著作権の切れた小説などをデジタル化してインターネットで無料公開する﹁青空文庫﹂。その呼びかけ人で、8月16日に肝臓がんで亡くなった富田倫生︵とみたみちお︶さんをしのぶ﹁追悼記念シンポジウム﹂が9月25日に開かれた。
ジャーナリストの津田大介さんや前国立国会図書館長の長尾真さん、弁護士の福井健策さん、株式会社ボイジャーの萩野正昭さん、劇作家の平田オリザさんらが登壇し、富田さんの業績を振り返るとともに、著作権のありかたを考えた。
●﹁著作権の保護期間を、著作物の発行時起算にしてもいいかもしれない﹂
シンポジウムでは、電子書籍の普及に力を注いできた萩野さんが、ボランティアによって支えられてきた青空文庫の歩みについて、富田さんの生前の映像を交えながら紹介した。
映像の中で、富田さんは﹁紙の本は素晴らしいけれども、一つのフォーマットです。さらにそれを押し広げるのは電子読書環境だと思います。空を見上げるように、学びたい気持ち、読みたい気持ちがあれば誰もが作品に触れられる。そういう環境が作れるのであれば、この活動に身を投じる意味はあると考えました﹂と、青空文庫への思いを語っている。
青空文庫は著作権の保護期間がすぎた作品を扱うことが多いため、富田さんは、いまTPP交渉で問題になっている保護期間の延長問題に強い関心をもっていた。シンポジウムなどで何度も同席したという福井弁護士は、目に涙を浮かべながら富田さんのことを語り、アメリカが推し進めようとする保護期間延長について、改めて問題提起した。
古い作品の中には、著者の遺族がわからない、連絡がとれないなどの理由からデジタル化したり複製したりできず、そのまま死蔵となる可能性のある﹁孤児著作物﹂が多数あるという。TPP交渉の結果、もし保護期間が延長されれば、関係者を探すことがより困難となるため、その数は増大することになると、福井弁護士は指摘する。
﹁以前はどの国も、﹃著作物の発行時起算﹄で著作権の保護期間を決めていましたが、﹃著者の死亡時でやったほうがいいだろう﹄ということで死亡時起算になりました。これを﹃発行時起算﹄に戻してみてもいいかもしれません。著者がいつ亡くなったかわからないために、保護期間の切れたときがわからないからです。青空文庫にも、それが確定ができないために収録できない作品があると思います﹂
●﹁どう作品をリスペクトするかは、我々の心の聖域﹂
福井弁護士はまた、保護期間の延長を推す声の背景には、﹁リスペクト論﹂という考え方があることを挙げた。
﹁これは作品を長く守ることで、著作者を大事にしているように思えるというものです。気持ちはよくわかります。
でも、どう作品をリスペクトするか、どう愛するかは我々の心の聖域です。著作権という制度によって強制されるものではありません﹂
福井弁護士は青空文庫を例にあげながら、﹁自分の好きな作品を、世の中に見てもらいたい一心で、1字1字テキストを手入力することで愛を表明するボランティアたちがいます。これも立派なリスペクトです﹂と話していた。
︵弁護士ドットコムニュース︶
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