理にかなった攻撃モーションの作成を目指す


 2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。3日目に開催されたセッション“身体の動きと原理から知る、闘うインゲームアニメーションの中身”のリポートをお届けする。


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格好いい攻撃モーションには、すべて理由があった! “身体の動きと原理から知る、闘うインゲームアニメーションの中身”リポート【CEDEC 2013】_01
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▲「モーションキャプチャーを身近に感じてもらえるように」と、専用のキャプチャースーツを着て講演を行ってくれた元梅氏。さまざまなアクションを実演して紹介してくれた。

キャラクターの動きは筋肉を意識する


 
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▲各関節には、最低ふたつ以上の骨格筋が対になっていると元梅氏。ちなみに骨格筋とは、内臓の筋肉を除いた“自分の意思で動かせる筋肉”とのこと。
▲この骨格筋が働いて関節を動かし、身体が動くという。なおセッションにならい、本記事中でも骨格筋をたんに筋肉と表記している。

 
 

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▲筋肉を縮めることで関節が動き、反対側の筋肉は伸ばされるという。実際のモーションを利用した具体例も紹介された。
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▲ふたつ以上の関節を曲げることで、キャラクターにさまざまな印象を持つポーズをとらせることができる。


 
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▲ジャンプを例に、作用・反作用の法則を解説。作用がどれくらいの力なのか、体重計を用いた実験結果も照会してくれた。

 
 

 

 
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▲具体的な使用例。パンチの場合は、攻撃する腕とは逆の腕を引き、反作用の力を利用する。
▲回転動作でも作用・反作用の法則は有効。日常の何気ない動作にも、この法則が働いているのだ。

 
 

 
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▲回転動作における実例を紹介。全身をひねるような回転動作の場合は、反作用の力は地面から発生するとのこと。

直前にあえて逆へ行動する“反動動作”


 
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▲ジャンプを例にして反動動作が解説された。反作用の力が増加することに加え、筋肉も大きな力を発揮するという。

 
 

 
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▲打撃技の反動動作の例を紹介。攻撃をくり出す直前に、後方へ身体をひねるのが反動動作だ。また、このときに使用する筋肉も紹介された。

回転スピードをコントロールせよ!


 
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▲回転半径が小さくなると、回転スピードが速くなることを解説。実際の攻撃モーションでは、インパクトの寸前まで関節を曲げ、回転速度を上昇させる。

 
 また、空中での回転コントロールについても解説された。空中で上半身での回転攻撃を行うと、反作用で下半身が逆に回転して不安定になり、強い攻撃を出せない。そこで、両足を伸ばして慣性モーメントを大きくさせ、回転しにくくさせると、下半身が安定。強い攻撃をくり出せるようになる。

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▲空中での回転コントロールについても解説。回転半径を伸ばして回転速度を下げると、身体が安定して強力な攻撃となる。

根元から止めることで高速な動作が可能になる


 
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▲運動連鎖の図解。足下から身体を固定して“壁”を作るとこで、先端である拳はよりスピードと威力が増す。

 
 この運動連鎖を作るコツはふたつ。まずは、しっかりとした中心部を作ること。「土台となる下半身や胴体の力が不十分だと、最終的な力も弱くなる」と元梅氏。もうひとつは、関節を筋肉でタイミングよく固定すること。「つぎの部位が加速するとき、その反作用を支えるために、手前の部位が減速して止まることが必要」とのことだ。ボクシングのパンチや野球のバッティングなどでいわれる、“壁を作ること”と同じ意味だという。

格好いい攻撃モーションには、すべて理由があった! “身体の動きと原理から知る、闘うインゲームアニメーションの中身”リポート【CEDEC 2013】_26
格好いい攻撃モーションには、すべて理由があった! “身体の動きと原理から知る、闘うインゲームアニメーションの中身”リポート【CEDEC 2013】_27
▲運動連鎖に近い動きをするものとして、ムチ、ヌンチャクなどが紹介された。
▲運動連鎖を生み出すためのコツのひとつ、“壁を作ること”を図解。スポーツで多用される。

 
 今回紹介した仕組みを理解することで、動きに無駄のない、合理的な動作を知ることができる。と同時に、「逆である非合理的な動作も見えてくる」と元梅氏。弱々しく、格好悪い非合理的な動きは、今回の仕組みを利用して原因を特定し、修正していくそうだ。

 だが、すべての攻撃モーションが合理的な動作になればいいかというと、そういうワケでもないようだ。たとえば“目的にそぐわないな無駄な動き”、“バランスが悪くつぎの攻撃へ移れない動き”、“疲れやすい動き”などは非合理的ではあるが、バラエティ豊かでダイナミックな動きを生み出すため、実際のゲーム制作には必要とのこと。

 合理的な動きは「練習や型の動きに近く、敵が目の前にいることを前提としない動作」と元梅氏は語る。より闘う動きを実現させるには、実戦のテクニックも知る必要があると述べた。

 「セッション終了後は、まずはアクション映画を見て強くなった気分になり、項目のひとつを自分の身体で試すぐらいの簡単な項目から始めてみましょう」と、元梅氏は実用的なアドバイスで講演を締めくくった。

 「今回の内容は中級者向け」ということで、扱う題材事態は難解であったが、日常的な身体の動作が理論的に解説されるという非常に興味深い内容でもあった。ゲームクリエイターに役立つことはもちろん、一般ゲーマーでも、格闘ゲームのモーションをこれまでとは違った視点で観察でき、ゲームがより楽しくなるのではないだろうか。

(取材・文:ライター/喫茶板東)