女ぢよ子しけ教うい育くじ上やうの意いけ見んとしては別べつ段だんに申まを上しあげることも御ご在ざませんが、唯ただ私わたくしが一昨さく年ねんの春はる此この女ぢよ子しえ英いが學くじ塾ゆくを開ひらいてから以いら來い、種いろ々〳〵今こん日にちの女ぢよ子し即すなはち女ぢよ學がく生せいに就ついて經けい驗けんした事ことがありますから、それを少すこし御おは話なしして大たい方はうの教をしへを乞こはんと欲ほつするので御ござ在います。 私わたくしの塾じゆくは御ごぞ存ん知ちの通とほり高かう等とう女ぢよ學がく校かう卒そつ業げふ以いじ上やうの程てい度どの者ものを入にふ學がくせしめるので、女ぢよ子しの普ふつ通うけ教うい育くはまづ終をはつたものと見みなければなりません。年ねん齡れいも十六七以いじ上やう、一通とほり學がく問もんをして其その學がく問もんを家かせ政いなり、何なになり日にち常じやう處しよ世せいの上うへに應おう用ようがして行ゆける筈はづでありますが、實じつ際さいに就つきて見みますると種しゆ々〴〵遺ゐか憾んの點てんがあるやうです。まづ何なによりも原げん書しよの讀どく書しよ力りよくに乏とぼしいのは意いぐ外わいでありました。それで授さづける讀とく本ほんは難むづかしいのかといふのに、决けつしてさう難むづかしい書しよ物もつではありません。西せい洋やうでは高かう等とう小せう學がく校かうの程てい度どぐ位らゐでせう。その樣やうな易やすい書しよ物もつに向むかつても意い味みが容よう易いに取とれない、尤もつとも唯ただ直ちよ譯くやくして行ゆく時ときはどうか解わかつて居ゐるらしいが、後あとで如ど何んな意い味みかと糺たゞして見みると殆ほとんど解わかつて居ゐないやうである。是これでは實じつに仕しか方たがない、其それ故ゆゑ私わたくしは生せい徒とに向むかつて常つね々〴〵斯かう申まをして居をります。何なに事ことも自じぶ分んで研けん究きうして御ごら覽んなさい、研けん究きうして見みて自じぶ分んで難なん問もんを解かい釋しするやうに爲なさい。これは強あながち讀どく書しよのみに限かぎりません。何なに事ごとも自じぶ分んで勇ゆう氣きを起おこし、難むづかしい事ことでも分わからない事ことでも何なんでも自じぶ分んが主しゆに成なつてする氣きでなければ决けつして物ものは上じや達うたつしません。どうも今こん日にちの女ぢよ學がく生せいには兎とか角く、自じし主ゆど獨くり立つといふ心こゝろに乏とぼしいであります。私わたくしの考かんがへでは今こん日にち學がく生せいに物ものを教をしゆるにしても、一度ど教をしへて忘わすれた處ところがあれば、再さい度ど教をしへる、又また忘わすれた所ところがあれば又また教をしへるといふやうな教けう授じゆ法はふでは中なか々〳〵其その成せい効かうが覺おぼ束つかないと思おもひます。まづ書しよ物もつで言いへば一度ど教をしへた處ところは二度ど教をしへない、能よく熟じゆ讀くどくさせて見みて、どうしても解わからなかつたならば、其その時ときは教をしへやう。又また作さく文ぶんにしても間まち違がつた處ところがあれば唯ただ印しるしを附つけて置おく丈だけで、滅めつ多たに間まち違がひの點てんを説せつ明めいして聞きかさない。再さい三再さい四自じぶ分んで研けん究きうして熟じゆ考くかうして來きた上うへで愈いよ々〳〵解わからねば其その時とき始はじめて其その理りい由うを説せつ明めいして聞きかす位くらゐにして置おくのであります。斯かや樣うにすれば自じぶ分んの發はつ明めい心しんを養やう成せいし、事じぶ物つに向むかつて注ちゆ意うい力りよくを熾さかんにするやうになりませう。即すなはち學がく生せいの自じえ營いし心んを養やしなひ獨どく立りつ心しんを養やしなふ所ゆゑ以んでありませう。 次つぎに申まをしたいのは責せき任にんを自みづから知しるといふの點てんであります。英えい學がく塾じゆくの寄きし宿ゆく舍しやには唯たゞ今いま五十名めい足たらずの生せい徒とが居ゐます。これは家かぞ族くて的きでありまして其その主しゆ義ぎは全まつたく放はう任にん主しゆ義ぎ併しかし放はう任にん主しゆ義ぎと申まをしても决けつして氣きま儘ゝは放うだ題いにして置おくといふのではありません。其その放はう任にん主しゆ義ぎの中うちには自じえ營いど獨くり立つの精せい神しんが籠こもつて居ゐます。成なる程ほど私わたくしの塾じゆくには規きそ則くと申まをしても唯ただ何なん時どきに寢ねる、起おきるといふ丈だけで、其その外ほかに之これを守まもれ、これを行おこなへといふやうな命めい令れい的てきの事ことは更さらに申まをさないが、其その代かはり、何なに事ごとも自じえ營いど獨くり立つの精せい神しんを籠こめて遣やつて貰もらひたい。塾じゆくは家かぞ族くて的きの組そし織きであるから各かく人じん共きよ同うどうの物ものである、塾じゆ生くせいは此こ處ゝを自じぶ分んの家いへと心こゝ得ろえて何なに事ごとも自じぶ分んに責せき任にんを持もつて遣やらねばなりません。一體たい多たす數うの人ひとが集あつまつて一家かを組そし織きすれば自しぜ然んの勢いきほひとして多たす數うじ人んの便べん宜ぎといふ事ことを心こゝ掛ろがけねばなりません、多たす數うに都つが合ふの宜よろしいとやうにといふのが畢ひつ竟きやう規きそ則くの精せい神しん目もく的てきでありませう。それを守まもつて行ゆくのは至しご極く結けつ構かうでありますが、如いか何にせん無むみ味かん乾さ燥うなる一片ぺんの規きそ則くでは銘めい々〳〵の好かう都つが合ふが解わからず、唯ただ他たに人んから命めい令れいされた事ことのやうに思おもはれて、往わう々〳〵其その規きそ則くを忽こつ諸しよにするの風ふうがある。それが第だい一自じえ營いど獨くり立つの念ねんを薄はく弱じやくにするの原げん因いんで、隨したがつて日にほ本んふ婦じ人んの大おほひなる弱じや點くてんであらうと思おもひます。責せき任にんといふ事ことに重おもきを置おきたいのもこれが爲ため、依いら頼いし心んが多おほいのも是これが爲ため、又また意い志しの強きや固うこでないといふのも是これが爲ためであらうと思おもひます。 其それ故ゆゑ私わたくしの塾じゆくではこの規きそ則くの精せい神しん、規きそ則くの根こん本ぽんへ立たち歸かへつて、各かく個こじ人んの都つが合ふといふ所ところを十分ぶんに了れう解かいせしむるといふ方はう針しんを取とつて居ゐるのであります。斯かや樣うすれば惡わるい、何なに故ゆゑに惡わるいかといふ點てんを自じぶ分んの心こゝろに問とはせて見みて、自じぶ分んで其その理りい由うを發はつ明めいし、成なる程ほどこれは善よい、惡わるいといふ處ところを自じぶ分んに合がつ點てんせしむる。斯かや樣うにして自みづから遠ゑん慮りよをし、又また自じぶ分んから抑よく制せいをして共きや同うど生うせ活いくわつの妨ばう害がいにならぬやうにと注ちゆ意ういをして來くるのである。即すなはち放はう任にん主しゆ義ぎの神しん髓ずゐとする所ところであります。乍さり去ながら日にほ本んじ人ん從じゆ來うらいの習しふ慣くわんでありませうが、斯かや樣うな事ことに極きめて無むと頓んち着やくが多おほい。責せき任にんを重おもんずるの念ねんに乏とぼしい。獨どく立りつして物ものを治をさめて行ゆくといふ事ことが少すこしも無ない。依いら頼いし心んが多おほくて、憤ふん發ぱつ心しんが少すくなくて、秩ちつ序ぢよとか整せい理りとかいふ觀くわ念んねんが乏とぼしくて、どうして此この複ふく雜ざつな社しや會くわいに立たつて家いへを治をさめて行ゆくことが出で來きやうかと思おもふ位くらゐであります。 まづ責せき任にんを閑かん過くわする一例れいを申まをしませう。それは重おもに外ぐわ出いしゆつなどに就ついて起おこる事こと柄がらで、塾じゆ生くせいの身みは無むろ論ん私わたくしが其その親おやから責せき任にんを持もつて預あづかつてゐるのですから出では入いりに就つきては行ゆく先さきを明めい瞭れうにして置おきます。或ある一學がく生せいは横よこ濱はままで行ゆきましたが、晩ばんに成なつても歸かへりませんから、心しん配ぱいして電でん報ぱうもて其その消せう息そくを問とひ合あはせました。返へん事じが無ないから二度ど掛かけましたがそれでも返へん事じが無ないから塾じゆくではどうなつた事ことかと非ひじ常やうに心しん配ぱいして責せき任にんを持もつたものは一夜や睡ねむらなかつた位くらゐ。すると翌よく日じつ歸かへつて來きて大たい層そう謝しや罪ざいをされるから何なに故ゆゑ返へん事じをしなかつたと尋たづねると返へん事じは端はが書きで出だして置おきましたといふのです。此この方はうで心しん配ぱいして電でん報ぱうまで掛かけたのであるから其その時とき返へん電でんをして貰もらへば無むえ益きの心しん配ぱいは决けつしてしません。一ちよ寸つとした事ことであるが日にほ本んの婦ふぢ女よ子しには往わう々〳〵斯かや樣うな等なを閑ざりが多おほいのであります。是これは决けつして責せき任にんを知しらぬ譯わけでは無ない、又また物ぶつ事じに無むと頓んち着やくな譯わけでありません。唯ただ習しふ慣くわ上んじやうの缺けつ點てんであらうと思おもひます。 斯かや樣うな事こと柄がらを一々申まをせば限かぎりのない事ことで、居きよ家かし處よせ世いの上うへに種しゆ々〴〵間まち違がひが多おほく、さればと言いつて、これを一々前ぜん以もつて命めい令れいするといふは實じつ際さいに行おこなはれ難がたい事ことであるから、萬ばん事じ其その人ひとに任まかせて其その人ひとの獨どく立りつ心しんに依いら頼いせしめる樣やうな習しふ慣くわんをつけねばなりません。寢しん食しよくの事ことは申まをすに及およばず、器きぶ物つの取とり扱あつかひ、火ひの事こと、水みづの事こと、掃さう除ぢの事こと、其その外ほか一體さいの仕しご事とに關くわんして皆みんな銘めい々〳〵の獨どく立りつ心しんに依よつて行おこなへば自しぜ然んと責せき任にんを重おもんずるやうになる。一體たいこの規きそ則くでさせる事ことは規きそ則く其その物ものの存そんしてゐる間あひだ、即すなはち規きそ則くにはまつて居ゐる間あひだはよろしいが、他たじ日つ境きや遇うぐうが變かはると、一ひと方かたならぬ差さし支つかへを生しやうずる事ことがありませう。それ故ゆゑ規きそ則くでやつた事ことは何ど處こへも通つう用ようするといふ譯わけには參まゐりません。矢やは張り本ほん人にんの獨どく立りつ心しんに任まかせなければなりません。本ほん人にんに自じえ營いど獨くり立つの心こゝろさへ定さだまつて居をれば、どんな塲ばし所よへ出だしても、又またどんな境きや遇うぐうに處しよしても差さし支つかへなく、變へん通つう自じざ在いでありませう。されば此この家かじ塾ゆくで放はう任にん主しゆ義ぎを行おこなふのは畢ひつ竟きやう獨どく立りつ心しんを養やしなふ爲ためであつて、この狹せまい小ちひさな家かじ塾ゆくで其その習しふ慣くわんをつけて置おくのは他たじ日つ大おほひなる社しや會くわい、廣ひろき世せか界いへ出いて事ことの缺かけない仕した度くで御ござ在います。取とりも直なほさず學がく問もんを實じつ際さいの用ように立たてるの凖じゆ備んびであります。