シリア停戦発効 人道危機打開し和平への道筋を
2016年09月14日(水)
内戦が続くシリアで、米国とロシアの仲介によって、アサド政権と反体制派の停戦が発効した。米ロ主導の停戦合意は2月末以来、2度目となる。
内戦は2011年3月に始まった反政府デモと政権側の弾圧が発端。国連などによると民間人を含む40万人以上が死亡、国内外の避難民は1千万人を超え欧州各国は大量の難民流入に苦しんでいる。今世紀最悪の人道危機をこれ以上長引かせてはならない。意見の相違はあろうと停戦合意を順守し、今度こそ和平協議を前進させて内戦終結への道筋をつけてもらいたい。
ロシアが後ろ盾になっている政権軍と、米国が支援する反体制派の主要勢力は、停戦をおおむね順守する意向を示した。ただ反体制派は数千もの勢力があり、構図が複雑になっている。入り乱れて戦う各派の説得は容易ではなく、停戦が保てるかは予断を許さない。
合意の柱は、アサド政権に対して国際テロ組織アルカイダ系の﹁ヌスラ戦線﹂︵﹁シリア征服戦線﹂に改称︶への攻撃と称して反体制派を狙う空爆を禁止したことだ。前回の停戦合意の後、政権軍が過激派掃討を理由に反体制派地域を攻撃し、停戦崩壊を招いた失敗を踏まえた。だが﹁誤爆﹂を招く可能性は低くない。
合意の実効性を高めるには、ロシアが政権への影響力を行使し、対ヌスラをかたった反体制派への攻撃をやめさせなければならない。米国も反体制派に合意の順守を徹底させる重要な務めを負うと肝に銘じるべきだ。
米ロの責任は重い。両国の対立が結果的に内戦の長期化を招き、﹁イスラム国﹂︵IS︶など過激派組織の台頭を許した。合意が1週間守られれば、ISを掃討するための軍事協力を始めると表明した。過激派と反体制派の位置情報の共有などを想定しており、実現すれば誤爆を防ぐ一手になり得る。だが米ロの相互不信は深い。米政府内には情報提供に反対する声もあるが、シリア国民救済のため、個々の思惑は捨て、連携して対処しなければなるまい。
停戦を確かなものにして、中断している和平協議を再開させたい。前回停戦の際は、政権と反体制派が和平協議を行い、新たな統治機構の設置や憲法改定などを議論した。アサド政権の存続を巡って物別れに終わったが、国連などを交えて協議を再開し、平和な国に生まれ変わる行程表を描き、国民に見える形で示してほしい。
テロの脅威が世界中に暗い影を落とす。米中枢同時テロから15年がたってもいまだ暴力の連鎖は断ち切れずにいる。テロの根絶には、若者が過激思想に引き込まれない環境づくりが欠かせない。そのためには貧困や格差を解消し、異なる宗教、文化への正しい理解を広げる取り組みが必要だ。シリア停戦合意を機に、国際社会は﹁テロとの戦い﹂への結束を強め、和平実現を後押ししたい。