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インターネットから自由が消える……法学者 白田秀彰氏インタビュー
ブロードバンド推進協議会のシンポジウム﹁仮想世界の法と経済﹂が7月21日に迫っています。今回、﹁オンラインにおける秩序の生成と法の継受﹂を講演する、法政大学の白田秀彰氏︵法学博士︶にお話しを聞きました。
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■“インターネットの自由”の﹁終わりの始まり﹂
白田氏‥ 僕は﹁情報法﹂という講義名で、要するにオンライン独自の価値とか秩序に関して講義して7年か8年になるんですけど、だんだん学生の関心がなくなってきているのを感じるんです。一般の人々の感覚も、﹁オンラインだから独自のルールがあってもいいんだ﹂っていうようなことを、あんまり考えなくなってきたように思います。
確かに自分たち独自の価値を掲げて突っ張って行くって、時間的金銭的コストかかりますから、かなりの気合が必要です。だったらもう、﹁オンライン世界の規範問題については日本政府に丸投げしちゃった方が楽なんじゃないの?﹂っていう感覚はあるでしょうね。アメリカっていう国は──アメリカの国民が全部そうだとは言わないけど、非常に﹁自由﹂っていう価値を重く見る感覚があるので、﹁自由﹂のためには訴訟も辞さないとか、﹁自由﹂のためだったら業界団体とも真っ向から闘うみたいな人もいるんですけどね。
Q‥ 確かに終わりの始まりというのは、2〜3年前から始まった気がします。ユーザーとしての不自由感みたいなものも。
オンラインゲームのユーザーは、事業者に丸投げしようとするんですよね。事業者は、ユーザーにとってすぐ上のレイヤーにいる“政府”です。ルールの案は出すけど、それを執行するのは事業者にまかせようとする。ラグナロクオンラインなどで見られたのですが、そこでオンラインゲームというのはこういうふうに運営されるものだという事例ができてしまった。で、その経験を抱えたユーザーがいろんな次のオンラインゲームに行っちゃった。
初期のウルティマオンラインであるとか、その前のMUD︵Multi User Dungeon︶の時代にあった半ばアナーキー、カオティックな、アメリカ的オンラインゲームっていう雰囲気が完全に消えてしまった。
白田氏‥ 新しい世界を作り出していくこと自体に喜びを見出すっていうユーザーは、実は荒野からの開拓によって成長してきたアメリカ文化に独特のものかもしれない。日本の場合、何かこう、﹃どうぶつの森﹄っぽく、嫌なことや辛いことや悲しいことが起きない空間が欲しいっていう願望が強いんじゃないでしょうか。そうすると秩序の生成っていうことに関してほとんどのユーザーは関心を持たないのかもしれませんね。
例えばインターネット草創期には、大学のインターネットユーザー達がルールを作り出すっていうことを侃々諤々やってましたよね、オンラインでね。今は、そういうこと自体を避けようとしている。
日本のインターネット初期の頃とパソコン通信の時代には、パソコン通信ユーザーとインターネットユーザーの間のメンタリティの違いで相当ケンカになっていたのも事実なんです。パソコン通信の考え方に慣れていると、さっきの話のように、お上である運営者に問題を持ち上げて行って﹁運営者側が判断してよ﹂っていう雰囲気が強かったんです。インターネットでは、問題を持ち上げる先がないんで自分たちで決めるしかなかった。
今インターネットが自由なのは、そこに国境がなくて、自由を重要な価値としてみるアメリカが何となく支配しているという関係があるからですね。今後、もし新しいIPv6やネクストジェネレーションネットワークで、ネットワークの国境分割できるようになったら、日本のネットワークはとっても日本的になるし、中国のネットワークはとっても中国的になるんでしょう。
オンラインゲームでアイテムとか通貨が取引されているということについても、別にオンラインゲームの中だけで形のないものにお金を払っているわけではない。現実世界だって我々は形のないものにお金を払っているわけで、決して異常なことではない。ネットワークユーザーがゲーム内アイテムに関して欲望を抱き、それを金銭で買い取って使うということは、何も不思議なことではないですね。
Q‥ ですが、これまでのオンラインコミュニティでは、行動に対するレピュテーション︵評判︶しかなかったと思います。ところがオンラインゲームではユーザー間で﹁価値がある﹂と認識されるもの︵通貨やアイテム︶を取引できるインフラになってしまった。
白田氏‥﹁権力﹂とは他人を動かす力であると定義されます。貨幣も評判も、まあ評判という言い方がおかしければ、権威ですね、いずれも人に対して作用して動かすという点で同じなんですよ。
要点は、貨幣は情報量が少なくて、評判は情報量が多いというところです。それまでは情報量の多い評判という価値に基づいてゲーム内経済が回っていたのに対して、これからは貨幣というきわめて単純な価値によってゲーム内経済が回ることになった。そうした時に、おそらく人々の行動が変化するはずなんです。
別の言い方をすると、評判は盗めないけど、お金は盗めるんですよ。盗んだ評判っていうのは価値を失うんですけど、盗んだお金は使えるんですね。だから評判によってゲーム内経済が運用されていると、おそらく犯罪と呼ばれているようなもののかなりが抑制されるはず。ところがこれが完全に通貨になっちゃうと、どんな不正手段でもポイントさえ集めればいいっていうことになるし、さらに、それが現実通貨との交換可能性が出てくると、よりその動機が強くなっていく。この流れっていうのはゲーム内におけるトラブルを増加させる方向に向かうと考えられます。さらにそこにリアル・マネー・トレード︵RMT︶事業者もいると、ゲーム内ポイントの流通可能性が増大するから、ますますポイントが貨幣に近いものとして認識されるようになるでしょう。
︽伊藤雅俊︾
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