livedoorメールにGmail採用 「黒字化へ最後の一押し」
ライブドアは7月24日、無料のWebメールサービス﹁livedoorメール﹂で8月中旬から、Gmailのシステムを採用すると発表した。livedoor IDによる認証システム、メールアドレス、ロゴのみ同社のものを残し、サーバの提供から運用、サポートまでGoogleが担当。ユーザーインタフェースもGmailとほぼ同じになる。
﹁Webメールはコストがかかるが収益化できない。だが一度始めた以上、やめるわけにもいかない﹂――Gmail採用の最大の理由は、無料で利用できるというコストメリットだ。背景には、直近の黒字化を目指している同社の台所事情がある。
﹁livedoorメール﹂の前身である﹁livedoorギガメーラー﹂のオープンは2004年7月。Googleが1Gバイトのメールサービスを発表して世間を騒がせた3カ月後に、国内で初めて1Gバイトのメールボックスを無料で利用できるWebメールとして登場した︵関連記事参照︶。
田端氏(左)と池邉CTO
堀江貴文元社長のもとで、次々に新サービスを投入していた当時。サービスインのスピードを重視し、設計とシステム開発は外部に委託した。サーバは自社のものを利用し、運用も内部で行っているが、システム自体はいまもアウトソーシングしている。
同社の池邉智洋CTO︵最高技術責任者︶によると、メールサービスは﹁規模感のわりにはコストがかかる﹂もの。livedoorメールの月額コストは﹁数千万円の前の方﹂︵同社執行役員の田端信太郎氏︶で、オープン以来赤字だ。自社のデータセンターを使っているとはいえ、200万ユーザー︵累計登録数︶分のサーバ費用は小さくない。加えて、スパムフィルター対応やユーザーサポートにも手が取られる。
バナー広告やメールマガジン広告による収入もあるが、コストをカバーし切れない。加えて、2年前作ったシステムのままでは今後スケールできなくなってくるだろう――という不安もあり、サービスのリニューアルは必須だった。
ただ一から開発し直すのは高コストな上、スパムフィルターなど蓄積がものを言う機能がどうしても弱くなってしまう。かといってやめる訳にはいかないため、アウトソーシング先を見直すことに。候補はいくつかあったが、﹁自分でも使ったことがあり、スケール面でも安心な﹂︵池邊CTO︶Gmailに決めた。
Gmailならサーバからサポートまで無料で利用できる上、ライブドアとのID連携機能も容易に構築可能だ。﹁公開仕様のSAML︵Security Assertion Markup Language︶に対応しているから、ID連携も当社が開発でき、相手先が作業し終わるのを待つ必要もない﹂︵池邊CTO︶
Gmailは検索性も高く、スパムフィルターが強力。1人当たりの容量も2Gバイトと従来の2倍に拡大でき、ユーザーメリットが大きい。﹁livedoorブログにアドレスをさらしても、強力なフィルターがスパムをはじいてくれるため、ブログユーザーがこれまで以上にメールを使ってくれるのでは﹂︵田端氏︶
同社は以前から検索にGoogleを採用しているほか、今年に入って、ニュースやブログにAdSenseを表示するなど、Googleサービスとの連携を強めてきた。﹁Google経由の広告収入が、全体の3分の1程度にまで増えている﹂︵田端氏︶――すでに深い関係にあるGoogleのGmail採用に至ったのは自然な流れだった。
Googleにとってのメリットは、広告収入とユーザー層の拡大だ。新livedoorメールに表示したAdSense広告からの収入はGoogleに入るほか、200万IDを持つメールユーザーが流入することで、Google検索ユーザーのすそ野を広げるのに役立つ。
﹁ギガメーラーが出た当時、各社ともWebメールで容量競争をしたが、あれはチキンレースだった。Webメールは、負担の割にはビジネスとしておいしくない。かといって一度始めた以上、その責任は当然、投げ出すことはできない。Gmailが大手ポータルに採用されるのは初めてらしいが、今後、当社のようにGmailを採用する会社も増えてくるのではないか﹂︵田端氏︶
新livedoorメールは、認証など“入り口”だけをlivedoorが担当し、それ以外はGoogleが提供するGmailと共通のシステムを利用する。ログイン時にlivedoor IDとパスワードを入力し、ユーザー画面にlivedoorメールのロゴが表示される以外は、見た目も機能もGmailと同じだ。
メールアドレスは、従来の﹁livedoorID@︵サブドメイン︶.livedoor.com﹂からサブドメインが取れ、﹁livedoorID@livedoor.com﹂に変わる。旧アドレスに来たメールは新アドレスに転送される。
既存のlivedoorメールユーザーで、過去のメールを新システムに移行したい場合は、POPで公開されたログを新システムで吸い出す作業が必要。この作業をしてもらうことで、200万あるアカウントからアクティブユーザーのみが移ってくれ、メールアドレスなどの整理もできると見ている。
ネット専業の事業会社としてこの4月に再出発した同社︵関連記事参照︶。事業の整理・再編を続けており、﹁ポータル事業はあと一押しで黒字化する﹂︵田端氏︶というところまで来た。livedoorメールのGmail化は、強力な﹁一押し﹂になるという。
﹁実は、以前のライブドアでは他社と協業すること自体が考えにくかった﹂︵田端氏︶。堀江元社長のころの同社には、﹁何でも自社でやってしまおう﹂という勢いがあった。﹁まじめに﹃世界一を目指す﹄と言っていて、誇大妄想的な部分もあったが、いまは総取りしてしまおうというのではなく、他社との提携にも積極的になった﹂︵田端氏︶
今では例えば、ニュースコンテンツをYahoo!JAPANに配信したり、ブックマークを相互に乗り入れるなど、堀江元社長が敵対視していたヤフーとも密接に協業している。今後も、他社との提携を含めて事業の整理・再編を進め、RSSリーダーやブログサービスなど、強い部分に注力していく。
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