まつもとゆきひろ×小飼弾対談 生き残るエンジニアとは?:差別化し、言葉にし、心配する
パソナテックは3月11日、同社が提供開始したITエンジニア向けサイト「てくらぼ」のオープニングイベント「Matz×Dan×Daiji エンジニア進化論」を実施した。イベントでは、Ruby開発者のまつもとゆきひろ氏と、ブロガーでプログラマの小飼弾氏のトークセッションが開催された。会場となった東京・秋葉原のUDXギャラリーは大勢のITエンジニアで埋め尽くされ、キャンセル待ちが出るほどの盛況だった。
まつもとゆきひろ氏(左)と小飼弾氏
トークセッションは、ニューズ・ツー・ユー 取締役 平田大治氏が司会し、まつもと氏と小飼氏に質問を投げ掛けた。まつもと氏と小飼氏が質問に○か×かで答えた後、平田氏が詳しく話を聞くというスタイルだった。以下にトークセッションでの2人の発言をいくつかまとめた。
質問 |
小飼氏の回答 |
まつもと氏の回答 |
いまの自分があるターニングポイントをはっきりと覚えていますか |
○ |
火事で家が丸焼けになったこと |
× |
よく覚えていないが、父親がポケットコンピュータを買ってきたり、『バベル17』を読んだなどの小さいことが積み重なってこうなったと思う |
いま注目している言語がある |
○ |
日本語。英語以外でコンピューサイエンスを学べる日本は世界でもレアな国。20年後、Rubyを学ぶ際に英語を学ばないとRubyを学べない時代がくるかもしれないという心配がある |
○ |
Ruby以外ではErlangなど。なぜErlangか。将来のマルチコアに対応するには、いまのスレッドモデルでは限界がある。Erlangのプロセスモデル/アクターモデルというのは、その答えになるかもしれない。RubyのようなプログラムにErlangの機能を組み込むことを考えている |
エンジニアには英語が必須である |
− |
英語を知っている方が儲かるのは確か |
○ |
コンピュータサイエンスの情報を入手し、使うことができる |
つまらないと思いながらプログラムをつくることがある |
○ |
頭の中でコードを構成しているときは面白いが、それを転写する作業がつまらない。もっと速く動く手が欲しい。手にインターネットを直付けしたい |
× |
ない。弾氏とは違い、手で書きながら考えるタイプ |
プログラマ35歳定年説は本当だと思う |
× |
広義の意味でのプログラマでは、プログラムを書く人はすべてプログラマ。ところが日本はSEとかアーキテクトとか職種が分かれているみたいだが、根本的に物をつくっているということに関しては同じ |
× |
日本の社会の圧力として35歳以上の人をプログラマとさせておかない風潮はあるが、社会的圧力に強く抵抗すれば可能 |
生まれ変わってもエンジニア/プログラマでいたい |
− |
輪廻を信じていない |
○ |
(質問の意図をくんで)輪廻は信じていないけど、プログラマでありたい |
いまの子どもたちにエンジニア/プログラマという職業をおすすめできるか? |
○ |
手を動かして何かする人は僕にとって全部エンジニア。「これをいじっていると楽しい」という物がきっとあるはず |
○ |
ほっといても物をつくり出す人、コンピュータを触っているという人は素養がある。素養があればぜひ。逆に素養がない人は不幸になるからやめた方がいい。素養があるかないかは自分で決めてください |
これまでロールモデルとなるような人物はいたか |
○ |
ラリー・ウォール。ロールモデルではないが「自分はこれでいいんだ」という背中を押してくれた人 |
○ |
弾氏とは違う面でラリー・ウォール。プログラミング言語を解説する本なのに最初から最後まで冗談が書かれている。プレゼンテーションも面白い。彼のようにプレゼンテーションもできて面白いプログラマになりたい |
|
上記以外にも、﹁ITエンジニアにブログは必要か﹂﹁エンジニアが進化していくためにはどのようなものが必要か﹂という質問が会場の参加者から寄せられた。
﹁ITエンジニアにブログは必要か﹂という質問に対し小飼氏は﹁転職のチャンスが少しでもあるならやっといた方がいい。書いてないというのは人として認識されるかが怪しいというレベルかもしれない﹂という意見。まつもと氏も﹁道具なので必須ではない。有利に使える機会はある﹂とのことだった。大切なことは、﹁突っ込まれることを恐れないこと﹂︵小飼氏︶だという。
ブログを書くに当たってのアドバイスとしては﹁分からないことを分からない、できないことをできないといっても就職のときに損にはならない﹂︵小飼氏︶。また、まつもと氏は﹁弾さんがamachangについて書いていたが、勉強中で半端な知識でもブログに書いてしまうことが大事。読者に半端な理解だと叩かれるかもしれないが、指摘されたことからまた学べる。一番多く学んだ人とは、一番多くアウトプットを出した人。アウトプットを出してたくさんのことを引き付けてほしい。ブログは成長できる機会だから、活用するに足るもの﹂というアドバイスだった。
︵記事中﹁小飼氏を例に挙げ、﹂﹁弾さんのように、﹂を削除し、﹁弾さんがamachangについて書いていたが、﹂と修正しました。失礼しました。ご指摘ありがとうございます。3月14日@IT編集部注︶
﹁エンジニアが進化していくためにはどのようなものが必要か﹂という質問には、まつもと氏は﹁差別化が必要。そのためには、自分は社会の中で代替︵交換︶不可能な存在になること。日本は、空気を読めという同調圧力が強い。差別化と同調、同時に矛盾したことを求められることになる。会社が自分を交換不可能な人物であると認めてくれないなら自分の能力を伸ばしてほかのところへ行けばいい。差別化をする、ほかの人と違うことをする自分を強調することこそエンジニアとして進化するためのキーではないか﹂と自分に市場価値を持たせることの重要性を述べた。
小飼氏は、まつもと氏の発言を受け、﹁違いにこそ価値があるのに違うだけではお金を取れない。その部分というのが﹃言語﹄だと思う。違っているだけではだめで、違っていることを誰にでも分かるような形で示すことで価値を示せる。誰にでも分かるが自分にしかできないものがある人が最強﹂と語った。
進化のためには生き残らなければならない。まつもと氏は﹁surviveという言葉は日本では嫌われるらしいが、米国ではよく使う。インテルのCEOが﹃Only the paranoid survive﹄といっていた。偏執狂、つまり超心配性でないと生き残れないということ。世の中の事態はすぐに変化する。その変化に対して、常に自分に影響があるかもしれないとアンテナを高く張っておくことが生き残る秘けつ﹂と語った。
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