最近本屋で、小説家になろう書籍化を除くとラノベの棚に並べられた作品がわからない!おおう、ちょっとなろうに浮気している間にもう時代の波に乗れなくなっている。定期的に話題に上る﹁最近のラノベ﹂について、便乗したいなぁと思いつつ書けなかったのは、もう既に時代の流れに置いてかれてたからみたいです。
でもそれ以前に自分、最近のラノベの対となる﹁昔のラノベ﹂も明確にイメージあるわけじゃないなーと。そんなきっかけで改めて考えてみました。昔のラノベ、だいたい5年以上経っても記憶に残っているラノベ作品について。
ちな、少女小説群については以前語っていたので、それ以外で行ってみますー。
少女小説スキー︵'80世代︶が100冊目に選ぶ本は何かと言う話。
長期連載とか一時連載休止とかもあるので、﹁連載開始年基準で、5年以上経っても記憶に残っている﹂12選と相成りました。ではでは。
空ノ鐘の響く惑星で(作者: 渡瀬草一郎)
とある国の第4王子な主人公が、柱から現れた異次元少女との出会いを機に、世界をめぐる動乱に巻き込まれていく戦記ファンタジー。開始当初地味すぎて、売れる前に打ち切りになるんじゃないかとヒヤヒヤしてたのはいい思い出。
何が記憶に残ってるかと言えば、主人公とダブルヒロインの結末です。歴史を考えれば普通にありうるんですが、固めの戦記風な雰囲気であのラストは目から鱗。ヒロインの一方の部が悪くなるので、もう一方のヒロインに記憶喪失属性はいらなかったと思う。
﹁主人公は剣技が得意でカリスマがあって...﹂と、戦場における他人目線で語らせるという手法に﹁優秀さって他人が定義するものなのね﹂という真実を子供ながらに知ってしまったのは苦い思い出です。
黄昏色の詠使い(作者: 細音啓)
竹岡美穂先生イラストといえば「文学少女”シリーズ」(作者: 野村美月)も有名ですが、鬱枠は別にあるのでこちらで。名詠式と呼ばれる召喚魔法が存在する世界を舞台に、名詠式にまつわる事件と謎、少年少女の成長が描かれるファンタジー。
少しクセのある文章で紡がれる繊細な心理描写と、視点切り替えで多角的に世界を描写する様はあんありラノベっぽくない。そんな、文章だけだと高尚なハイファンタジー的雰囲気を、柔らかなイラストがいい感じにライトノベルしてくれてます。
ネイトとクルーネル、カインツとイブマリーの関係性にによによしつつ、設定練りこみ系スキーとしては、名詠式にまつわる謎が明らかになり、主人公たちが巻き込まれていく正統派な感じも好き。優しく綺麗な童話的位置付けで記憶に残る作品です。
迷宮街クロニクル(作者:林亮介)
突如京都に出現した迷宮と怪物に対し、政府は一般人の志願者に迷宮の探索を委ねる。利益を得る現代のゴールドラッシュ。そのリスクは死亡率14%といった数字になって、志願者のもとに返ってくる。
RPG定番のダンジョン探索を現実世界に持ちこんだ世界設定もさることながら、探索者とそれを見守る人々、日常と非日常、簡単に反転する生と死、あらゆる要素が好みど真ん中。
VRMMO世界閉じ込められはなろうでも定番ですが、﹁スキルは上がってもHPは変わらない︵=ちょっとした油断ですぐ命は消える︶﹂というリアル感を、ぞくっとするタイミングで投入してくるのがすごく記憶に残ってます。強くなることがイコール、死ななくなることじゃない。
クロノ×セクス×コンプレックス(作者: 壁井ユカコ)
同作者で、少女と青年とラジオ(喋る)が旅する「キーリ―死者たちは荒野に眠る」も印象的ですが、時空物というジャンル補正でこちらをチョイス。男女間の精神入れ替わりによって時を操る魔法を教わるための学校に入学する羽目になった主人公の成長...を描ききる前に打ち切りになった(っぽい)。
時空物って、やっぱり各処に張り巡らせた伏線を回収するのが醍醐味だと思うんですが、この作品はフラグは立てたものの謎の解き明かしがされてなくて、だから印象深いのかも。ジェットコースターで、最高高度に至ってこれから一気に下るその直前で寸止めされた感があるので、これから読むのはオススメしません。名作だと思うけども。
時の魔法学校の生活の中でちりばめられる、「夏への扉」や「時をかける少女」などの時空物名作へのオマージュもとても好みだったりします。
キノの旅 the Beautiful World(作者: 時雨沢恵一)
旅人キノが二輪車モトラドのエルメス(喋る)と様々な国を旅する話。たまに、師匠と相棒と黄色い車(喋らない)、シズさんと犬の陸(喋る)が旅する話。
淡々とした語り口で、おおよそ残酷、たまにのほほんと描かれる国々の、独特の文化や制度が寓話的で説教的。一話完結で大きな起承転結もなく続く短編連作、「答えは読者の心の中に」的な解釈の余地を残す物語構成が当時は目新しくて「これが新時代のラノベか...!」と思った記憶があります(比較先→スレイヤーズ!)
読書に音はないけれど、すごく「静かなライトノベル」だと思う。ピアノで同じフレーズを冗長なほど繰り返して、でも少しずつ変調していく感じ。
BLACK BLOOD BROTHERS(作者: あざの耕平)
﹁お前にとってのラノベって何よ?﹂と聞かれたら、これ。それぐらい綺麗に、主人公がピンチに陥って、葛藤して、友や仲間の協力を得て壁を乗り越えて、それになにより﹁正義の逆は別の正義﹂を教えてくれる作品。
最初は普通の吸血鬼兄弟とおてんば少女の吸血鬼バトル物。そこからどんどん昂まって、7巻で絶望的な敗北を迎えてからの、よくある吸血鬼バトル物から吸血鬼サーガへの華麗な飛躍がすごすぎて、自分の中では一等印象深い。
7巻の圧倒的な絶望の中、ギリギリの踏ん張りでわずかな希望が残って、﹁7巻盛り上がりすぎてこれ以上面白くなりようがない!﹂と確信してからの、それを覆す8巻以降の群像劇なドラマティック展開も凄かったなぁ。
七姫物語(作者: 高野和)
七つの主要都市が先王の隠し子と呼ばれる姫君を擁立し、国家統一を目指して割拠した。その中の一人、七宮カセンの姫に選ばれたのは九歳の孤児カラスミだった。
偽物のお姫様とそれを担ぐ嘘つき二人、その三人と各都市の姫君を巡る和風ハイファンタジー的何か。嘘つき三人、悪意なく愉快犯的たちの悪さを見せたりもするんですが、優しさと愛おしさがあって、ホワンとした気持ちになる。
群像劇として各都市の状況や対立が描かれ、外敵の存在だったりのキナ臭さを醸し出しつつ、カラスミとその周辺だけはのほほんと清らかな空気が流れてるんですよ。綺麗な童話的作品。ていうと「黄昏色の詠使い」と被りそうですが、あちらは切なさ成分包含してるのに対し、こちらはもっと清涼感高め。
涼宮ハルヒの憂鬱(作者: 谷川流)
定番すぎてあらすじいるのかしら。なんか世界の中心らしい涼宮ハルヒと普通人と宇宙人と未来人と超能力者たちの話。
何が印象深いか?といえば、プロローグのキョンの独白と、中盤の、子供のころ野球場を訪れた際に感じたハルヒの独白。﹁世界に一つだけの花﹂的オンリーワン精神、要は何者にもなれない自分、という思春期にありがちな葛藤が当時の自分にヒットして、青春てこんな感じに自分主人公な物語の中で生きるってことなのかな、と思った。
1巻の結末が綺麗だし、この巻単独で完璧な世界が構成されてると思う派なので、その後の続刊はちょっと蛇足かなーとも感じる。続刊は別作品とか姉妹作品として楽しむ感じ。
ブギーポップは笑わない(作者: 上遠野浩平)
"世界の敵"と戦うために一人の少女の中から浮かび上がってくる、ブギーポップと名乗る人格と、思春期な少年少女達の群像劇的物語。都市の孤独の闇には魔物が住んでる的な何か。...超能力バトル物とかいったら殴られますかねやっぱり。
MPLS(超能力的特殊能力)を持っている/に目覚めるという、女性的表現でいう「いつか王子様が」的な承認欲求が心地良くて、だからこそ逆に、恋心以外に何も特別な能力を持たずに物語が落着したイン・ザ・ミラー パンドラの辻希美が特別に好き。途中までは同じ理由で末真和子も好きだった。
あと、短編連作で同じ世界設定の中の交わらない人々、ただし時折短編が別の短編の伏線として機能するよ!という展開も好きなんです。この系統では世界の中心、針山さん」なんかもいいよね。
薔薇のマリア(作者: 十文字青)
自分の中では﹁されど罪人は竜と踊る﹂︵作者: 浅井ラボ︶と並ぶ暗黒枠というか残酷枠というか鬱枠。あと最終巻が結構衝撃。
"誤解を招く言い方をすれば﹁孤独だったマリアローズが仲間を手に入れて成長するまで﹂。一応ダンジョンものとして出発してみたものの、バトル物として頑張ってるかと思ったらカルトに手を出して謀略物に変化して...結局のところは冒険バトル物?なのかしら。
物理的に痛い展開多くて、その反動でマリアとサフィニアとユリカの組み合わせがほのぼの和む。あとマリアとアジアンの焦れ具合にも萌え転がってました。きゃわー。歴史物ドラマにほのぼの子役が必須なのに似た構造ですね、はい。苦いものを食べた後だと一際お菓子が甘く感じる現象ってやつです。
弱いけど賢い、そんな今時チートな主人公設定のマリアローズですが、連載開始年度が2004年なので、時代の先を行ってたわけですね!
戯言シリーズ(作者: 西尾維新)
萌えとミステリーの融和をキャッチコピーに、全然ミステリーしてないキャラクター小説といえば、戯言シリーズ。1巻こそ孤島の密室殺人を解決する探偵モノを装っていたものの、特殊能力持ちが登場して人外バトル化していく様はもはや、開き直って潔いばかり。
戯言遣いないーくんの語り部っぷりももちろん好きなんですが、葵井巫女子・萩原子荻が二大好きなキャラ、かなー。でも崩子ちゃんの妹属性も高まるし、石丸小唄の﹁十全ですわ﹂も好き。一里塚木の実が空間製作のためにあちこちに電話しまくっているシーンを想像するのも好き。要はベタに狙ってきてる萌えはなんでも好きです。
出てくる人物だいたいみんな狂言回しで、それぞれの世界の共通部分がなんとか小説としての均衡を保ってる的なごった煮感がたまらない。自分の言葉で語るなら﹁エッシャーのだまし絵世界を歩いてる﹂感。別名、セカイ系?
悪魔のミカタ(作者: うえお久光)
﹁シフト―世界はクリアを待っている―﹂ と迷ったけれど、一巻ラストの衝撃が軽くトラウマでもあるこちらで。﹁紫色のクオリア﹂はちょっと疾走気味すぎるので、これくらい長距離走の展開の方がスキー。
とある願いのために悪魔のミカタになった高校生が、願いを叶える"知恵の実"を巡ってその所持者たちと知恵比べを繰り広げる、現代ファンタジックミステリー...?うまいジャンル分けしずらいな。これも﹁エッシャーのだまし絵世界を歩いている﹂感を感じる。
設定練りこみ系スキーにはたまらない世界感と、ロジカルにファンタジーな代行者との知恵比べと、思春期的な青臭さがいい感じにブレンドされたラノベといえばこれ。主人公の、﹁悪魔のミカタ﹂な肩書きは破滅に向かっているようで、謎解き部分は背徳の香り。続き...はよ...。
★★★
番外で﹁ウィザーズ・ブレイン﹂︵作者: 三枝零一︶。でもこれまだ読み終わってないことに気がついたので書けないや。手元に最新刊︵まだラストまで行ってないんですねー勘違い。というかさらに新刊出てた。︶あるんですが、連載期間が長すぎて最初から読み返さないと感動が行き届かない気がしてですね、はい。
さらに、川上稔先生で﹁終わりのクロニクル﹂とか﹁境界線上のホライゾン﹂も好き。でも中身ちゃんと思い出せないので割愛しました。あの分厚さって、読み返す意欲を思い切り萎えさせるのでよろしくないね!
さらにさらに、鏡貴也先生の﹁武官弁護士エル・ウィン﹂も今思い出した!それまでに出てきた伏線を、10巻で一気に伏線回収しつつ最後に爆弾を落としたまま続刊出てくれないという意味で、とてもとても記憶に残ってます、...思い出したらまた気になりだした。
というわけで全然12選になってない5年以上経っても記憶に残ってるラノベ、でした。おすすめできるかは謎ですが、ラノベの歴史語りがしたいときは出てきそうなくらいには有名処チョイス多め!のはず。