消費生活相談の窓口から(2)―消費者安全法初の注意喚起「健康食品」ケトジェンヌ―(平林有里子さん)
お住いの自治体にある「消費生活センター」をご訪問されたことはありますか? 私は、瀬戸内の島にある消費生活相談窓口の相談員になって10年ほどの、消費生活専門相談員です。消費生活の現場に寄せられる「健康食品」トラブルについて、所属を離れ個人的な意見としてお伝えさせてください。
●消費者安全法に基づき注意喚起された「健康食品」の健康被害
![](https://foocom.net/wp-content/uploads/2019/09/ケトジェンヌ-300x221.png)
ケトジェンヌ(消費者庁公表資料より)
前回、消費生活相談窓口に寄せられる﹁健康食品﹂摂取後に体調を崩したというご相談が近年増加していると書きました。
まさにそのトラブルに関し、消費者庁が9月6日、消費者安全法に基づく注意喚起を発表しました。﹁﹃ケトジェンヌ﹄を使用する場合は、身体被害が生じ得ることに御留意ください。﹂と強い表現を用いて注意を呼びかけています。
この注意喚起に記された﹁事故情報データバンク﹂の情報は、消費者からの相談情報等を元にしたものです。消費者庁の発表資料にも記された通り、商品と症状の因果関係が確認されていないものが含まれています。それにも関わらず強い表現で注意を呼びかけたことには意味があるのでしょう。
●原材料情報からみた﹁ケトジェンヌ﹂
﹁ケトジェンヌ﹂と称する健康食品。公式サイトをスクロールするとその最下部に、会社概要や特定商取引法に基づく表示と並んで、原材料情報が公開されていました。その原材料は﹁中鎖脂肪酸油、亜麻仁油粉末(大豆を含む)、難消化性デキストリン、デキストリン、オリーブ葉末(殺菌)、サジー抽出物、明日葉末、スピルリナ原末、大豆胚芽抽出物/ゼラチン、加工デンプン、ステアリン酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素﹂とあります。
近年増加した﹁健康食品﹂に関係する健康被害の消費者トラブルでは、﹁ケトジェンヌ﹂のように原材料に様々なものが使用されています。﹁ケトジェンヌ﹂の原材料は特段特徴があるようには見えません。﹁難消化性デキストリン﹂は痩身効果をうたう健康食品にしばしば使用されていますし、﹁微粒二酸化ケイ素﹂のような食品添加物も使用されたものをよくみかけます。
そのほかの原材料、例えば亜麻仁油について前回の投稿でもご紹介した国立研究開発法人医薬基盤・健康栄養研究所の﹁健康食品﹂の素材情報データベースで調べると、亜麻仁︵アマニ︶の有害事象として﹁胃腸障害、消化器膨満感、下痢、腹痛、アレルギー反応を引き起こすことがある﹂ようですが、適切に摂取する場合はおそらく安全であるとも記されています。
この商品の製造者はどこなのか、さらに気になって、消費者庁が公表した資料から製造所固有記号検索をしてみると、その製造者は今年に入って大阪府や東京都から医薬品成分が入った違法なサプリが見つかったと発表していた製造業者と同一でした。ケトジェンヌとは異なる商品で関係はありませんが、こうした商品︵製品名‥恋するサプリメント、BARIKATA︶も要注意です。
健康食品に関して、消費者安全法に基づき事業者名を公表し注意喚起を行ったのは今回が初めてです。消費者庁の今回注意喚起には何らかの続報があるのかもしれません。
●﹁お試し﹂をうたう健康食品定期購入商法の危険性
﹁ケトジェンヌ﹂の販売方法は、初回は300円ですが二回目以降は商品代金があがり、かつ4か月以上の定期購入という、昨年国民生活センターが注意喚起した、﹁お試し﹂定期購入商法です。﹁ケトジェンヌ﹂の場合、定期購入を解約するためには単品購入価格として15,810円︵2袋分・送料税込︶を支払わなければならないようです。
前回も書きましたが、通信販売は、同じ特定商取引法で規制される訪問販売や電話勧誘と異なり、消費者から自発的に申込む不意打ち性のない取引であることからクーリング・オフ制度はないのですが、消費者庁が行った﹁平成30年度消費者意識基本調査﹂によると、﹁通信販売はクーリング・オフができる﹂との誤った認識を持つ人が約8割いることがわかっています。
数百円の﹁お試し﹂料金に惹かれ気軽に申し込み、体に合わないように感じても数か月解約できない﹁お試し﹂定期購入商法が、健康食品等の健康被害トラブルの増加に関与しているのではないでしょうか。
消費者庁は2014年、美容・健康商品等の利用後に健康被害が発生した際は、利用を一旦中止し医師に相談するよう呼び掛けています。
●トラブルに逢われたら﹁188︵いやや︶﹂に連絡を
消費者庁が確認した事案では“初回に﹁ケトジェンヌ﹂を4錠使用したところ、翌日には下痢になった。”“﹁ケトジェンヌ﹂を6日間使用したところ、ひどい下痢になった。”など、身体被害が発生しています。
今回の注意喚起発表資料の中で、﹁ダイエット効果、痩身効果を標榜ぼうする健康食品には﹃下痢を起こさせること﹄、﹃利尿作用で水分を減らすこと﹄などによって、飲み始めに体重を減少させる製品があります。﹂﹁これは健康を害しているだけで、本来のダイエットにはなりません。﹂と、国立健康・栄養研究所食品保健機能研究部 千葉剛部長のコメントが紹介されています。
もしトラブルに遭われたときは、どうかお住いの自治体の消費生活センターをご活用ください︵消費者ホットライン=電話番号188︶。消費生活センターには消費者庁のような行政処分を行う権限はありませんが、そこに寄せられた皆様の声は、行政を動かす力となります。