そらもよう
 

2018年1231 私たちの一年 明日へ
昨年青空文庫の20周年を祝い、つぎの20年に向けて船出をしたとたん、そらもようがかげりをみせ、見上げる青空の景色が変わってしまった。

1230日をもって、環太平洋連携協定(TPP)が発効した。これにより著作権の保護期間を作者の死後50年から70年に延長する改正著作権法が効力を得たのだ。青空文庫では、著作権保護期間延長の可能性が示唆されるやいち早くこの問題を取り上げ、2005年元日の「そらもよう」を皮切りに、あらゆる機会をとらえ一貫して反対の立場を表明してきた。二度にわたる署名活動を行い「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」メンバーとして幅広い反対活動に参加し声を届けた。

著作権法はその目的に、保護と利用のバランスをとりつつ文化の発展に貢献するという主旨が唱われている。この文化に関わる問題が、TPPという経済協定の枠組みと抱き合わせで十分な議論もなく決められてしまった。

このように年末になって保護期間延長という暗雲が青空文庫を覆ったけれど、私たちの日々の活動はその中でも着々と進められた。新しくボランティア登録する人たちの数は着実に増え続け、入力・校正ファイルは点検が追いつかないほどの勢いで送られてきている。おかげで長年の懸案である校正待ちファイルの数も徐々に減少している。青空文庫に託す思いの広がりと深まりを改めて感じさせられた一年だった。

また、財政的基盤の見直しという大きな決断を行った。これまで長年にわたりトップページに青空文庫と関係のある企業のバナー広告を掲載し、毎月広告料という形で財政的支援を受けてきた。一方、5年前には青空文庫への寄付を目的として「本の未来基金」が設立された。多くの方々、企業から寄付を受けており、運営費の見直しなどもあずかって寄付金だけで運営できる目処がたった。そこで9月から始まった新しい会計年度からはこのバナー広告の掲載終了を決め、受け入れてもらったのだ。長年のご支援にあたらめて感謝したい。

日々のファイル作りは、それぞれの思いを込めた個々人の「小さな」作業ともいえるが、その「小さな」積み重ねが大きく育ち、空高く枝を広げた実り豊かな大樹となる。どんな小さな実でも種が運ばれ、新しい芽を生み出すように、青空文庫の作品はさまざまな形で利用され社会に新しい根を張っている。

そんなささやかな日々の積み重ねで、1016日公開作品が15千を数えた。昨日から今日、明日という連続する日々の一コマに過ぎないとも言えるけれど、時にはみんなで振り返り、たどってきた道のりと到達点を祝いたい。1万点を数えたのが2011年315日。7年半という長い月日だ。世代を受け継ぎながら青空文庫は行くべき道を着実に歩んでいる。

保護期間が作者の死後70年に延長されることでこれから20年間、新たに著作権が切れて自由な利用が可能になる新規作家の作品は出てこなくなる。同時に、著作権者不明のため利用できない孤児作品の増加という、もっと深刻かもしれない問題にも直面することになるだろう。

そこでふたたび問いたい。社会共有の文化の領域(パブリックドメイン)を広げて知の巡りをうながし、文化の発展に寄与しようとする私たちの試みが、どうして経済協定の枠組みで扱われなければならなかったのか。70年への延長がどのように文化的貢献をもたらすというのか。今後もくり返し問い続けていきたいと思う。


本日大晦日の公開作品は、林芙美子の「雨」、和辻哲郎の「鎖国 日本の悲劇」に加え、60年前の大晦日に新聞掲載された山本周五郎のエッセイ「年の瀬の音」の3作品。3年前に青空文庫の運営に加わった年の大晦日にはじめて「そらもよう」を書かせてもらった。その時に書いたのが、我が家の「年の瀬」だったことを思い出した。

30年前に横浜に越してきた。みなとみらいが開発される前の何もない所だった。テレビで除夜の鐘が鳴り始めると同時に、哀愁ただようぼーっという汽笛の連呼する音が聞こえた。二人で色めき立ち、窓を開けて耳をすませた。港町よこはまに移り住んだことを実感した。夫が青空文庫を始めてからは、汽笛を聞いて公開準備の最後の確認をするのが我が家の「年の瀬」となった。夫は何度もそのことを「そらもよう」に書いた。

時が流れ時代はかわった。我が家の「年の瀬」もかわってしまった。みなとみらいは港を囲んで高層ビルが立ち並ぶ一大都市に変貌し、汽笛は年明けのカウントダウンイベントとなり多くの観光客が押し寄せる。さびしさはぬぐえない。けれどどんなに時代がかわっても、作品のテキストファイルを生み出す人の気持ちは、かわらずに青空文庫で引き継がれ「天に積む宝」を増やしていくだろう。そしてそれこそが、静かで深い延長へのあらがいにもなるのではないだろうか。

青空文庫にかかわってくださったすべてのみなさまに、この1年を感謝します。良いお年をお迎えください。(晶)



2018年1212 CPTPPによる著作権保護期間延長への対応と年末年始のお休みについて
各種報道がなされた通り、環太平洋連携協定(CPTPP/TPP11)は参加11ヶ国中6ヶ国の国内手続きが終わり、年内ぎりぎりの1230日に発効されることとなりました。青空文庫は、一縷の望みをかけつつ来年年始のパブリックドメイン公開に向けて作業を進めてきましたが、準備していた作品の公開はTPP発効により20年先延ばしになります。

著作権保護期間延長に対するメッセージは、「本の未来基金」から発信されておりますので、そちらをぜひご参照ください。ここでは、主に事務的なことをお伝え申し上げます。

まずは、かねてからの「予告」通り、来年年始(ないしは再来年年始)からパブリックドメインになるはずだった作家たちについては、公開に向けての作業をいったん停止します。具体的な対象作家は、以下の通りです。

【1968年没】
石田英一郎(文化人類学者)、大原総一郎(実業家・随筆家)、奥野信太郎(中国文学者)、沢瀉久孝(国文学者)、木山捷平(作家)、子母沢寛(作家)、多田不二(詩人)、円谷幸吉(陸上選手)、野田高梧(脚本家)、広津和郎(作家)、藤田嗣治(画家)、保篠竜緒(翻訳家)、村岡花子(作家・翻訳家)

【1969年没】
獅子文六(作家)、長谷川如是閑(評論家)

実際に作業されているボランティアの方々には、別途あらためてご連絡を差し上げますが、よろしくお願い申し上げます。

そして本来ならば近年のうちにパブリックドメイン入りする予定だった作家についても一部、参考のため掲げておきたいと思います。

【1969年没】伊藤整、木々高太郎
【1970年没】市河三喜、大宅壮一、西條八十、三島由紀夫、室伏高信
【1971年没】内田百閒、尾崎翠、金田一京助、志賀直哉、高橋和巳、徳川夢声、日夏耿之介、平塚らいてう、山下清
【1972年没】川端康成、平林たい子、広瀬正
【1973年没】大佛次郎、菊田一夫、古今亭志ん生(5代目)、サトウハチロー、高津春繁、浜田廣介、山内義雄、吉屋信子
【1974年没】花田清輝、山本有三
【1975年没】角川源義、金子光晴、香山滋、きだみのる、棟方志功
【1976年没】城昌幸、武田泰淳、檀一雄、平井呈一、福島正実、舟橋聖一、武者小路実篤

ただし、今回の延長に際して遡及適用は行われませんので、現在公開されている作品ファイルにつきましては、今後もこのままで、取り下げられることはありません。現時点で著作権保護期間が満了している作家の作品についても、作業はそのまま続行していただいて問題ありません。

また、77日付「これからの20年に向けて」の繰り返しになりますが、かつて2016年1111日付の「TPP衆議院採決に際して」でも申し上げましたように、TPPのために明日すぐ当文庫が閉鎖されることや、保護期間延長によって青空文庫の活動そのものがなくなるといったことはありません。

今後も人の輪が続く限り青空文庫としての活動は続くでしょうし、いまだ手がけられていないパブリックドメイン作品の電子化に取り組んでいくでしょう。そして保護期間内にある作品も、作者ないし著作権継承者の申し入れがあれば、それに応じて公開を進めてゆくつもりです。

また孤児作品の取り扱いについても、実験的にではありますが、少しずつ歩みを進めています。

さらに、年明けの2019年110日には、シンポジウム「著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか」を、ThinkTPPIPや本の未来基金など各種団体と共催し、今後の道行きについても議論を深める予定です。

どうかご関心・ご参集のほどをよろしくお願い申し上げます。

また保護期間の延長とは直接に関係するわけではないのですが、このたびの年末年始から実働を担う点検チームにもお休みをいただければと思います。毎日の作品公開については普段通り自動更新されますが、青空文庫の受付メールアドレス(reception@aozora.gr.jp)および作業着手連絡システム(https://reception.aozora.gr.jp)については、1228日~16日のあいだ、対応を休止致します。よろしくご了承ください。

一方で渉外の info@aozora.gr.jp は、(即時すべてのメールにお返事ができるわけではありませんが)その期間もいつも通りゆるやかに開いておきます。



2018年1003 ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ、片上伸「ドン・キホーテ」の入力をご担当いただいている方にお願い
ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ、片上伸「ドン・キホーテ」の入力をご担当いただいている方に申し上げます。

作業を引き継げないかとの打診を受けて、進捗状況とお気持ちの確認のためメールをお送りしましたが、お返事がありませんでした。
reception@aozora.gr.jp宛に、ご一報をお願いします。

本日から一ヶ月、ご連絡を待ちます。
一月を経て、連絡を取り合えない場合は、これらの入力を引き継いでいただこうと思います。

作業の継続が難しくなった際は、皆さん、どうぞお気軽に、reception@aozora.gr.jpまでご連絡ください。
メールアドレス変更の際は、reception@aozora.gr.jp宛にご一報をお願いします。(門)



2018年0917 バナー広告掲載終了のお知らせ
青空文庫は91日より新しい会計年度第20期に入りました。これを機に、これまで掲載していた4社のバナー広告の取り扱いを停止することになりました。すでに2017年11月よりボイジャー社のバナー広告は停止されていましたが、その後パピレス、ひつじ書房、インプレスR&Dの3社と話し合い、バナー広告終了に合意しました。

その結果、今期から「本の未来基金」に寄せられた寄付金を財源として活動費をまかなっていく事になります。従来の青空文庫の財政基盤からみますと、これは財務上の大きな変更になります。

つきましては近く公表する第19期(2017.9-2018.8)の会計報告であらためて詳細をお知らせします。

また、この場をかりてあらためて、これまで長い間広告掲載という形でご支援いただいた(株)ボイジャー(株)ひつじ書房(株)パピレス(株)インプレスR&D各社にお礼申しあげます。



2018年0707 これからの20年に向けて
今年も77日の誕生日を迎え、青空文庫は21周年を迎えました。こうして無事続けられていることを何より嬉しく思います。

ところが、つい先日、衆参両院でTPP11の関連法が成立し、著作権保護期間の20年延長が現実のものとして迫ってきています。先に国内手続きを終えたメキシコも加えて、このまま11月初頭までに参加国の半数である6ヶ国の法的な準備が整えば、予想よりも早く来年年始からパブリックドメイン・デイが来ないことになります。

もちろん、かつて2016年1111日付の「TPP衆議院採決に際して」でも申し上げましたように、TPPのために明日すぐ当文庫が閉鎖されることや、保護期間延長によって青空文庫の活動そのものがなくなるといったことはありません。

今後も人の輪が続く限り青空文庫としての活動は続くでしょうし、いまだ手がけられていないパブリックドメイン作品の電子化に取り組んでいくでしょう。そして保護期間内にある作品も、作者ないし著作権継承者の申し入れがあれば、それに応じて公開を進めてゆくつもりです。

ただし、新しく社会の公共財産の領域へと入ってくる作家は、2039年11日(または発効が翌年に持ち越されれば2040年11日)までいないことになります。公開できるものと信じて作業を進めていたものの一部も、一時中断せざるを得ないでしょう。

棚上げにされた20年という時間は、言うまでもなく長いものです。これまでの21年間でさえ、青空文庫をめぐる人と環境と時代には、大きな変化がありました。これからもそうでしょう。

その活動のなかでわかったのは、長い時をつなぐのは、人と人の手だということです。差し出す手と、それを取る手があれば、次へとバトンはつながっていきます。

どうか今こそ、「青空文庫の提案」を読んでください。
富田倫生さんの「永久機関の夢を見る青空文庫」にも目を通してみてください。

この長い20年をつなぐ人の手を、待っています。(U)



2018年0607 青空文庫の連絡先メールアドレスの復旧について
531日(木)ごろから、info@aozora.gr.jp および reception@aozora.gr.jp の両メールアドレスにおいて、メールの受信ができない状態になっておりました。

現在は復旧できておりますが、531日前後~64日夜までにinfoおよびreception宛にメールをお送りになった場合、青空文庫までメールが届いていない可能性があります。お心当たりのある方は、ご再送願えると幸いです。

ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。



2018年0602 青空文庫の連絡先メールアドレスへの不達について
531日(木)ごろから、info@aozora.gr.jp および reception@aozora.gr.jp の両メールアドレスにおいて、メールの受信ができない状態になっております。

31日以降にメールを送信したかた、またはご用のかたは、たいへん恐縮ですが、ひとまず【臨時メールアドレス】までお願い申し上げます。

ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。



2018年0331 青空文庫のSSL化対応についてのお知らせ
青空文庫のSSL化に伴い、331日から41日にかけての深夜(ピンポイントで時間指定ができませんが短時間ですみます)に青空文庫のメンテナンスを行います。メンテナンス後、URLが次のように変更になります:

青空文庫(本体) http://www.aozora.gr.jp/ → https://www.aozora.gr.jp/
作業着手連絡システム http://reception.aozora.gr.jp/ → https://reception.aozora.gr.jp/

旧URLへアクセスしても新URLへ自動的にリダイレクトされますが、ご自分のHPやblogなどから青空文庫・作業着手連絡システムへURLのリンクを付けられている方、並びブックマークを登録されている方は、新URLに改めていただけますと幸甚です。

SSL化に伴い、既存のファイル、各種マニュアル、ツール等の旧URLも今後新URLへ順次変更してまいりますが、しばらくお時間を頂戴できれば幸甚です。



2018年0202 勉強会のご紹介とお知らせ:「青空文庫 × StudyCode × ssmjp」
来週に迫ってからのお知らせで恐縮ですが、
きたる26日(火)、著作権をテーマとした勉強会「青空文庫 × StudyCode × ssmjp」が #ssmjp 様の主催で行われます。
会場は株式会社メルカリ(東京都港区)、開始時刻は19:30です。
青空文庫からは大久保ゆうさんが「素材・実験室・広場としての青空文庫」の題で登壇致します。

事前申込制です。当日のタイムテーブル並びに参加申込については
青空文庫 × StudyCode × ssmjp
をご覧下さい。(J



2018年0101 昭和という時代のアーカイヴを目指して
今年なればこそ、ことさら大きな声で言祝ぎましょう。ハッピー・パブリック・ドメイン・デイ! 2018年の年始は、青空文庫が元旦の作品公開を始めて以降、最大の作家数でお届けします。

 鮎川 義介「革命を待つ心 ――今の実業家、昔の実業家――
 勝本 清一郎「カフェー
 金沢 庄三郎「『辭林』緒言
 木村 荘十「雲南守備兵
 窪田 空穂「
 島 秋人「遺愛集 あとがき
 新村 出「『広辞苑』自序
 薄田 太郎「広島という名の由来
 恒藤 恭「学生時代の菊池寛
 壺井 栄「二十四の瞳
 時枝 誠記「国語学と国語教育
 富田 常雄「転がり試合 柔道と拳闘の
 中村 清太郎「残雪の幻像
 野上 彰「本因坊秀哉
 早川 鮎子「穂高岳屏風岩にて
 菱山 修三「再びこの人を見よ ――故梶井基次郎氏
 秘田 余四郎「字幕閑話
 三宅 周太郎「中村梅玉論 大根か名優か
 森 於菟「放心教授
 矢崎 源九郎「絵のない絵本 解説
 柳原 白蓮「私の思い出
 矢部 貞治「政治学入門
 山浦 貫一「老人退場説
 山本 周五郎「青べか物語
 吉田 茂「私は隠居ではない
 吉野 秀雄「秋艸道人の書について
 淀野 隆三「思ひ出づるまゝに
 笠 信太郎「デモクラシーのいろいろ

以上、28名の作家による28篇の文章を、社会に共有の許された財産として、誰でも自由に触れられる青空の本棚に挿し入れたいと思います。
特に、青空文庫の呼びかけ人・富田倫生さんの大好きだった山本周五郎「青べか物語」を、無事に公開できることを仲間のひとりとして、たいへん嬉しく感じています。

さて今回こうして、いつも以上に大勢の作家をご紹介するのは、大きな理由があります。というのも今わたしたちは、時代の大きな境目にいて、大事な瀬戸際に立っているからです。

昨年末、日本とEU間の経済連携協定(EPA)が合意に達したとの報道がなされました。7月には大筋合意がなされていましたが、その内容は4ヵ月間伏されたままで、なんと11月にひっそりと公開されたその内容には、著作権保護期間を現行の死後50年から70年へと延長するという項目も含まれていたのです。

TPP(環太平洋経済連携協定)からアメリカ合衆国が離脱し、知財項目も凍結されようという趨勢のなか、その逆を行く交渉が、国民に明らかにされないまま進められ、決定されたことになります。

EPAの実際の発効は2019年頃と目されていますが、ご存じの通り、その年は「平成」という時代が終わる年でもあります。このまま進むと、来年年始をいったんの節目としてパブリック・ドメイン・デイは20年間訪れないことになり、ある文化が共有財産になるかならないかの区切りが、1968(昭和43)年と1969(昭和44)年のあいだに引かれることとなります。

平成という30年の時を経て、昭和という時代も遠くなりつつあります。今年からパブリック・ドメインとなる作家たちも、その「昭和」を象徴する人たちが少なくありません。

吉田茂は、言うまでもなく、戦後昭和とその復興を牽引した政治家のひとりです。富田常雄の代表作「姿三四郎」や、壺井栄の「二十四の瞳」は、繰り返し映画やTVの原作として映像化されました。
映画好きの方であれば、秘田余四郎の名を懐かしく思う方もあるでしょう。字幕翻訳者として「天井桟敷の人々」「禁じられた遊び」などの映画を手がけましたが、なかでも彼の訳した「第三の男」の台詞「今夜の酒は荒れそうだ」は、人々の記憶に残るものとなっています。

これからのアーカイヴには、原作のみならずその映像化作品をどう残していくか、そこへのアクセスをどうするかも問題となるでしょう。海外の映画であれば、その作品そのものだけでなく、受容に大きな役割を果たした字幕などの「翻訳台本」をどう保存して伝えていくかも、同じく課題になってくるはずです。

しかし今の状況そして法律は、こうした昭和の文化を「あとに残して世に開く」行為を支えるものとなっているでしょうか。今後失われるかもしれない20年のパブリック・ドメインは、まさに昭和の記憶と証言の核を作ってゆくものです。

また昨年を振り返ってみれば、あらためて近代文芸とその作家たち、そしてそこに関わった人々の関係性が再注目された一年でもありました。この元旦に公開する作品・作家も、互いに縁のあるものが少なくありません。

菱山修三と淀野隆三はともに、昭和初期のモダニズムの機運を作った詩誌「詩と詩論」の同人でありました。
また、昭和の自然主義的短歌の流れを生んだ窪田空穂はその晩年に、獄中から歌人を志した島秋人を見出しています。
戦後の日本語を記録し日本社会を反映し続けた辞書「広辞苑」は新村出の名とともに普及していますが、対抗する辞書「広辞林」の元となり新村編の「辞苑」にも先行する金沢庄三郎の「辞林」も、欠くべからざるものです。

これらが死蔵されてゆくのか、ただ限られた場でのみ公開されるものとなるのか。それとも、自由なものとして広く共有されるものとなるのか。この差は、アーカイヴにとっても、わたしたちの社会にとっても、大きな違いとなりましょう。

平成を終えるにあたって、昭和という過去をいかにアーカイヴするのかは、わたしたち自身に突きつけられた課題なのです。

そして今年の年始も、「著作権あり」の作品をお送りします。
あくる2日には、太田健一さんの「人生は擬似体験ゲーム」を、著作者本人の求めに応じて、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付して収録・公開致します。
当該作は1988(昭和63)年、第7回海燕新人文学賞を受賞し、刊行当時、評論家・倉林靖にも「現実←→ゲームの世界の逆転」を前提にした上で、「いま我々が直面している現実に対してより切迫した感覚を与え」、「小説的な毒の可能性」を持つものとして評価されています。

同じく青空文庫でかつての自作を公開したいと思う作家のみなさんのご意思を、歓迎したいと思います。「青空文庫への作品収録を望まれる方へ」のページをご一読の上、ご相談をいただけると幸甚です。

さらに翌3日には、校了したものの長らく未公開だった押川春浪井沢衣水の「本州横断 痛快徒歩旅行」を、お届けします。
井沢衣水の生没年が不明であったためですが、昨年末、確度の高い情報が寄せられ(aozorablog参照)、本年年始からパブリック・ドメインとなることが明らかになりました。公開に向けてのみなさまのご尽力に、あらためて御礼申し上げます。

また「会計報告」でも、第18期の収支計算書・貸借対照表をアップロードしています。

そして20周年を迎えた青空文庫では、未来に向けての活動も草の根で始まりつつあります。
現在、新たな「掲示板・フォーラム」を、「AOZORAX」というサイトでご協力をいただきつつ準備中です。
すでに書込可能となっておりますので、ぜひお気軽にご参加ください。

また青空文庫のサイトないしデータベースの改修や、いわゆる「式年遷宮」へ向けた新規構築の試みも探られつつあります。
直近の作業としては、本体サイトおよび管理データベースの常時SSL化を予定しております。その際、クローリングしているサービスやアプリに影響が出る場合がございます。ご対象のみなさんは、ご対応の準備をして頂けると幸いです。

そして現在ボランティアの差配を担っているメンバーも、運営的立場に就いてからおおむね平均5年の活動期間が過ぎようとしており、引継ぎや増員、ないしはしばしの休息が喫緊の課題になって参りました。
こうした今後の件についても、上記フォーラムなどを通じて協議してゆければと思います。

21年目へと漕ぎ出す青空文庫というささやかな舟に、どうか良き日和と風、人のご縁がありますように。(U)




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