずるがしこい
襤褸男が下手人だ
ほかに
仔馬之足
告天子距に
早駆
草花のさなか まっすぐに向かう
みちみち 泉のところであえぐ
鹿舌や
陽雫をなめる
犬舌などもいる
こちらは
乙女之髪に仕える
美神之櫛
あちらには
美女に捧ぐ
王杯たち
お召し物は紫と黄金でご満悦
とはいえ肩にかかるは
死之夜布
見よ 衣と冠まとう
都之華を
黄金杖にかしづかれている
かたわら 草花の一群がまわりに押し合いへし合い
貴婦人のこうべから会釈をいただこうと争う
待ちかまえる
狐之手袋たち
ふたりひと組どころか大勢一党
この愉しみ見逃すまいと繰り出して
姉妹・伯母叔母・従姉妹まで
針草がため息つきつつ顔を上げ
いまだ縫われぬ
独身男之釦を見やる
とはいえ未婚の
軟弱者らの顔は眼中になし
なぜならまだ刈られたばかりのひよっこだから
馬尾は
狼爪から逃げおおせ
淑女之縁飾とともに走り去る
修道士之頭巾が法学士をつつみ
そして
司祭草が閣下自身を覆う
咬竜はその顎門を開くも
蘇格之国章を目にするや青ざめる
あまりに勝ち目がなさすぎる
鱗のない竜であっては
匍匐娘がだらん横になっていると
とうとう楽しい気持ちが盛り上がってきて
この世での舞い上がり方も知っているから
雅各之梯子を登ってゆくのだ
色男維廉が
黄金瑪麗とともに
近くの花壇で
心之平安をさがす
そこでは しっかり糊付けした襞襟を重ねて
すまし顔の
和蘭博士花が整列している
自己愛男が小川をのぞきこむ
不凋花に気を取られて
その向こうずみからながめる
目明草は
なんてばかなひとなのかしらとそぞろ思う
童槍と 対するは
王之槍
喇叭の音が試合開始を告げる
その場で我が物顔の
淑女之肩掛
この女こそ決闘のきっかけたる旗印
騎士之拍車の向かう先は
淑女之私室
淑女之履物を探して捜索中
女のほうは夏の小雨で迷子になって
そこへ足をひっかけようとする
道化草
牛酪色卵色につむがれる
蛙亜麻
淑女之座布に腰を下ろす
千葉
何も棄てず盗まずねだらずともよいのに
哀れな
襤褸草に手を差し伸べてもやらない
草原女王は
甘美草地
広々とした草の領地におわします
ところがその宮廷で出会えないのが
包み頭巾の堂々とした
土耳古人頭
きらきら
八芒星が照り輝く
昔話のように地に近きところで
そして緑の陰をぬけて明るくなるのが
聖約翰草の光――黄金の光輪
ところが陽の時間はたちまち過ぎ去る
やがてそれとともに草花もしおれゆく
霧中之愛は身を隠すも
庭の時爺は次々と抜き取ってゆく
おいでなさるは
旅人之悦
からみ抱きしめ 旅の終わりにご挨拶
われらも
葡萄酒漬で話し込み
また次もほがらかに会おうと乾杯できよう
翻訳の底本‥Walter Crane (1899) "A Floral Fantasy in an Old English Garden"
上記の翻訳底本は、著作権が失効しています。
2018︵平成30︶年12月25日翻訳
2019︵令和元︶年10月31日青空文庫版公開
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翻訳者‥大久保ゆう
2019年11月5日作成
青空文庫収録ファイル‥
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