一般のネットユーザーが、著作権に敏感になってきている。SNSやブログなどユーザー投稿サービスが一般化する中で、権利者団体は著作権に関する啓発活動を強化。ネットサービスと著作権法との矛盾も指摘され続けている。
そんな中で起きたのが「mixi規約改定騒動」だ。3月3日に公表されたmixiの新規約(4月1日から適用)に新設された著作権に関する条項(18条)について、「mixiに投稿した日記が、無断で書籍にされるのではないか」という憶測が出回り、ネット上で騒動になった。
ユーザーは、新規約に反対するさまざまな画像を作り、「プロフィール画像に使って下さい」と公開している
ミクシィにはユーザーから問い合わせが殺到。翌4日になって﹁ユーザーの了解なしに書籍化などは行わない﹂とした上で、改定の意図を説明したが﹁下手な言い訳だ﹂﹁規約を変更しない限り、信頼できない﹂などと反発するユーザーも多く、騒動は収まっていない。
ユーザー投稿型サイトの著作権に関しては、2001年ごろから何度も騒動になっている。ユーザーの著作物を、サービス提供者側が無償・無許諾で広範に利用するといった内容の規約改定についてユーザーが反発し、サービス運営者側が規約を再改定したり、説明に追われたり――掲示板サイトやブログなどでこういった事態がひんぱんに起き、サービス運営者もネットユーザーも、学習してきたはずだ。
だが同じ過ちが、また繰り返された。
今回の騒動の原因は、新規約の﹁18条﹂新たに設けられた2つの項目と、新たに付いた﹁附則﹂だ。
新規約に追加され、波紋を呼んだ18条
18条には﹁1.ユーザーが日記などを投稿する場合、ユーザーはミクシィに対して、その情報を国内外で無償・非独占的に使用する︵複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行う︶権利を許諾するものとする﹂﹁2.ユーザーはミクシィに対し、著作者人格権を行使しない﹂とあり、附則には﹁新規約施行前にユーザーが行った行為についても、新規約が適用される﹂とある。
これを素直に読むと﹁ユーザーが投稿した日記や写真を、ミクシィが無断・無償で書籍化したり、映画として公開したり、改変したりできる権利を認めなさい。過去に投稿したコンテンツについても同様だ﹂と言っているように見える。mixi上に多くのコンテンツが貯まった今の段階になって﹁昔から蓄積してきたあなたの日記は全部ミクシィが無償で使いますよ﹂と宣告するという“コンテンツジャック”のようにも受け取れる。
また﹁友人までにしか公開していない日記まで出版される可能性があるのでは﹂﹁日記“など”とあるからには、友人とやりとりしたメッセージも、どこかで公開されたり、出版される可能性があるのでは﹂といった憶測も呼び、ユーザーを不安に陥れた。
「利用規約」は3月4日のmixi日記のキーワードランク1位になった
新規約にネット上でいち早く懸念を表明したのは、商品価値のあるテキストや写真をmixiに投稿してきた、プロやセミプロのクリエイターたちだ。
﹁オリジナルのイラストや写真、レビューやエッセイなどをUPしてる人、特にプロやセミプロはタダで使われちゃ困るんだよ﹂――映画評論家の町山智浩さんは3日付けのブログエントリー﹁ミクシイはあなたの日記をあなたに無断で商品化します﹂でこう表明。ブログやmixi日記に同様な意見を掲載したり、﹁この機会にmixiを辞める﹂と表明するクリエイターも現れた。
多くのユーザーがmixiやブログ上で懸念を表明。﹁利用規約﹂は3月4日のmixi日記キーワードランク1位になった。同日、mixiに新設されたコミュニティ﹁mixiの規約改定に異を唱える﹂には3月5日現在、5000人以上が参加しており、規約の内容について意見交換したり、改定反対を示すプロフィール画像を共有・利用している。
当初は規約の﹁改悪﹂を批判する内容の投稿が多かったが、時間が経つにつれて﹁こんなに騒ぐべきことだろうか﹂と落ち着いた議論を呼び掛ける声が増えてきた。5日12時ごろには、﹁本来あるべき利用規約を考える﹂というスレッドも立ち、他ブログサービスなどの利用規約を参考に、新しい規約を考えようという動きも出てきている。
利用規約改定について、mixiが日に公表した「お知らせ」
ミクシィにもユーザーから多くの問い合わせがあり、釈明に追われた。ユーザートップページの﹁運営者からのお知らせ﹂には﹁補足説明﹂として、﹁ユーザーの日記などの権利は従来通りユーザー自身が持ち、書籍化も、ユーザーの事前了承なしには進めない﹂と明言した。
その上で、18条の追加は、
︵1︶投稿された日記データなどをサーバに格納する際、データ形式や容量が改変される︵ユーザーの著作者人格権︽同一性保持権︾を侵害する︶可能性がある
︵2︶アクセス数が多い日記などは、データを複製して複数のサーバに格納する︵ユーザーの複製権を侵害する︶可能性がある
︵3︶日記などが他ユーザーに閲覧される場合、データが他ユーザーに送信される︵ユーザーの公衆送信権を侵害する︶可能性がある
――など、厳密に著作権法を適用した場合に、ユーザーに無断で行うと法に抵触しかねないデータの複製や改変について、規約で改めて規定し、ユーザーに同意してもらうためだった、と説明した。
つまり、ネット時代を前提としていない現行の著作権法をmixiサービスに厳密に適用した場合、データのバックアップや圧縮、再送信といった通常業務ですらユーザーの著作権を侵害すると認められる恐れがあるため、規約であらかじめユーザーに許諾してもらっておき、意図しない著作権侵害を防ぐのが目的だった──ということのようだ。
新設された18条の2にある﹁著作者人格権の不行使﹂について、反発するユーザーが多かった。だがこれは、mixiに限らず、ブログサービスや掲示板など投稿型サービスの多くに定められている一般的な事項で、﹁gooブログ﹂﹁2ちゃんねる﹂などの規約にも同様な事項がある。
日本の著作権法は、著作者人格権として、著作者に強い同一性保持権︵著作者が、意に反する著作物の改変や削除などを受けない権利︶を認めており、この権利は一身専属で他者に譲渡できない︵関連記事‥﹁著作権は混迷﹂﹁ダメと言ってもネットは止まらない﹂──東大中山教授︶。
しかし投稿コンテンツをダイジェスト配信したり、ペットの写真をトリミングして紹介したり、サイトでの紹介時に意図が変わらない範囲で文章を読みやすくするといった編集行為や、サイトレイアウトの変更なども、ユーザーの﹁意に反して﹂いれば、同一性保持権の侵害として差し止められる可能性が否定できない。﹁同一性保持権の不行使を定めておかないと、著作物を利用する側からは安心できないということになる﹂と、弁理士の栗原潔さんは解説する。
ただ、ミクシィが著作人格権の不行使を定めた理由として挙げた﹁投稿された日記データなどをサーバに格納する際、データ形式や容量が改変される︵ユーザーの著作者人格権︽同一性保持権︾を侵害する︶可能性がある﹂について、栗原さんは疑問を呈する。
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